連載「ものがたりとものづくり」 vol.8:「ピリングス(pillings)」デザイナー・村上亮太

「ものづくり」の背景には、どのような「ものがたり」があるのだろうか? 本連載では、『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社)、『タイム・スリップ芥川賞』(ダイヤモンド社)の作者である菊池良が、各界のクリエイターをゲストに迎え、そのクリエイションにおける小説やエッセイなど言葉からの影響について、対話から解き明かしていく。第8回のゲストは「ピリングス(pillings)」を手掛けるファッションデザイナーの村上亮太さんです。

村上さんが挙げたのは次の3作品でした。

・松本人志『遺書』(朝日新聞出版)
・太宰治『お伽草子』(新潮社)
・町田康『きれぎれ』(文藝春秋)

さて、この3作品にはどんな”ものづくりとものがたり”があるのでしょうか?

中学生の頃のーパーヒーロー、松本人志によるエッセイ『遺書』

──『遺書』は現在も活動するお笑いコンビ「ダウンタウン」の松本人志によるエッセイ集です。1994年に出版されてベストセラーになりました。

村上亮太(以下、村上):『遺書』は中1ぐらいの時に読んで。もともと関西の出身っていうのもあって、お笑いはすごく好きで。「かっこいい」=「おもしろい」だったんですよね。おもしろい人が一番かっこいいっていうふうに思っていて。その中でダウンタウンってめちゃくちゃ憧れる存在で、松本人志さんは自分の中でスーパーヒーローみたいに思っていましたね。

──年齢的には直撃世代ではないですよね?

村上:世代的にはちょっとズレているんですけど。『ダウンタウンのごっつええ感じ』(※)とかをレンタルビデオで借りて見ていましたね。

その時やっていた「放送室」っていうラジオ番組も聴いていました。当時いろいろダウンタウンのものに触れている中で『遺書』があったって感じですね。

※ダウンタウンのごっつええ感じ……1991年~1997年にフジテレビで放送されていたコント番組。ダウンタウン、今田耕司、東野幸治などが出演していた。

──ダウンタウンが出ているものに、いろいろ触れられていたんですね。

村上:ダウンタウンだけじゃなくてお笑い全体が好きで。深夜ラジオとかもすごく好きだったんですよね。自分ではがきを出したりして、たまに読まれて嬉しかったですね。その時、将来的にはお笑いの仕事がしたかったんですよね。

ネガティブなことを笑いに変えることによって、すごくポジティブなものに変わったりとか、社会の見え方が変わったりすることを感じて、こういう仕事をしたいなって思うようになって。

放送作家になりたかったんですよ。自分は表に出て何か披露するとかはできないなって思っていたんで、裏方でお笑いに携わる仕事がしたいなって。

──しかし、現在はファッションデザイナーです。どこかで変わったんですね。

村上:松本人志さんがラジオか何かで、自分がお笑いをやっているのは100%お笑いが好きだからじゃないって言っていて。お笑い自体に不満があったから、それを仕事にしたみたいなことを言っていたんですよね。

それを聞いた時、自分はお笑いが100%好きなものだったんで、それを仕事にするのは違うのかなって思うようになったんです。

──そこからファッションに行った?

村上:ファッションも好きなものだったんです。

ただ、小学生の時に母親が作った服を着ていて、それを学校でバカにされた経験があったんですね。そこからみんなと同じ服を着たいと思って服を勉強したっていうきっかけがあるんですけど、でも小学生の時に着ていた服はファッションじゃなかったのかなっていう疑問もあって。

さっきの不満の話を聞いて、瞬時にそう思ったわけじゃないですけど、長い年月をかけて、自分がファッション業界に行った理由はそこなのかなって思います。

──ダウンタウンからファッションへ、というのは一見離れているように見えます。

村上:「ごっつええ感じ」のコントに「ゴレンジャイ」(※)ってありますよね。あれでアカレンジャーが5人連続で出てくるとか、あれって今見るとめちゃくちゃファッションを笑いでやっているなって思うんです。

※ゴレンジャイ……「ダウンタウンのごっつええ感じ」内のコントシリーズ。戦隊モノのヒーローに扮した人物が5人登場し、名乗りを上げるが、毎回扮装が違うというもの。

あれってファッションショーのシステムと同じなんです。1ルック目が出てきて、2ルック目に何が出てくるのか、っていう連続で、ファッションショーは心地よさや意外性を作っていくものなんで。

ゴレンジャイってまさにファッションショーそのものっていうか。

ものの見方を変えるおもしろさに気付かせてくれた、太宰治『お伽草子』

──2冊目は太宰治の『お伽草子』。太宰を読んだのはいつ頃ですか。

村上:太宰を読み出したのは、たぶん中学生ぐらいで。でも、僕ってめちゃくちゃ読書が好きで読み出したタイプじゃなくて。

友達がいなかったので、教室でやることがなかったんですよ。それでマンガだとすぐ読み終わっちゃうじゃないですか。だから、時間をつぶすために本を読み出したってところがありますね。あと小説を読んでいたらそれっぽく見えるかなっていう。

──最初は時間つぶしになるから小説を読み始めたと。

村上:それで、読んでいくうちに結構おもしろいなって思ってハマってきたって感じですね。『人間失格』や『斜陽』とか、有名な作品を読んでいたんですけど。ああ、太宰ってこういう感じなのかって思って。

