バンド・グソクムズのメンバーによる新作『陽気な休日』全曲解説 インタビュー後編

グソクムズ
東京・吉祥寺を中心に活動し、“ネオ風街”と称される4人組バンド。はっぴいえんどをはじめ、高田渡やシュガーベイブなどから色濃く影響を受けている。2014年に、たなかえいぞを(Vo/Gt)と加藤祐樹(Gt)のフォークユニットとして結成。2016年に堀部祐介(Ba)、2018年に中島雄士(Dr)が加入し、現在の体制となる。2020年に入り精力的に配信シングルのリリースを続け、2021年7月に「すべからく通り雨」を配信リリース。12月15日に待望の1stアルバム『グソクムズ』をリリースすると第14回CDショップ大賞2022に入賞。2022年には20th CenturyやKaede(Negicco)への楽曲提供でも注目を集める中、新曲「夏が薫る」を含む初期音源集『グソクムズカン』をリリース。そして12月14日に2ndアルバム『陽気な休日』をリリースした。
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2ndアルバム『陽気な休日』をリリースしたグソクムズ。彼らの地元と言える街、吉祥寺に4人そろってのインタビューは、時間を追うごとに徐々に緊張がほぐれていった。

高校時代に共通の友人を介して知り合った加藤祐樹とたなかえいぞをのフォークユニットとしてスタートし、サポートメンバーとしてリズム隊を担った堀部祐介、中島雄士がやがて正式に参加。1stアルバム『グソクムズ』(2021年)では、ソングライターとしてもそれぞれの個性を発揮した曲を提供した。つまり、前作はバンドとしての可能性を試す作品でもあったのだ。

それから1年。4人のメンバーそれぞれが異なる個性を持つソングライターであるという強みをさらに活かしながら、彼らが示した現在形が新作にはある。4人がそろうレアな取材ということもあり、後編では新作『陽気な休日』収録曲全曲についてメンバー自身の口から作曲の経緯やエピソードを聞いた。

インタビュー前編はこちら

「風を待って」「バスが揺れて」「冬のささやき」

——せっかく4人そろった取材なので、ここから『陽気な休日』全曲についてのエピソードをそれぞれ作曲者に聞いていきたいと思います。

M① 風を待って(作詞/作曲:堀部祐介)

堀部祐介(以下、堀部):アルバムでは1曲目なんですけど、書いたのはアルバム用の曲が出そろってからです。ある程度出そろったみんなの曲を並べてみて、全体の微調整として考えたというか、わりとシンプルにエイトビートの曲があるといいなと思って書きました。イントロ、Aメロ、アウトロで繰り返すリフがあるんですけど、その原形は高校時代に作ってたんです。どこかで使いたいなと思ってたのをふと思い出して当ててみました。

——アルバムの構成を考えて書いた曲なんですね。

堀部:そうですね。そういう狙いを多少持って、3人に「こういう曲どうですか?」と提示して、「いいね」と言ってもらえたのでアルバムに入りました。

——それが2ndアルバムの1曲目になった。歌詞も、自分達のだんだんひらけてきた状況になんとなく合ってて、アルバムのオープニングとしてふさわしい気がします。ちなみに曲順はどうやって決めるんですか?

加藤祐樹(以下、加藤):なんとなく、ですね。ただ、この曲は俺が「1曲目にしよう」って言いました。あとは「シェリー」を6曲目にしようと言ったのも俺。今回はそれしか口出ししてないです(笑)。

M② バスが揺れて(作詞/作曲:たなかえいぞを)

たなかえいぞを(以下、たなか):これはサビからできました。あとは、こういうベースラインを入れたい、みたいなアイデアがあったんで、徐々に構成していった感じです。歌詞については、僕はもともと日頃からメモに書きためてるんですよ。メロディもそう。浮かんだら録りためていて。そこがうまい具合につながって「あ、いいのができそうだぞ」と思ったら作曲を始めます。

——つまり、「作曲するぞ」と机に向かうというより、わりと日常からふっと曲を思いつく。

たなか:そうですね。ためてあるんで。

M③ 冬のささやき(作詞/作曲:加藤祐樹)

加藤:2年前くらいに作った曲だから、全然覚えてないんですよ。「冬のささやき」って部分のメロディがふと浮かんだんで。

たなか:おしっこしてる時でしょ?(笑)。

加藤:そう、トイレで(笑)。ふと思いついたので、そのままギターを手に取り、完成しました。

中島雄士(以下、中島):手、ちゃんと洗った?(笑)。

たなか:洗ってるところ見たことないもん(笑)。

——おしっこくさいエピソード(笑)。

たなか:おしっこくさい曲です(笑)。

中島:推し曲って、そういう意味だった?(笑)。

——とはいえ、2年前に作ったということは、ファーストより前ですよね?

