佐久間宣行 Archives - TOKION https://tokion.jp/tag/佐久間宣行/ Fri, 15 Sep 2023 00:16:21 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.4 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png 佐久間宣行 Archives - TOKION https://tokion.jp/tag/佐久間宣行/ 32 32 佐久間宣行が考える40代以降のクリエイティブと自身の未来 「40歳までにいろんなものを吸収しまくってきたからこそ今がある」 『LIGHTHOUSE』インタビュー後編 https://tokion.jp/2023/09/15/interview-nobuyuki-sakuma-lighthouse-vol2/ Fri, 15 Sep 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=207849 Netflixシリーズ『LIGHTHOUSE』の企画・演出とプロデューサーを務める佐久間宣行インタビュー。「中年の危機」をテーマに、佐久間自身のキャリアと未来に迫る

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佐久間宣行
1975年、福島県いわき市生まれ。テレビプロデューサー、演出家、作家、ラジオパーソナリティ。『ゴッドタン』『あちこちオードリー』『ピラメキーノ』『ウレロ☆シリーズ』『SICKS~みんながみんな、何かの病気~』『キングちゃん』などを手掛ける。元テレビ東京社員。2019年4月からラジオ『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)』のパーソナリティを担当。YouTubeチャンネル『佐久間宣行のNOBROCK TV』も人気。Netflix『トークサバイバー!〜トークが面白いと生き残れるドラマ〜』、『LIGHTHOUSE』〜悩める2人、6ヶ月の対話〜を手掛け、2023年10月10日から『トークサバイバー!〜トークが面白いと生き残れるドラマ〜』のシーズン2も配信。著書に『佐久間宣行のずるい仕事術 僕はこうして会社で消耗せずにやりたいことをやってきた』(ダイヤモンド社)などがある。
Twitter:@nobrock
Instagram:@nobrock2

漫才師の若林正恭(オードリー)と音楽家の星野源が、それぞれの苦悩や問題意識について互いに語り合う、Netflixシリーズ『LIGHTHOUSE』が配信された。企画・演出とプロデューサーを務めるのは佐久間宣行。Netflixでは『トークサバイバー!~トークが面白いと生き残れるドラマ~』に続く2作目となる。インタビュー後編では、番組でも話題に上がった「中年の危機」をテーマに、佐久間自身のキャリアと未来に迫る。

退社したのはセルフケアの観点が大きかった

——『LIGHTHOUSE』では、いわゆる「中年の危機」的なことがたびたび話題に上がっていましたが、佐久間さん自身はどうですか。

佐久間宣行(以下、佐久間):そもそも僕が2年前に会社を辞めたのは、これ以上会社にいると、どうしたって社内政治とも向き合わなきゃいけない年齢だったからで。うまくできたかもしれないし、できなかったかもしれないし、それはやってみないとわからないけど、そこに時間を取られるのはきついな、メンタルはやられるだろうなっていうのはわかったから。それだけが理由ではないですけど、理由の1つではありますね。セルフケアの観点がやっぱり大きかったと思います。

——メンタルではなく、体力的な不安を感じたりもないですか。

佐久間:これは本当に申し訳ないけれど、僕はないんですよ。すこぶる元気です(笑)。

——「もうやりきった」「飽きた」みたいなこともない?

佐久間:うーん……ないですね。というか、『LIGHTHOUSE』で話していた2人の苦悩は、漫才にしても音楽にしても、ゼロから作る表現じゃないですか。自分の中から作品を生み出し続けるのは、想像を絶する苦しさだと思います。

その点、僕の場合は、あの人にはどんな企画が合うだろうとか、あの人にこんなことをやってほしいとか、企画を考えるにしても、基本は誰かをサポートするような役回り。ゼロから作品を生み出すのとは全く違う。なので、作家の人達が言う「やりきった」とかは、今のところないですね。前に秋元康さんが、「自分の中から出てくるものだけで歌詞を書いていたら、30代で何も生まれなくなってた」って言ったんです。秋元さんの作詞は、自分のための表現ではなく、目の前にいるグループのメンバーに向けて書いてるから。

——条件や制限がある中での番組作りも、苦ではないですか。

佐久間:むしろ、左脳で考えなきゃいけない条件や制限があるほうが、僕はアイデア浮かびますね。好きなように自由にどうぞって言われると、何作ったらいいかわからない。よく人から「佐久間さんは理詰めで作ってますよね」とか言われますけど、僕は入り口から途中まではバチバチに理詰めで考えて、最後は適当に遊びを入れるんです。そういうバランスが自分には合ってるんでしょうね。

企画は40代前半のうちに思いついておこう

——番組の中では、これからの未来をどのくらい見据えているかも話題になっていました。

佐久間:僕は根がネガティブなので、40歳になった時にはもう、5年後には自分のセンスはバラエティでは通用しないなと思ってましたよ。だからこそ、企画は40代前半のうちに思いついておこうって。今のところまだズレないでやれているのは、40歳前後までに、映画でも舞台でも漫画でも本でも、とにかくいろんなものを吸収しまくってきたからだと思います。どんなに忙しい30代の時も、40代になっても、映画館や小劇場に通ったり、本を読んだりすることだけは絶対に続けてきた。……と言いながら、根がネガティブなので、50代はさすがに通用しないだろうなとは思ってますけどね(笑)。

——通用しない50代になったらどうするんですか。

佐久間:センスだけでは作れないようなストーリー性のあるものとか、バラエティのジャンルではなくても、お笑いの知見があるからこそ作れるようなものを、今のうちから見つけておこうと思ってます。

——思いっきり見据えてますね。

佐久間:音楽家も漫才師も基本はライブカルチャーなので、目の前にいるお客さんと一緒に年齢を重ねていくことができるんですよ。でもテレビはメディアなので、常に若い人をターゲットにしないといけない。少なくとも今は、ある程度の可処分所得がある若者や、現役でバリバリ働いている世代に向かって作らないと、メディアはビジネスにはならないです。この先、引退した高齢層がめちゃくちゃお金を使うようになったら、ビジネスの構造がガラッと変わるかもしれないですけど。

——テレビの視聴率競争は、むしろ高齢層を狙っているのでは?

