画家・佐野凜由輔が切り開く新たな可能性 「独学でもここまでできるっていうのを見せたかった」

佐野凜由輔

佐野凜由輔
1994年生まれ、北海道・札幌出身。幼少期はカートゥーン、アニメーション、漫画に没入し、10 代後半でエゴン・シーレ、ジャクソン・ポロック、ジャン=ミシェル・バスキア、エリック・パーカーらに衝撃を受ける。画家を志して、2016 年にNYへ渡米。2018年に開催した初の展覧会から、規則性のない具象性と抽象性が共存する私的な記憶に基づく多色使いの表現方法を“ZOOM(ズーム)”というコンセプトに込め、精力的に作品を描き下ろす。アジア圏でのソロ展示やグループ展への参画の他、2022年に1st作品集を上梓。
https://ryusukesano.com
Instagram:@ryusukesano

ほぼ独学でありながら、その力強い絵で多くの人を魅了する画家・佐野凜由輔(さの・りゅうすけ)。2019年1月にリリースされたKing Gnuのアルバム『Sympa』のイラストを手掛けたことで、一躍注目される存在となり、その後も積極的に個展を行っている。もともとはファッションデザイナーを目指していた佐野が、いかにして画家となったのか。「運が良かった」と語る彼のこれまでのストーリーを、10回目となる個展「ZOOOOOOOOOOM 展」の会場で聞いた。

画家・佐野凜由輔が切り開く新たな可能性 「独学でもここまでできるっていうのを見せたかった」
画家・佐野凜由輔が切り開く新たな可能性 「独学でもここまでできるっていうのを見せたかった」

——もともと文化服装学院に通っていた佐野さんが画家を志した経緯から教えていただけますか?

佐野凜由輔(以下、佐野):文化服装学院のアパレルデザイン科に通っていたんですが、本当にパターンを引くのが下手くそで、周りにも優秀な人が多かったこともあり、2年生の頃に「一生服の仕事でやっていくのは難しいかも」と思い始めたんです。それでどうしようかなと漠然と考えていて、3年生の卒業間近の12月に「そういや海外のこと何も知らないな」と思って、以前から興味があったニューヨークに1週間ほど行きました。

最初は「ブルックリンミュージアム」にバスキアの作品を観ようと思って行ったんですが、ニューヨークの街はそこら中に現代アートがある環境で、そういったことにも触発されたんだと思います。それでニューヨークから日本に帰る途中で「画家になりたい」と思ったんです(笑)。

——それまでも絵は描いていたんですか?

佐野:Tシャツに描いたりする程度でした。学校を卒業して、1年間バイトしてお金を貯めて、もう1度ニューヨークにビザ無しで3ヵ月とりあえず行きました。そこで運良く、向こうに在住している日本人アーティストの方のアシスタントをさせてもらい、そこでアートやペインティングについて1から教えてもらいました。初めてキャンバスに絵を描いたのはその時です。

その師匠に「凜由輔は絵を描くのは速いから、とりあえずビビらずに描きまくれ」と言ってもらい、ニューヨークにいる時は絵をひたすら描きまくりました。その時に「絶対に画家になろう」と決意したんです。それで日本に戻ってきてからも展示のためにお金を貯めながら、絵を描き続けました。

——最初から今の作風でしたか?

佐野:もともとはボールペンで松本大洋さんのような線画を描いていました。でも、師匠から絵の具で描いた方がいいとアドバイスされて、それから今の作風になりました。

画家・佐野凜由輔が切り開く新たな可能性 「独学でもここまでできるっていうのを見せたかった」
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——佐野さんの特徴であるコラージュ的な作風もその時からですか?

佐野:それは最初からでしたね。コラージュに関しては、ファッションからの影響が大きいと思います。もともとリメイクものや「ジュンヤ ワタナベ」みたいに異素材をミックスさせるのが好きで。あと、色使いは「マルニ」の鮮やかな色の組み合わせの影響はあると思います。

僕の絵は1枚の中に綺麗なものがあったり、ストリートを感じるものがあったり、さまざまなモチーフが多層的にミックスされています。そのバランスに関しては、まだまだ発展途上で日々模索中です。

転機となった初個展とKing Gnuのジャケット

画家・佐野凜由輔が切り開く新たな可能性 「独学でもここまでできるっていうのを見せたかった」

——初の個展はいつ頃でしたか?

佐野:2018年11月です。それも本当に運が良くて、原宿の「offshore(オフショア)」ってギャラリー兼アパレルのお店をやっている的場(良平)さんと僕の友人が知り合いだったんです。的場さんに「個展やりたいです」って話したら、「うち(「offshore」)でやっていいよ」と言ってくれて。それですぐに準備をして、そこで初めての個展をやりました。

実はちょうど同じ時期に、その個展のフライヤーをPERIMETRONの(佐々木)集さんが見てくれたみたいで、King Gnuのアルバム『Sympa』(2019年1月16日リリース)のジャケットの絵の依頼がきて。個展とそのジャケットの制作時期が重なったんですけど、「ここが勝負どころだな」と思い、それまでやっていたバイトを辞めて、本気でその作品に取り組みました。本当に時間がなくて、めちゃくちゃ大変だったんですけど、それがきっかけで仕事も増えて、本気でやってよかったと思います。

——その時から「ZOOM」というタイトルでやっていたんですか?