加藤:前ですね。

たなか:セカンドに入れることになったきっかけは、1月(2022年1月23日)のワンマン・ライブ(青山・月見ル君想フ)ですね。あの時、アコースティック・セットでこの曲をやったんですけど、レーベルの人が「いいねいいね!」って言ってくれて、2ndアルバムはこれを推し曲にしようということになったんです。

「もうすぐだなぁ」「夢にならないように」「シェリー」

M④ もうすぐだなぁ(作詞/作曲:たなかえいぞを)

たなか:僕は今回3曲出したんですけど、その中ではこれが1番最後でした。メンバー全員でも最後のほう。完全にみんなの曲を聴きながら作った感じですね。微調整が効いてるというか。AメロとBメロがもともと自分のストックにあって、そこからアレンジを自分で考えて作りました。

——たなかくんの曲はすごく落ち着くというか、年齢に似合わない不思議なおおらかさがあるんですよね。

たなか:ありがとうございます。人柄ですね(笑)。

——「もうすぐだなぁ」の、小さな「ぁ」を持ってくるセンスとか、ちょっと1970年代的というか、懐かしい感じもある。

たなか:いやいや、そういうルーツとか全然ないですよ。LINEで文字打つ時によくちっちゃい「ぁ」をつけるくらいです(笑)。

中島:そういえば、メールにこの曲の音源が貼り出された時、最初は曲名だと気がつかなかったんですよ。つぶやきなのかなと思って。しばらくしてよく見たら、文字の下に音源データがくっついてました。

たなか:あの曲を出して1週間後くらいに「聴いた? 俺の新曲」って聞いたら、「新曲?」って反応でしたね。「え? これ曲ついてるんだ」みたいな(笑)。

——でも、わかります。そういう誤解をさせる不思議な自然体が、たなかくんにはあるんですよね。

M⑤ 夢にならないように(作詞/作曲:中島雄士)

中島:もともとタイトルだけあったんです。落語の「芝浜」がすごく好きで、あの噺のサゲに使われるフレーズです。そのコンセプトで曲を書きたいという気持ちだけずっとあって、今回新作を作るにあたって、たなかが歌ったらちょうどよさそうなメロディも浮かんできた。個人的には、ファーストに入っていた堀部の「街に溶けて」がすごく好きで、悔しかったんですよ。「くそー、いい曲書きやがって」みたいな(笑)。それに対して、俺はこういうのを書いてみようという気持ちで作った感じです。

——中島、堀部という作曲巧者の2人が「たなかに歌わせたらこうなる」と予想しながら曲を書く、その感じってなんなんでしょうね?

中島:僕は曲を書く時は基本的に歌う人がどういうふうに歌うかすごくイメージします。声とかギターの感じを脳内で再生するんですよ。たなかがサビで裏声で入って、オクターブ下でユニゾンするのをリスナーとして聴きたいなと思った。そのイメージで作った曲です。

——たなかくんの声質や歌い方は最初からもうそれなんですか?

たなか:歌い方はしょっちゅう変わるんでよくわからないんですけど、基本的にはどんどんスモーキーな感じになってきてる気はします。

堀部:やさしくなってる。

たなか:そうですね。テンダーになってきてます。

——改めてこの世代にあんまりいないいい声なんですよね。その声に当てて曲が書かれるのはいいことだと思います。

たなか:ありがとうございます。

M⑥ シェリー(作詞/作曲:中島雄士)

中島:グソクムズでネオソウルをやったらどうなるか、実験したいという個人的な夢があって、やってみました。がっつりそういう方向に行くメンバーではないから、どうなるんだろうという興味もあったし。加藤くんのギターをサンプリングして切り貼りするアイデアも、「ダメ」と言われるだろうと思ったら「いいよ」って言われたので。じゃあ、やってみようと。

——ネオソウルという言葉に対する感覚も全員違う気がします。それが面白くなるんだろうなと。

中島:でも、そのままネオソウル実験でいってもグソクムズの良さが出ないので、サビではわりとポップに跳ねる感じにしたんです。そういう部分はこのバンドの得意分野だから、そこでグッと聴かせて、また実験に戻るみたいな感じ。

——加藤くんが、これが6曲目がいいと思った理由は、LPレコードにするとB面1曲目だから?

