対談:山田孝之 × 南沙良 「MIRRORLIAR FILMS」の新作『恋と知った日』と新シーズンで挑戦したいこと

2020年に始動した、短編映画制作プロジェクト「MIRRORLIAR FILMS(ミラーライアーフィルムズ)」。目指すところは、「誰でも映画を撮れる時代」における、自由で新しい映画づくりの実現だ。これまで1シーズンにつき、15分前後の短編を9本制作して劇場で上映。4シーズンを重ね、作品数は全部で36本となった。そして4月22日から5月14日の日程で、初の試みとなる「第1回ミラーライアーフィルムズ・フェスティバル」を開催。映画祭を彩る新作として、ABEMAと初めてタッグを組んだ新作短編映画『恋と知った日』(井樫彩監督)が、現在ABEMAにて無料で独占配信中だ。主人公の渚を演じている南沙良と、「MIRRORLIAR FILMS」の発起人であり、出演者でもある山田孝之に、作品の背景や、プロジェクトの現在地とこれからについて聞いた。

『恋を知った日』の制作背景

——まず、『恋を知った日』を制作することになった流れを教えていただけますか?

山田孝之(以下、山田):「映画祭をやるならオリジナルがあった方がいいよね」という話になり、今まで「MIRRORLIAR FILMS」で制作や募集をした作品が36本あるので、その中の誰かに監督してもらおうという中で、井樫彩さんが「やります」と言ってくださって。そこから「こういう話です」「主役は南さんでいきましょう」と言われ、僕は「おお、いいじゃないですか」というテンションでした。僕がSeason3で南さんにお声掛けした作品(山田孝之監督作『沙良ちゃんの休日』)が、理解が難しいと言われたので、今回はちゃんと理解できるものに出ていただけるかなと。

——南さんは「またMIRRORLIAR FILMSに関われることを嬉しいと思っています」というコメントを出されていますが、南さんにとって「MIRRORLIAR FILMS」は他の現場と違いますか?

南沙良(以下、南):違う感じ……。作品自体がわりと独特な気がします。

——山田監督の『沙良ちゃんの休日』がまさに。

山田:そんなことないですよ。どストレートですよ。

南:(笑)。でも、それ以外はそんなに違わないと思います。

——私の先入観なのですが、「MIRRORLIAR FILMS≒山田孝之」といいますか。山田さんの存在は俳優陣にとって大きいのではないかと。

南:それは心強いです。本当に。

——山田さんは『沙良ちゃんの休日』で南さんを主演に起用しました。山田さんから見た南さんの俳優としての魅力とは?

山田:この雰囲気です。なかなか多くを語らない方なので、どんなことを考えているのかが気になる。それってものすごい魅力じゃないですか?

——わかります。裏でもあまり多くを語らないんですか?

山田:めちゃくちゃしゃべるわけではない……というか、現場だとどんどん撮影していかなきゃいけないので。僕が監督だった時も、「こういう時にこういうことをちょっと考えてみてください」みたいなやりとりをするぐらいでした。セリフもあまりなかったですし。「いただきます」「ごちそうさま」「え?」ぐらいで。

——南さんにとって山田さんはどんな存在ですか?

山田:(南さんに向かって)俺、ここにいていいですか?

南:はい(笑)。以前取材で、山田さんが私のことを「何を考えているかあまりわからない」「ミステリアス」と言っていたんですけど、私も同じことを山田さんに思っていて。

山田:こんなにしゃべるわりにはなかなかつかめない?

南:つかめないですね。

山田:このままですよ、僕。

南:本当ですか?

山田:はい。基本的にはほぼ嘘もつかないですし、騙すことはしないですし。

南:私は、(山田さんを)つかみたいなーって思っています。

同世代の女の子達が共感する作品

——『恋と知った日』は、南さんが演じる大学2年生の渚がマッチングアプリで手当り次第に相手を探し、諦めかけた時に出会った啓太郎(板垣瑞生)との恋が描かれます。山田さんはマッチングアプリで出会う男性の1人を演じていますが、出演の経緯は?

山田:「ちょっとでいいから出てください」と言われたんです。マッチングアプリでいろいろな人に会った後に恋愛する話なので、絶対恋愛にならない人がいてもいいなと思って、キャラクターを作っていきました。

多分ああいう感じで、しょっちゅういろんな女性と会ってる人なんですよ。こなれている感じと、なんかちょっと嫌だなと思われるところを出せたらなと。ずっと携帯を触っていて、注文をする時に「1つは氷なしで、1つは氷何個で」ってややこしいことを言ったりすることで、「あ、ちょっとだるいなこの人」「そういうところがあるからあなた1人なんじゃないの?」と思われるキャラにしたいなと思いました。

——携帯を小さな三脚の上に置いていましたがあれは……?

