対談:Alex from Tokyo × DJ NORI 『Alex from Tokyo Presents Japan Vibrations Vol.1』から考える1980〜90年代のエクレクティックな日本の音楽

Alex from Tokyo(アレックス・フロム・トーキョー)
1973年、パリ生まれ。4歳の頃に東京に移住し、18歳から22歳はパリの大学に在籍し1991年に東京へ戻る。10代後半よりDJをスタートし、1993年にはDJ Deep、DJ GregoryとともにDJユニットA Deep Grooveを結成し、90年代~2000年代はイギリスのレコードレーベル/レコードショップ「Mr.Bongo」東京支社や、ローラン・ガルニエのレーベル「F Communications」の特派員を務める。DJとしては東京、パリ、ニューヨーク、ベルリンを拠点に世界各国様々なパーティにて活躍。楽曲制作の面では、サウンドエンジニアの熊野功とのTokyo Black Starにてこれまでに数々のEP、アルバムをリリース。また2019年にベルリンにて自身のレコードレーベル「world famous」を再起動。現在はパリを拠点にワールドワイドに活動中。
http://www.instagram.com/alexfromtokyo/

DJ NORI
1979年に札幌にてDJを開始。86年に渡米しニューヨークにてDJプレイを経験。伝説のDJ、ラリー・レヴァンとともにプレイをする経験を持ち、映画『MAESTRO』では世界のダンスミュージック・シーンに影響を与えたDJとして出演。90年に帰国後は、芝浦GOLDのレジデントDJとして活躍。06年、初のミックス・アルバム『LOFT MIX』をリリースし、09年には活動30周年を記念し「DJ NORI 30TH ANNIVERSARY」を開催し、30時間ロングセットを達成。現在はレギュラーパーティの他、DJ MUROとの7インチ・バイナルオンリーのDJユニットCAPTAIN VINYLとしても活躍中。
http://www.instagram.com/norihisamaekawa

長年にわたって活動をし続けてきたAlex from Tokyo(アレックス・フロム・トーキョー)が、日本の楽曲をセレクトしたアルバム『Alex from Tokyo Presents Japan Vibrations Vol.1』(world famous)をリリースした。本作はパリ生まれのフランス人でありながら、DJ名を「フロム・トーキョー」と自ら名付け、東京カルチャーを胸にワールドワイドに活躍するアレックスが思案を重ね作り上げ、彼が音楽に目覚めDJを始めた1980年代、90年代の日本のエクレクティック(和洋折衷)なサウンドをセレクト。

さて、どんな内容のアルバムに仕上がったのか、レコードが仕上がったタイミングで来日を果たしたアレックスと、彼と長年の付き合いのある日本のトップDJ、DJ NORIに話を聞いてみた。ちなみにアレックスとDJ NORIは、DJ NORIが1990年代にアルバイトをしていた渋谷のレコードショップ「DJ’s STORE」で出会って以来、後に伝説のハウスミュージックパーティ「Gallery」を共にオーガナイズし、DJプレイをしてきたソウルメイトだ。

「自分がリスペクトしているヒーローに対するオマージュを表現したかった」(アレックス)

——『Alex from Tokyo Presents Japan Vibrations Vol.1』は、いつ頃から構想を練っていたのでしょうか。

アレックス・フロム・トーキョー(以下、アレックス):ニューヨークに住んでいた頃からかな。日本関連の内容のプロジェクトをワールドワイドにやりたいと思っていて、パンデミック中にどのようにこの企画を立ち上げればいいのかを考えた結果、自分のレーベル「world famous」から出そうと思い立ったんだけど、個人的な経験をベースとしたプロジェクトだから自分でやるしかないと。

