DJ NOBU × 日野浩志郎が目指す、解放への道。

DJ NOBU
DJ/サウンドプロデューサー。「FUTURE TERROR」、レコードレーベル<BITTA>主宰。パンク、ハードコアでの活動を経て、2000年初期よりDJをスタート。2001年より地元である千葉市でアンダーグラウンドに根付いたパーティ「FUTURE TERROR」を定期的に開催し、2009年以降はDJとして国内だけでなく海外にも進出。ワールドクラスDJとして、各国のパーティやフェスに出演し、2022年にはヨーロッパにて「FUTURE  TERROR」を開催。また、サウンドプロデューサーとしても定期的にトラックを制作しリリースを重ねている。
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日野浩志郎
goat、bonanzasのプレイヤー兼コンポーザー。ソロプロジェクトとして電子音楽を主軸としたYPYをはじめ、中川裕貴によるユニットKAKUHAN、実験的なリズムを試みる5人編成バンドgoat、bonanzasでの活動のほか、舞台作品『GEIST』の作曲と演出、『戦慄せしめよ / Shiver』では、太鼓芸能集団 鼓童とコラボレートした音楽映画を担当。また、国内外のアンダーグラウンドミュージシャンのリリースを行うカセットレーベル「Birdfriend」や、コンテンポラリー/電子音楽をリリースするレーベル「Nakid」も主宰。
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日野浩志郎率いるバンドgoat(ゴート)が、6月17日に東京・「UNIT / Saloon」で開催されるDJ NOBU主催の「FUTURE  TERROR」に出演を果たす。goatは昨年末に約5年ぶりにライヴ活動を再開、今秋には約8年ぶりに新作のリリースを予定している。今回、DJ NOBUがgoatに熱いラブコールを送り出演が決まったそうだ。本対談は、アメリカツアー真っ最中だったDJ NOBUからの連絡を受け、急遽実現。DJ NOBUがインタビュアーとなり、日野の思考に迫った。対話から見えてきた「耐え忍んだ先にある開放」——それはテクノを主流にしたDJ NOBUとgoatの日野浩志郎、2人が目指す共通点なのではないか。

DJ NOBU:日野くんとは、京都で<BLACK SMOKER RECORDS(ブラックスモーカー レコーズ)>と一緒にやった「BLACK TERROR」で知り合ったんだよね。その時に<BLACK SMOKER RECORDS>のJUBEくんが「いいバンドがいるんだよね」って、日野くん達をブッキングして。当時、日野くんはかなり若かったと思うんだけど、ライヴが終わった後に話しかけてくれて、それが最初の出会いだったよね。

日野浩志郎(以下、日野):確か2012年でしたかね。まだ僕はgoatを始めていなかったくらいの時かも。 

DJ NOBU:本当に綺麗な目をした若者で、とても印象深かったんですよね。日野くんは<BLACK SMOKER RECORDS>とも仲が良くて。

日野:そうですね、YPY(日野浩志郎によるソロプロジェクト)でアルバムを出したり。その時の「BLACK TERROR」ではbonanzasというバンドで出たんですよね。

DJ NOBU:YPYやKAKUHAN(日野浩志郎と独自の手法でチェロを演奏する作曲家・演奏家の中川裕貴によるデュオユニット)にしろ、日野くんはいろいろなプロジェクトをやっている中で、goatはどういうプロジェクトになるのかな? 

日野:僕自身も説明しづらいんですけど、僕が思い描いていた構想をやっと体現できたプロジェクトがgoatでした。goatの前にbonanzasをやっていたんですけど、それが母体とはなっていて……なんて言ったらいいのかな、自分達の楽器を使って全員がドラムの一部になるようなものをgoatは体現をしているんですけど。

DJ NOBU:僕はgoatを”人間ドラムマシーン”だと思っていて……というと安っぽい言い方になってしまうかもしれないんですけど、すごく精密だし、人間がやっているとは思えないような集中力。それにプラスして、人間が演奏しているテンションが加わっている。この間アメリカで4連チャンでDJをやったんだけど、東から西への移動もあって体力的にとてもつらくて、でもそんな状況で「std」を聴くとすごく元気が出たんです。

日野:聴いてくれたんですね!