山田:あれは、Zoomの時に僕がリアルに使っていたんです。今は壊れちゃって使ってないんですけど。あのガチ感に「何それ……」みたいな反応をされることが多かったので、今回の役に使ってみました。劇用の携帯を1つ用意してくれたので、僕の私物も使いましょうと。あの人物は携帯を2個持ちしているところが嫌じゃないですか。

南:携帯2台持ちというのはびっくりしますよね。

山田:(渚の)目も全然見ないですしね、口数は多いんですけど、絶対に本心を語らなさそうな人物にしたかった。台詞は一応書いてあったんですけど、自由にやれる現場でした。

南:確かににそうでした。山田さんとの撮影は本当に一瞬だったので、次はもう少ししっかりとお芝居をさせていただけたらいいですね。

——渚がものすごく可愛く映っていましたし、南さんは黙ってスクリーンの中に立っているだけで画(え)が持つなと、改めて感動しました。Season3の『可愛かった犬、あんこ』でも思いましたが、井樫監督は女性を撮るのが上手です。南さんは、撮られている時に安心感や信頼感のようなものはありましたか?

南:監督から、初日にお手紙をいただいたんです。「私は南さんを可愛く撮りたいと思ってます」と書いてくださっていて、「ああ、嬉しいな」って思いました。

——『恋と知った日』はとても見やすいラブストーリーでありつつ、監督の力量がしっかりと伝わるものになりましたね。

山田:これまでの36作品は個性が爆発しまくっていたので、こういった、いわゆる同世代の女の子達が共感できる作品が、「MIRRORLIAR FILMS」にラインアップされたことはすごくいいですよね。あと、出演者としてはそれなりにちゃんとした仕事ができたかな、と思っています。

——作品のターゲット世代である南さんは、この作品をどうご覧になりますか?

南:私は井樫さんの作品をいくつか拝見しているんですけど、自然を使う演出が多いなと感じていて。今回も水や火の使い方が素敵だなと思いました。マッチングアプリという出会い方もですが、私達の世代が共感できる作品になっているんじゃないかなと思います。

——渚に共感できる部分はありましたか?

南:多いわけではないですが、何かが始まった時に既に終わりを考えてしまうという部分は、私も感じます。

——恋愛以外でも?

南:そうですね。桜が咲き始めると嬉しいですけど、悲しくなります。撮影に入る時も、どこかにはあるかもしれないですね。終わるんだなって。

「巨大化したい」(南)

——「MIRRORLIAR FILMS」は誰が映画を撮ってもいいというスタンスのプロジェクトです。南さんは監督業に興味はありますか?

南:挑戦してみたいなという気持ちは、すごくあります。

——撮りたいもののイメージは?

南:……巨大になりたいです。

——ご自分が?

南:はい。巨大になって、何かしたいなって。

山田:多分「監督したい」というより、「巨大化したい」んでしょうね。

南:そうです。

——なぜ巨大化したいのでしょう?

南:昔から大きいものが好きだったので。自分が大きくならなくても、大きくて巨大な生物をたくさん作りたいなっていう願望があります。自分じゃなくても、人のことを大きくできればいいかなとも思います。

——ストーリーは?

山田:大きくなっちゃえばストーリーは勝手に進みますよ。大きい状態でいられる期限が決まってる方が面白いんじゃないですか? 何日間限定とか。そうするとおのずとやりたいことの優先順位が出てくる。

——確かに。

山田:(南さんに)巨大化したら、まず何に手をかけますか? いろいろあるじゃないですか。東京タワーやスカイツリーをブン回したいとか、土地を真っ二つに割ってみたいとか、フジテレビの球体を転がしたいとか。

南:(考えて)やっぱり凶暴なので……。

山田:あ、凶暴なんだ。

南:はい。絶対に凶暴がいいです。

山田:暴れるんだ。

——「進撃の巨人」みたいなイメージですか?

南:あ! そうですね。

山田:じゃあ俺が倒しに行こうかな。

南:倒される……。

——(笑)。企画というのはこんな風に動き出すんですね。

「MIRRORLIAR FILMS」の新シーズンについて

——2020年に始まった「MIRRORLIAR FILMS」のプロジェクトについてお聞きします。立ち上げた時に目指した場所に、近づいている手応えはありますか?