人生の半分を日本で過ごして、東京は自分にとっても1つのホームでもあるから「Alex from Tokyo」という名前にして。その名前で僕は海外で知られているけど、7年前にベルリンに引っ越してヨーロッパでレコードレーベルを再起動しようと思った時、自分がこれまで経験したことをヨーロッパへ紹介することをしたいと思ったんだよね。その第1弾として、自分の生活の基盤にあるミュージックライフ……1980年代に東京のダンスミュージックに出会って、東京のアンダーグラウンドクラブへ行き始めたところからスタートしようと思って、エレクトロニック・ダンスミュージックを幅広くエクレクティックに、当時出てきていたいろいろな“バイブレーション”を感じる曲を11曲選んで、それを2枚組のアナログレコードでリリースしたんだ。良いサウンドシステムで聴けるリスニング向けであり、DJプレイにも使えると思う。

——日本の音楽を欧米の人達へ紹介する作品を意識されたんですね。

アレックス:もちろんヨーロッパだけではなく、日本を含め世界に向けてだよね。日本の情報は海外では意外と少なくて、世界中のいろんなところにDJで行くと、いつも日本のことを聞かれる。だから、ただレアな音源だけを集めたコンピレーションではなくて、文化的な企画として作りたくて、それぞれの曲に関して当時の状況も含めた解説文やライナーノーツを書いたり、当時の雰囲気が伝わる写真を使ったりして、そう考えると大掛かりで豪華なプロジェクトになったと思う。ここ数年は特に日本のクラブやレコードレーベルについて、多くの人達が興味を持ってくれている。日本にセンスのいい人達がいることは昔から知られていて、いろいろな意味で日本の音楽は注目されているから。

——今回は、どのような音源をセレクトされたのですか。

アレックス:今でもDJをする時にかけているタイムレスな曲でもあって、自分がインスピレーションを受けたアーティスト達の曲。だからヒット曲のベストコンピレーションではなくて、自分のミュージックライフや経験の中で通ってきた道の中で、本当に刺激をもらった曲であり、そうしたアーティストへのオマージュでもあるよね。それと日本の皆さんへ向けたラブレターでもある。

——DJ NORIさんはアルバムを聴いてみて、いかがでしたか。

DJ NORI:本当にDJが作ったコンピレーションだなと思います。もちろんDJでこのアルバムの中から1曲だけをかけるというのもありなんだけど、セレクションや曲順、世界観がすごく統一されていて気持ちいい流れになっているので、A1からA3まで、そこからBサイドまで聴いていて全く違和感がない。それとダンスミュージック・アンビエントのコンピレーションとして成り立っているなと、感じました。 

——自分も全体を通じて、この時代のエレクトロニック・ミュージックにおいてのアンビエントがあると改めて感じました。

アレックス:そうだね。一時期はアンビエント・ハウスという言葉があったくらいだと思う。

DJ NORI:このコンピレーションの中には80年代の曲もあるけど、この時代の日本人の繊細さだったり、日本人独特の音楽性をすごく感じるんだよね。それがダンスミュージックやリスニングミュージックとか、いろんなものを超えた上でアレックスがチョイスして1つのものに完成されたというか。普通のコンピレーションとは違うなと、思いましたね。 

——80年代、90年代の日本人アーティスト達が放つ独特なサウンドの質感があると思います。収録されている中で一番古いのは80年代前半ですよね。

アレックス:このアルバムの中で一番古いのは、84年にリリースされた坂本龍一さんの曲(Ryuichi Sakamoto「Tibetan Dance(Version)」だね。

DJ NORI:坂本さんは既にこの時代に、自然にこれを目指して曲で表現したのかなと思うと素晴らしいよね。沖縄音楽にもはまっていた頃だと思うし。 

アレックス:そうなんだよね。この曲が入っている『音楽図鑑』はちょうどY.M.O.を辞めた後に出したソロアルバムで、それまでと全く違うマインドセットを感じるというか。笙(しょう)の演奏者もフューチャリングしていて、サンプリングで使っているんだよね。「フェアライトCMI」という当時の革新的なシンセサイザーが使われているんだけど、いち早く坂本さんが日本で使っていた。だからきっと実験的な気持ちでアルバムの制作に取り掛かっていたんじゃないかな。

