世界各国から押し寄せるオーディエンスを虜にするフェスティバル「Dekmantel Festival」を現地リポート

2013年にオランダはアムステルダムでスタートした「Dekmantel Festival(以下、Dekmantel)」。このフェスティバルをきっかけにDekmantelの名前は急速に世界に知れ渡るようになった。

Dekmantel Festival 2023

「Dekmantel」は元々、2007年にテクノ・ハウス系のクラブパーティーとしてスタートし、アムステルダムの伝説的なクラブStudio80等で開催されてきた。創設メンバーはDekmantel Sound Systemとしてもお馴染みの3人のメンバーであったが、現在はキャスパー・ティエルローイ(Casper Tielrooij)のみが活動している。

2009年に同名でレーベル始動。2012年からは「Lente Kabinet Festival」を、そして2013年から「Dekmantel」をスタート。さらに2016年から「Dekmantel Selectors Festival」をクロアチアのリゾートエリアで開催している他、世界各地でコラボレーションイベントを展開している。東京でもクラブイベントとして、2016年に渋谷のContactで2日間にわたり開催されたこともある。

来年で通算10回目の開催を控える同フェスティバルに、今年は日本からも世界のテクノシーンで活躍するDJ NOBUと、関西のアンダーグラウンドヒーロー、¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$U (Yousuke Yukimatsu)が出演するとあって、この機会に訪れてみた。

「Dekmantel」は、8月第1週目の週末にかけて5日間にわたり開催されている。元々はアムステルダム近郊のアムステルダムセ・ボス公園での野外フェスのみだったのだが、近年の都市型フェスの潮流にのり、オープニング2日間はアムステルダム市内の複数の会場を利用し、カンファレンスやクラブ・コンテンツも取り入れている。

開催初日と2日目のオープニングコンサートで最も注目を集めたのは、ジェフ・ミルズ・プレゼンツ・トゥモロー・カムズ・ザ・ハーヴェスト(Jeff Mills presents Tomorrow Comes The Harvest)だった。

『トゥモロー・カムズ・ザ・ハーヴェスト』は、テクノシーンのアイコン、ジェフ・ミルズ(Jeff Mills) が、2018年にアフロ・ビートの創始者・故トニー・アレン(Tony Allen)とベテランのキーボーディスト、ジャン=ファイ・ダリー(Jean-Phi Dary)とのコラボレーションにより、ブルーノートからリリースした完全即興の作品だ。

2020年にトニー・アレンがこの世を去ったあと、ジェフが「トゥモロー・カムズ・ザ・ハーヴェスト」のコンセプトを再構成し、ジャン=ファイ・ダリーに加え、タブラの名手プラブ・エドゥアール(Prabhu Edouard)を招き、ニュープロジェクトとして結成した。そして、今回の公演のみの編成として、トリオの3人に加え、アトランタのジャズシーンのフルート奏者ラシーダ・“ラ・フラウティスタ”・アリ(Rasheeda “Ra Flautista” Ali)も加わった。

ライヴがスタートするとジェフ・ミルズのドラムマシーンの演奏を中心にキーボード、フルート、そしてタブラが心地よく絡み合い、優しい音色ながらも大地の叫びのようなサウンドが会場全体を包み込んだ。

特に印象に残ったのが、演奏の中盤でのタブラのプラブとジェフとのセッションだった。人間技とは思えない高速のタブラにジェフがドラムマシーンで返すというシンプルなものだったが、その絶妙な駆け引きと息つく暇も与えない展開に観客は釘付けとなった。

壮大なスケールで繰り広げられたテクノ、ワールドミュージック、ジャズ、クラシックの要素を自在に操るマエストロたちの計り知れない音楽愛と完全なるインプロビゼーションにただただ圧倒された。

3日目からは、アムステルダムセ・ボス公園に会場を移して野外プログラムがスタート。広大な森の中には、計8つのステージが用意され、欧州を中心に世界各国から、テクノ、ハウス、ブレイクス系の新旧アーティストが集結した。

「Dekmantel」の象徴的なフロアだったメインステージだが、今年からはTHE LOOPというステージ名に変わり、DJブースが小さくなり、ダンスフロアを覆っていた大きな円形の屋根、そして象徴的だったタワーがなくなっていた。しかし、このフロア自慢のダンスフロアを囲むビジュアルスクリーンは健在で、暗くなると圧倒的な視覚効果でオーディエンスをトリッピーな世界に誘い、世界最高峰のファンクションワンスピーカーシステムと共に極上のダンスフロアを構築していた。