佐久間:それは3年くらい前までの話ですね。高齢層に向けたゲーム理論で作っていたら、情報番組だらけになった。それでテレビは延命したんですけど、いまやテレビCMよりも、ネット広告のほうが正確にターゲティングできて、スポンサーもそっちに流れています。テレビであっても、ファミリー層や若い層の数字を取らないと、スポットCMが入らないのが現状です。

若くして人前に出る決断をした人達は、大きな川を渡った特殊な人達ですよ

——マーケティング的な思考と、バラエティ的な「おもしろい」を考えることは、佐久間さんの中でどういうバランスなのでしょうか。

佐久間:どんなにくだらない企画を考えるにしても、まず実現させるための仕組みを知らないと、本当に好きなことはできない、という感じですね。仕組みを理解した上で、ビジネスとして成立させる橋をちゃんと作ってから、ここから先は好きにさせてください、っていう。そうしないと再現性が生まれないんですよ。思いの丈をぶつけて一発勝負をしても、1回で終わっちゃう。たとえ1回で終わるにしても、何を勝負したのか自分でわかってないと、上を説得することもできないじゃないですか。そのためには、言語化するって大事だなと思います。

——そういう思考の持ち主だと、例えばオードリーの春日さんのような、天然成分の多い人に対する憧れがあったりしますか。

佐久間:どうだろうなぁ。僕も今でこそ人前に出る仕事もしていますけど、そもそも10代や20代で人前に出ることを選択した人は、全員天然だと思ってますね。ボケとかツッコミとか関係なく、とにかく人前に出る決断をした人達は、一般の人では渡れない大きな川を渡った特殊な人達ですよ。だからこそ、かっこいいし、心から尊敬します。

——今では佐久間さんもその川を渡った人、という認識でいいですか。

佐久間:ある意味では多少そうかもしれないけど、僕の場合は40歳を過ぎてから、ですからね。もう自意識とか言ってる年齢じゃなくなってからのことなので、大きな川を渡ってはいないですよ。今でも基本的には、役割が明確で、自分がやったほうがいいなと思う場合は出役もやりますけど、「とりあえず出てほしい」みたいなオファーは全部断ってますから。     

——これから先、だいぶ遅れて大きな川を渡る可能性はないですか。

佐久間:もう47歳ですからね、50歳過ぎたらあり得るかもしれない(笑)。でもそれは「俺も人前に出たい」とかではなく、50歳にもなって周りの評判とか気にしてんじゃねえよ、っていうフェーズになってからですね。せっかく呼ばれたなら黙って行けよ、っていう(笑)。

Photography Mikako Kozai(L MANAGEMENT)

■Netflixシリーズ『LIGHTHOUSE』〜悩める2人、6ヶ月の対話〜
日本を代表するトップクリエイターとして活躍する星野源と若林正恭が、月に1度、2人だけでガチトーク。悩み多き時代に、誰しもが共感する“悩み”をテーマに6ヶ月連続で収録したトークバラエティ番組。灯台の意味を持つ“LIGHTHOUSE”(ライトハウス)というユニット名を与えられ、悩み多き時代に、元気と笑いを届ける。
出演:星野源・若林正恭(オードリー)
ディレクター:上野雅敬
企画演出・プロデューサー:佐久間宣行
エグゼクティブ・プロデューサー:高橋信一(Netflix)
プロデューサー:碓氷容子、有田武史
制作プロダクション:ディ・コンプレックス
製作:Netflix
話数:全6話
配信:Netflixにて世界独占配信中
https://www.netflix.com/jp/title/81641728

■星野源 EP『LIGHTHOUSE』
星野源が『LIGHTHOUSE』のために書き下ろした、6つの新曲を収録したEPが配信リリース。各話をイメージして制作、ライブ収録したエンディング5曲にメインテーマ曲「Mad Hope」ショートVer.を加えた全6曲を収録。
https://www.hoshinogen.com/news/detail/?id=33

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佐久間宣行が語る若林正恭と星野源 「2人が抱えている苦悩は、日本社会全体の問題です」 『LIGHTHOUSE』インタビュー前編 https://tokion.jp/2023/09/13/interview-nobuyuki-sakuma-lighthouse-vol1/ Wed, 13 Sep 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=207707 Netflixシリーズ『LIGHTHOUSE』の企画・演出とプロデューサーを務める佐久間宣行インタビュー。前編では若林正恭と星野源について。

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佐久間宣行
1975年、福島県いわき市生まれ。テレビプロデューサー、演出家、作家、ラジオパーソナリティ。『ゴッドタン』『あちこちオードリー』『ピラメキーノ』『ウレロ☆シリーズ』『SICKS~みんながみんな、何かの病気~』『キングちゃん』などを手掛ける。元テレビ東京社員。2019年4月からラジオ『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)』のパーソナリティを担当。YouTubeチャンネル『佐久間宣行のNOBROCK TV』も人気。Netflix『トークサバイバー!〜トークが面白いと生き残れるドラマ〜』、『LIGHTHOUSE』〜悩める2人、6ヶ月の対話〜を手掛け、2023年10月10日から『トークサバイバー!〜トークが面白いと生き残れるドラマ〜』のシーズン2も配信。著書に『佐久間宣行のずるい仕事術 僕はこうして会社で消耗せずにやりたいことをやってきた』(ダイヤモンド社)などがある。
Twitter:@nobrock
Instagram:@nobrock2

漫才師の若林正恭(オードリー)と音楽家の星野源が、それぞれの苦悩や問題意識について互いに語り合う、Netflixシリーズ『LIGHTHOUSE』が8月22日から配信された。企画・演出とプロデューサーを務めるのは佐久間宣行。Netflixでは『トークサバイバー!~トークが面白いと生き残れるドラマ~』に続く2作目となる。インタビュー前編では、日本のエンターテインメントを牽引する2人の間で、一体どんな対話が交わされたのか、佐久間の目から見た深部を探る。