加藤:まさにそれです。アルバムの1曲目が「風を待って」でだいぶびっくりするじゃないですか。だから、盤をひっくり返した時もびっくりさせたいなと思ったんです。

——タイトルは「もうすぐだなぁ」とは別の意味で、最近あまりJ-POPにはつかないタイプですね。

たなか:豊以来じゃないですか。尾崎の豊(笑)。

中島:これも「夢にならないように」と同じ発想です。まずメロディと歌詞を同時に作っていった感じですけど、サビのメロディがもう「シェリー」というフレーズにしか聴こえなくて、仮歌でそう歌ってたんです。結局それしか当てはまらなくなっちゃったんで、タイトルも「シェリー」に。

たなか:あるよねえ……。仮が本当になっちゃうやつ。

——たなかくんは、サビで「シェリー」って歌う時、どういう感じなんですか?

たなか:いや、なんとも思わないです(笑)。

加藤:そもそも、この曲のレコーディングでは歌うこと自体に必死だったもんね。

たなか:あんまりレコーディングまでに歌詞を落とし込めてなくて、結構苦戦しましたね。

加藤:リズム隊もレコーディングでは苦戦してた。

中島:むずかったー。

堀部:さらっと行ける気がしてたんだけど。

たなか:さっきも言ったように、セカンドのレコーディングは、エンジニアのたりおさんの要求がどんどん厳しくなって、結構レベルが違ったんですよ。

中島:OKラインの設定が高かったよね。

「ステンドの夜」「冷たい惑星」「ハイライト」「ゆうらん船」

M⑦ ステンドの夜(作詞/作曲:堀部祐介)

堀部:1stアルバムを作ってる途中か、作り終えたくらいの時期に、みんなに公開したんです。別にファースト用に書いたわけでもなかったけど、自分も気に入ってたんでみんなに聴かせておこうと思って。セカンドに入れるにあたっては、最初は結構速めで16分な感じのラテンをイメージしました。完成版よりリズムも細かいし、メロディの譜割も細かかった。

加藤:最初はもっとアホっぽかったんだよね。

堀部:僕なりのサザンオールスターズをやりたかったんですよ。中島もサザンが好きだから大盛り上がりしてたんですけど、年下2人に「アホっぽいからやめろ」って言われました(笑)。

中島:サンバ・ホイッスルみたいなの入れてたよね。

加藤:キーも上げようとしてたよね。

堀部:明るく聴かせたいというのもあったし、原キーがちょっと低かったから。えいぞをがちょっと歌いにくいんじゃないかなと思ったからなんだけどね。でも、最初の低いキーでいったほうがちょっと大人っぽい感じでいいという流れになりました。

たなか:俺はクールに歌いたかったんだよね。歌詞的にもそうじゃん。あんまりはしゃぎたくなかった。

——年長組はサザンで盛り上がったけど、年下はそうじゃなかったというのは面白いですね。

中島:「ちょっと考えろ!」ってね(笑)。

たなか:そこまでは言ってない(笑)。

M⑧ 冷たい惑星(作詞/作曲:加藤祐樹)

加藤:今年、アルバムの作業に入るまで1曲も作ってなかったんですよ。さすがに何か作ろうと思ってできました。個人的には、これはガンダムのテーマソングなんです。でも、えいぞをくんが最初は歌いたくなさそうで(笑)。

たなか:「なんだこれ?」って(笑)。

——歌いにくかった?

加藤:確かに、サビの譜割はやばいなと思ってました。でも、俺はデモではギリギリ歌えてたから、えいぞをくんは歌えるでしょと思ったんですけど、さすがにつらそうで。

中島:8小節息継ぎ無しヴォーカル。全部四分音符だから、曲としては結構キャッチーなんですけどね。

——歌詞カード見ても、ぎゅっと詰まってますもんね。

たなか:そうなんですよ……。レコーディングの最後のほうに、また毛色の違う曲が出てきたなと思って。これはもう自分のできる範囲で歌おうと思ってやったら、いい感じになりました。

加藤:たりおさんのアドバイスが効いたよね。

——どういうアドバイス?

たなか:もっとゆるく、PUFFYっぽく歌う、みたいな。

堀部:あれは、たりおさんのファインプレーだったよね。

中島:ベースもディレクションしてくれたし、サビのハモリもつけてくれた。

加藤:僕はユニコーンっぽい曲を作ろうと思ったんですよ。たりおさんもユニコーン大好きなんで、そこも合致して盛り上がりました。で、歌い方はPUFFYっていう(笑)。

——1990年代J-POPの結晶でしたか(笑)。

たなか:非公認の奥田民生プロデュースですね(笑)。

M⑨ ハイライト(作詞/作曲:加藤祐樹)

加藤:これは、ファーストの時に作った曲です。とりあえずめちゃくちゃ転調する曲を作ろうと思って(笑)。ファーストに入れるのはやりすぎかなと思って外したんですけど、今回入りました。僕が曲を書いてなかったので。

——とはいえ、リズム隊の2人とは違う技巧というか、思いもつかない展開やひらめきが加藤くんの曲にはありますよね。

たなか:他の人には絶対作れない。

堀部:このコードの後はこのコード、という展開が普通はあるんですけど、加藤くんの曲はそういう予想が全然効かない(笑)。自分が思ったところに動いたら全然違うコードだった、みたいな。

たなか:わかるわー。歌もそうなんですけど、やっぱり(加藤の曲は)歌うのが難しいんですよ。まったく自分の手癖にない曲なので。

中島:予測変換できない。

堀部:勉強になるよね。ここからここいくのアリなんだって思う(笑)。でも曲としてきれいな流れになってるから、すごいなと思う。

——ある意味、この4人だから加藤くんの曲は成立してるんでしょうか?