さらに音楽センスを深く知るためにセレクターズステージに足を運ぶ

「Dekmantel」といえば、その研ぎ澄まされた音楽センスの虜になっているファンも多いと思う。彼等のレーベルからのリリース作品やポッドキャストからもそのセンスの良さを知ることができるが、さらに音楽センスを深く知るには、フェスティバルでセレクターズステージに足を運んでみることをおすすめしたい。

今年も例年同様に多数の良質なミュージックセレクター(DJ)がこのステージに登場した。ブラジルのアーティスト・コレクティブで、レコード・レーベルでもあるGop Tun DJ’sのクルーや今は無きアムステルダム発オンラインラジオ局・レッドライトレディオ (RED LIGHT RADIO)の創始者でDJのOrpheu the Wizardとバルセロナの才人ジョン・タラボット(John Talabot)のB2Bセット。Dekmantelの中心人物キャスパー・ティエルローイ、そして、サイケデリックなダンスグルーヴで日本でも大人気のジェーン・フィツ(Jane Fitz)とベルリン拠点のイタリア人マルコ・シャトル (Marco Shuttle)のB2Bセット等々とエレクトロニック・ミュージック・ラバー垂涎のラインナップで、連日コアなファンを唸らせた。

日本勢にも目を向けてみると、2018年以来の参戦となったDJ NOBUの圧倒的な存在感と影響力には目を見張るものがあった。彼は今回、近年のニューヨークで絶大な影響力を誇るオーロラ・ハラール (Aurora Halal)とのB2Bセットとして、最上級のテクノフロア・UFOⅠステージに登場した。正統派なモダンテクノからアシッディーかつスぺーシーな選曲で息の合ったコンビネーションを披露し、欧州特有サウナ状態のフロアを巧みに操り、オーディエンスにテクノで踊ることの楽しさを今一度継承しているように映った。

また、DJとしての実力以外にも、彼の人間性を象徴するシーンに何度も遭遇した。バックステージや会場内のさまざまな場所で彼の元には世界各国から関係者やファンが集まっていた。そして熱心にディスカッションを行ったり、和気あいあいと戯れる姿を目の当たりにし、アーティストである前に1人の人間としてコミュニケーションを大事にしている彼のその真摯な姿勢に心を打たれた。

DJ NOBUがプレイする30分前には、個性派なテクノ系のアーティストが多く出演するUFOⅡステージに¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$Uが登場した。プレイ前に軽く挨拶をしてみたのだが、プレイに対するいい緊張感を感じられたと同時に、その場の雰囲気を十二分に察知しているように映った。一瞬で僕は彼の虜になってしまうくらい、自然体なその姿勢や立ち振る舞いに純粋なリスペクト感覚を覚えた。

プレイが始まるや自分を鼓舞するかのように全身全霊を傾けてフロアにパワーを送り込み、アナーキーな選曲ながらも何か奥深いやさしさが滲み出たDJセットを展開した。体幹に響きまくる重いベース音でぐいぐいと体を持っていかれた。プレイの途中で彼がTシャツを脱ぐと大歓声があがり、男気あふれるプレイにオーディエンスは酔いしれた。

この2人以外にも日本にルーツを持つアーティストが参戦していた。パリ生まれ、日本人の父と、スペイン人の母を持つDJ・アーティストのMika Oki。フランスで生まれ育った彼女も、今回DJセットで最終日にUFOⅡステージに出演。オウテカ(Autechre)のライブに影響を受けたというだけに、Warp系のエレクトロニカ調の曲があったり、ダブステップやレゲエ等の影響を感じさせる曲を駆使した幅広い音楽性を披露した。

プレイ後に彼女に話を聞くと来日経験が3度あり(2023年も4月に東京・幡ヶ谷のForestlimitやCIRCUS大阪等でプレイ)、日本のクラウドはきちんと集中して音楽を聴いてくれるのが素晴らしい。もっと頻繁に来日したいと気さくに話してくれた。また、現在、ヴィデオ作品やインスタレーション等、音楽のみならず美術の分野でも活動しているそうだ。

