ヘアサロンと古着屋。「UNDER THE SUN」が目指す、新しい店のカタチ

東京・三軒茶屋に店を構える「UNDER THE SUN(アンダーザサン)」は、ヘアサロンでありながら、古着屋でもある。ショップには、アメリカから直接買い付けてきた古着がラインアップし、アパレル関係者をはじめとしたさまざまな人達がここで髪形を整えていて、ヘアスタイルとファッションスタイルの身だしなみを、トータルでサポートしてくれる。

ありそうだけど、あまりない、ヘアサロンと古着屋の併設。その形態をとった理由をオーナーで美容師の中川優也と、古着を担当する谷田誠人に聞いてみることに。東京のショップの今を、「UNDER THE SUN」から探ってみたい。

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中川優也(なかがわ・ゆうや)
原宿のヘアサロンを経て、2019年三軒茶屋に「UNDER THE SUN」をオープン。サロンワークをこなしつつ、アメリカから自身で買い付けてきた古着を販売する。2022年に拡大移転。スケートボードや自転車などアクティブな趣味を持つ。
Instagram:@underthesun_sgj

谷田誠人(たにた・まさと)
2021年から「UNDER THE SUN」で勤務。古着を担当しつつ、エッセンシャルオイルを加えてオリジナルの香りに仕立てたパロサントのブランド「Re_Cent product」を手掛けている。同じく、スケートボードや自転車、カメラを好む。
Instagram:@txnxt

好きなことをすべてできる店に

――オープンして何年目になりますか?

中川優也(以下、中川):4年目です。去年の3月に、現在の場所に少し離れたところから移転してきました。サロンのスタッフが5人、古着のスタッフが2人の計7人で運営しています。

――中川さんは「UNDER THE SUN」をオープンする前は、原宿のヘアサロンで働かれていましたが、独立はその時からを考えていたのでしょうか?

中川:最初は考えていなかったけど、やっていくうちに意識するようになりました。やりたいことを100%やるには、自分の店を持つのが一番ですからね。

――店を構えた時は、まだ20代でしたよね。業界的に早いのでは?

中川:28歳で独立したので、早いほうだと思います。

――そう考えると、別のヘアサロンで経験を積む道もあったと思いますが、早めの独立に踏み切った理由はありますか?

中川:すでに店のイメージができていたので、他で数年働くよりは、早いところ独立したほうがいいと思ったんですよ。

――そのイメージとは、ヘアサロンと古着屋を掛け合わせた現在のスタイルでしたか?

中川:そうですね。当初から、ヘアサロンと古着屋を併設した店にしたいと思っていました。

――「UNDER THE SUN」のコンセプトを教えてください。

中川:特にこれといったコンセプトは掲げていなくて、「なんでもあり」かなと思っています。根本は髪を切ることができて、古着を買える店だけど、おもしろいことならなんでもできる場所にしたいです。

――ヘアスタイルも洋服も、ファッションのカテゴリー分けできるかと思いますが、併設している店は珍しいですよね。

中川:あまり見ないですよね。僕は海外に行くのが好きで、古着も好き。それで自分の店だから好きなことを全部やろうと思っていて、古着の買い付けは渡航理由になるので、(古着も)取り扱うことにしました。

――美容師をされていたのであれば、買い付けは未経験ですか?

中川:はい。前のヘアサロンで働いている時に1週間ほど休みをとって、古着屋で働く友達の買い付けに同行しながら学びました。

――すごい。そして谷田さんが加入するまでは、1人で買い付けに行っていたそうですが、大変だったのでは?

