TWIGY × dj honda――アルバム『RAPATTACK』が生んだ無敵の化学反応

TWIGY 「RAPATTACK」 produced by dj honda

ラッパーのTWIGYと、DJ・サウンドプロデューサーのdj honda。間違いなく日本のヒップホップシーンをけん引し、その歴史に跡を残してきた。この2人がタッグを組んだアルバム『RAPATTACK』が2022年にリリースされた。

2011年からしばらくラッパーとしての活動のペースをゆるめていたTWIGYが、2021年に約10年ぶりにアルバム『WAKING LIFE』をリリースしてから、約1年。日本のラップ界をリードしてきたリリシストがリリックにのせ、“今”伝えたいことは、長年世界で勝負し続けてきたdj hondaのビートだった。このアルバム、聴けば聴くほど脳内が覚醒して体が熱くなってくる。

2022年現在、まだまだ止まることを知らないヒップホップカルチャーだが、その中で聴いてみるべきアルバムなのではないかと感じている。本作の誕生について2人に聞く。

Left→Right
TWIGY(ツイギー)
1971年生まれ。愛知県出身。1980年代後半からラップをはじめ、1987年に刃頭とともにBEATKICKS(ビートキックス)を結成し、名古屋を拠点に活動開始。1992年に活動の場を東京に移してから、MURO、P.H.FRONらとともにMICROPHONE PAGER(マイクロフォン・ペイジャー)を結成。1994年にYOU THE ROCK☆RINO LATINA IIらともに雷を結成し、翌年LAMP EYE(ランプ・アイ)の「証言」に参加。1997年にイスラム教へ改宗。1998年に1stソロアルバム『AL-KHADIR』をリリースした後は、数々のアルバムを制作。2016年に自叙伝TwiGy『十六小説』を出版。2021年には、約10年ぶりとなるアルバム『WALKING LIFE』をリリース。また2022年11月に、東京・原宿で絵画を中心とした初の個展「THINGS THAT PASS」を開催。日本のヒップホップ界屈指のラッパーの1人。
Instagram @twigy71

dj honda(dj ホンダ)
1961年生まれ。北海道札幌市出身。ヒップホップDJ・サウンドプロデューサー。1980年代半ばからDJ KOOらとともにリミキサーグループ、The JG’s(ザ・ジェイジーズ)を結成。国内でのDJ活動を経て、1992年に渡米し、ニューヨークで開催されたDJバトル大会「DJ Battle For World Supremacy」で準優勝を果たす。1995年に1stアルバム『dj honda』をリリースした後は、『h II』『dj honda IV』などのアルバムをリリース。Common(コモン)Fat Joe(ファット・ジョー)DJ Premier(DJ プレミア)Mos Def(モス・デフ)De La Soul(デ・ラ・ソウル)、EPMD(イーピーエムディー)、Redman(レッドマン)など東海岸をを中心としたUSラッパーやDJが参加する。1999年に「dj honda RECORDINGS US」と「dj honda RECORDINGS JAPAN」を設立。ファッションブランド「h(エイチ)」をプロデュースし、1990年代には世界中で大ブレイクした。2021年、THA  BLUE HERB(ザ・ブルー・ハーブ)のill-bosstinoとともに『KINGS CROSS』を制作。現在は、札幌を拠点に活動中。
https://www.djhonda.co.jp
Instagram:@djhonda_official

リアル・ヒップホップを生きる2人が今できること

TWIGY 『RAPATTACK』All Produced By dj honda
(GOD INK ENTERTAINMENT®)

——何がきっかけでアルバム『RAPATTACK』を制作することになったのですか?

TWIGY:僕が脳内ドラムに書きためていたリリックがあって、それをストリートのヒップホップの音にしたいなと思って。でも自分で作るのは大変だし、いろいろな人にオファーするのは時間がかかるなと思っていたところに、(dj)hondaさんとやらないかっていう話がちょうどあって。今みんなhondaさんと曲をやったり、アルバムを作ったりしているし、それで2週間くらい札幌のhondaさんのスタジオに行って作った感じです。

——お2人はいつから互いを知っているのですか?