——今回『LIGHTHOUSE』の企画は、どのように立ち上がったのですか。

佐久間宣行(以下、佐久間):僕が担当する番組で、最初に若林くんと星野さんに共演してもらったのは、テレビ東京の『あちこちオードリー』(2021年6月30日放送)で、その時のトークの内容がすごくよかったんです。オンエアの反応を見ても、視聴者に深く響いていることが伝わってきた。それでなんとなく、2人がじっくり語り合うような企画を温めていて、Netflixから『トークサバイバー』以外の企画もやりませんか、という話をいただいたタイミングと合致したという感じですね。

——当初から「2人がじっくり語り合う」というコンセプトだったんですね。

佐久間:最初の企画書は「星野源と若林正恭のONE YEAR」という仮タイトルでした。2人が月に1回集まって話をして、それを1年間続けて、一気に配信するっていう。1年間という期間を設けることで、2023年という時代も見えてくるなと思ったんですよね。ただ、現実的なことを考えると、月に1回でも毎月2人のスケジュールを合わせるのは大変だし、Netflix は翻訳とかの作業でテレビより時間も手間もかかるし、1年間は長すぎるんじゃないかと思って、期間は半年になりました。でもそうなると、タイトルが「星野源と若林正恭の半年」になっちゃう。さすがにそれはダサすぎるので『LIGHTHOUSE』に変えました。

——『LIGHTHOUSE』というタイトルについては、本編の中で「悩める人々を照らす灯台」そして「灯台下暗し」と解説がされていました。

佐久間:タイトルを思いついたきっかけは、レイ・ブラッドベリの短編に灯台が出てきて、英語だとLIGHTHOUSEっていうんだ、というのを覚えていたのが1つ。もう1つは、企画書を書き上げたタイミングで観たマームとジプシーの公演のタイトルが『Light house』だったんです。そこから、A24製作の映画『ライトハウス』のことも思い出したりして、誰かのことを照らす灯台でありながら、自分達の足元は真っ暗っていう、これは2人のユニット名にぴったりだなと。

光も闇も、ファンの人達が思っているより何十倍も深い

——佐久間さんから見て、若林さんと星野さんは、それぞれどんな人ですか?

佐久間:2人ともルックスや表情は優しい感じだし、繊細で気遣いのできる人であることは間違いないんですけど、奥の奥は芯が強いファイターですよね。『LIGHTHOUSE』をやる前から想像はしていましたけど、もう想像以上でした。だからその分、光も闇も、ファンの人達が思っているより何十倍も深い。本当にあの2人は生きるの大変だろうなって思います。

——番組で語られる2人の苦悩は、星野さんは音楽業界のことだとしても、若林さんの悩みはテレビ業界のことなので、佐久間さんにも直結しますよね。

佐久間:若林くんが抱えている悩みは、いわゆるバラエティ番組だけの問題じゃないと思うんですよね。星野さんの抱える問題も、音楽業界だけの話じゃない。あの2人の悩みの根源は、どこまで行っても競争を続けなければならない現状と、その競争に勝った人達がルールを作っていることにあるわけです。要は、日本社会全体の問題なんですよ。この日本で働いて、生きている人達全員が抱えている問題。現代の資本主義の中で、人間らしさを保ちながら競争に勝ち続けることはできるのか? そこに2人とも悩んでいるわけです。

——番組内の企画「1行日記」で、若林さんは「強くなければ次のステージに行けないけど、強くなると人に寄り添えなくなる」と書いてました。

佐久間:強さもそうだし、嫌な上司とも飲みに行かないといけないとか、いろんなことですよね。僕の勝手な憶測ですが、若林くんはそういうのが嫌で芸人になったのに、結局テレビや芸人の世界も一般社会と同じなのかよ、っていうのがショックだったと思うんです。芸人の世界はもっとロマンチシズムで成り立っていると思っていたのに、実際は日本社会の縮図でしかなかった。資本主義である以上、どの世界にもその影は落ちてくるんですよ。

——若林さんと星野さんともに、40代にもなると、率いているチームがあったりとか、背負うものが自分だけではなくなってきますし。

佐久間:それはあの2人も切実に感じているかもしれません。どの業界でもそうだと思いますが、テレビ業界では、1つ番組が終わると、関わっているスタッフ全員の仕事が一気になくなります。若手の頃はあんまりわかってなかったけど、MCだったり総合演出だったり、チームを率いる立場になると、その責任がどんどん重くなっていくことに気付いちゃうんです。

星野源ならオードリー若林の苦悩を受け止めてくれる

——番組のコンセプトでもある、対話を通じて悩みや抱えている問題をオープンにすることについては、どう考えていますか。

佐久間:若林くんに関しては、日本語ラップが好きでずっと聴いてきた人なので、自分の考えをストレートに表現した上で、芸に昇華させるスキルがあるんですよね。それは『LIGHTHOUSE』に限らず、ラジオの『オードリーのオールナイトニッポン』で自分の素直な気持ちを吐露するのも同じ。今はヒップホップが世界的にトレンドの中心になっているし、とにかく「俺はこう思う」っていうのを発信する時代の流れもあるのかもしれない。

——星野さんについては、そんな若林さんが相手なら話してくれる、と。

佐久間:星野さんは、収録が始まる前まではすごく不安がっていました。「僕は若林さんと違って、話すことのプロではないので」って。でも僕としては、星野さんなら大丈夫だって確信してたんですよね。楽曲の歌詞を読んでも、これまでの発言を聞いていても、あれだけ人の痛みがわかる人ですから、若林さんの悩みを受け止めて、何かしらの処方をしてくれるだろうと。

——星野さん自身も、さまざまなフェーズを経ての現在、ですからね。

佐久間:そうなんですよ。アーティスト星野源がすごいのは、どんどんフェーズが変わっていくこと。弾き語りのアルバムを出した時期もあるし、ファンクやソウルを取り入れて日本のポップスを更新させようとしていた時期もあり、そこから前衛的な音楽もどんどん取り入れながら、メジャーシーンと接続させる役割を担うようにもなって。ミュージシャンに限らず、芸人でも、長く活動している大御所の人達って、基本は芸風がはっきりしていて、長く同じ芸風を貫いたことで支持されるパターンが多い。だけど、星野源はどんどん作風を変えるでしょう。これは非常に困難な道ですよ。しかもそれで人気は上がり続けていくって、尋常じゃないです。