DJ NOBU:もちろん聴いていますよ! 「std」のテンションやアッパーさからは、日野くんの人間力を感じるんです。

日野:「std」は1stアルバム(『NEW  GAMES』)の最後に入れた曲で、goatの中では爆発力があって一番解放的な曲なんです。タイトでミニマルな演奏で我慢をため続けて、曲の最後に解放的になるみたいな。僕等の中では一番人間的な曲というか。

DJ NOBU:そこの表現に僕はテクノを感じたりするんですよ。僕もやっぱり、我慢・我慢・我慢、で解放するみたいなのがとても大事で、ベルリンで12時間DJをしたんですけど、その時に8時間我慢させたんですよ。で、8時間経った後に「シルベスター」をかけたんです。そしたら泣いている人達がフロアにいっぱいいて(笑)。そういう、忍耐の先にある快楽というのがあると思っていて、まさに僕がgoatを好きな理由の1つに、そういう感覚をすごく感じる。それをみんなにも味わってほしいと思って、今回の「FUTURE TERROR」で声をかけたんですよ。

日野:goatの場合は、我慢タイムが、本当の我慢タイムになる時もあるんですけど(笑)。けどその我慢があるからこそ最終的には効果的に作用してくるんです。

DJ NOBU:goatって頭で聴くのも楽しくて、頭で聴いて数えたりすると、日野くんというアーティスト自体が数学的ということがわかったりするし。で、それを一度忘れて感覚で聴くと、ものすごい快楽を得るんですよ。それがgoatの素晴らしいところでもあるなと。

日野:難しく聴かせることって簡単なんですよね。実際に僕等はわりと複雑なことをしていると思うんですけど、それをいかにシンプルに聴かせるかっていうのが、作曲の中の一番重要なポイントの1つで。なので感覚的に聴いてもらえるのが僕にとっては一番嬉しいです。

「最後の快楽に向けての集中力」(日野浩志郎)

DJ NOBU:ライヴを観ても、音源を聴いても思うことなんですけど、goatは集中力がすごい。その集中力はどこからくるのかな。

日野:先ほどNOBUさんも言っていた最後の快楽に向けて、集中していってると言えばいいんでしょうか……。集中することが普通になっているのかもしれません。

DJ NOBU:幼少期とかに、そういう訓練を受けたとかはではない?

日野:ずっとスポーツをやっていました。子どもの頃は野球選手になりたくて、小学校の頃に野球部に入って頑張っていたんですけど、中学校が田舎すぎて人数が少なくて野球部がなかったんです。だから陸上部に入って、高校で野球をもう1回やるぞ! と思っていたんですけど、高校が弱小で、そこでサッカー部に入るという。なので学生時代は野球~陸上~サッカーとずっとスポーツをやっていましたね。

DJ NOBU:スポーツマンだったんだ。その頃は、今後につながるような音楽を聴いていたの?

日野:高校の頃はニルヴァーナとか、レッチリとか、流行りものも聴いていました。その中でも今でもやっぱり影響あるのはレッド・ツェッペリンかな。少し背伸びしてマイルス・デイヴィスやジョン・コルトレーンとかも聴いていましたけど。

DJ NOBU:今でもツェッペリンは聴いたりするの? 

日野:聴きます。それにスピーカーを買い直したら、まずツェッペリンを聴きますね。

DJ NOBU:スピーカーの個性だったり、キャラクターだったりを、ツェッペリンをベースに聴いて確認しているんだね。必ず聴くという曲はあるの?

日野:曲よりはアルバム単位で聴いてますね。アルバムだと『フィジカル・グラフィティ』とか好きだし、曲で言えば「アキレス最後の戦い」とか好きです。

DJ NOBU:今度スタジオに遊びに行かせていただいた時に、あのスピーカーで聴いてみたいな。で、僕の個人的な感想として、goatってかっちり演奏をして、KAKUHANはインプロって感じに聴こえるんですけど、自分で違うことをやって楽しんでいるというか、自身の中でバランスを取っているとかはあるの?

日野:めちゃめちゃありますね。goatはつらいんですよ。作曲も練習もライヴもつらいですが、終わってからようやく解放感があるというか。1つのプロジェクトを続けていくとクリエイティヴでなくなっていくから、意図的に別のプロジェクトをやって1回goatのことは忘れるようにしています。その合間にYPYの曲を作ったり、KAKUHANでセッションをレコーディングしてみてとかバランスは取っていますね。

DJ NOBU:goatの反復って、概念でいうトランスと同居しているというか。演奏している方からしたら、とてつもないんだろうなと思うんですよ。

日野:演奏している側が一番興奮しているし、一番楽しいと思います。

DJ NOBU:一緒に楽しめる人っていうのを前提でメンバーを決めたの?

日野:なかなかメンバーを見つけるのは大変なんですが、正直まずは一緒に音を出してみないとわからないところがあります。練習時間をポジティブに共有できる人じゃないと難しいんですが、実際ライヴするまで新しく入ったメンバーはつらいと思いますよ。で、最後にライヴをして興奮に気づくって感じ。

DJ NOBU:昨年末まで5年間ライヴをやっていなかったですけど、その間にgoatは何をしていたんですか?