中川:初めて1人で行った海外が、買い付けでしたからね。少し不安だったけど、行ってみたら特に問題はなく(笑)。ただ、荷物と移動が多いので、肉体的にも精神的にもキツかったです。でも、前回よりいいものを買えたとか、効率よく回れたとか、毎回学ぶことがあって楽しかったです。

――今では2人で買い付けに行かれているそうですね。谷田さんは買い付けに行ってみていかがでしたか? 中川さんと同じく、買い付けで海外に行くのは初めてでしょうし、旅行とは違ったと思います。

谷田誠人(以下、谷田):買い付けに行っている先輩から、朝から晩まで動いていて忙しいと聞いていたけど、それを嫌と感じず、楽しかったです。ポートランドから2〜3時間くらい車で走ったところにある田舎町にも足を運べましたし。

中川:絶対に旅行じゃ行かない町だね。

谷田:観光地じゃない、リアルなアメリカの街並みを見られるのは楽しいんです。

中川:そういうところで見つけた古着は、すごく印象にも残ります。

――そもそも、お2人は以前から知り合いだったんですか?

中川:共通の友達からの紹介で知り合いました。

谷田:4、5年前くらい?

中川:そうだね。お互いにスケボーしているから、一緒に遊ぶようになりました。

――谷田さんは「UNDER THE SUN」の前は、どんなお仕事をされていたのですか?

谷田:鉄道の車掌です。

中田:なかなか出会わない職業ですよね! 一発で覚えましたよ。

――なぜ車掌から「UNDER THE SUN」で働くようになったのでしょう?

谷田:僕も海外旅行が大好きで、毎年 2 週間の休みを取ってアメリカやヨーロッパへスケボーしに行っていたんです。でも、コロナ禍になって、安泰といわれていた鉄道業界が厳しくなりました。それを、きっかけに「これって本当に自分がやりたい事なのかな?」と考えるようになって……。

――そこでせっかく働くなら、好きな洋服を扱う仕事をしたくなったと。

谷田:そうなんです。僕の周りには、個人でTシャツとかZINEとかを積極的に作って活動している人は多かったけど、店を構えている友達はいませんでした。でも、優也くんは早くに自分の店をオープンさせた。しかも、古着を取り扱いながらヘアサロンという。それで遊びに行ってみると、口に出さずとも優也くんの好みが伝わる古着のラインアップがすごくよかったんです。近くで優也くんがやりたいことを仕事にしていて、等身大の努力を店に反映しているのがうらやましく感じましたね。それで僕も古着が好きなので優也くんに相談して、「UNDER THE SUN」で働かせてもらうことになりました。

――働く環境ががらっと変わりましたが、いかがでしたか?

谷田:こういう仕事をやりたかったんだ、とつくづく感じています。僕の好きなファッションや音楽をお客さんが 気に入る瞬間を目の当たりにすると、もっと人を喜ばせたくなります。前職で考えると、あの車掌が運転する 電車に乗りたいって思う人は誰もいなかったけど、今は、「UNDER THE SUN」の1人として認識してもらえるようになったのが嬉しいです。自分の頑張り次第で、どんなこともできますからね。今までは自分から発信することはなかったけど、ここで働くようになってから、オリジナルのパロサントを販売するようになりました。スタッフが個々に好きなものがあって、全員で「UNDER THE SUN」という感覚ですかね。

――「UNDER THE SUN」では、いわゆるレギュラーと呼ばれるスタンダードな古着がラインアップの中心ですよね。

中川:昔から安い古着が好きなんです。たまに高価な人気のヴィンテージも買いますけど、レギュラーのほうが手に取る機会が多いですからね。

――谷田さんが加入して、ラインアップに変化はありましたか?