TWIGY:いや~、長い。

dj honda:TWIGYが、まだちっちゃい頃(笑)。まだ名古屋にいた頃。

TWIGY:ちっちゃい頃っすね(笑)。17とか、18とかの頃。

dj honda:イベントを東京でやっていた時に、TWIGYに会ったんだよ。2回くらい来たよね。

TWIGY:「PEACE BALL」ってイベントやっていたの。

——その頃の印象はどうでしたか?

dj honda:当時ラップをやっている人はそんなにいないからさ。やってる奴はほ友達じゃなくても知っているって感じだったから、みんな知ってたよ。

TWIGY:僕はもう大先輩なので、観ていた側ですね。刀頭と僕は一番年下で、周りは年上の人ばかりだったから、「こうやるんだ」とかもう衝撃を食らっていた人の中の1人。「PEACE BALL」ってイベントには、EAST END(イースト・エンド)だとかいろいろ出ていたんだけど、僕らはBEATKICKSで出て、自分達のライヴが終わったあとに観る側に戻って観てたんだけど、hondaさんのDJの時にいきなりギターをギーンッ! と出してきて終わったってのがあって、「すごい人だ!」「髪もロックだし!」っていう印象で。だけどその時は年上過ぎてしゃべれない人ですね。

dj honda:確かにね。10歳くらい離れてると違うよね。これくらいになったらほとんど一緒だけど。

「TIGHT -24th Anniversary, Since 1998- 」 at Club Asia 2022/12/3 

——今回はTWIGYさんからhondaさんへアプローチしたんですか?

TWIGY:そうです。やっぱり本物の音を作る人というか、間違いないと思っていたので。僕のリリックが絶対に合うと思っていたから、ぜひと思って。

——hondaさんは一緒にTWIGYさんとレコーディングされていかがでしたか?

dj honda:どうもこうもなにもないけど、「もっと作るぞ!」って言った(笑)。

TWIGY:それで僕が終わるっていう(笑)。

——札幌にはどれくらい滞在していたんですか? リリックは現地で調整していったのでしょうか。

dj honda:札幌には1週間から10日間くらいいたね。それを2回にわけて来たよね。

TWIGY:書きためていたのもあるし、でも脳内ドラムで作っているから、ズレているところとか、小節数が合わないところとか、言葉尻とか。ちゃんとライヴで自分で声を出して録っていないものだから、なおさら調整はいろいろ必要で。またバースが必要になっていたりだとかもあって。あとはそれに合うhondaさんの音を、どれをどれにするかだとか。hondaさんは毎日音を作る人だから。新しいのから、それこそ何十年前のから。古いのはいつごろのものを聴いたんでしたっけ?

dj honda:20年前とか? 1990年代に作ったやつとか。

TWIGY:それを先に僕が音を聴かせてもらって、「これとこれ」「次これでやります」って感じで。

「TIGHT -24th Anniversary, Since 1998- 」 at Club Asia 2022/12/3 

——アルバムを聴いていて、ヒップホップとはなんぞやといったBACK TO HIPHOP的な印象を受けたのですが、コンセプトのようなものはお2人で話されたんですか?

dj honda:ないないない。「今、何ができるんだ!?」ってことをその日やっていたって感じだよね。「今、何ができるの? TWIGYは?」「俺は今、これができるけど」って、それが合わさっただけじゃない。別に昔風とか、なんとか風とか考えていないし。こんな曲作ろうよっていうのもないし。できたものが作った曲だから。それを毎日。

TWIGY:その感覚をシェアしてでき上がった。

dj honda:俺は何も考えていないよ。詞は考えているだろうけど。

TWIGY:常にヒップホップの中にいるから、BACK TO HIPHOPとか、そういう風に受け取ってくれたら、それはそれで嬉しいけど。でももうずっとやってきていることだから。

——リアルライフでやり続けてきたことが、2022年に形になったのでしょうか?

dj honda:そう。それがたまたま出たって感じ。もうそれしかやってないしね。

TWIGY:僕らはずっとそうですよ、リアルヒップホップですよ……ってそんな風にしなくてもいいですけど、言われるとしたらそうですね。

「TIGHT -24th Anniversary, Since 1998- 」 at Club Asia 2022/12/3 

TWIGYにdj hondaがリクエストした「簡単にしろ」

——hondaさんはTWIGYさんの魅力はなんだと思いますか?

dj honda:やっぱ、個性がないとダメだから、ラッパーって。で、(TWIGYは)個性があるじゃん。いろいろなビートがある中で、他の人では使えないなと俺が却下したやつも、TWIGYにはハマったっていうのもあるし。詞も大事なんだろうけど、俺は音楽として聴いてるから。基準は何もないんだよ。DJをずっとやっているから。自由な中でなんか合うな、合ってないなっていうのは俺はわかるから。俺はDJをする時に「かけるか、かけないか」っていう感覚で作っている。それで、「ちょっと違うな」って思った時は「違うよね」っていう判断ですよ。そうすると、「こっちが悪いのか」「そっちが悪いのかっ」ていう判断になるじゃん。そうすると俺はバンバン変える。