日野:作曲と練習とメンバー探し。暗黒期もさまよいつつ、って感じですかね。 

DJ NOBU:「暗黒期」という言葉が出てくると思わなかったんですけど、5年間ためてアップデートして、ここから一気にgoatが動き出すっていう感じですね。

日野:そうです。今年10周年なんで、秋には新作アルバムも出すし、8月にはgoatの国内ツアーも予定しているんですけど、その時のツアーで先行発売をして、その後に流通をし始めようかなと考えています。

DJ NOBU:アルバムは自身のレーベルから出す予定なの?

日野:今回は自分のレーベル<NAKID(ネイキッド)>からです。レコーディングもミックスも終わって、これからマスタリングですね。

DJ NOBU:ちなみにマスタリングは自分で? それか他に頼むの?

日野:マスタリングはラシャド(・ベッカー)に頼もうかと思っています。

DJ NOBU:そうなんだ! ラシャドなんだね。彼に頼むのは意外だった。僕が前にベルリンの「ベルグハイン」でDJした時に遊びにきてくれて。goatの音って生音だけど、それをどうラシャドに指示する予定なの? 

日野:あまりこちらの意思を押し付けたくなくて。アーティストとして信頼しているから、まずはラシャドの好きなようにやってほしい。その上で修正するポイントがあればって感じです。普段はミキシングやマスタリングで、その人のアーティスト性を出されるのってあまり好きじゃないんですけど、ラシャドの場合は良くなっている。で、想像していないところが良くなったりしているから、楽しみなんですよね。

DJ NOBU:なるほどなあ。意識していなかったところが良くなるってことですよね。そこに自分が気づくという。 

日野:そうなんです。だからあまり言いたくなくて。ちなみにgoatの1st、2ndをコンパイルしたレコードがあるんですけど、それもラシャドにマスタリングしてもらって、その時にそういう良さがあったから、今回もお願いしようかなと思いました。そのコンパイルしたレコードは2018年ですが、今回出すアルバムは新作という意味では8年ぶりになるんですよ。

「反復の快楽は、本当の意味でのトランス」(DJ NOBU)

DJ NOBU:『Rhythm & Sound』から8年ってことですよね。前に「FUTURE TERROR」に出てもらったのって2016年でしたっけ。

日野:2016年から2017年のカウントダウンでした。

DJ NOBU:そこからアップデートされた部分とか、変わった部分はどういうところなんでしょうか。

日野:メンバーが増えたということもあって、昔の曲のアレンジがだいぶ変わりました。既存曲は昔より良くなっていると思っているのが1つ。さっき暗黒期と言いましたけど、初期のドラマーが素晴らしく、当時は彼のために作曲していた部分は大きくて、そのドラマーがいなくなって試されるのって、作曲やアレンジ能力だと思うんです。初期の楽曲に関して、初期ドラマーがいなくなった後、「彼がいなくなって、良くなくなった」と言われるのが一番最悪じゃないですか。

DJ NOBU:確かに。

日野:そのプレッシャーが一番大きくて。だから彼に頼らないで、アップデートするというのがまず大前提としてありました。けど今のドラムの岡田くんや雷くんも素晴らしく、アレンジが加わった今の既存曲は、これまでで一番良いんじゃないかと思っています。作曲に関しても2ndアルバム以降はアップデートする必要性を感じていて、いろいろとリズムアンサンブルの実験を繰り返してきました。昔はシンプルなフレーズを繰り返していって、その中で爆発力を持つみたいな作り方をしていたのを、リズムの組み合わせを、なんて言ったらいいのかな……シンプルだけど、変わり続けて聴き飽きないようなリズムみたいなものを試したいと思ったり。なおかつライヴで興奮できるもの。それを試すためにいろいろな作曲方法をして、実際に楽器を変えてみたり、みんなでボンゴやマリンバを叩いてみたりしたりして。それがある程度自分の中でうまくいくようになってから、バンドに落とし込んだのが今の状態ですね。

DJ NOBU:反復ではあるけど変化する感じが、アップデートする前と今との違いかな。 

日野:そうですね。反復する種類が違うって感じですね。

DJ NOBU:本当に反復の快楽じゃないですか。チープな言い方かもしれないけど、本当の意味でのトランスというか。それとgoatっていい意味でエンターテイメント性も感じるというか。2016年の「FUTURE  TERROR」のカウントダウンの時も完璧でしたからね。ライヴ、楽しみだなあ。

