SATOL aka BeatLiveが打ち鳴らす苛烈でハイブリッドなビート、その根底に宿る日本人としてのアイデンティティと誇り

SATOL aka BeatLiveという異端な存在をあなたは知っているだろうか。
ドイツ〈Madberlin〉、ロシア〈ahito〉やO.N.O(THA BLUE HEARB)主宰レーベル〈STRUCT〉、〈PROGRESSIVE FOrM〉、〈P-VINE〉、〈disk UNION〉などから作品をリリースし、ドイツとジャマイカへの居住経験も持つSATOL aka BeatLive。自身でレーベル〈-滅- METSUJP〉も主宰し、ビートミュージック、ベースミュージック、ハードコアなど交錯する越境的かつ異端のサウンドを紡ぐアーティストがこの度、新たなる楽曲を3曲続けてリリースする。混沌とした世の中へ強いメッセージを感じるリリック、そして重厚かつソリッドな音像に仕上がったこの作品群の話を皮切りに彼の音楽性、精神性を紐解く。

既存のシーンやジャンル分けに対する違和感と怒り

——まずは、ツアー中のお忙しいところ、時間を作っていただいてありがとうございます!

SATOL aka BeatLive(以下、SATOL):よろしくお願いします! 今、長野県です! ライヴ6連チャンが終了して、満身創痍です(笑)。

——6連チャン!? お疲れさまです! 早速ですが、今回の3部作についてお聞かせください。まずは、沖縄のAKAZUCHIのRITTOさんをフィーチャーした作品「FLASH BACK」ですが、破壊力抜群の低音が鳴り響くものに仕上がっています。こちらの楽曲はコンセプトなどはあるのでしょうか。

SATOL:コンセプトというわけではないですけど、クラブミュージックやダンスミュージックというカテゴライズ、日本の偏ったジャンル分けに対して歯向かった感じというか。そこが僕はすごく納得いかない部分だったので、わざとああいうサウンドにしましたね。

——具体的にはどのような部分に納得がいかなかったのでしょうか。

SATOL:僕もまだ中途半端な部分ではあるんですけれど、日本の音楽というものをもっとクリエイティブにしていきたいんです。海外の音楽の延長線をただやるだけになっているものが少なくない気がしていて。そこに対して一石を投じ続けたいという気持ちがあるんです。その思いからMVの映像がああいう形になったという感じではあるんですけどね。

SATOL aka BeatLive feat RITTO – FLASH BACK –

——なるほど。〈-滅- METSUJP〉立ち上げの際にも、「Saying genre yet?」、“まだジャンルなんって言ってんの?”という旨のリリースをされていたと思うんですけど、その思いは常々SATOLさんが思っていたということでしょうか。

SATOL:ずっと思っていることですね。俗に言うジャパニーズ・アンダーグラウンドに対しても僕は反目かもしれない。

——日本のアンダーグラウンドシーンにも思うことがある?

SATOL:もちろんアンダーグラウンドシーンが駄目だとかそういうおこがましい気持ちはないし、直接サシで話さないと分からないことも多いと思います。僕はいろんなジャンルの方にお世話になっているので、お世話になった方たちには尊敬もある。ただ、全体的な音楽の考え方、位置づけに対して納得いかないところがあるので、「FLASH BACK」のようなデスメタルの要素も入れ、ビートダウンのハードコアの要素も入れ、BPM280のシンゲリの要素も入れ、和のテイストを分かるように映像に反映させたという感じで。

——ジャンル分けが無意味なほどハイブリッドですね! 和の要素が入っていることも、SATOLさんの作品の特徴の1つだと思います。

SATOL:もともと音の方面でも和の要素を取り入れたい気持ちはあったんですけど、あの時は映像の方でそれが出ている感じですね。日本刀が出てきたり、般若が出てきたりとか。ただ、それは僕が指示したわけではなくて、3D映像担当が僕の考えや意図をくんでくれてあのMVが完成したんです。

——過去にリリースされた「埋没の代弁者」では戦争について、そして今回の「斬結ぶ能」では隠れキリシタンの子孫をフィーチャリングしています。SATOLさんは日本が抱えてきた負の遺産というものを残そうとされていると思うんですが、その思いの根幹にあるものってどういったものになるんでしょうか?

