家主、ライヴを語る バンド史上最大数のツアーの熱量を収めたライヴ・アルバム『INTO THE DOOM』リリースに寄せて

ソロミュージシャンとしての評価も高く、12月には3rdソロアルバム『IN NEUTRAL』をリリースしたばかりの田中ヤコブ(Vo / Gt)を中心に、田中悠平(Vo / Ba)、谷江俊岳(Vo / Gt)、岡本成央(Dr)によるロックバンド、家主。ヤコブ、悠平、谷江という3人のシンガーソングライターを擁し、岡本も交えた仲間同士でやいのやいのと言い合っているような人懐っこい空気感と、何よりいいメロディが満載のグループだ。

そんな家主が2021年発表の2ndアルバム『DOOM』を携え、全国16ヵ所を周るツアーから、全21曲を収めた初のライヴ・アルバム『INTO THE DOOM』を発表した。粛々としているようでいて一度始まるとアグレッシブで爆発力のある演奏に定評がある家主のライヴ。音源とは違った魅力が堪能できる作品に仕上がっている。

彼ら史上で最大本数のツアーをやり遂げ、『INTO THE DOOM』に結実した家主の4人に、そこから得られた経験とライヴの向き合い方の変化について話を聴いた。

家主における音源作品とライヴの位置づけとは

――本作『INTO THE DOOM』は2021年12月にリリースの2ndアルバム『DOOM』のライヴツアーの模様を収めた作品です。1stアルバム『生活の礎』(2019年)がこれまでライヴでやってきた曲を軸とした作品なのに対して、『DOOM』はこのツアーでライヴ初披露という曲も多かったですよね。

田中ヤコブ(以下、ヤコブ):仰る通り、この『DOOM』のために作った曲が多くて始まる前は「どうやるんだろう?」という怖さはありましたね。なので練習する中でライヴで出来そうな曲から手をつけていきました。

――ツアーに向けて、どのように『DOOM』の曲をライヴでできるように再構築していったのでしょうか?

ヤコブ:私としては録音物と同じものを求めても仕方ないと割り切って練習していました。アルバムを再現できるようにアレンジし直すというよりも、練習で合わせながら、ライヴをしていく中で、新たに自然とできあがっていく感じ。

田中悠平(以下、悠平):仰る通りです。

ヤコブ:そもそも家主は3人でやっていて、2019年に谷江さんも入ってライヴをするようになってからすごく自由に演奏できるようになりまして。やっぱりギターが2人いるのはすごくいいんです。だからライヴはずっとボーナスタイム。

――『DOOM』の曲をライヴでやることの難しさよりも、そもそも4人でライヴができることの自由さ、楽しさが続いているような感じですかね?

ヤコブ:そうですね。マリオカートでいうスターを取った状態。だから作り込んでいく音源作品と、4人で自由に演奏するライヴはざっくり分かれている感覚です。

――確かに家主は、音源では曲の良さが立っていますが、ライヴではヤコブさんも弾きまくるし熱量の高い演奏が際立っていてアルバムとは印象が異なります。今回「近づく」が特にそれを象徴していると思っていて。アルバムでは最初の曲ですが、ツアーではほぼアンコール以降に披露されていて、アレンジもヘヴィになっています。

ヤコブ:最後のほうに演奏していたその心は、半音下げチューニングなので途中に入れてしまうと変に間が空いてしまうという事務的な理由なんですけど(笑)。でも確かにパワーを使う曲なので、先にやると体力的にもツライです。

岡本成央(以下、岡本):「近づく」の後にまだ曲があるなんて考えたくない。ヘトヘトです。

ヤコブ:仰っていただいたアルバムとライヴでの印象の違いは、演奏する側としてはあんまり意識していないですね。録音物と同じようにしなくていいと思っているけど、変えようともしていない。自然で地続きな感じです。

谷江俊岳(以下、谷江):ライヴでは最後の曲だし、特に音はデカいですけどね。

ヤコブ:『DOOM』のレコーディングも手掛けてもらった飯塚晃弘さんが全公演PAをしていただいたので、そっちの工夫によることも大きいかもしれません。確かに「近づく」をやる時はPA卓でかなり操作されていました。

全国16ヵ所を回ったバンド史上最大のツアーを振り返って

――このリリースツアーは家主にとって最大規模の全国ツアーで、2022年2月から7月にかけて全国16カ所を回られました。たくさんライヴをされた中で印象に残っている公演はありますか?