佐野:そうですね。当時はそこまでコンセプトを決めずに自分の感覚で絵を描いていて、個展のタイトルもどうしようかと考えていた時に、友人から「佐野の作品からはいろんな景色が見える」っていわれて。確かに、引きで見た時と寄って見た時と作品の見え方も違ってくるなと思い、「ZOOM」というタイトルをつけることにしました。

あと、イームズ社が作っている「Powers of Ten」っていう動画もヒントになりました。その映像の中で1番引いた時と1番寄った時、どちらもノイズっぽくなる。観る視点を変えれば、同じものでも違って見えるし、逆に最終的には同じものでもある、みたいなことを提示できそうだなと思いました。

同じタイトルで中身をどんどんアップデートしていくと意味を込めて、「ZOOM」シリーズを続けています。回数を重ねるごとにOを増やしていて、今回は10回目なので「ZOOOOOOOOOOM」なんです。

画家・佐野凜由輔が切り開く新たな可能性 「独学でもここまでできるっていうのを見せたかった」
画家・佐野凜由輔が切り開く新たな可能性 「独学でもここまでできるっていうのを見せたかった」
画家・佐野凜由輔が切り開く新たな可能性 「独学でもここまでできるっていうのを見せたかった」
画家・佐野凜由輔が切り開く新たな可能性 「独学でもここまでできるっていうのを見せたかった」

30歳までの目標をかなえる

画家・佐野凜由輔が切り開く新たな可能性 「独学でもここまでできるっていうのを見せたかった」

——今回が10回目の個展ということですが、それもあって北海道(2023 年9月26日〜10月6日)と東京の2ヵ所で展示をしようと思ったんですか?

佐野:10回目というのはあまり関係がなくて、もともと30歳になるまでに自分で企画して大きな展示をやろうと、3年くらい前から考えていました。独学でアートをやってきた自分でも、ここまでできるっていうのを見せたくて。それで会場をどうしようかなと考えていたところ、地元の北海道への帰省中にモエレ沼公園に行った時に、ガラスのピラミッドでやってみたい、ここでやろうと決めました。ただ、モエレ沼は公園なので、展示はできても販売ができないんです。ちょうどその時に、MU GALLERYさんとのご縁があり、巡回展として東京でもやることになりました。

モエレ沼公園での展覧会では、企画から準備など全部自力でやったので、妻にも協力してもらい、本当に大変な毎日でした。でも、目標としていた30歳までに、思い出に残る企画展をやる、という目標をかなえられたことはよかったです。

また、2ヵ所でやることで、場所が違えば作品もまた違って見えて、そこも「ZOOM」っていうタイトルに繋がっているなと思います。

——今回、過去最大サイズ(3,000×5,400mm)の作品も制作していますね。

モエレ沼公園での展示風景

佐野:本当はもっと大きいのを作りたかったんですけど、キャンバスを調達できず、今制作できる最大のサイズとしてこの大きさになりました。

——佐野さんが現在、長野に住んでいるんですよね。それは大きい作品を作りやすいからですか?

佐野:そうですね。個人的には「売れる」「売れない」を抜きにして、大きなサイズの作品を作りたいという欲求があって。でも当時住んでいた埼玉の一軒家だとなかなか満足いくサイズが作れなくなってきて、たまたま知り合いが長野に移住したこともあって話を聞くと、長野もいいなと思い、良い場所が見つかったタイミングで3年前に移住しました。

あと、ノイズのない環境で制作することで、より自分にも作品にも向き合えるなと思ったことも移住した理由の1つです。

——立体作品制作も考えていますか?

佐野:それはまだ考えてはいないです。もちろんオファーがあったら前向きに考えることにはなると思いますが、自分的にはまずは絵をちゃんと描き続けることが今一番やるべきことだと思っています。それでもっと売れて、アーティストとして一人前に食べていけるようになったら、もしかしたら自分から作りたいと思えるかもしれないですね。

——今後は海外での展示も視野に入れていたりしますか?

佐野:そうですね。今回のイサム・ノグチがデザインしたモエレ沼公園での展示の実績が、海外に向けてのプレゼンテーションになるかなと思っていました。そうしたら、偶然ニューヨークのギャラリーから個展をやらないかとオファーをいただき、来年の夏頃に向こうで展示をやる予定です。

——確実に目標がかなっていますね。今後については?

佐野:本当に運が良いんだと思います。とりあえず今はそのニューヨークの展示をどうしようかなという感じでいろいろと考えています。体力が続く限り、全力で絵を描き続けていきたいと思っています。

佐野凜由輔「ZOOOOOOOOOOM展」

■佐野凜由輔「ZOOOOOOOOOOM展」
会期:2023年10月14〜28日
会場:MU GALLERY
住所:東京都品川区東品川1-32-8 TERRADA ART COMPLEX II 2F
時間:12:00~18:00 
休日:日曜、月曜
入場料:無料
https://www.mugallery-tokyo.com

Photography Yohei Kichiraku

author:

高山敦

大阪府出身。同志社大学文学部社会学科卒業。映像制作会社を経て、編集者となる。2013年にINFASパブリケーションズに入社。2020年8月から「TOKION」編集部に所属。

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