アーティスト以外にもケータリングで、日本が誇るソウルフードお好み焼き等を販売するFOODESCAPEの出店もあった。FOODESCAPEは、オランダの主要な音楽フェスにほぼ参加している。スタッフも半数くらいの割合でオランダ人が働いており、屋台の味を再現しつつ、日本とオランダのカルチャーが交流する場としても機能している。

ベルリン拠点のストリーミングスタジオHÖRのステージ

今年の「Dekmantel」でひときわ注目が高かったのがRadarステージだ。ここは2013年から2022年まで「Boiler Room」のステージとなっていたのだが、今回から新たに、ベルリン拠点のストリーミングスタジオHÖRのステージとなった。HÖRは最近ロンドンにもポップアップ・スタジオを立ち上げる等、現在、最も勢いのある配信プラットフォームだ。当然、このステージでのセットはすべてHÖRで生放送されていた。「Boiler Room」からHÖRに単に配信のプラットフォームが変わっただけでなく、ステージの作りにも大きな変化が見られた。DJブースを取り囲むように、建設現場で使われる足場がジャングルジムのような形に組まれており、お客さんはDJと同じ下のフロアで踊ることもできるし、上の段に登って、2階、3階に位置する高さから、ブースを見下ろしながら踊ることもできる。このような複数のレベルから構成されるフロアは野外フェスティバルでは珍しいのではないだろうか。

「Dekmantel」に限らず、ヨーロッパのフェスティバルの多くは、近年環境問題に積極的に取り組む姿勢を打ち出している。フェスティバルの開催がCO2排出に与える影響として、もっとも大きなものが参加者やアーティストによる航空機や自動車の利用である。もちろん、インターナショナルなアーティストを多く招いたフェスティバルで航空機の利用を減らすには限度があるが、「Dekmantel」の場合は、航空機から排出される温室効果ガスのオフセットに取り組む非営利団体と協力したり、参加者のアムステルダム市内から会場への移動に自転車を使うことを推奨したりする等して、CO2排出の削減方法を模索している。

また、「Dekmantel」を含むオランダのイベントでは、チケットに「CO2排出量をオフセットする」オプションが設けられることも増えている。これは、参加者が1ユーロをチケット代に上乗せして支払うことで、排出削減に向けた活動に寄付できるというものだ。

他にも会場内ではスタッフによるゴミ拾いも頻繁に行われており、会場内が比較的きれいに保たれていたのは好印象だった。

ちなみに、「Dekmantel」では2016年から100%再生可能なバイオ燃料でフェスティバルを開催している。

ステージ数、各ステージの規模、入場者数等、巨大なフェスティバルに感じられた「Dekmantel」。ダンスミュージックという、日本では、まだまだニッチなこのジャンルで、日本よりもはるかに人口の少ないオランダでこれだけの規模のイベントが実現できてしまうことに驚かされた。

音楽的には今後期待のできるアーティストをはじめ、ベテランから中堅まで幅広くブッキングされているので、ダンスミュージックの真髄やそのルーツを知ることができる。今年はドラムンベースやブレイクス系のサウンドに、BPMが速いレイビーなテクノが多かった印象だ。

そして今年は、土曜の夕刻から日曜にかけて、ほぼずっと雨が降り続き、気温も低く、オーディエンスは過酷な状況下で遊ぶことを強いられていた。しかし、そんな中でも力強く踊り、目一杯フェスティバルを楽しんでいる姿が目に焼き付いた。

また、環境問題への積極的な取り組み等は、日本のイベントも今後取り入れられる部分があるのではないだろうかと考えさせられながら、今年の「Dekmantel」は幕を閉じた。

Direction Kana Miyazawa
Photography Yannick van de Wijngaert、Pierre Zylstra、Tim Buiting、Sofia Baytocheva、Jente Waerzeggers、So Oishi、Nori
Support So Oishi

author:

Norihiko Kawai

DJ・ライター、二卵性双子の父親。愛知県生まれ・東京育ち、2015年からオランダはアムステルダムに在住。エレクトロニック・ミュージックを愛し続けて、はや30年余りが経過。東京・ヨーロッパを中心としたDJ・オーガナイズ活動の経験を元にライターとして活動。主にヨーロッパのフェスやローカルカルチャーを探求中。 Twitter:@Nori

この記事を共有