ヤコブ:やはり初日の大阪、2日目の静岡でのライヴが思い出深いですね。こんなに全国を回るのが初めての経験だったので、ツアー日程を眺めながら私たちにこんなたくさんできるのか、お客さんがちゃんと来るのか不安でした。でも大阪のワンマンがソールドして。またライヴ中に谷江さんがギターの弦を切って、私がステージ上で張り直したり、ハプニングもあったんですけど、意外と些末なことだなと思えたんです。これで厄が落とせたしよかったよかったと。

そして次の日の静岡がherpianoとの対バン。前作『生活の礎』(2019年)の発売記念ライヴでも共演したので、再会を楽しみにしていました。コロナ禍になって以降、他の方のライヴを観ることがすっかり減ってしまって、本当に久しぶりだったのですが、herpianoを観て改めてライヴって尊いなぁと思えました。この最初の2日間がすごく楽しめたことに救われましたね。このツアーなんかいけそうな気がするぞって。

悠平:私はやっぱり札幌と京都でやった台風クラブとの対バンですね。単純にずっとファンでしたし、今では同じNEWFOLKファミリーに入れていただいて。しかも仲良くしていただいて光栄です。台風クラブが対バンだと自分たちのライヴでも全然緊張しなくて、すごくうまくいった印象があります。

ヤコブ:『INTO THE DOOM』の音源も半分くらいがこの札幌のライヴから採用されました。ツアー中盤で慣れてきたし、台風クラブは最高だし、我々も調子が良かったのでしょう。

谷江:私が記憶に残っているのは岡山です。会場の岡山ペパーランドが、共演のマドベさんのホームという感じでいいんですよ。ライヴはとにかくパッションがあるし、気持ちを鳴らしている感じがグッと来ました。打ち上げも大衆洋食屋さんでやったんですが、ペパーランド終わりの定番になっている場所だそうで、マドベさんのルーティーンに誘ってもらったのも嬉しかったです。

ヤコブ:今回ワンマンと対バンどちらもありましたが、共演の方はどの組も素晴らしかった。自分たちの企画じゃなければ、先の出番にしてもらってゆっくり観ていたかったですね(笑)

岡本:自分は青森。車で向かう途中に雪で通行止めにあって、ちゃんと着くか不安でした。

ヤコブ:最悪ダメそうなら、盛岡で降ろしてもらって新幹線で行くかとかまで考えましたね。その内、通行止めの規制がどんどんなくなって、モーゼみたいに進んでちゃんと会場に着いた。

岡本:あと沖縄とか熊本も含めて、遠方の場所で自分たちがライヴできるなんて信じられなかったです。でもちゃんとお客さんに来ていただいていて、驚きました。

谷江:終わった後に話しかけてくださる方もいらっしゃって、自分たちを知っていただいていることのリアリティを、初めて感じた機会でしたね。

ヤコブ:ちゃんと活動するようになってすぐにコロナ禍に入ったので、確かにそういう反応は初めて感じた。

――家主の音楽の届く範囲は着実に広がっていますが、それを受けて自分たちが何か変わる部分はあると思いますか?

ヤコブ:それは全くないですね。知っていただいたり、ライヴに来てくれるのは嬉しいけど、そのことで何かが変わったり、もっと来てくれるために何をしていくかを考えるのは我々の専門外といいますか……。自然に広がるのはいいですけど、自分たちの手で風呂敷は広げ過ぎない程度がいい。なるべくハードルは下げてやっておりますので、あまり大きな変化には期待しないでいただければと(笑)

岡本:そんなに器用なバンドじゃないです。

――周りの影響を受けて変化を起こすことはないとして、今回のツアーがもたらしたいい変化はありましたか?

ヤコブ:それはもうライヴの場数を踏めたことで、いい緊張感でやれるようになったのは大きいです。自分が初めてソロアルバム『お湯の中のナイフ』(2018年)を出した時に、家主でライヴをしたんですが、その時は人前に出るのが数年ぶりのことで。前日に金縛りにあったんですよ。それくらいもともとあがり症でずっと緊張はしていたんですが、今回でもうステージに上がったら楽しんだもん勝ちとなれた。

岡本:私はまだ緊張しますが、ライヴ中にどこかで「いったれ!」と緊張がどうでもよくなるタイミングは確かに早くなってきた。

悠平:単純に演奏も上手くなった気がします。ツアーに向けた練習とこれだけの数のライヴをして、自分の弾き方が変わった曲もある。

ヤコブ:「家主のテーマ」とか「お湯の中のナイフ」はこのツアーで結構変わりましたよね。

岡本:2~3年くらいやり続けてようやくその曲がわかってくるんですよ(笑)。

ライヴバンドとしての魅力・実力を示した『IN TO THE DOOM』

――そんな皆さんにとっても大きな経験となった、今回のライヴツアーを『INTO THE DOOM』として出すことになったのはどんな経緯ですか?