加藤:堀部さんのスーパー・ベースのおかげですよね。この曲のベースはすごい。

堀部:あー、そう言ってもらえてよかった。この曲のベースラインについてはどうしようかずっと悩んでてたんで。レコーディングの時、「ウォーキングベースでびっくりさせてほしい」って加藤くんに言われたんですよ。でも、ウォーキングベースでびっくりしたことって俺はあんまりない(笑)。じゃあ、ちょっとロカビリー系のはしゃぎ方をしてみようかなと思って、意識しながらやりました。

中島:難しいオーダーだったなあ(笑)。

M⑩ ゆうらん船(作詞/作曲:たなかえいぞを)

——同名のバンドと最近対バンしましたよね?

たなか:しました。たまたま被っちゃいました(笑)。曲としては、ファーストのリリース前にはもう原形ができていたんです。歌詞を入れていったらメロディラインも変わっていって、今年の3月くらいにできあがりました。歌詞もメロディも自分ではすごく気に入っている曲かもしれない。わりと真面目にやったな、という感じです。

——この曲の世界観の大きさは、まさに僕の感じるたなかくんらしさです。

たなか:実際に箱根あたりで遊覧船を見てたんですよ。

堀部:その船、子どもの頃に乗ったことある。

たなか:僕は遠くから船を見てた側なんですけど、遠くから見てると全然進まないんですよね。その光景を見て「遊覧船っていいな」と思い、歌詞になりました。本当は最初はタイトルは漢字の「遊覧船」だったんです。でもそれだとなんか硬いんですよね。全部ひらがなの「ゆうらんせん」だとアホっぽいし(笑)。それで「船」だけ漢字にしたら、バンドのゆうらん船と被っちゃったんです。先日対バンした時、先方に最初の4文字だけひらがなにした理由を説明したら、ヴォーカルのイタルさんも「それ、僕もまったく同じ理由です」と言ってくれました。「そうですよね! それがベストですよね!」と(笑)。よかったです。あの方達はさすがですね。

——そのツーマンもそうですけど、ライヴも結構増えましたよね。

中島:そうですね。どこかのタイミングで「ライヴをちょっと多めにやろう」って4人で話しました。

たなか:ライヴが楽しいってちょっと思うようになってきました。

堀部:ギャラもちゃんと出るようになったし(笑)。

——以前は、ライヴについてはあまり積極的ではない、という感じでしたよね。

たなか:昔は練習も全然してなかったから、よく間違えてましたしね。今は間違えてもあんまり気にしなくなった。

中島:間違えるのは変わらないんだけど、メンタルが育った。

たなか:はい。人間的に成長したんで(笑)。

——来年2月4日にワンマン(渋谷WWW)もありますし、今後もライブは増やしてほしいですね。

たなか:僕はやっていきたいです。

堀部:ライブは楽しいので、ぜひ!

グソクムズ『陽気な休日』 12月14日リリース

■グソクムズ『陽気な休日』
12月14日リリース
CD / デジタル配信
CD:¥2,640 
1. 風を待って 作詞・作曲 / 堀部祐介
2. バスが揺れて 作詞・作曲 /たなかえいぞを
3. 冬のささやき 作詞・作曲 / 加藤祐樹
4. もうすぐだなぁ 作詞・作曲 / たなかえいぞを
5. 夢にならないように 作詞・作曲 / 中島雄士
6. シェリー 作詞・作曲 / 中島雄士
7. ステンドの夜 作詞・作曲 / 堀部祐介
8. 冷たい惑星 作詞・作曲 / 加藤祐樹
9. ハイライト 作詞・作曲 / 加藤祐樹
10. ゆうらん船 作詞・作曲 / たなかえいぞを
https://p-vine.lnk.to/9uEff6

Photography Mayumi Hosokura

author:

松永良平

1968年熊本県生まれ。音楽ライター。インディー・バンドから海外アーティストまで取材する。著書に、自らの平成30年間を年ごとに音楽で振り返った『ぼくの平成パンツ・ソックス・シューズ・ソングブック』(晶文社) @emuaarubeeque

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