デザイナー八木華が語る、「ファッションの可能性」と「葛藤を原動力とした次なる挑戦」

21歳、ファッションデザイナー・八木華。19歳の時に欧州最大のファッションコンペ「ITS(International Talent Support)」ファッション部門に最年少ファイナリストとして選ばれた。板金職人の父親の存在や幼い頃から伝統的なものづくりと隣り合わせで育ってきた彼女は、あらゆるバックグラウンドをもった古布を新たなかたちで現代に生き返らせる。それはただ単にサステナブルやリメイクといった話に留まることなく、ファッションの可能性をより一層広げたいという彼女の強い意志があらわれているのだ。

ITSに応募する前の高校時代に抱いていた美術とファッションの世界への憧れ、そしていざファッションの世界を選び取り活動する中で感じる葛藤、その葛藤を原動力に描く大きなビジョンまで話を聞いた。

美術からファッションへ

——幼い頃からものをつくることに親しみのある環境で育ったそうですね。そこから美術高校に通い、平面作品を扱うところから、ファッションの世界に興味をもったきっかけはなんだったのでしょうか?

八木華(以下、八木):高校の卒業制作でリサーチを進めていく中で、初めて自分が惹かれるものはファッションなんだって自覚したことですね。それまでは無意識的に自分は美術の世界に進まなきゃって思い込んでいて。デザイン科でグラフィックデザインの勉強をしていたんですが、一方で一般の美術展に行くにつれて、どこか現代美術の世界への憧れを感じていたんです。でも卒業制作の時に、いざリサーチを深めていくと自然とファッションの写真をたくさん集めている自分がいて。

——高校の卒業制作では、実際に服の展示を行ったのでしょうか?

八木:いえ、結局立体作品を発表しました。リサーチする中で、自分の進みたい道を見つけられたけど、ファッションを本当に好きと言えたのは、「ここのがっこう」に入ってからです。それまでは、10代から周りに絵画に向き合う子や絵を描くのが本当に上手な子がいたからこそ、みんなの前でファッションの道に進むって宣言しづらかったですね。美術に向いてなかったからファッションに進んだって思われるんじゃないかと考えてしまっていて。

——それでも学校外の場所として、高校2年生の時に応募した装苑賞ではファイナリストに選ばれて、ショーを発表していましたよね。以前、あるインタビューで美術とファッションの間で揺れ動く当時に制作した作品と今の服の作品をどうつなげられるか考えているとおっしゃっていました。

八木:当時はやっぱり本当にやりたいものって一体なんなのかすぐに答えが出なかったですね。そこからとにかく実行してみようと応募した装苑賞では、一通りファッションショーの現場と達成感を感じることできました。美術とファッションの間で揺れていた時の大きなきっかけになりました。

でも、美術に関してはまだ不完全燃焼な気がして、このまま本気で作らなかったらそれはそれで諦めになっちゃうなと思ってました。そこで高校卒業後、自分として美術の道がしっくりくるかどうか確かめたくて、「1_WALL」に立体作品で応募したんです。結果としては、滋賀県立美術館ディレクターの保坂健二朗さんから賞をいただいて。でも当時の作品で「がんばってね」と言っていただいたのに、結局いま違うものをつくってる自分にも一方で責任も感じています。決してその当時の自分から目を背けるわけではなく、今後当時の作品と今の服の作品を融合したかたちで、保坂さんにもう一度見ていただきたいです。

ルーツを掘り下げることで、
ITSのファイナリストにつながった

——その後、本格的に「ここのがっこう」でファッションの勉強をして、2019年に国際ファッションコンテスト「ITS」で最年少ファイナリストに選ばれましたよね。板金職人の父親の存在や幼い頃から身近にあった伝統的な板金の手法など自身のルーツとして「修復(Repair)」をテーマに掲げ、マテリアルとしても「金継ぎ」「陶器」、そして「ぼろ」を扱っていました。それまでも自身のルーツにつながる作品を発表していましたか?

八木:「ここのがっこう」に入って、初めて自分のルーツを掘り下げるというつくり方を教わりました。だから高校生の時は、ビジュアルとしては自分の好みに合っているけど、実感が伴わない感覚も一方でありましたね。

ITSに向けて、まずは自分のルーツを掘り下げていくところから始めて、そこから素材を探してみて、「漆」「金継ぎ」の要素を見つけていきました。「ぼろ」を扱うようになったのは、実はITSのポートフォリオを作り終えてファイナリストとして通過のお知らせが来てからなんです。それ以前に、「ここのがっこう」のレクチャーコースで「アミューズミュージアム」に行って、「ぼろ」の歴史や実物を目の前に説明を聞く機会があったのですが、実物を見たからこそいかに繊細なもので、実際に現代でかたちにする時にレプリカではなく、どのように新しいものとして発表するか慎重に考える時期があって。でも、ファイナリスト通過のお知らせが来てから、ここは一層悩んで中途半端につくるよりも悔いなく真剣に向き合おうと思って制作しました。

——実際にここ数年で制作や国内外での発表を通して、美術の世界とファッションの世界で感じたことはありますか?