——オードリーというコンビにも、当然いろいろな変遷がありました。

佐久間:特殊なコンビですからね、悩んだ時期は長かったでしょう。いつだって春日くんは春日くんでしかないので、それで助かっている部分もありながら、若林くんは相方をどう活かすかっていうのを、他のコンビ以上に考えていたはず。どうしたら自分が本気でおもしろいと思っていることが世の中に伝わるのか、ずっと考え続けて、長い内省から生まれたのが、あのズレ漫才だと思います。内省の時期が短くて、もっと若いうちに売れていたら、春日くんの「トゥース」だけで消費されて、今のようなポジションにはなっていないと思います。本人としては相当つらかったとは思いますが、若林くんの長い内省期があったからこそ、消費され尽くさないで、ここまで残ってこられたと思うんですよね。

成功体験ではなく、悩みを、しかもリアルタイムで開示する試み

——まだ何者でもない10代や20代ではなく、40代の、しかも大成功を収めている2人が苦悩を語る、というのも新鮮でした。

佐久間:若い人が夢や悩みを語り合ったり、あるいは、大きな失敗をした人が教訓として失敗談を語るコンテンツはたくさんありましたけど、ある意味すごく成功している人が、その成功体験ではなく、悩みを、しかもリアルタイムで開示したことは新しい試みだったと思います。

——成功してからも人生は続くし、悩みは尽きないんだなと。

佐久間:対話からヒントを得て、星野さんと若林くんが番組のために共作してくれた曲「Orange」の歌詞に「クリアしたあとのRPG」というフレーズがあって、ほんとその先の人生のほうがずっと長いんですよね。

——演出としては、どんなことを意識しましたか。

佐久間:収録を終えた感触として、撮れ高としては抜群だったのですが、編集の演出次第では2人のファンムービーみたいになってしまうので、それを避けるようにしました。トークの部分に関しては、あえてバラエティっぽいテロップを入れて、『あちこちオードリー』や『佐久間宣行のNOBROCK TV』が好きな層にも見てもらえるように。SNS用に一部を切り出された時に、ちょっとでも身近に感じてもらいたかったので。

——あのテロップは、確かにNetflix らしからぬ書体でした。

佐久間:地上波のバラエティとかYouTubeの書体だったでしょ。確定する前に、何パターンか作って検証したんですよ。その中の1つは、2人でコメントの色分けもしていない、映画の字幕みたいな真っ白のパターンでした。それらをNetflixの担当者にも見てもらって、最終的に合意の上で今の形になりました。

——逆にNetflixだからこその演出もありますか。

佐久間:有料コンテンツだからこそのリッチさを追求したのは、星野さんが歌い、バンドも演奏する、曲のパートですね。なので、曲の歌唱パートだけは僕ではなく、泰永優子さんという、サカナクションのMVなんかを撮っている方にディレクターをお願いしました。

——そういったリッチな画作りは、地上波ではできないものなんでしょうか。

佐久間:歌番組なら可能でしょうけど、バラエティでは難しいですね。予算の問題もあるし、何より毎分の視聴率が落ちていきます。

——画面が暗いトーンになるからですか?

佐久間:トーンもありますし、それ以外にも。今のテレビって、常に謎かけをした状態をキープして、答えを出さずに引っ張ってる番組が多いじゃないですか。「果たして1位は!?」がずっと続いているような。あれはゲーム理論に基づいた、視聴率が落ちない1つの手法なんです。

——テロップやワイプで常に画面がにぎやかなのも、視聴率が下がらないため?

佐久間:にぎやかな画面の時代は終わりつつありますね。それよりは、続きが気になるランキングとか、ゲストは誰かとか、常に音が鳴っているゲームをやるとか、そういう方向になってきています。その引っ張りが途切れた途端、視聴者は離脱する。

——なんてシビアな……。もはや内容とかの問題ではない。

佐久間:地上波のテレビはもちろん修羅の世界ですが、はっきり言ってYouTubeはもっともっと修羅です。僕も自分のチャンネルを持っているので、スタッフといつも「修羅だね〜」って言いながらやってますよ。

——そんな修羅の世界で戦うことに、快感があるんですか。

佐久間:快感というか、僕はYouTubeに関しては、お金儲けのためにはやってないんです。お金のことだけを考えたら、企画ものはやらずにトークだけにして、カメラの台数も減らして、いくらでもやり方はあるんですけど、それはやってません。

僕にとってのYouTubeチャンネルは、ひとつは企画の実験場としての役割。初期投資して、どんどん濃い企画を生み出すための実験の場です。そしてもうひとつは、役割というかモチベーションとして、もはや地上波のテレビだけでは届かない層に向けて、「佐久間っていうやつが作る番組おもしろいな」と思ってもらうためです。

もしYouTubeでも数字や結果を求めていたら、確実にメンタルやられますから。あの世界で生き残るには、あっちゃん(中田敦彦)とかカジサック(梶原雄太)みたいに、YouTubeで結果を出すんだって腹くくった人間じゃないと無理ですね。少なくとも人気を確立するまでは、他のメディアには出ないで、そこの住人にならないとダメだと思います。

後編へ続く

Photography Mikako Kozai(L MANAGEMENT)