でも、『お伽草子』を読んだ時に、太宰自体の見え方が変わって。めちゃくちゃおもしろい人なんだなって思ったんですよね。ものの見方を変えるとこんなおもしろくなるんだって。あと全部弱者目線だと思うんですよね。弱い人の目線でこの人は物語を書いているんだなって感じて、そこから他の作品の読み方が変わりましたね。

『人間失格』もある意味笑えるというか、笑いの構造みたいなのがあるなって思って。

──太宰の作品の中に笑いがあると。

村上:太宰って、僕は世間で言われているような印象はあまり持っていなくて。どちらかというと、笑えるというか、人のおかしみのあるところを突いてくるなって。そこくるかみたいな。

──有名なシーンですが、主人公がクラスメイトに「ワザ、ワザ」と言われる場面とかはそうですよね。

村上:いいですよね。鉄棒で、尻もちついて。あと僕が好きなのはすし屋のくだりで、本筋と関係なくすし職人の手の動きが気になって見ちゃうとか。あ、なんかこういうことあるよなって。よくこんなところ書けるなって。でも、人って結構そうやって生きているよなって思ったりして。

──『お伽草子』は語り聞かせの作品ですよね。それも語り手が独自の解釈を入れたり、自分の意見を言ったりするという。

村上:ちょうど12月に青森の斜陽館(※)に行ったんです。前から行きたかったんですけど、その時に時間ができて。そこの職員の人が言っていたんですけど、この前太宰の弟子にあたる人が訪ねてきたって。90歳ぐらいのお爺さんで。その人によると、太宰は人を楽しませる天才だったって。めちゃくちゃしゃべる人だったって。

『お伽草子』って落語っぽいなって思うんです。防空壕の中で親が子どもに話を聞かせるっていう始まりですし。

※斜陽館……青森県にある太宰治の生家。「斜陽館」という名前で記念館として公開されている。重要文化財に指定されている。

独自の文体に魅せられ今でも読み返す、町田康『きれぎれ』

──3冊目は町田康の『きれぎれ』ですね。

村上:たぶん雑誌か何かで「現代の太宰治」って言われているのを見たんですよね。それで『くっすん大黒』(文藝春秋)を最初に読んだんです。おもしろかったですね。ほんとに電車で読めないぐらいでした。しかも「何読まされているんだ、これ」って。

一番ぜいたくな時間の無駄って感じがしましたね。読んでも何も得るものはないけど、めちゃくちゃいい時間だったなって。初めての経験でしたね。

──「ぜいたくな時間」、わかります。密度の濃い時間というか。

村上:その次に『きれぎれ』を読んで。めちゃくちゃ衝撃を受けてファンになっちゃいました。

なんて言ったらいいんですかね、脳みそちぎって見せられたみたいな。ストーリーもあってもないような……なくてもいいし、みたいな。夢的な感覚にも近くて。影響を受けたいけど、何を影響受けたらいいかわからないみたいな気持ちにさせられるというか。

──町田さんは文体が特徴的ですよね。独特の語彙と、勢いのある文体です。

村上:書きながら考えているんじゃないかっていうか。どんどん脱線していって「何に付き合わされているんだ」って気持ちになるみたいな。

落語っぽく書いていると思うんですよね。冒頭のデパートの上から飛び降りて……ってところは落語の枕っぽいし、リズムもすごくいいですし。ラップを聴いているような感じもしますし。

未だに読み返しますね。当時買ったものをずっと持っていて、ボロボロすぎて、外で読むのは恥ずかしいんですけど。

──ところどころ近代文学への言及がありますね。『きれぎれ』でも夏目漱石とアルベール・カミュが出てきます。

村上:すごくしょうもないようなことを書いているようでいて、土台はすごくインテリジェンスというか。

ファッションも文脈を踏んで、変なことやっているようで、抑えるところは抑えているっていうのが大事なんです。

たぶんそこがズレてくると、ただ好きなことをやっているだけって感じになると思うんですよね。

僕は文学については詳しくないですけど、町田康さんの小説を読んでいると、ベースのすごさというのを感じますね。

──最近の作品も読みましたか。

村上:最近はそんなに読めてないんですけど、『ギケイキ』(※)は読みましたね。古典の翻案なのに、言葉づかいがおもしろいですよね。「マジで」とか使ったりして。

そういう意味では、『お伽草子』に近いのかなって思いますね。

※『ギケイキ』……2016年に出版された町田康の小説。古典『義経記』の翻案。

──太宰治も町田康も、語りのおもしろさという共通点がありますね。

村上:太宰も、町田康さんも、おもしろいものを書くテクニックっていうのもすごいんですけど、それを超えた本音が漏れた時が一番おもしろいと思うんです。

最後の最後に出てきた一言みたいなものが、すごく力があるし、おもしろいってことなのかなって思うんです。

だから、下手に狙ったことはしちゃダメなんだなって、今自分では思っています。こっちは本気で作っていて、みんなはおもしろいと思っている関係性が一番いいのかなって。

──村上さんの作風の秘密が少しわかった気がします。

Phototgraphy Tasuku Amada

author:

菊池良

1987年生まれ。作家。著書に『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社・神田桂一と共著)、『世界一即戦力な男』(‎フォレスト出版)、『芥川賞ぜんぶ読む』(‎宝島社)など。2022年1月に『タイム・スリップ芥川賞: 「文学って、なんのため?」と思う人のための日本文学入門』を刊行予定。https://kikuchiryo.me/ Twitter:@kossetsu

この記事を共有