TWIGY:どっちが悪いんすか(笑)。

dj honda:俺、聞くじゃん。「これでいいか?」って。これでOKだったら、あとは俺の責任だから、いっぱい変えたり、直したり、ああだどうだって。

TWIGY:すごい変えてくるんですよ。それでどんどん良くなっていくから、もちろんいいんですけど、「どれがいい!?」って何曲もくるんで、それを選ぶのはちょっと大変でしたけど(笑)。

——hondaさんはこれまでに海外のラッパーとも数多くレコーディングされてきていますが、TWIGYさんとレコーディングしていて何か気付きはありましたか?

dj honda:ラッパーだから、外国人も日本人も同じだよ。やっていることも一緒だし、ペースが違うっていうのはあるけどさ、基本同じだよ。やっぱ(TWIGYは)、ラッパーなんじゃないの?

「TIGHT -24th Anniversary, Since 1998- 」 at Club Asia 2022/12/3 

——好きなフロウとか、ありますか? 

dj honda:俺はTWIGYにもっと簡単にしろって言ったんだけど。結構、俺は一緒にやるやつにはみんなに言うんだよね。「簡単にしろ」って。

TWIGY:みんな簡単にしてこないですからね(笑)。

dj honda:俺がついていけないってことは、お客さんもついてこれないんじゃないかってことで。俺としてはもっとって思うし、簡単が一番難しい。曲だってそうだし、スクラッチもそう。だから切磋琢磨しているんだよ、みんな。なんかマジックが起きるかもしれないわけだし、それにチャレンジすればいいわけだから。毎回いい曲ができるんだったらいいよ。たまにレコーディングして、それを出すだけでいいじゃん。もちろん、簡単にできてしまうこともある。でもたいていは、そういうわけにはいかない。だからやったほうがいいし、やったもん勝ちっていうのはある(笑)。

TWIGY:(笑)。……次の質問にいきましょう。

dj honda:TWIGYにはあるのさ。簡単にできない理由が。でも、違うところでやってみてもいいじゃんって。すごい、実験だから。スタジオだって、今は昔みたいに何百万、何千万とバジェッドがないと入れないとかないじゃん。パソコンとマイクがありゃ、曲は作れるからさ。そんな実験を、いっぱいやったけどね。

TWIGY:結構やりました(笑)。

dj honda:やったやった。TWIGYに「ここ変えろ!」とかはないよ。

TWIGY:シンプルにしていったつもりなんですけど、シンプルになっていなかったみたいです。まだ(笑)。

dj honda:「手厳しくやっていますけどおお~!」とか言ってたけど。「まじで~?」って。

TWIGY:「まだダメだ!」とか言って。

dj honda:「もっとだ!」とか(笑)。

TWIGY:2行の連呼で終わってしまうかもしれませんよ。

dj honda:それでハマっていたらやばいじゃん。

TWIGY:でも、そんなラップ聴いたことないっすよ! ……みたいな。

dj honda:ないからさ、逆に楽しみ。サビだけとか(笑)。

——(笑)。楽しそうにレコーディングされていた感じですね。TWIGYさんは、東京を離れて札幌という環境でレコーディングしてみて、変化はありましたか?

TWIGY:集中できたかもしれないですね。毎日、「明日もスタジオ入るんだ!」っていうのがありましたから。スタジオに入ったのは、4月の頭。雪、凍っていましたね。ブーツを履いていかないとって、ブーツを履いていったらツルツル滑って、めちゃくちゃ 「しまった!」みたいな。で、風が冷たかった。よかったですよ。

「TIGHT -24th Anniversary, Since 1998- 」 at Club Asia 2022/12/3 

ストレートな塊が合致して「やっぱり化学反応が生まれた」

——アルバムを聴いていて2022年、現在のことをラップされていて、今の世の中を生きていて思うことをシャウトされているなと。

TWIGY:前作の『WAKING LIFE』は、夢と、夢じゃない境目を作りたかったから、ああいう形にして、今回の『RAPATTACK』は、hondaさんは難しいって言いますけど、自分としてはもっとわかりやすい感じで作りました。楽しいとか、悲しいとか、いろんな喜怒哀楽があるけど、それの“ド”に近いというか。もうちょっと考えさせちゃうやつを、もっと濃いやつをリリックにしたかったから。だからhondaさんのド・ストレートな低音と、アーネスト(本気)というか。そういう塊のようなものが合致したというか、マッチしたというか。リリックを足したやつとかも、音に合わせて作っていったから、それだけハマってしまったという部分もあったりするし、やっぱりすごい。そこで、化学変化が生まれるっていうか。

