「パーム・エンジェルス」のフランチェスコ・ラガッツィに聞く「ラグジュアリーストリートの現在地」

フランチェスコ・ラガッツィ(Francesco Ragazzi)
「パーム・エンジェルス」のディレクターでありフォトグラファー。同時に「モンクレール」のアートディレクションも行う。2014年にスケーターのコミュニティ、ストリートカルチャーにフォーカスした写真集『Palm Angels』を発表。2015年1月にデビューコレクションを発表し、現在に至る。
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8月30日から9月26日までの期間、「ギンザ シックス」にて「パーム・エンジェルス(Palm Angles)」のポップアップストアが開催されている。ここでは2023年秋冬コレクションやマネーグラム・ハースF1チーム(MoneyGram Haas F1 Team)とのコラボといった注目アイテムを手にすることができる。このポップアップに際し、デザイナーのフランチェスコ・ラガッツィ(Francesco Ragazzi)が来日。移りゆくファッションシーンにおいて、パリコレを経た「パーム・エンジェルス」は、どのようにラグジュアリーストリートを捉えているのか。フランチェスコに聞いた。

ブランドの視点やストーリーを凝縮させたポップアップ

——6年ぶりのポップアップストアが「ギンザ シックス」で開催されているわけですが、どういった内容になっているのか教えていただけますか?

フランチェスコ・ラガッツィ(以下、フランチェスコ):「パーム・エンジェルス」の2023年秋冬コレクションの中でも、この会場でしか買えないものをラインアップしています。マネーグラム・ハースF1チームとのコラボアイテムや、モノグラムのアイテム、AIで生成したグラフィックを施したもの、ブランドとしてプッシュしているスニーカーなど、単純にコレクションを羅列するというのではなく、「パーム・エンジェルス」に内包されているさまざまな要素を集めて、このポップアップならではのストーリーを表現しているんです。

——今回のポップアップでも特に注目のアイテムがマネーグラム・ハースF1チームとのコラボアイテムですが、タッグを組んだ理由は何ですか?

フランチェスコ:昔からF1のカルチャーが好きだったことが前提にあります。なぜ、イタリアのルーツを持つ私がアメリカのチームであるハースとタッグを組んだかというと、ハースのレーシングカーにはフェラーリのエンジンが搭載されているんですよね。そこにイタリアのスピリッツが感じられますし、イタリアとアメリカのカルチャーを融合させている「パーム・エンジェルス」としてもシンパシーが感じられるんです。ハースのチームがF1に参戦したのは比較的最近で、それも大きな要因でしたね。「パーム・エンジェルス」も設立から8年ほどしか経っていないですし、そもそも何の後ろ立てもないところからブランドをスタートさせて今に至ります。常に進化を続けるルーキーという意味でも共通する点があると思うし、フレッシュなF1チームとコラボすることで自分達も進化していきたいと考えたんです。

——同時に、今季より展開されている“PA”モノグラムのグラフィックは新たなブランドのアイデンティティといえます。このモノグラムにはどんな意図が込められていますか?

フランチェスコ:このモノグラムには、「パーム・エンジェルス」の考え方や視点を落とし込んでいます。PとAの2文字を組み合わせてはいますが完全に一体化させるのではなく、微妙な違いや個性をキープさせたまま1つのグラフィックとして構築しています。また、Aが逆さになっている点もポイントですね。ここもブランドの視点を表現していると思います。

進化し続けるラグジュアリーストリート

——今回の2023年秋冬コレクションで初めてパリコレに参加したわけですが、この出来事はブランドにとって、どういうものになりましたか?

