「リュウノスケオカザキ」岡﨑龍之祐インタビュー 左右対称のフォルムに込めた生命の本能。祈りに共鳴する彫刻の個展「002」

岡﨑龍之祐
「リュウノスケオカザキ」デザイナー。1995年広島県生まれ。2021年東京藝術大学大学院美術研究科デザイン専攻を修了。2021年9月に1度目のランウェイショー「000」を開催。2022年3月に2度目のランウェイショー「001」を発表。2022年「LVMHプライズ 2022」ファイナリストに選出。東京を拠点に活動中。
https://ryunosukeokazaki.com
Instagram:@ryunosuke.okazaki

身近な素材からダイナミックな造形美を有機的に描き出し、特大のインパクトを放ったデビューショー「000」(2021年)、同じくランウェイショーの発表で独自のドレススタイルを知らしめた2シーズン目「001」(2022年)。その直後、「LVMH プライズ 2022」のファイナリスト入りが決定し、デビューから1年足らずにしてパリで発表の場を得るという快挙を果たした「リュウノスケオカザキ(RYUNOSUKEOKAZAKI)」のデザイナー岡﨑龍之祐。およそ1年ぶりとなる今回の「002」は、ショーではなく個展の形式。現在、代官山のクリエイティブスペース「THE FACE DAIKANYAMA」で一般公開中(5月4日まで)。壁一面に木材彫刻が並ぶアートギャラリーのような空間で、新作に込めた想いを聞いた。

——ファッションの展示会とはだいぶ様子が異なって、アートギャラリーのようなムードです。作品を壁に展示するのは初めてですか?

岡﨑龍之祐(以下、岡﨑):はい。これまではモデルに着てもらう立体の発表だったので、このように静的な展示は初めてです。天井から吊っている赤い布を使った作品も、壁掛けができるようになっています。「リュウノスケオカザキ」を見てくださっている人に、また新たな一面を感じてもらえたら嬉しいです。今回、初めて木材を使いました。

——壁掛け作品でも、岡﨑さんが作ると立体的になるんだなと思いました。

岡﨑:立体と平面、どっちかといわれれば、僕の場合はやはりこうなるんですよね。いろんな角度から重ねたり、横につけたりの手作業です。左右対称性を決めながら作っています。

——左右対称であることをどのように考えて表現していますか?

岡﨑:左右対称性の原風景にあるのは、神社の鳥居です。僕が生まれ育ったのは広島の宮島口で、厳島神社がすぐ近くにありました。小学生の頃は毎日のように釣りをして遊んでいて、すぐ対岸にはいつも鳥居が見えていました。幼稚園時代にダンボールを積み上げて真っ赤な鳥居を作ったことも、原体験になっていると思います。すごくかっこいいと思ったし、幼少期から漠然とですが特別なものを感じていました。

——建築の世界では左右非対称であることが人間的だと捉える歴史もありますよね。

岡﨑:確かに日本も西洋も、建築様式を見ていくと左右非対称が多いですよね。その一方で、シンメトリックなものには秩序や意志が通っていて、僕はそこに生命を感じます。それは本能的なものだと思います。人間も虫もあらゆる生き物は厳密にいえば非対称ですが、フォルムで見ると基本的に左右対称ですから。

木材を使った作品への挑戦

——木材を使った新作のシリーズ名は“PIMT”。どんな意味ですか? 

岡﨑:知覚(Perception)、意思(Intention)、素材(Material)、時間(Time)の英語の頭文字をつなげた造語です。素材を“知覚”して、フォルムの“意志”を感じながら、“素材”とともに作りあげていく“時間”が、僕の中で大切にしている“祈り”の行為と結びつきました。「ピムト」と呼んでいるのですが、その響きも気に入っています。

——“JOMONJOMON(ジョモンジョモン)”(縄文土器に着想を得たドレスのシリーズ)も、そういえば響きがいいですね。

岡﨑:ありがとうございます。そうなんです、音を大事にしています。作品は愛でるものだから。

——素材が布から木に変わっても、ひと目で「リュウノスケオカザキ」であることが伝わってくるのがおもしろいです。作る過程も一緒ですか?

岡﨑:全く一緒です。いろんな素材と向き合いながら、そこに生命が宿るようなイメージを僕は作品に込めています。1つひとつに個性があり、生きているような感覚です。

——デッサンは描かないと聞きました。

岡﨑:手を動かすことで偶発的にフォルムを生み出していきます。たぶん絵を描いている時と同じ感覚なんです。絵って完成がないじゃないですか。僕のドレスも完成がない。それは経験とともに変わっていきます。自分の手に経験が入って、そうすると手の動きも変わっていく。それが作品にあらわれる。そして人が着ることで完成されるというところにおもしろさを感じます。

——今回、新たに木材と向き合うことになったきっかけはありますか?