■Netflixシリーズ『LIGHTHOUSE』〜悩める2人、6ヶ月の対話〜
日本を代表するトップクリエイターとして活躍する星野源と若林正恭が、月に1度、2人だけでガチトーク。悩み多き時代に、誰しもが共感する“悩み”をテーマに6ヶ月連続で収録したトークバラエティ番組。灯台の意味を持つ“LIGHTHOUSE”(ライトハウス)というユニット名を与えられ、悩み多き時代に、元気と笑いを届ける。
出演:星野源・若林正恭(オードリー)
ディレクター:上野雅敬
企画演出・プロデューサー:佐久間宣行
エグゼクティブ・プロデューサー:高橋信一(Netflix)
プロデューサー:碓氷容子、有田武史
制作プロダクション:ディ・コンプレックス
製作:Netflix
話数:全6話
配信:Netflixにて世界独占配信中
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■星野源 EP『LIGHTHOUSE』
星野源が『LIGHTHOUSE』のために書き下ろした、6つの新曲を収録したEPが配信リリース。各話をイメージして制作、ライブ収録したエンディング5曲にメインテーマ曲「Mad Hope」ショートVer.を加えた全6曲を収録。
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ラジオパーソナリティとして佐久間宣行が多くのリスナーから支持される理由とは 『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』から考える https://tokion.jp/2022/11/17/why-is-nobuyuki-sakuma-supported-by-many-listeners-as-a-radio-personality/ Thu, 17 Nov 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=156310 深夜ラジオ番組『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』のパーソナリティ・佐久間宣行はなぜ多くのリスナーから支持されているのか。ライター・村上謙三久によるコラム。

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ラジオパーソナリティとして佐久間宣行が多くのリスナーから支持される理由とは 『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』から考える

2019年4月にスタートした深夜ラジオ番組『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』。毎週水曜日の27〜28時30分に放送され、幅広いリスナーから多くの支持を得ている。10月29日には、1万人規模のイベント「佐久間宣行のオールナイトニッポン0 presents ドリームエンターテインメントライブ in 横浜アリーナ」を成功させ、11月2日には『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』の2作目となる番組本が出版されるなど、その人気はますます高まっている。今回、本書を軸に、ラジオパーソナリティとしての佐久間宣行の魅力に迫る。

リスナーからパーソナリティに

『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』にとって、2冊目となる番組本『脱サラパーソナリティ、テレビを飛び出す~佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)2021-2022~』が発売された。放送3年半で、番組本が2冊刊行されるのは異例のこと。それだけこの番組がリスナーから支持されている証拠だろう。

そもそもこの番組が生まれる過程からドラマティックだった。地元・福島で『伊集院光のANN』や『電気グルーヴのANN』などの深夜ラジオに魅了された青年が、ラジオディレクターを目指してニッポン放送の就職試験を受けるも三次面接で脱落。その後、テレビ東京に入社してテレビマンとして活躍するようになるが、ラジオのリスナーではあり続けた。たわいもないつぶやきをキッカケに『アルコ&ピースのANN』シリーズでしつこくいじられ、ついには番組に生乱入したことでニッポン放送と接点が生まれると、『ANN』単発特番を経て、ついにレギュラーパーソナリティになった……。“エピソード0”というべきこの流れは書籍化してほしいほど劇的。ラジオ好きが巡り巡ってパーソナリティに就任する過程を追ってきた深夜ラジオリスナーは、最初から『佐久間宣行のANN0』が面白くなるとわかっていた。

昨年発売の番組本第1弾では、テレビ東京に所属する一介のサラリーマンだった佐久間が深夜ラジオのパーソナリティとして活躍していく過程を追っていた。今回の第2弾では、テレビ東京から独立してフリーとなり、テレビ以外の場にも進出していく様子を、番組の内容を踏まえつつ振り返っている。

「無名の存在を早くから起用し、パーソナリティがメジャーになっていく様を側面から伝えて、リスナーに追体験させ、ムーブメントを起こす」というのが『ANN』の伝統。当初は「コアなお笑い好きは知っているテレビ東京のプロデューサー」だった佐久間が世間から注目されるようになり、今やNHKの大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の特番でMCに起用され、番組発の音楽イベントを横浜アリーナで開催し、サンボマスターと共に『世界をかえさせておくれよ』を熱唱するようになった。その過程を伝え続けてきたのは、“これぞ『ANN』”と拍手を送りたいほど。人気パーソナリティが並んでいるがゆえに、無名の人間が入り込みづらくなっている現在の『ANN』において、一介のテレビマンだった40代のオジサンが『ANN』本来の魅力を体現しているのは面白い現象。「『ゴッドタン』のプロデューサーだからラジオを聴いてみよう」ではなく、「パーソナリティがプロデューサーだから、『ゴッドタン』を見てみよう」という現象まで起きている。

『佐久間宣行のANN0』の2つの魅力

『佐久間宣行のANN0』には『ANN』という深夜ラジオが紡いできた魅力が詰まっている。1つは華やかな世界の裏側を伝える点。お笑い芸人ならテレビのバラエティ番組や地方営業、アーティストなら音楽番組やライブなどの裏話を語ってくれるのが深夜ラジオの醍醐味の1つだ。

佐久間も自分が関わっているテレビ番組やYouTube動画の裏側をよく話しているが、彼が基本的に「裏方」なのは見逃せない点。本来なら、出演者側から見た裏話が語られるのだが、佐久間の場合は「出演者が裏側でどんな状況だったか」にとどまらず、「制作側の意図」や「裏方側に起こっていた事件」など“裏の裏”まで明かしてくれる。こういうコアな情報を知れるのは、深夜ラジオというメディアにも、裏方に注目が集まる今のご時世にも上手くハマっている。

この魅力と連動しているのがゲストとのトークだ。『脱サラパーソナリティ、テレビを飛び出す』にも田中卓志(アンガールズ)、伊集院光、飯塚悟志(東京03)、千鳥とのトークが文章として掲載されているが、ここでも佐久間の裏方視点が活きている。雑誌でライターがインタビューするのとも、芸人同士の対談とも違う。演者と近すぎず遠すぎず、ちょうどよい距離感と客観性を保っている佐久間は、リスナーが触れてほしい話には踏み込むけれど、明確なリスペクトが感じられて、聴いていて心地いい。

2つ目の魅力は多くのエンターテインメントを紹介してくれる点。ドラマやバラエティ、アニメ、映画、配信作品といった映像関連はもちろん、音楽(番組内の選曲を含む)や舞台、さらには気に入った飲食店まで、これまでこの番組で紹介されたエンタメ関連は本当に多岐にわたる。根本にあるのは佐久間がそれらを心の底から楽しんでいること。多忙な上に、長年テレビ業界で働きながらも、いまだにエンタメへの純粋な興味が尽きないのはある意味、才能と言えるかもしれない。