中川:変わったと思うし、むしろ別の人の視点を取り入れたいと思っていました。自分にない発想は、積極的に取り入れていきたいです。谷田くんが発信したことに共感しているお客さんも多くて、それが店の色になっています。これからもいろんな要素をちりばめていきたいですね。

オリジナルアパレルの製作やポップアップの開催も

――古着を取り扱っているので、髪を切らない人であっても店には来やすいですね。

中川:服を買うなら髪も切ってもらいたい、髪を切るなら服も買ってもらいたい、なんて思っていません。両方をうちで済ませてくれたら嬉しいですけど、そこまで多くは望んでいないんですよ。もっと気軽に来てもらいたいです。

谷田:でも髪を切るだけだった大学生のお客さんが、ここで古着に興味を持つようになって、だんだんと着こなしが変わっていく姿を見られたのは嬉しかったですね。それまでは髪を切るついでに古着を買っていたけど、古着だけ買いにくる人がいたり、ポップアップを目当てに遊びに来てくれたりも。

中川:店のことを好きになってくれるのは嬉しいね。だけど、まだ聞かれるんですよ。「服を見るだけでも大丈夫ですか?」って。確かにヘアサロンって印象があるから、そう見えちゃうのもしょうがないかも。僕の感覚は、美容師の仕事が軸だけど、やれることなら肩書きに執着しないで、なんでもやればいいと思うんです。ヘアサロンだけで認識されるんじゃなくて、「UNDER THE SUN」という店として知ってもらいたいです。

谷田さんが手掛けるパロサント「リセント プロダクト(Re_Cent product)」。天然のエッセンシャルオイルが配合され、2種類の豊かな香りがラインアップする

――なんでもできるブラットフォームとしての「UNDER THE SUN」ということですね。オープン当初から、がっちりと古着を並べられていましたよね。

中川:移転以前から、店はヘアサロンと古着屋を半分ずつで構成しています。身近にヘアサロンと古着屋を併設している店の前例がなかったので、どれくらい洋服を置いたらいいかもわかりませんでした。最初はラック2台だけ置くつもりだったけど、それだと古着を買いに来る人が絶対にいないと思ったんですよ。その量だとすぐに見終わっちゃうし、店に入るのすら気まずいじゃないですか。

――ラック2台分ですと、ヘアサロンと古着屋が併設している店じゃなくて、古着を少し売っているヘアサロンってイメージです。

中川:それじゃあ、やる意味がない。やるからには本気じゃないとダメだと思って、古着の売り場も店の半分にしました。それゆえに大変なこともありましたけど、おかげさまで古着屋だけでも機能しています。

――店のラインアップは見応えがあります。

中川:美容室と古着屋を併設してるって聞くと、なんだかおもしろそうだし聞こえはいいけど、実際の営業を考えると中途半端な量じゃ成り立たないと思いました。なので、やるからには古着屋として見応えがある商品数を用意することにしました。

――ではヘアスタイルは、どんなものを提案されていますか?

中川:個人的に、あまりカチッとしたのが好きじゃないんですよ。ばっちりセットしている髪形もカッコいいと思うけど、自分はラフなほうがいい。でも、こちらからそれを提案しません。お客さんによく言ってますけど、髪形は洋服と一緒で、自己満足なんですよ。似合うか似合わないかは自分で決めればいいと思うし、やりたい髪形なら悩まずにやったほうがいいってスタンス。もちろん髪質やクセを見て、その人に似合う最適の仕上がりは目指します。

谷田:僕も優也くんに切ってもらっていますけど、「いい感じで」としか頼んでいません。

中川:「いつも通りで」って人が多いですね(笑)。

――自然体な仕上がりが安心感があってちょうどいいってことですね。オリジナルのアパレルも、オープン当初から作られていますよね。

中川:どちらかといえば最初は、店があるのでオリジナルのアパレルを作ったって感じです。知り合いにデザインをお願いしていましたが、やっていくうちにオリジナルの存在意義を大きくしたくなったんです。せっかくのオリジナルなんだから、自分で考えたものを形にしたほうが意味があると思って、少しこだわるようになりましたね。前までは思いついた時に作っていましたけど、今は定期的に作るようにしています。

――オリジナルは谷田さんと2人で考えているのでしょうか?