それに、このバージョンは、84年にリリースされた限定版のアルバムの中にボーナスで入っていた「Tibetan Dance」のダブバージョンなんだよね。オリジナルも大好きなんだけど、自分がダンスフロアでよくかけていたのはこのダブバージョンで、これがレコードに入るのは初めてになる。

DJ NORI:それと細野晴臣さんの曲(Haruomi Hosono – Ambient Meditation #3)にはスペイシーなアンビエントの世界感があって、細野さんはこの曲から先はアンビエントな感じになっていくよね。坂本さんも細野さんも常に先を行ってるよね。アレックス:今回の細野さんの曲は、93年にリリースされたアルバム『MEDICINE COMPILATION from the Quiet Lodge』に入っているんだよね。日本では数年前に再発されたんだけど、ライナーを読むとアンビエント・ハウスをテーマでやっているんだよ。細野さんそれまでのアルバムとは違う空気感で、アンビエントの雰囲気を取り入れたダンスミュージックというか、絶妙な時代だよね。僕は子供の頃からY.M.O.にはすごく影響を受けてきたし、このアルバムでは自分がリスペクトしているヒーローに対するオマージュを表現したかったんだ。

「このアルバムの良さは、日本の時代に古さを感じないということ」(DJ NORI)

——80年代後半、NORIさんは日本にいらっしゃいましたか?

DJ NORI:80年代後半はもうニューヨークにいたんだけど、藤原ヒロシくんの「T.P.O – Hiroshi’s Dub(Tokyo Club Mix)」は当時聴いていた。あの曲のボーカルは(高木)完ちゃんで、タイニーパンクスとハウスミュージックの融合みたいな。アレックスが選んだのは、僕の札幌時代からの友達のHEYTA(DJ HEYTA)のミックスだよね。この曲は89年にリリースされたけど、89年といえば「芝浦 GOLD」がオープンした年だから、まさに東京でハウスミュージックが確立されるタイミングにこの曲がリリースされているわけ。それを僕は日本へ帰ってきた時にHEYTAに聴かせもらって初めて知ったんだけど、シカゴ的なグルーヴが入っているし、すごくいいなと思った。この曲はHEYTAの他に、ダブマスターXやSatoshi Tomiieもミックスをやっていているよね。

アレックス:この間、完さんが説明してくれたけど、T.P.O.(藤原ヒロシと高木完によるユニット)で「Punk Inc.」という曲を作って、その曲をヒロシさんがリミックスしたのが「Hiroshi’s Dub」になって、それをさらにHEYTAさん、Satoshi Tomiieさん、ダブマスターXさんがリミックスをしたっていうものなんだよね。雷の音で始まるドラマチックなHEYTAさんのリミックスは、あの時代にクラブに行っていた人なら耳にしたことがあるアンダーグラウンド・シーンのテーマ曲だよね。僕にとっては当時の東京のシーンを思い出させるサウンドトラック的な曲。

DJ NORI:それで「Hiroshi’s Dub」の後に、Okihide「Biskatta」が入っているのも自然な感じがしていてすごく良いんですよ。この流れはアレックスのセンスだよね。DJミックスを超えた上でちゃんとした音の流れというか。

——この曲は90年代ですけど、当時のUK発のアンビエントやレイヴを感じました。

DJ NORI:ジ・オーブなどのアシッドハウスや、 ソウル2ソウルなども出てきて、やっぱり89年あたりから出てきたUK色はすごく日本に影響を与えていたのかなと感じます。だからイギリスのものと日本のものは近いというか。


アレックス:その頃の日本のサウンドは、ニューヨークとロンドンの影響がものすごく強いよね。

DJ NORI:一方その頃ニューヨークは、アメリカなんだけどアメリカじゃないみたいなところもあるしね。ニューヨークはいろんな人種がいるから、ヨーロッパの音楽も入ってきていて、その中で出てくるのがニューヨーク・サウンド。

アレックス:それこそ88年に僕が初めて行ったクラブが「BANK」で、飯倉交差点の少し手前の地下にあった狭いスペースのクラブだったんだけど、そこもニューヨーク、ロンドンのサウンドがミックスされていたね。