ラジオを一定期間聴くと、パーソナリティ達が触れてきたカルチャーを追体験することにつながる。テレビなどとは違い、時間的な余裕はあるから、それに付随する思い出や思い入れにまで触れることができる。このコラムを書いている私自身、ライターを志したきっかけはあるパーソナリティが深夜ラジオで紹介した小説を読んだから。佐久間が語るエンタメトークはさまざまな形でリスナーに影響を与えているだろう。

この番組の若いリスナーからは「世代の違うオジサンが熱っぽくエンタメを紹介してくれるのが面白い」という声をよく聞く。現在はサブスクリプション文化全盛で、自分の好みに寄ったエンタメにはいくらでも触れられる一方、自分の興味から漏れたものに触れる機会は少なくなっている。若いリスナーのそんな需要を『佐久間宣行のANN』が担っているのだ。

等身大のトークの面白さ

ここまで「華やかな世界の裏側を伝えている」「多くのエンタメを紹介している」という部分を『佐久間宣行のANN0』の魅力だと書いてきた。この2点が番組の特徴だと語られがちだし、実際に魅力的な要素なのだが、番組本が2冊出るほどこの番組が支持されている理由は別にある。

テレビプロデューサーという肩書きやエンタメ要素を取っ払った部分で、40代のオジサンである佐久間宣行というパーソナリティと、等身大のトークが面白いのである。単純にただただ「ラジオ」として面白いのだ。

だからこそ、この番組の魅力が最も詰まっているのは、数千人が集まる番組イベントでも、大物ゲストがやってくるスペシャルウィークでもなく、特に事件が起きない通常回にある。番組本にも掲載されているが、「日本民間放送連盟賞ラジオ部門中央審査生ワイド番組部門」で最優秀を受賞した思春期の娘との箱根旅行話(2022年4月6日放送回)は、ただの通常回だった。

今回の番組本の巻頭で、佐久間は「ラジオをやればやるほど感じるのは、『自分が本当に思っていることを話したほうが伝わる』ということで、その姿勢はずっと変わりません」と語っていた。そんな等身大のトークに加えて、初回から……いや、『アルコ&ピースのANN』乱入時からずっと変わらない「ラジオをやるのが楽しい」という姿勢がリスナーの心を佐久間が掴んで離さない部分だろう。とにかく楽しそうに笑う様子からは、開始から3年半経っても深夜ラジオを担当する喜びがヒシヒシと伝わってくる。

優しい視点も見逃せない。批評や批判が溢れる世の中において、ラジオ上の佐久間はあくまでエンタメを楽しむ姿勢を崩さない。何かをバッサリと斬り捨てる言葉は刺激的だけれども、何年もそんなラジオを聴き続けるには精神衛生上よくない。前向きに評価して、面白いポイントを探す佐久間の姿勢が番組全体のムードを作っている。今の深夜ラジオ全体もそういう方向に進んできていると思う。

印象的なのは、上記した思春期の娘との箱根旅行話。父親目線で娘との旅行を語った後、さまざまな立場のリスナーから反応があったが、ある男子高校生リスナーから「ディズニー好きの母親と2人でディズニーシーに行き、『いるわけのない友人と会うのではないか?』や、絶対に気のせいである周りからの視線を気にしてしまい、『もう2人で来ることはないね』と母に言ってしまいました」というメールが届いた。

これに佐久間が「待てよ!」と反応。「母ちゃんにとって伝説の一日だぞ? これは反省してください。なんでかって言うと、お母さんの伝説の一日を最後に悲しい思い出で終わらせているから。思い出したら、毎回悲しい思い出になっちゃうじゃないですか。ていうことは、これは答えは1つです。もう1回行く。もう1回行くしかありません」と忠告した。

その後、エンディングでもこのメールに触れ、佐久間は「絶対に行けよ」と念押ししているのだが、同時に「そもそも高1で母ちゃんとディズニーシーに行っている時点で、お前はメチャクチャいいヤツだな」とも語っている。そういう言葉を添えられる佐久間だからこそ、リスナーに評価されているのだろう。

一人のリスナーとしては、もちろんテレビプロデューサーの活動も気になるのだけれど、それ以上にラジオパーソナリティを続けてくれることを密かに期待している。さすがに50代、60代になると深夜3時からの番組は厳しいかもしれないが、どんな時間でも佐久間ならパーソナリティとして活躍できるはずだ。朝や昼の情報番組やFMの音楽番組でのトークも聴いてみたい。

いつか『脱サラパーソナリティ、テレビを飛び出す』に続き、『脱サラパーソナリティ、還暦になる』なんて番組本を出版している未来があるかもしれない。そうなっても、孫の溺愛トークや最新のエンタメ紹介をしつつ、届いたメールを読んでは「わかる」と共感し、豪快に笑い、リスナー達に「相変わらずこの人はラジオが好きなんだなあ」と思わせてくれるはずだ。

■『脱サラパーソナリティ、テレビを飛び出す ~佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)2021-2022~』
著者:佐久間宣行
ページ数:296ページ
定価:¥1650
発売日:2022年11月2日
出版社:扶桑社
https://www.fusosha.co.jp/books/detail/9784594092948

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テレビプロデューサー佐久間宣行インタビュー後編 「50歳になったら自分のバラエティセンスは通用しなくなる、と決めているんです」 https://tokion.jp/2022/04/19/interview-tv-producer-nobuyuki-sakuma-vol2/ Tue, 19 Apr 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=111261 テレビプロデューサー佐久間宣行へのインタビュー後編。後編では、テレビ業界での生き残り方から仕組み作り、バラエティセンスについて語る。