岡﨑:きっかけは、昨年4月に旅行で訪れた日光東照宮です。そこで見た木組みの建造物がすごく印象に残っていて。木組みというのは、宮大工さんが神社仏閣を作る時に用いていた日本の伝統的な工法です。僕の場合、本来の木組みのようなやり方はしていないのですが、木を組んでいく工程だったり、組んだ時のたたずまいだったりにインスパイアされました。そしてすごくカラフルなところも。

——確かにカラフルな作品が多いですね。目にした瞬間ガンダムっぽいと思いました。

岡﨑:よくいわれます。実際のところ、僕はガンダムのアニメを観たことがないんですが、つながりはあると思います。日本はキャラクターデザインなどにおいて空想の生き物を創るのがうまいと思うんですけど、それは日本人が昔から自然の中に神の存在を見いだしてきたという歴史が背景にあるからではないでしょうか。ロボットアニメも、日本の祈りの文化につながっていると僕は感じるので、ガンダムっぽく見えるのは必然かもしれません。

——そしてたくさん作りましたね。

岡﨑:実はこの会場の裏にも、展示していない作品がたくさん控えています。昨年参加した 「LVMH プライズ」の展示が終わってから、ずっと作り続けていました。

——ということは、1年近く木材と向き合っていたのですか?

岡﨑:木の作品と同時並行でドレスも作っていました。布に向き合う時間、木に向き合う時間がうまく調合されて、ドレスがより彫刻的で繊細になったと感じています。今回はモデルがいないので、ちょっと見上げるような高さの作品を、より自由に作ることができました。作品と対峙するような空間作りは、僕の中で大切な表現方法です。

——アトリエで作業しているのですか?

岡﨑:はい。大きい作品が多いのでスペースが大変です。今回こうして自分の作品と対峙することができて、僕自身が一番喜んでいるかもしれません。多くの人に見てもらいたいです。

ファッションとアートの区別なくやっていく

——作品はすべてユニークピースですよね。これまでも、これからも?

岡﨑:はい。そうあり続けると思います。作品とコミュニケーションを取りたいし、見てくれる人ともコミュニケーションを取りたいから。その時々に感じているものを生み出していくことを大切に、作り続けています。

——中学の頃からファッションの世界に憧れていたとのことですが、1995年生まれの岡﨑さんが見ていたのは具体的にどんなファッションですか?

岡﨑:特定のブランドを覚えていないのですが、コレクション映像もファッション雑誌もいろいろ見ていましたし、自分が着るのも好きでした。モードの文脈というより、ファッションのたたずまいに惹かれていたのだと思います。コレクション映像を観た時の、人が人じゃなかったりするような、人が解放されて自然に還ったり、造形の中に人がいたりするような。

——装うという行為そのものに興味があった?

岡﨑:そうですね。ショーで見るアートピースのようなファッションは特に、着ることの本質的な部分を表現しているように見えていた気がします。地球に生きている人間が、どういうものを着るのか。人も自然の一部だし、特に日本人はそこを意識してきた生き物です。学生時代にファッションをおもしろいと思ったのは、自然の中で虫を採って、魚を釣って、絵を描いてという幼少期の原体験があった上での興味だと思います。広島に生まれて「祈り」をテーマにしていることも、すべてがつながっています。

——「000」のデビューから一躍世界に知られる存在になりました。どんなところから声がかかっていますか? 

岡﨑:ファッション業界です。ファッションの人が興味を持ってくれて、そこから一気に広がりました。「LVMH プライズ」でファイナリストに選ばれて、パリで発表できたのはとても良い経験になっています。またパリで発表したいし、ニューヨークではアートの発表もしてみたい。ファッションとアートはマーケットが違うので一線が引かれていますが、僕としては区別せずにやっています。表現者はもっと自由でいいし、自分の好きなものを突き詰めるべきです。いろんな目標があるので、そのために今はとにかく作って、いろんなところで発信しながら、自分の作品を強めていきたいです。

——今年のご予定はありますか?

岡﨑:変わらず作り続けていきます。その中で発表する作品が、世界とコミュニケーションを取ってくれると思います。

——「003」「004」……と連番で続いていくのですね。

岡﨑:はい。人生をかけて100回はやりたいです。ターニングポイントになった「000」から、3桁までやるぞという意気込みです。シンプルな連番にすることで、人生と制作を積み重ねて歴史を作っていくことを表現しています。

Photography Tameki Oshiro

■RYUNOSUKEOKAZAKI Solo Exhibition「002」
会期:2023年4月15日〜5月4日
会場:THE FACE DAIKANYAMA
住所:東京都渋谷区猿楽町28-13 ROOB-1 B2F
時間:11:00〜19:00 
料金:無料

author:

合六美和

フリーランスエディター/ライター/ディレクター。2003年よりコレクション取材記者としてキャリアをスタートし、ファッション、ビューティ、カルチャー分野で活動。2019-21年ウェブメディア「The Fashion Post」編集長を経て、2022年独立。編集・執筆・制作・校正を行うエイリ代表。 Instagram:@miwago6

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