DJ NORI:88年、89年あたりはちょうどディスコからクラブに移行されていた時代で、ディスコ世代ではない、最初のクラブ世代だね。

アレックス:当時の日本のレコードショップだと現在の六本木ヒルズの場所にあった「WAVE」が象徴的だと思うけど、そこでUKをはじめとした最先端のヨーロッパのものがたくさん売られていて、それで「WAVE」の店員さんにすごく面白いアンダーグラウンドなクラブがあるよって「BANK」を教えてもらったの。だからNORIさんが言うように、ディスコ世代ではない、クラブ世代である自分をこのアルバムで正直に表現したかったのかもしれない。

——このアルバムを通じてNORIさんが改めて感じた、80年代半ばから90年代半ばまで楽曲の印象的なことは何でしたか?

DJ NORI:時代に古さを感じないということですか。このコンピレーションだとサイレント・ポエツの曲(Silent Poets「Meaning In The Tone(95’ Space & Oriental)もだし、ニューヨークで知り合ったHiroshi Watanabeくんの曲(Quadra「Phantom」)もだし、坂本龍一さんの曲のこのバージョンも知らなかったのでとても新鮮でした。モンド・グロッソの曲(Mondo Grosso「Vibe PM(Jazzy Mixed Roots)(Remixed by Yoshihiro Okino)」もすごく好きで、モンド・グロッソの曲がリリースされたのは 94年だけど、95年あたりがシーンの変わり目なんだよね。音楽的には89年にいろんなものが出てきて、 95年あたりからそれがさらに広がっていってって。ハウスではハードハウスもだけど、音数が増えていって、ハウスのシンプルな部分がどんどんなくなっていく。それとメジャーの音楽も多くなってきていた時期だよね。その中でジャズのテイストも出てきて、それが新鮮だったり。日本でクラブジャズが出てきた時、ニューヨークでは「BODY & SOUL」とかが始まって、ハウスミュージックではジョー・クラウゼルとか次の世代が活躍し始めたりとか、それまでとは異なったグルーヴになっていくんだよね。 

——日本のクラブジャズの中で、なぜモンド・グロッソの曲を選んだんですか。

アレックス:あの時代はいろいろなクラブジャズをやっているアーティストがいたから、今回は必ずクラブジャズを1曲入れたかった。だけどライセンスに関して、日本のメジャーレベルはすごく難しくて。特にジャズに関してはメジャーが持っている音源が多いというのもあるんだけど、アーティストが損しているよね。そんな経験も今回のコンピレーションを制作した中で感じました。


——この時代はメジャーレーベルがクラブミュージックを扱っていたんですね。

DJ NORI:そう。だから制作に関してお金のかけ方が全然違う。 DEF MIXのリミックスはほとんどメジャーレベルから出ていたし、この時代にメジャーで作られたクラブ系の音楽は30年経った今聞いてもクオリティが高いものが多いよね。

アレックス:音の鳴りが全然違うというか、クオリティに差がある。 

——今回、アレックスとともにTokyo Black Starで活動しているサウンドエンジニアの熊野功さんがリマスタリングを行い、今の時代に向け各曲をさらにヴァージョンアップさせと思いますが、どんなサウンドに仕上がりましたか?

アレックス:僕と熊野さんは、2人で90年代から一緒にTokyo Black Starというエレクトロニック・デュオをやっているんだけど、2010年に「PHONON」というオーディオブランドを始めて、熊野さんがサウンドエンジニアとして音の開発やチューニングをしてくれている。僕は熊野さんの音がしびれるほど好きなんだけど、彼のスタイルは高級ハイ・フィデリティ(Hi-Fi)なんだよね。僕がちょうど知り合った90年代からサウンドエンジニアをやっているけど、当時はエイベックス関連のヒット曲をマニピュレートしている反面、90年代末くらいからパーティーにサンドシステムを出している。クラブのサウンドシステムの文化を持ちながら、ハイファイな音も作ることができる、ただのHi-Fiで綺麗なサウンドだけじゃなくて、ローもすごく出せる、その融合ができる人。曲によってはレベルが低いものもあって、DJする時にかけられなかったりすることがあるんだけど、リマスタリングしたおかげでどれもクラブで響くように仕上がった。