日野:あの時のカウントダウンは自分の人生の中でも最高に興奮したライヴでした。緊張も一番、演奏も納得できた。カウントダウンのための練習をしていましたからね。曲間は何秒だとか、BPMは絶対に変えないとか、合図は何分何秒の時に出すだとか。そういう特殊な練習をしていましたね。これ外したら殺される!みたいな(笑)。それは冗談ですけど。

DJ NOBU:(笑)。それがあの完璧な状態になっていくのか。そういう苦労を日野くんは見せないし、goatは「こういうことができて当たり前」だと思っていたから、そういう話が聴けて良かった。日野くんは謙虚でクールなんですけど、現場で反転する創造的なエネルギーを持っているというか、バーンッ! と現場で流すことができるのが、goatというバンドのすごさかなと思っています。

日野:いつもギリギリですけどね。ライヴの前は悪夢を見ますしね(笑)。だけど楽しんでいます。十分リハーサルをして、納得できるライヴができてやっと楽しめるってところはありますね。だからライヴをするまでは、すごい心配だし、95%以上はつらい。

DJ NOBU:なるほどなあ。僕も「FUTURE TERROR」やるのはつらいんですけど、アメリカにいる最中も気になるし、悪夢も見るし、だからお互い同じ気分になっていたんですね(笑)。今回は本当に、goatのためにパーティをやりたいんですよ。それで日野くんに愛を伝えたいっていう。

日野:受け止めまくっています。ありがとうございます。僕らも本当に気合い入れているんで。

硬くならずに「未来の恐怖(FUTURE TERROR)」へ向かう

DJ NOBU:何か伝えたいことはありますか? goatを知っている人でも、知らない人でも。

日野:あまり硬くならずに、難しく聴くこともないので、感覚的に聴いてもらえればいいです。

DJ NOBU:しばらくはgoatの活動をしていく予定ですか?

日野:そうですね。今年は10周年なので、“goat year”って感じだと思います。

DJ NOBU:「FUTURE TERROR」以降の、ライヴの予定はこの先ありますか?

日野:今回は各週末、週末ツアーみたいな感じで、全部で7ヵ所やります。年末にやった大阪のライブは、今の編成になって初めてのライヴだったんですけど、今のgoatをプレゼンテーションするには納得のできだったかなと。

DJ NOBU:日野くんが作曲をした譜面に対して、どれくらいのパーセンテージでメンバーの人達はパフォーマンスするんですか?

日野:決めているところは100%そのまましてもらうんですけど、自由度のあるところもあります。元鼓童の立石雷くんが笛を吹く楽曲もあるんですけど、その曲の中ではサックスと笛は自由度があって、そのボトムを演奏している自分達は自由度ゼロ。そういうバランスのものもあります。だけど他の曲は、100%演奏方法が決まっているのがほとんどですね。もう毎日、練習しないと「FUTURE TERROR」が怖い。だけど、良いライヴをして「FUTURE TERROR」を楽しみたいですね。

DJ NOBU:「未来の恐怖(FUTURE TERROR)」とはよく言ったもんだ(笑)。6月17日のライヴ、楽しみにしています。

■FUTURE TERROR at UNIT / Saloon
日にち:2023年6月17日
場所:UNIT / Saloon
時間:オープン[Saloon] 23:00 / [UNIT] 23:30
Line up:
[UNIT]
DJ Nobu
Haruka
Akie
Live:goat

[Saloon]
Occa
鏡民
Kuri
Sakuma
Live:MANISDRON

Sound design:HIRANYA ACCESS
Tickets:https://future-terror.zaiko.io/item/355848
[カテゴリー3]
前売 / ADV:¥3,500
25歳割 / U25:¥2,500

■日野浩志郎スケジュール
6/24~25 日野浩志郎、古舘健(ダムタイプ)、藤田正嘉、谷口かんな、前田剛史「Sound Around 003」@ロームシアター京都 
7/15~17 KAKUHAN@Rural
7/21:YPY@AZUL(大分)
7/22:YPY@NAVARO(熊本)
8/27:goat 10 year anniversary 東京公演@渋谷WWW X
8/31~9/1:goat 10 year anniversary event@ロームシアター京都

author:

Kana Yoshioka

フリーランスエディター/ライター。1990年代前半ニューヨークへの遊学を経て、帰国後クラブカルチャー系の雑誌編集者となる。2003年~2015年までは、ストリートカルチャー誌『warp』マガジンの編集者として活動。現在はストリート、クラブカルチャーを中心に、音楽、アート、ファッションの分野でさまざまなメディアにて、ライター/エディターとして活動中。

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