山田:めちゃくちゃありますね。非劇場上映という形で、カラオケのJOYSOUNDさんの「みるハコ」(※カラオケルームで音楽、スポーツのライブ・ビューイングや、選りすぐりの映画・アニメなどを視聴できるサービス。およそ1800店舗が対象)でSeason1〜4の36本を見てもらえるようになったことがすごく大きいです。劇場がない地域もあったり、劇場があってもMIRRORLIAR FILMSを上映していないところもある中で、今回の映画祭から全国に1800館になりました。1人でも多くの人に届けるという意味で、いいところに着地できたなという感じですね。

——今回の映画祭は、上映方法をいろいろ工夫しているそうですね。

山田:公園でも上映しました。渋谷区立北谷公園が改装されて、すごく素敵だからそこでイベント上映をやるのはどうですか、と提案されて視察に行ったんです。オープンな空間なので、そこにゲストを呼ぶとなった時に人の流れをどうするかを話したり。見やすくしたいので、ガッツリした上映はオープニングとクロージングでやって、公園では15分で1本見て、その後15分でトークやって、30分で終わるイベントを何本か作りましょうよ、みたいなことも言いました。

あとはここからどうやって広げていくか。日本でもっと隅々まで行くのももちろんですが、アジアにも広げて行きたいところもあります。短編映画はWOWOWさんも作っていますし、韓国でも俳優達が集まって作っています。お互いに連絡を取って「何かできたらいいよね」というところではありますが、やはり国を越えると権利の問題が出てきてしまう。同じ短編映画を作る仲間として、それぞれの映画祭でお互いの作品を上映し合うことができたらいいよね、と話してはいたんですけどね。今後、何かしら動きが出てくるんじゃないかなと思います。

——よりフットワーク軽く、誰でも撮ろうという目標もあります。

山田:はい。(機材に)こだわり出したらきりがないですけど、スマホでも撮れちゃいますから。GoProでもいいですし。とにかくやってみようよっていうことが一番重要ですよね。いいか悪いかじゃなくて、やることに意味があるので。

——「MIRRORLIAR FILMS」の今後の展望についてお聞かせください。

山田:Season5から8に向けて、大きいところでいうと年間最優秀賞の賞金が1000万円になるので、夢が倍になったかなと。次の作品が作りやすくなると思います。

※新シーズン『Season5~8』は2024年春から2025年にかけて、公募3作品+著名監督2作品の計5作品を、シーズンごとに公開予定。公募から選出された12作品には賞金30万円、年間で最優秀に選ばれた作品には、賞金1000万円が付与される。2023年9月30日まで作品を募集中。

Season1〜4で36作品を上映してみて、ちょっとスパルタしすぎたな、ということに気がつきました。15分の短編9本を、2時間以上ぶっ続けで見るのはきついと。だから次は本数を減らして、1シーズンにつき5本にしました。劇場での上映はマックス75分と、見やすくなります。

でも、ちょっとスパルタしたかったんですよね。起承転結があって勧善懲悪でみたいな映画も好きですけど、そうじゃないものもあった方がいいよね、いろんな種類があったほうがいいよねって。僕が映画を作る上でずっと根幹の部分にあるのが、ただ見て終わらないようにするために、答えをすべて出さないこと。そうすることで自分で考えますし、例えば同じ作品を見た人、一緒に見に行った人と、「あれってどう思った?」っていう会話が生まれる。僕が映画に携わるときは、そういうツールの側面を大事だと思って作っています。だから「もっとみんな考えるべきだー! わー!」みたいなスパルタでやっていたんですけど、前回はあまりにもちょっと刺激が強すぎたということで。これからはもうちょっと優しくします。

——「MIRRORLIAR FILMS」を通して、新たなクリエイターが出てくると思います。南さんはどういう監督と仕事をしたいですか?

南:やっぱりこう、情熱がある方と。井樫さんもそうですけど、作品やお芝居に対して情熱がある方って、姿勢や話し方でわかるじゃないですか。そういう方がすごい好きなので。はい。

——南さんは俳優をする上で、目指す人物像みたいなものはあったりしますか?

南:特にないですけど……(少し考えて)やっぱり特になかったです(笑)。

山田:「大きくなりたい」人ですからね。

南:そうですね。大きくなりたいです。

Photography Takahiro Otsuji

■「ABEMA×MIRRORLIAR FILMS」オリジナル短編映画『恋と知った日』
出演:南沙良、板垣瑞生、山田孝之、毎熊克哉
原案・監督:井樫彩
脚本:牧五百音
音楽:鷹尾まさき
プロデューサー:中村好佑、下京慶子
プロデュース:佐藤慎太朗 
https://abema.tv/video/episode/635-1_s1_p1
https://films.mirrorliar.com

author:

須永貴子

ライター。映画、ドラマ、お笑いなどエンタメジャンルをメインに、インタビューや作品レビューを執筆。『キネマ旬報』の星取表レビューで修行中。仕事以外で好きなものは食、酒、旅、犬。Twitter: @sunagatakako

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