——化学変化が生まれていますよね。おかげで考えさせられました。

TWIGY: なんかそういうのが今はないじゃないですか。楽しいとか、恋愛ソングとかしかないから。問題定義って、ヒップホップはそういう部分だと思うから、それが希薄だなと思っていて、それを書き殴りたかった。僕のアルバムを聴いた人が、鼻息が荒くなってきて、「寝られなくなった!」って言ってたから。

TWIGY 「LUCY」 produced by dj honda

——自分もアルバムを聴いていて、後半になるにつれてどんどんそういう風になっていきました(笑)。

TWIGY:そういう風に思わせたかったんだよね、今回のやつは。みんな不感症になっていると思うから。だからたぶん昔のTWIGYを聴いていた世代の人達は、「これだ!」ってなっていると思うし。で、hondaさんだし。そこは狙ったところもあって、若い人達にはこの土くさいラップとかもおもしろいだろうし。きれいすぎるからさ。今はレコーディング技術が発達しすぎているから、声を変えたり、息ブレスとかも聴こえないようにしたり、変えていることが多いからね。

僕はその真逆な感じにしたいというのがずっとあって。だから声も最初に録った「CIRCUS」は、hondaさんのスタジオでhondaさんに見られながら、何年ぶりかにスタジオでマイクを持った。それをファーストインパクトで、「I’m Back」ってつんのめりでやっているっていう。だから後半になっていろんな種類の声がまたおもしろくなっていくし、それをhondaさんが作ってくれたんだよね。

——アルバムのタイトルは誰がつけたのですか? そして、どんな気持ちをこめたのでしょうか。

dj honda:それはTWIGYが。

TWIGY:『WAKING LIFE』の次は、『RAPATTACK』っていう題名にしたいって、それが2年前くらいにあって。その中身がこれになったって感じ。だから当初つけたかったネーミングをつけて、そこにさらに同乗していったって感じです。

——どんな化学反応が起きたと思いますか?

dj honda:ん、それは聴いた人が決めることなんじゃない? 

TWIGY:逆に知りたい。

dj honda:聴いてくれた人が決めてくれたらいいんじゃない。俺らはやることはやったから。あ、もっとできるけど(笑)。でもキリがないからね、一生終わらないから。

「TIGHT -24th Anniversary, Since 1998- 」 at Club Asia 2022/12/3 

——最近のヒップホップについてどう思いますか、日本、海外含め。

TWIGY:ヒップホップというのは、音楽?

——音楽もそうですし、カルチャーとしてです。

dj honda:どうですか? ん~……どうですかね~。

TWIGY:(笑)。

dj honda:わかんない。いいんじゃないの? あんまりわかんない。俺、あんまり人の曲を聴かないしな。あまり気にしていない。

TWIGY:右に同じです。それで(笑)?

dj honda:やりたいように、やりたいことをやっているだけ! それが続いていっているだけ! かな。

TWIGY :自分のスタイルをやっている “だけ”っていう。だからいろんなスタイルがあってもいいんじゃないのっていう。俺はあっていいと思うし、それを別に否定する暇もないし。

dj honda:言ったところでな。だってもともと俺らはクソなんだから。クソかなんか知らないけど、みんなそうなんだから。

TWIGY:リアル・シッ○????ですよ。

dj honda:それはわかんないけど(笑)。音楽ってどうですか? ってなったら、話は変わるかもしれないけど、いいんじゃないですか。好きにやって。そういうヤツもいっぱい増えたから、今こうなってるわけじゃん。昔なんかは、ステージにさっきまでいたやつが客席に行って、ステージ観てたわけだから。TWIGYだってそうだったんだから。

TWIGY:何かを夢みて、集まっていたし。

dj honda:「これでいいのかな~」とか。もともと、やってる俺らもわかっていなかったんだから。

——今はわかっていらっしゃいますか?

dj honda:わかってるよ!!! けど当時はわかんなかったよね。それが楽しかったしね。

——今も楽しいですよね。

dj honda:うん、楽しい。

——最後に『RAPATTACK』がリリースされたにあたり、メッセージをいただけますでしょうか。

TWIGY:超ド級のアルバムができているんで、聴いてください。クラシックです。

dj honda:それでいいんじゃない。「クラシックです」っていいんじゃない(笑)。

Photography Atsuko Tanaka
Special Thanks:CLUB asia、DJ YAS、TIGHT

author:

Kana Yoshioka

フリーランスエディター/ライター。1990年代前半ニューヨークへの遊学を経て、帰国後クラブカルチャー系の雑誌編集者となる。2003年~2015年までは、ストリートカルチャー誌『warp』マガジンの編集者として活動。現在はストリート、クラブカルチャーを中心に、音楽、アート、ファッションの分野でさまざまなメディアにて、ライター/エディターとして活動中。

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