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佐久間宣行
佐久間宣行

1999年にテレビ東京へ入社し、これまでに『ゴッドタン』や「ウレロ」シリーズ、『あちこちオードリー』といった話題の番組を次々と立ち上げてきたテレビプロデューサー・演出家の佐久間宣行。2021年3月にテレビ東京を退社したあとは、YouTubeチャンネル『佐久間宣行のNOBROCK TV』や、Netflix『トークサバイバー!〜トークが面白いと生き残れるドラマ』などを手がけ、テレビにとどまらない活躍を続けている。さらに、会社員時代から現在も、他局であるニッポン放送で『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)』のパーソナリティを務めており、テレビ局からラジオ局までメディアを横断するそのキャリアは、とても自由で、順風満帆のように見える。しかし本人は、「入社してすぐに、テレビ業界も芸能界もサラリーマンもまったく向いていないことがわかった」と語る。ゆえに「戦略的にならざるを得なかった」と。そんな佐久間が生き残るために身につけた知恵と技術をまとめた書籍『佐久間宣行のずるい仕事術 僕はこうして会社で消耗せずにやりたいことをやってきた』が、このたびダイヤモンド社から刊行された。本書の中で綴られている「ずるさ」の秘密とは。そして、経歴書には載らないバックヤードでの功績と、組織改革に奔走した当時を振り返る。

佐久間宣行

佐久間宣行
1975年11月23日、福島県いわき市生まれ。テレビプロデューサー、演出家、作家、ラジオパーソナリティ。『ゴッドタン』『あちこちオードリー』『ピラメキーノ』『ウレロ☆シリーズ』『SICKS~みんながみんな、何かの病気~』『キングちゃん』などを手がける。元テレビ東京社員。2019年4月からラジオ「佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)」のパーソナリティを担当。YouTubeチャンネル『佐久間宣行のNOBROCK TV』も人気。著書に『普通のサラリーマン、ラジオパーソナリティになる』(扶桑社)がある。
Twitter:@nobrock
Instagram:@nobrock1
YouTube:『佐久間宣行のNOBROCK TV』

前編はこちら

このままのテレビ局の稼ぎ方では逃げきれない

——佐久間さんが「自分の番組」を持てたのは、いつぐらいだったのですか。

佐久間宣行(以下、佐久間):20代の半ばから後半くらいですね。たとえ小さい深夜番組でも、自分に裁量権があって、ハラスメントもなく、好きなことをやれる独立国家を作りました。もちろん自分でいろんなことをしなくちゃいけないので、めちゃめちゃ忙しくはあるんですけど、どうしても行きたいライブとかには自分の判断で行けるので、そこから一気に呼吸ができるようになりました。

——20代のうちに独立国家的な番組作りができたのは、まわりと比較しても早かった?

佐久間:早かったと思います。ただ、基本的に同世代の局員達は、ゴールデン番組のディレクターになることを目指していましたし、そのほうが社内的にも評価されていたので、ど深夜の番組でもいいから独立したいっていうのは、そもそもまわりとは目標設定が違うんですよ。僕はゴールデンの番組を、まったく作れないこともないけれど、自分の能力を存分に発揮できる場所だとは最初から思ってなくて、それなら自分の個性がちゃんと反映できるマーケットを作って、そこで結果を出さないと、のちのち食べていけなくなるな、と。

——フリーランスならまだしも、テレビ局の社員なのに「のちのち食べていけなくなる」とかって思っていたんですか?

佐久間:思ってましたよ。独立心が強かったのもあるかもしれませんが、社会的な要因もあって。僕が30代になった頃、2005年くらいですかね、そろそろこれまでのテレビ業界のルールが通用しなくなるぞっていうムードが明確になってきました。このままのテレビ局の稼ぎ方を続けていても、もう逃げきれないぞっていう。もちろん、僕だけが気づいていたわけではなく、誰しもわかっていたことだけど、逃げきれる年齢の人達が意思決定権を持つ上層部にいたから、なかなか改革が進まなかっただけで。

その時30歳だった自分が、会社に最適化した仕事をして、世帯視聴率を絶対的な指標にした番組を作り続けていたら、10年先、20年先には無職になっちゃうかもしれない。無職とまでは言わずとも、代わりがいくらでもいるディレクターにはなっちゃうだろうなって。なので、もしテレビ業界が全盛期を過ぎたとしても、得意な分野が確立していて、個性的なキャラクターがあるディレクターになっていれば、少なくともエンタメ業界では仕事していけるだろうと思ったんです。だって、会社でどんなに偉くなったとしても、テレビ業界全体が沈んでいて、世の中的に会社のプレゼンスが下がっていたら、ちっともうれしくないじゃないですか。

——佐久間さんが手がけた番組は、いわゆるヒットの法則みたいなものを参照したりもしているのでしょうか。

佐久間:それはないですね。どの番組も、ガチガチに当てようと思って作っているわけでは決してなく、どうしてもやりたい企画やアイデアが最初にあって、それを実現するためには何をしたらいいのか、っていう順番です。

例えば『ピラメキーノ』という子ども番組を立ち上げた時は、放送時間が夕方だったので、大人向け番組ほどの視聴率は取れないことは明白でした。でも、子ども向け番組はどうしてもやりたかった。それは当時の子ども向け番組が、あまりに子ども達を子ども扱いし過ぎているような気がしていて。それで、ちょっといじわるで、恋愛の要素もあって、悪意と笑いを組み合わせた番組を作ったら、今の子ども達にウケるという仮説を立てたんです。この仮説を実証するためには、番組の企画を通さないといけない。

企画を通すには、視聴率とは別の評価軸が必要になるので、子ども達の間で流行る「ギャグ」と「歌」を番組で作ること、そして、イベントに子ども達を大動員すること、これをKPIとして会社と握りました。結果的にすべて達成することができて、しかも、子ども達の流行を生み出したことは、テレビ東京としては初の成功体験になったので、むしろ視聴率を取ることもよりも、社内的なインパクトは大きかったんです。

——視聴率という絶大な評価軸が存在するテレビ業界の中で、佐久間さんが軽やかに視点をずらして、別の評価軸を作ろうと思えたのは、なぜなのでしょう。

佐久間:それは単純な話で、僕のやりたいことが真ん中ではないからですよ。もし僕がテレビ業界の真ん中で勝負したいのであれば、やっぱりまずは視聴率を取らないといけないわけで。最初から生きていく場所を真ん中に設定していなかったので、評価軸も必然的に、テレビ業界の真ん中にある視聴率ではなくなった、という感じですね。