フランチェスコ:パリでのショーはブランドにとって大きなステップアップでしたね。今季のコレクションは、僕達なりのパリに対する解釈を示したかったんです。「パーム・エンジェルス」のDNAをパリの文化や空気感と掛け合わせることに尽力し、パリというフィルターを通してブランドの新しい形を提示することができたと思います。パリに「パーム・エンジェルス」のショップをオープンさせたことも重要でしたね。ブランドの拠点をパリの中に構えたうえで、そのアウトプットとしてファッションショーを行おうという思いが根底にあったんです。

——パリコレにおいても、「パーム・エンジェルス」が根底に持つラグジュアリーストリートの概念が提示されていましたが、このラグジュアリーストリートの未来を示す例として、フランチェスコさんもファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)による新生「ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)」に注目されていたと思います。そのファーストショーはチェックされましたか?

フランチェスコ:もちろん!  かなり強烈で衝撃を受ける内容でしたよね。彼(ファレル・ウィリアムス)は、自分の世界観や経験、人生の中で繋がりを持った友人や哲学など、言わば自分が辿ってきた人生そのものを、このコレクションに注ぎ込んだのだと思います。それはファッションシーンにとって、文化的にすごく意味があることだったと思いますね。音楽、クリエイティビティ、新しいことへの挑戦、そして何より、ラグジュアリーとストリートの良い部分を掛け合わせるという、ラグジュアリーストリートの概念について考えさせたコレクションでした。

——ここ数年、ファッションシーンにおいて、ハイブランドとストリートの垣根はどんどんなくなりつつあります。それによって「パーム・エンジェルス」にとってのラグジュアリーストリートの概念にも変化が生まれているのでは? と思うのですがいかがでしょうか。

フランチェスコ:私から見ると、それは変化ではなく進化と捉えていますね。ファッションシーンに限らず、人生において進化し続けていくことは重要なことです。「パーム・エンジェルス」というブランドがスタート当初に思い描いていたこと、つまりアメリカとイタリアのカルチャーから獲得したインスピレーションを落とし込んだラグジュアリーストリートというコンセプトは大切にしながらも、常に上を向いて改善点を見つけては模索しつつ、より発展していくことを私自身、心掛けています。

——日本への印象についても教えてください。けっこうな頻度で来日されていると思いますが日本のファッションシーンについて思うことはありますか?

フランチェスコ:私に限ったことではないでしょうけど、「コム デ ギャルソン(COMME des GARCONS)」の世界観は尊敬していますね。あとはアウトドアブランド、例えば「ノンネイティブ(nonnative)」や「ナナミカ(nanamica)」も好きだし、「キャピタル(KAPITAL)」も好きです。今、名前を挙げたブランドもそうなんですが、日本には世界中を見渡してもここにしかないオリジナリティ溢れるものが数多くあって、それが私にインスピレーションを与えてくれるんです。自国の文化を大切にしながら、他の文化からインスパイアを受けて、それをミックスさせてより面白いものを構築していくという姿勢が日本にはあると思うのですが、私にも同じような考え方があります。そういった意味で、日本に来ると、いつも良い刺激をもらえますね。

——最後に、今後のブランドの活動について教えてください。

フランチェスコ:私達は常に面白いプロジェクトを実現するために行動しています。今はロンドンで発表する次のコレクションのために「モンクレール(Moncler)」と協業していますし、他にもファンが驚くようなことを企画しています。常に驚きを生み出そうとする思考は、私がブランドをどう動かしていくかの原動力の1つになっていますね。ぜひ、今後の動向も楽しみにしていただきたいです。まずは今回のポップアップストアで、「パーム・エンジェルス」の世界観に触れてみてください。

Photography Hironori Sakunaga

author:

田島諒

フリーランスのディレクター、エディター。ストリートカルチャーを取り扱う雑誌での編集経験を経て、2016年に独立。以後、カルチャー誌やWEBファッションメディアでの編集、音楽メディアやアーティストの制作物のディレクションに携わっている。日夜、渋谷の街をチャリで爆走する漆黒のCITY BOYで、筋肉増加のためプロテインにまみれながらダンベルを振り回している。 Instagram:@ryotajima_dmrt

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