自身のアイデンティティを交差させたものづくり セラミックアーティストAya Courvoisierの手から生まれるもの

フランスと日本にルーツを持つセラミックアーティストのAya Courvoisier。彼女が作る器は新しいものなのに、どこか昔からそこにあるような安心感がある。洋でもあり、和でもあり。モダンなのに、クラシック。彼女だからこそ生まれる唯一無二のそのリズムは、一体どのようにして生まれてきたのだろう。ほとんど独学で学んできたという陶芸とどのようにして出合い、これまでどんな道を歩んで来たのか。彼女のこれまでを振り返りながら、セラミックアーティストになるまでの話を聞いた。

――どんな幼少期を送っていましたか?

Aya Courvoisier(以下、Aya ):フランス人の父と日本人の母から生まれ、福島県の郡山で自然に囲まれながら育ちました。絵を描くことや、なにかを作るのが好きで、常に手を動かしているような子どもでしたね。年に1度、夏休みの1ヵ月はフランスに帰り、両親達と美術館へ行ったり、蚤の市へ行ったり。幼い頃からアートが身近な環境にあったような気がします。母親が世界各地の器を集めていたり、フランスにいる祖母が骨董品好きだったりで、私も子どもながらに影響を受けていたのか、「フランスの太陽と陶器は相性がいいな」と漠然と感じていました。また、5歳から高校を卒業するまで、バレエを習っていたので、何かを表現をすることが自身のベースにあったのかなと思います。舞台や衣装にも影響を受けてきましたね。

――高校を卒業後、パリの大学へ進学を決めたんですよね。

Aya:生まれてからずっと日本で育ってきたこともあり、自身のアイデンティティを構成するフランスで、1度は暮らしてみたいと思っていました。祖母も住んでいましたし、何か目的が明確にあったわけではなく、「このタイミングで行ってみよう」という、シンプルな理由でパリへ行くことを決意しました。

――パリでの生活はどうでしたか?

Aya:大学での学生生活を送りながら、ファッション系やアート系の仕事もしていました。主にどちらも通訳として携わることが多かったのですが、日本から来た古着屋のバイヤーさんにお店を案内しながら、買い付けを手伝うなど、コーディネーターとして働いていたことも。バイイングの様子を横で見ていたら、私もやってみたいなと思って、そのうち自分でも骨董品のバイヤーとして活動をするようにもなりましたね。

その一方で、陶芸を始めたのもパリにいた時のタイミングです。友人から誘われて、マリーさんという陶芸家のアトリエに、週1、2回ほど通うようになりました。土と窯は提供してくれるけど、手取り足取り教えてくれるタイプの先生ではなくて、口数が少ない人。「わからないことがあったら聞いてね」というスタイルで、わりと自己流で学んでいきました。マリーさんの作風もありましたが、フランスで過ごしているから違うテイストのものを求めるのか、わりと日本っぽい渋めなものを作っていましたね。

――9年ほどパリで過ごし、2019年に再び日本へ戻って来ました。

Aya:ずっとパリで暮らしていくんだろうなと考えていましたが、さまざまな縁が重なり、若いうちに東京で過ごすのもいいなと思い、再び日本で暮らすことにしました。東京でも陶芸を続けたいので、またどこかに通おうかと考えていて。でもマリーさんの時も割と独学な部分があったので、窯は借りられる場所があるし、材料だけあれば家でできるし、あくまでも趣味の延長として自宅で始めることにしたんです。

ーいつから本格的に活動を始めるようになったのでしょうか?

Aya:実は特に大きなきっかけはなくて、フランスにいた頃に買い付けをしていたヴィンテージのアイテムをウェブサイトで販売していた流れで、作品も発表してみようと思ったんです。そうしたら、意外と早い段階で売り切れてしまって。在庫がなくなったから次も作ろうと制作を続けていくうちに、ありがたいことに見つけてくださったお店やギャラリーから声が掛かるようになりました。

――今の作風にはどのようにしてたどり着いたのですか?

Aya:日本で最初に手に取った土が白いものだったというのもありますが、私は住んでいる土地に対して違うムードのものを求めるところがあるのか、パリで陶芸をしていた時に比べて、自然と西洋風のテイストのものを作っていました。初めて作ったのは、今では代表作となっている“PEARL”。意図してデザインをしたわけではないのですが、真珠のネックレスのようなお皿があったらかわいいなと思ってできた1枚です。今ではシリーズで作っています。

――自身のそういったインスピレーションはどのようなところから来ていると思いますか?

Aya:祖母と母は、衣食住を豊かにすることを大切にしていて、私が古いものや陶器が好きなのは、2人の影響が大きいですね。やっぱり人工的なものよりも、どこかアイテムにストーリーを感じられるものに引かれます。そんなバックグラウンドがある中で、自分が作ってきたものを改めて見てみると、祖母が身に着けていたジュエリーだったり、子どもの頃に習っていたバレエの衣装だったり。私がこれまで観てきた美しいものが自然と反映されているような気がするんです。私が作る器も、手に取った人がそういった背景を感じ取ってくれるような存在であると嬉しいですね。

――最後に、今後挑戦してみたいことなどあれば教えてください。

Aya:最近は絵付けをしてみたり、違うテイストのものも制作したりしています。これから作りたいなと思うものはいろいろあって、ランプシェードやインテリアとしても使えるようなものにも挑戦したい。作品の根底として、生活になじむものを作るというのが自身の中にはありますが、今後は大きいオブジェなど、アート作品も手掛けてみたいですね。

Photography Anna Miyoshi

author:

小倉冬美香

学生時代からいくつかの編集プロダクションを経て、2019年に独立。主にファッション誌やカルチャー誌、広告等を中心にエディトリアルやライティングを行う傍ら、音楽レーベルに所属し、主に海外ミュージシャンのプロモーションにも携わる。

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