SATOL:僕は日本人ですから、日本人に対して尊敬と敬愛がもちろんあります。今は、音楽もそうですが、すべてが自由化されすぎている印象がどうしてもあって。根本的な部分がほぼないというか。ひたすら海外のモノマネを何年も何年も続けている状態というか。特化するのはいいのだけれど、それもまた模倣。中身の言葉だけ変化して結局変わらないじゃないか、みたいな感じで。だから、日本の歴史や文化を伝えていかないといけないという気持ちがあるんです。

たとえ負の遺産に見えるものだとしても、それをまるでなかったことにするのは行きすぎてるのではないか、やりすぎじゃないかなと思ったんですよね。その思いを現代に持ってきて、自分なりに曲に記していっているというか。まあ、曲であんなふうに叫んでいたら伝わりにくくはありますけど、やっていることをカッコいいと思ってもらえるわけじゃないですか? そこに突破口がある。大河ドラマを例に取れば、そこから歴史好きになる方がたくさんいるわけで、そういうキッカケになればいいなと思ってやっています。

——そういった強い思いがあるからこそ、ここまで重厚なサウンドに仕上げられているんですね。3曲目の「INVISIBLE PAIN」は、UMB 2020 全国チャンピオンの早雲さんと和歌山のExperimental Hard Core Unit / FayxistのHULKさんとの楽曲ですが、こちらはいかがでしょうか。

SATOL:HULKとは和歌山で出会ったんですけど、いい意味でも悪い意味でも孤立しているようなやつで、すごく真っすぐな他の人には溶け込まない志がある人間なんですけど、ちょくちょくフィーチャーして曲を作っていたんですね。そんな中、早雲くんを紹介してくれて2人で曲をやろうということになり、「じゃあ、今回の3部作の3つ目として看板を出そうか」ということになって。この曲も他の2曲と同様に、シンゲリ✕ハードコア。実は、3曲ともTaro Yamaguchiのバンドの曲をサンプリングしているんです。

——ちなみに、シンゲリを掛け合わせようと思った理由は?

SATOL:そこだけは、理由はないんですよ。正直、シンゲリでもゴムでもなんでもよくて。ただ、ハードコアを合わせたらできるんじゃないかなというのが理由です。ただみんながやっていなかったことをやっておかないと説得力がないなという。そういうことです。

本当は和モノをいれたかったんですけど、あのテイストに入れることはどうしてもしたくなくて。今回は、思想・思いだけ混ぜた感じですね。

「ポスト雅楽」の制作も進めている

——なるほど。では、今後はより直接的に和モノなサウンドに取り組むことにもなる?

SATOL:「ポスト雅楽」じゃないですけど、厳格なハードルの高い和モノを作りたくて、実はもう制作を進めているんです。今回は、激しい音楽を作るわけではなく、本当にその雅楽に則ったものであり、神道に則ったもので、雅楽をきちんとやっている方になんとかギリギリ許してもらえるラインを攻めたいんですよ。まさに「ポスト雅楽」というかね。

映像も作るんですけど、撮影自体は去年の12月に終わっていて。吉原義人(よしはら・よしんど)さんという、NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」や「情熱大陸」とかに出演している日本の刀匠(日本美術刀剣保存協会無鑑査刀匠)で有名な方がいらっしゃるんですけど、その方とコラボレーションしています。

——サウンドにはエレクトロニクスを入れていたりするんですか?

SATOL:僕の場合は1人でやるしかないので、結局、嫌でもエレクトロニックにはなっちゃうんです。

——今度は雅楽の方面に踏み込まれるわけですが、SATOLさんの音楽性の根底にあるものは?