中川:いえ、オリジナルは少し頑固になって、基本的には僕が考えています。いろんな人の意見を取り入れすぎると、方向性がバラバラになっちゃいますからね。軸は僕が決めますが、例えば色で迷ったらみんなに聞いています。

買い付けで行ったロサンゼルスで、谷田さんが撮った写真をプリントしたオリジナルのロングスリーブT

――オリジナルのアパレルがブランドとして動いているようにも感じます。最近はどんなアイテムをリリースしましたか?

谷田:自転車に乗りやすいパンツの「バイクチノ」を、友人のブランド「PWA」「BLUE LUG(ブルーラグ)」と一緒に作りました。

中川:あれは、みんなで話し合って作ったものですね。

――自転車のチェーンにパンツを巻き込まないように、裾の内側にドローコードを搭載しているギミックがおもしろいです。「BLUE LUG」でも販売しているのもいいですね。

中川:僕も谷田くんも、世田谷区上馬の「BLUE LUG」で自転車を組んでもらっていて、お世話になっています。 「SIESTA(シエスタ)」の青木さんが髪を切りに来てくださるんですけど、乗っている自転車がカッコよくて、 すぐに「BLUE LUG」を紹介してもらって自転車を組んだんですよ。

谷田:ちなみに僕は、青木さんのその自転車をゆずってもらいました。それから自転車にハマっています。

――自転車といえば、幡ヶ谷の自転車屋「WOOD VILLAGE CYCLES(ウッドヴィレッジサイクルズ)」のポップアップを開催されたこともありますよね。

谷田:「WOOD VILLAGE CYCLES」とは仲が良いので、ポップアップをやってもらいました。

中川:他にもよくポップアップは開催しています。

――例えば、どんなポップアップを開催しましたか?

中川:「SUNPEDAL(サンペダル)」っていうヴィーガンのケータリング専門店のポップアップですね。知って いたけど会ったことがなくて、「WOOD VILLAGE CYCLES」が近所で知り合いだったからつなげてもらい ました。あと、サッカーのヴィンテージユニホームを販売した「HuberStore(フーバーストア)」のポップアップも。

谷田:スケボーで仲良くなった友達がやっているブランド「CTC STORE(CTC ストア)」とかも。

中川:ポップアップを開催すると、お客さんの幅が広がるから楽しいです。移転する前にやった「PWA」のポップアップでは、コラボのショーツを作ったんですよ。そうしたらオープン前からお客さんが並んでくれて。でも、店が狭いから全然入れませんでしたよ(笑)。

――東京にはヘアサロンも古着屋もたくさんありますが、こちらはどんな立ち位置を目指していますか?

中川:男が行きやすいへサロンってよく言ってもらえるんですよ。青山とかにあるサロンらしいサロンとは違うし、バーバーみたいにかっちりしてないから、お客さんもたまりやすい。しかも、古着もあるから余計に入りやすいみたい。そういうヘアサロンって、東京でも少ないと思うんです。親近感があるけど、憧れてもらえるような存在になりたいですね。

谷田:自分達が純粋に、カッコいいと思ったコトやモノをお客さんに伝えて喜んでもらいたいです。そのために自分が好きなモノに対して深く探求したり、興味があるものには蓋をせずに足を運んで経験したりしていきたい。そして、お客さんにより喜んでいただけるように、商品の買い付けと提供を努力していきたいです。

■UNDER THE SUN
住所:東京都世田谷区池尻2-10-12 アヴェニュー池尻 1F 103
営業時間:11:00-20:00
TEL:03-4285-3765
https://www.underthesunsgj.com
Instagram:@underthesun_sgj

Photography Yuta Kato

author:

コマツショウゴ

雑誌やウェブメディアで、ファッションを中心としたカルチャー、音楽などの記事を手掛けているフリーランスのライター/エディター。カルチャーから派生した動画コンテンツのディレクションにも携わる。海・山・川の大自然に溶け込む休日を送るが、根本的に出不精で腰が重いのが悩み。 Instagram:@showgo_komatsu

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