DJ NORI:熊野さんがサウンドシステムをやっていたってことを初めて知ったけれど、低音が出ているよね。音が聞きやすくなっているから、そういう意味でこのアルバムは本当にお得ですよ。

「やっぱり、いいレコードしかターンテーブルに乗らないんですよ」(DJ NORI)

——Quadra、Mind Design、Okihide、C.T. Scanなど、日本のテクノ系アーティストの作品も多くセレクトされましたが、日本には本当にたくさんの良いテクノ系のインディーズ・レコードレーベルがあることを再確認しました。

アレックス:KEN=GO→さんの「Frogman Records」、山崎マナブさんの「Sublime Records」、それとMind Designのリリース先だった澤田朋伯さんがやっていた「TRANSONIC RECORDS」や、他に「Syzygy Records」とか、90年代初頭は日本のテクノの勢いは凄くあったよね。「Hiroshi’s Dub」が出てきた後に、Hisa Ishiokaさんが「King Street Sounds」の前にやってた、レーベル「La Ronde Label」もそうだし、寺田創一さんがやっていた「Far East Recordings」もだけど、当時は日本でも日本のエレクトロニック・サウンドのレコードを買うのが難しかった。 枚数も限られていたのもあるだろうけど、その時はニューヨークやロンドンに日本のレコードが置いてあった印象がある。

DJ NORI:確かに僕が初めて寺田創一君のSoichi Terrada & Nami Shimada「Sunshower」をレコードを聴いたのは89年なんだけど、ラリー(・レヴァン)がプレイしていて、音がすごく良かったことを覚えていますね。それでその曲を好きになったんですけど、ラリーのようなDJは音のクオリティの良さで曲を選ぶし、ジャンルが云々の前に音が良ければターンテーブルにレコードが乗るわけ。だからいいレコードしかターンテーブルに乗らないんですよ。

——このアルバムの中でも異彩を放っていたのが、清水靖晃さんの「Tamare-Tamare」ですが、アレックスにとってどのような曲になりますか?

アレックス:清水靖晃さんはサクソフォーン・プレイヤーで活躍する世界的なトップ・ミュージシャン。細野さんや、坂本さんの作品に参加しているし、本当にすごい才能を持ったマルチ 演奏者だよね。この曲は87年にリリースされたんだけど、当時、清水さんがパリに一時期住んでいた時に、パリでレコーディングされたもの。ミュージシャンもエンジニアも向こうの人達で、パリのスタジオで収録されたものになる。ちょうど86年あたりは、パリやロンドンでワールドミュージックのブームがあった頃で、清水さんはパリでそのバイブレーションを録音した人。「Tamare(タマレ)」とは、「ダンス」という意味なんだけど、この曲が当時出た頃から僕はDJでかけている大好きな曲。それと日仏コネクションがこの曲には含まれているから、個人的なストーリーとしてもいいなと思った。

——そしてPrismこと、横田進さんのことを紹介いただけたらと思います。

アレックス:横田さんとは、東京とパリのアンダーグラウンドミュージックを行き来をしていた、95年に東京で知り合ったんだよね。91年の9月に僕がパリに戻った時にテクノやレイヴ・ミュージックを知って、そこからローラン・ガルニエやDJ ディープに出会い、その場で思い切って「Rex Club」とかへ遊びに行ったりしていたんだけど、それまであまり日本には入ってきてなかったヨーロッパのサウンドをその頃に体験してすごく衝撃を受けたの。その中で、僕は東京で体験してきたサウンドも自分の中にあったから、パリで DJ をやる時も自分のスタイルを作るようにしていたんだけど。

——その頃に出会ったパリのDJ達は、どのようなスタイルでプレイをしていたんですか?