八木:個人的には、美術とファッションを分けて考えるのはあまり好きじゃないのですが、「二次創作」が連鎖するのは、ファッションならではのおもしろさだと思います。もともと漫画における「二次創作」の現象が好きなのですが、ファッションも同じくスタイリストやフォトグラファーの手によって、服という元の素材からさまざまな表情がつくられていきますよね。美術作品だと、インスタレーションやパフォーマンスは別として、完成したら作家以外の手でアレンジすることはできない。でもファッションは、完成後に自分の手から離れて服が何度も更新されていく。いろんな人の手によって変化していく、その一連の現象に楽しさを感じてます。

——逆に矛盾や葛藤を覚えることは?

八木:つくり手側として、ファッションを肌感覚では好きでありつつも、一方で制作する中で伝えられるメッセージの限界も感じています。でも、それは決してネガティブなことではなくて、限界を感じる葛藤があるからこそ、客観的な目線でものづくりに向き合えているような気がします。ファッションの力に頼りすぎると視野が狭くなってしまうし、むしろファッションって自分の表現したいことに合ってるのかなとずっと葛藤することが原動力になって、自分自身の表現の幅に挑戦できています。

――ITSの後に新たな発表の場となった「KUMA EXHIBITION 2021」で展示した新作のドレスについて教えてください。

八木:今回もITSの時と同じく、さまざまなルーツをもった生地でかたちにしています。今作は処分市に大量にあったウエディングドレスや晴れ着の生地を何層にも重ねていて。晴れ着は古着と違って、どんなに繊細な刺繍や模様が描かれていたとしても、ちょっとでも汚れがつくと処分されてしまうんです。処分市に行った時に、役割を終えた晴れ着が幽霊のように見える空間がそこには広がっているように感じて、その印象を服で表現しました。すでに汚れている生地にさらに自分で染料をかけることで、過去の状態に戻すのではなく未来の方に更新するようなイメージを広げていきました。

映像による新たなアプローチ

——次なる発表として、妹さんと一緒にアニメーション映像制作をしていると以前お伺いしましたが、現在どのような制作フェーズに入ってますか?

八木:アニメーションの制作は妹がメインですが、撮影が5月から始まって、そこに向けてコマ撮りで使う人形とミニチュアの服が完成したところです。あとはミニチュアのデザインを等身大サイズで立体に起こしていく作業を1年かけてやっていきます。すべて完成したら、映像祭に出展する予定です。

——パンデミック以降、物理的な理由でショーを中止する代わりに映像制作に取り組むブランドも多いですが、八木さんの映像制作はまたそれとは違ったアプローチですよね。

八木:さっきのファッションに感じる矛盾にもつながるんですが、妹と一緒に映像の制作をしていると、ファッションより映像表現のほうが自由度が高いように感じるんです。服よりもダイレクトにメッセージを伝えられたり、世界観を一からつくれたり、映像に登場する服以外にも人間の身体からデザインできたり。かといって、映像だけに頼ってしまうとそれもそれで狭くなってしまうので、今後もファッションと何かを掛け合わせることで表現の幅をどんどん広げていきたいと思ってます。

——制作中にさまざまな葛藤や喜びを感じる中で、これから拡張していきたいこととは?

八木:今後もさまざまなルーツを持った素材を使って、服の上でコラージュしていくつくり方を続けていきます。もちろんそれはある種サステナブルとも捉えられたり、古着のリメイクにも捉えられると思うんですけど、わたし個人としてはその古着が持つルーツやパワーをより更新するかたちで大きな世界観を発表していきたいです。

現実的にどんどん資源や経済が乏しくなってきていることに比例して、同世代の表現者の幅も限定的になってしまうのは違うと思っていて。いままで繊細なトピックを扱う時に、その当事者ではない自分が服で表現することに戸惑うこともありました。でも何度かそういうことに向き合う中で、いまは時間がかかっても失敗してもいいから、ちゃんと過去にも未来にも刺激を与える良い循環の一端を担いたいなと思います。限定的な視点で素材を扱うのではなく、困難な時代だからこそイメージは一層のこと大きく、そして人の心に残るようなものをつくり続けていきたいです。

八木華(やぎ・はな)
1999年東京都生まれ。都立総合芸術高校卒業後、「ここのがっこう」で学ぶ。2019年に欧州最大のファッションコンペ「International Talent Support」ファッション部門に最年少の19歳でノミネート。現在は、妹と組んで映像制作にも取り組んでいる。
Instagram:@hannah.yagi

■オンライン展示「KUMA EXHIBITION 2021」
会期:2021年4月27日〜5月31日
https://kuma-foundation.org/exhibition2021/

■個展「fragments」
会期:2021年4月22日~6月14日
会場:traffic 
住所:東京都目黒区自由が丘1-25-21 
時間:11:00~19:00 
休日:水曜、第1・第3火曜日

Photography Yoko Kusano

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author:

倉田佳子

1991年生まれ。国内外のファッションデザイナー、フォトグラファー、アーティストなどを幅広い分野で特集・取材。これまでの寄稿媒体に、「Fashionsnap.com」「HOMME girls」「i-D JAPAN」「Quotation」「STUDIO VOICE」「SSENSE」「VOGUE JAPAN」などがある。2019年3月にはアダチプレス出版による書籍『“複雑なタイトルをここに” 』の共同翻訳・編集を行う。CALM&PUNK GALLERYのキュレーションにも関わっている。 Twitter:@_yoshiko36 Instagram:@yoshiko_kurata https://yoshiko03.tumblr.com

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