SATOL:根底に特定のジャンルの音楽があるとかは、ないですね。自分がすべてということではないですけど、感覚・感触がすべてかなと。だから、どんな音楽も持ってこれるし、自分が持ってくる音楽には自信があるんですよ。そこが自分の源になっていると思います。

——伝えたいメッセージが前面、それにハマるサウンドが裏側にあるというか。

SATOL:確かにそうかもしれないですね。

——だからこそジャンルレスにチャレンジできるのかもしれない。

SATOL:そうですね。すべての音楽は認められるべきだと思うんです。ただ、これは言ったら偏見が生まれるかもしれないですけど、自由度が高いほうが逆にたちが悪くなってしまうのかなとも思っていて。それって根も葉もないので。そうならないように、ドープに深く根を張りながら広げていくことを大事にしているというか。そして、根底のところにあるのは、やっぱり日本人としての精神性ですかね。

——その精神性を強く意識するようになったのは何かきっかけがあったのでしょうか?

SATOL:英霊顕彰プロジェクトの鈴木田遵澄(すずきだ・じゅんちょう)さんという方がいらっしゃるんですけど、その方が2020年に『忘れてはならない歴史がある』という短編映画を作ったんです。それを観た時に、すごく腹落ちしたというか、自分が今まで感じていたことが映像としてきちんと形になっていると思ったんです。きっかけといえばそれもきっかけになりますよね。

——そうなんですね。SATOLさんはUKガラージやダブテクノであったり、ポストクラシカルの要素が入ったサウンドだったり、さまざまその音楽性を変化させてきましたが、現在のハードコア要素や激しい音が混じってきているというのは、ソロアーティストとして活動する前にバンドを組んでいた頃の感覚に戻っているというか、原点回帰的なところがあるんですか?

SATOL:いえ、特に原点回帰という感覚はなくて、自分のことを素直に受け止めたらこうなっているという感じですね。「音楽だけには正直にいよう」と思ってやっていった結果が、今のサウンドなんです。ただ先ほどお話しさせていただいたように、それはあくまで今の着地点というだけで、これからまたどんどん変化していくんでしょうね。「ポスト雅楽」もそうですけど。

——SATOLさんの音は、激しい部分と静寂な部分が混在して、緊張と緩和というか。そういった独特のバランス感覚をお持ちだなと。それこそ、今回の3部作のような音とポスト雅楽のような音を並行してやられていることがすごいなと思うんですけども、それはSATOLさんの中では並行してあるもの?

SATOL:そうですね。今回の3部作に関しては思想・心だけは日本的なものを注入しているんですよ。実は、RITTOの曲のテーマは本当はヤンバルクイナだったんです。それがああいう形になってしまったんですよね(笑)。ヤンバルクイナって、今でこそ数は増えてきましたが、絶滅危惧種じゃないですか。そこを理解してほしいなということを遠回しに言っているという。もともとはそういう曲なんですよね。

——なるほど。

SATOL:そうなんです。そして「ポスト雅楽」のほうにいくと音が和になるということじゃないですか。だから精神性は同じなんです。僕の中では今回の楽曲もポスト雅楽もつながっていることなんですよね。

——出し方が違うということですよね。言葉として激しい音を伴ってそれが出てくるのか、直接的に音として、ポスト雅楽のようにして出てくるのかにせよ、根本は一緒なんですね。

SATOL:その通りです。

——最後になりますが、SATOLさんの今後の展望について教えてください。

SATOL:レーベルの存在をもっともっと伝えていきたいなと思っていますし、日本らしさというものを海外の方にも伝えていきたいと思います。日本の文化や日本人の実力、かっこよさを、多くの方たちに分かってもらえたらと、そんな精神性を持って活動していきたいですね。そして、そんな僕たちの活動や精神性が、日本の方たち自身のルーツに誇りを持つキッカケになればいいなと思っています。

あと、『ラーゲリより愛を込めて』や『護られなかった者たちへ』で有名な映画監督の瀬々敬久さんと仲良くさせていただいているのですが、その瀬々さんの師にあたる佐藤寿保監督の新作映画『火だるま槐多よ』に僕の音楽がいくつか使われています。今年12月頃から全国順次公開予定で、配信もあるそうなので、こちらもチェックしてもらいたいですね。

author:

笹谷淳介

1993年生まれ、鳥取県出身。メンズファッション誌「Samurai ELO」の編集を経て独立。音楽をはじめ、幅広いジャンルで執筆を行う。 Twitter:@sstn425 HP:https://sstn.themedia.jp/

この記事を共有