ヤコブ:須藤さんから提案いただいたんですけど、ツアーが始まる時点ではまだその話は無かった記憶があります。

須藤朋寿(NEWFOLK主宰):ライヴ盤は自分のアイデアとして前からあって、今回のツアーにエンジニアの飯塚さんがPAとして帯同してくれることが決まったので、こっそり全公演録っておいてもらったんです。それを最初からみんなに言うと気負うと思ったので(笑)。渋谷WWWでのワンマン公演が終わったタイミングでこれは作れそうだと思って伝えました。

ヤコブ:収録されているのはそのWWWと札幌SPiCEの音源がほぼ半分ずつ、3曲だけそれ以外の公演から選んでいます。WWWがいいライヴで取れ高がありそうだったので、それ以降で録音されているのはそんなに気負いもなかったです。すでに併願の高校が受かっている状態だった。

――ご自身でライヴを聴き返した時の印象はいかがでしたか?

ヤコブ:ライヴはその場限りであることの良さもあるので、こうやって客観的に自分の演奏を聴き返すのは怖いですね。実際よかったけど、愛憎も少しあるというか……ライヴの恥はかき捨てのはずが、残ってしまう。

谷江:演奏中はちゃんと聴こえていない箇所もあるので、音源化されてそれぞれがどう演奏しているのか、初めて知ることができる部分もあって楽しかったですよ。

岡本:アルバムと全然違いますよね。頼んだものが出てこない!って思われそう。

――そんなネガティブな印象はないです!(笑)アルバムで聴くのとはまた違う、家主のライヴバンドとしての側面が音源化されるという点で重要な作品ですよ。

ヤコブ:帰納法とでも言いますか、結果的に『DOOM』の方もピントが定まって聴こえるようになった感じはしますね。やっぱりあの形で完成させて正解だったと実感できるツアーであり、ライヴ盤になったと思います。

谷江:これまでのEPや『生活の礎』の曲とも仲良く混じっているのがいいですよね。

悠平:どの音源を収録するか選んでいる時から、どの公演もいいライヴしているなと思えました。どこから選んでも問題なし。特に私はヤコブみたいに本番でアドリブを入れられる技量もないので、自分のベースについては良くも悪くもブレがあまり無かったです。

ヤコブ:田中さんはライヴの演奏が安定しているんですよ。私や岡本さんは終わってぐったりしているし、汗の量もすごいんですけど。田中さんは毎回スンとしているし。

岡本:ライヴ前と後が同じ状態。

ヤコブ:この『INTO THE DOOM』のジャケットは渋谷WWWでのライヴ写真なんですけど、もう4月なのに田中さんだけ長袖のトレーナーなんですよ。どう考えても暑いだろって。

悠平:私はみんな寒くないのかなと思っています(笑)ずっと演奏に必死なので、他の3人ほど大きく動いてないからかも。

――最後に、今後の家主はどんな動きを想定されていますか?

ヤコブ:このツアーの後は私のソロアルバム『IN NEUTRAL』もありましたので、しばらく動いてなかったのですが、ようやくまた曲を作ってLINEグループにデモを上げていく作業をそれぞれで開始している段階です。だからどんな感じの作品にしていくかもここからですね。

――DOOM』はヘヴィなサウンドの作品でしたが、今皆さんはどんなモードですか?

ヤコブ:今はBadfingerとかPilotのような自分にとっての古典である70年代のパワー・ポップをよく聴いています。あとはMY LITTLE LOVERとかTHE BLUE HEARTS。忘れかけては、また強烈に聴きたくなる自分のルーツに回帰しているフェーズです。

悠平:私はNUMBER GIRL熱が再燃しています。この前の解散ライヴは映画館のライヴビューイングで観てきたんですが、改めてギターの良さを感じてしまって。また曲作りに入りますし、最近はギターを弾いていることが多くなっていますね。

家主『INTO THE DOOM』
■家主『INTO THE DOOM』
1.Cheater(Live)
2.茗荷谷(Live)
3.たんぽぽ(Live)
4.家主のテーマ(Live)
5.生活の礎(Live)
6.夏の道路端(Live)
7.路地(Live)
8.それだけ(Live)
9.マイグラント(Live)
10.カッタリー(Live)
11.夜(Live)
12.陽気者(Live)
13.カメラ(Live)
14.-MC-
15.NFP(Live)
16.p.u.n.k(Live)
17.お湯の中にナイフ(Live)
18.にちおわ(Live)
19.オープンカー(Live)
20.DOOM(Live)
21.ひとりとひとり(Live)
22.近づく(Live)

Photography Kentaro Oshio

author:

峯大貴

1991年生まれ、大阪府出身東京在住。カルチャーを切り口に世界のインディペンデントな「人・もの・こと」を紐解くWebマガジン「ANTENNA」副編集長。フリーライターとしてCDジャーナル、ミュージック・マガジン、Mikikiなどにも寄稿。 「ANTENNA」: https://antenna-mag.com  Twitter: @mine_cism

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