アレックス:DJディープと知り合って彼と一緒にDJ をやるようになった頃は、ニューヨークのハウスをかける人たちはパリには少なかった。デトロイトやシカゴにしてもハードなものがかかっていた中で、ディミトリ・フロム・パリス、ローラン・ガルニエ、DJディープなんかは、テクノの中でもハウシーなものもかけたりしていた。ちょうどその頃にローランが「F Communications」という レーベルを立ち上げて、自分が日本に戻る前にフランスのレーベル のプロモーション音源などを日本のDJ達に配ったりしていて、そこから「F Communications」の日本の代表になったんだけど、その頃に「Sublime Records」の山崎さんと知り合って、彼が横田進さんを紹介してくれたんですよ。

横田さんの「METRONOME MELODY」というアルバムをもらって、その頃に僕は「Mr.BONGO」というレコード屋でアルバイトをしいたんだけど、横田さんがよく遊びに来てくれていてそれで仲良くなって、98年くらいに恵比寿に「Lust」というクラブができた時に、横田さんがパーティーを始めたいということで「Skintone」をスタートして、僕はそれにDJとして参加することになったんだよね。横田さんは本当にピュアなアーティストで、海外でもすご人気があった。DJすることが本当に好きで、パーティではレフトフィールドな音源をかけたり、とてもアーティスト気質の強い人だったよ。

「こんなに素晴らしい日本の音楽があることを知ってもらいたい」(アレックス)

——Vol.1ということは、Vol.2の構想も考えていますか?

アレックス:『Japan Vibrations』をシリーズ化して、日本のサウンドを世界に紹介したいなと思っているんだけど、本やドキュメンタリーフィルムの制作もやってみたいなと思っています。今回ヨーロッパでは文化プロジェクトとして『Japan Vibrations Vol.1』のリリースパーティーをやって、アルバムを最初から最後まで聴いてもらって、その後にクラブでパーティをしようと思っている。新世代の人達にはこんなに素晴らしい日本の音楽があることを知ってもらいたいし、インスパイアしてもらえたら嬉しいよね。

——NORIさんからアルバムについてメッセージを頂けますでしょうか。

DJ NORI:このアルバムの良さは、やはり人々のパワーを感じることじゃないでしょうか。クリエイターがどんどん出てきた時代だったと思うし、楽曲や、使用機材の素晴らしさを感じることができるコンピレーション。それとクラブカルチャーの流れを感じるこの時代のクロスオーバー感。それを選曲から感じることができるし、アレックスだからこそ表現できたのだと思います。パリで生まれてるけど、結局アレックスのルーツは東京なんだなと感じさせてもらいました。ディミトリはfrom Parisだけど、アレックスは from Tokyo……他のフランス人とは違うところだよ。

Photography Keee

V.A.『Alex from Tokyo presents Japan Vibrations vol.1』

■V.A.『Alex from Tokyo presents Japan Vibrations vol.1』
world famous
2枚組LPアナログ盤/CD/デジタルにて配信
[アナログ盤収録曲]
A side:
A1 Haruomi Hosono – Ambient Meditation #3 
A2 Silent Poets – Meaning In The Tone (’95 Space & Oriental) 
A3 Mind Design – Sun 

B side:
B1 Quadra- Phantom 
B2 Yasuaki Shimizu – Tamare-Tamare
B3 Ryuichi Sakamoto – Tibetan Dance (Version) 

C side:
C1 T.P.O. – Hiroshi’s Dub (Tokyo Club Mix) 
C2 Okihide – Biskatta 

D side:
D1 Mondo Grosso – Vibe PM (Jazzy Mixed Roots) (Remixed by Yoshihiro Okino) 
D2 Prism – Velvet Nymph 
D3 C.T. Scan – Cold Sleep (The Door Into Summer) 

author:

Kana Yoshioka

フリーランスエディター/ライター。1990年代前半ニューヨークへの遊学を経て、帰国後クラブカルチャー系の雑誌編集者となる。2003年~2015年までは、ストリートカルチャー誌『warp』マガジンの編集者として活動。現在はストリート、クラブカルチャーを中心に、音楽、アート、ファッションの分野でさまざまなメディアにて、ライター/エディターとして活動中。

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