
きみはこんなユメを見た。
きみは砂漠にいる。四足歩行の動物にまたがって移動している。その動物は毛むくじゃらで、おおきな犬のようにも見える。
動物が歩くたびに足もとの砂が舞い上がるが、粒が小さいので視界が悪くなることはない。砂はからだにまとわりつくと、肌をなでるようにして舞っていく。まるでだれかにさわられているかのようで、くすぐったいが、不快ではない。
動物はゆっくりと進みつづけるが、きみは目的地を知らない。
周囲を見渡すと、同じ方向に進んでいく動物が点在している。またがっている人間の顔は見えないが、その存在をたしかに感じ、きみは安心する。
砂漠のあちこちには、点々と植物が自生している。砂から茎を伸ばしていて、そのさきには白くてふわふわとした実が頭を垂れている。実はゆらゆらと風に揺れている。植物のそばでは動物が休憩している。その動物が、たまに白い実を口にする。おいしそうに噛んでから、陶酔した表情で飲みこんでいる。
きみがまたがっている動物も、植物に近づいて足を止める。食事の時間だ。ほかの動物といっしょに、実を食べだす。きみが視線を動かすと、さきに休憩していた動物の横で、男がなにやら本を読んでいる。きみは肩越しにその内容をのぞく。そこには地図が書かれている。しかし、ページには「Desert」とだけ書かれていて、ほかにはなにも書かれていない。男は白紙を熱心に見つめている。
きみは何日もその砂漠を進みつづける。やがてきみはテントがいくつも張られた集落にたどり着く。その中心には氷のかたまりがある。
氷のかたまりが、地面に突き刺さるようにそびえ立っている。その氷のなかには金属の柱が埋まっていて、その表面は鏡のようにまわりの景色を反射させている。そこにはきみの顔も映っている。
見上げると、上のほうは氷が溶けていて、柱がむき出しになっている。氷はすこしずつ溶けている。氷が溶けると、それは液体にならず、香りとなる。溶けるたびに、しみるほど甘い香気が漂ってくる。
きみのそばに、年老いた男が近づいてきて、きみに声をかける。
「何十年も待ったんだ」
「ここのそばで?」
「ああ、暮らしていたんだ」
そのうちきみは香気にやられて、頭がくらくらとしてくる。
「花が咲くぞ!」
だれかが叫んだ。それを合図とするように、動物たちが一斉に咆哮する。氷が一気に溶け、香りが雪崩のように押し寄せてくる。
きみは柱に近づく。手を伸ばし、その表面にふれる。さわった瞬間、きみの身体は弾ける。きみは香りとなって、周囲に溶け込む。それは悪い気分じゃない。
そのとき、きみはユメから目覚める。最高の朝がやってくる。いままでにない最高の朝が。
Illustration Midori Nakajima