失敗は個人の責任ではなく、仕組みのほうに問題がある

——テレビ局に限らず、実力はそれほどでもないのに、人付き合いや社内政治がやたらと上手いことで、出世したり、決定権のあるポジションに就いたりする人もいますよね。

佐久間:実際います。僕はそういう人とはなるべく一緒に仕事をしないし、自分もそういうタイプではないとわかっていたので、どうにか社内で自分だけの居場所を作ることを意識しました。それと、テレビ局に入って、かなり早い段階で気づいたのは、自分が好きで作りたいものは、既存の指標では評価されないっていうことで。テレビ東京の社内での評価もそうだし、当時でいうと絶対的な指標になっていた世帯視聴率を、自分の好きなものを作っても取れないなって。だったら別の評価軸を見つけるか、見つからなかったら自分で評価軸を新たに作って、やりたい企画を通すしかないって思ったんです。その結果が、例えば『ゴッドタン』ならDVDをたくさん売るとか、番組内の企画である「マジ歌選手権」を音楽イベントにして、「キス我慢選手権」を映画化して、そこでの売り上げを立てるとか。視聴率に頼らない方法を考えて、自分のやりたい番組を存続させてきました。

——一見すると、視聴率などに左右されず、『ゴッドタン』を存続させているテレビ東京は偉い、と思いがちですが、この本を読むと、実は存続させるための戦略と施策あってこそなんだとわかりますね。

佐久間:深夜2時に放送されている番組にしては、視聴率も悪くないですが、それだけでは続かないですから。ちゃんとした売り上げがないと。なので、番組のDVDを売るにしても、ローソンとHMVと組むことで会社に入る利益率を上げたりとか。同時並行で映画化とかグッズの販売とかもやりましたけど、だんだんDVDというソフトを買う人が少なくなってきて、今は配信の時代になりましたよね。ただ、テレビ番組の配信は権利関係のクリアが難しいので、だったらTVerでの数字を伸ばしたほうが会社にプレゼンできると思って、いろいろ宣伝とかもした結果、テレビ東京で唯一、『ゴッドタン』はマイリスト登録者数が100万人以上いるバラエティになりました。今はTverのリニューアルでリセットされてしまいましたが。そういうふうに、続けるための指標は時代に合わせて常に変えてます。

——あんなにバカバカしいことばっかりやっている番組なのに、裏ではこんなにも緻密な策が練られ、聡明さの結晶みたいな番組だったなんて。

佐久間:でもそれは、オークラさんが東京のコントシーンを盛り上げるために、ものすごいマーケティングから入ったのとかも同じですよね。書いているネタはバカバカしいけど、それを広めるためには大真面目に戦略を考えるっていう。

——本では「あまり人に期待しない」といったようなことも書かれていました。

佐久間:人に期待しないというよりも、誰でも必ず失敗はするものだと思っています。それは自分もたくさん失敗するからで、失敗したからってその人を怒ったりはしないです。もし失敗が連続するようであれば、それは個人に責任があるのではなく、きっと仕組みが悪いんだろうなって。個人を責める前に、仕組みを改善すればいいだけ。そして、その仕組みを作ったのは自分だったりするので、責任は僕にあるわけですよ。

——なんて素晴らしい……。

佐久間:いやいや。チームを率いている人は、誰でもこれくらいのことは考えてますよ。だから、『ゴッドタン』でいうと、手間のかかる「マジ歌選手権」を収録する前1ヶ月は収録を休みにするとか、そういうスケジュールは毎回みんなで組むようにしています。それでも失敗することはあるんですけど、できる限りのリスク回避が、仕組みを整えることでできるのならば、それをやるのが僕の仕事ですからね。ほかの番組と比べても低予算の『ゴッドタン』が、士気が下がることなく15年以上も続いているのは、そういうマネジメントがちゃんと効いているからだと思ってます。

テレビ業界に馴染めなかったからこそ、今もお笑いの仕事ができている

——マネジメントの話でいうと、指示されたことを器用にこなすタイプもいれば、裁量権を持つと実力を出せるタイプもいますよね。そういった適性は、どう見極めたらいいのでしょうか。

佐久間:テレビのディレクターでいうと、性格が丁寧で完璧な人間よりも、ちょっとひねくれていたり、価値観に偏りがあるほうがおもしろいことをやる傾向があります。そのタイプは、指示されたことだけをやり続けるアシスタント的な業務をうまくこなせない場合も多い。なので、僕がプロデューサーになってから実践しているのは、ルーティンワークではなく、ちょっとでも創作の余地がある、でもリスクは少ない、メイキングとか予告編のVTRをなるべく若いうちに作らせて、クリエイティブの能力があるかを見極めるようにしています。

ただ、僕が若い頃は、そういう適正とか組織論を考えて仕事を振ってくれる上司はいなかったので、一見クリエイティブの余地がなさそうな仕事であっても、どうにか自分で隙間を見つけて、クリエイティブを発揮するという戦略をとってましたね。下積み仕事を一生懸命やるよりも、そっちのほうが早く自分の居場所を持てるだろうと思って。

——一方、長年現場で才覚を発揮し続けた人が、そのまま立派な管理職になるとも限りません。

佐久間:いろんなパターンがあるとは思いますが、1つ大きいのは、現場でめっちゃ優秀な人は、最初から才能に恵まれていることが多いので、できない人の気持ちがあまり理解できない、というのがありますよね。そういう人は、年齢が上がったからって管理職にするのではなく、ずっと現場で輝いてもらったほうが、その人にとっても、会社にとってもいいと思いますよ。

——佐久間さん自身は、キャリアの後半になって、積極的に表にも出るようになりました。

佐久間:もう20年前、2001年に『M-1グランプリ』が誕生した時に、漫才に点数をつけて、お笑いが競技化しましたよね。その時にもう、あらゆるタブーはなくなったと思っているんですよ。なので、制作者が表に出ることくらい、タブーでも何でもないというか。当然、個人の趣味趣向によって、そういうのを嫌がる人もいるとは思いますが。それは自覚したうえで、制作者の名前でコンテンツを見る傾向はこの先も加速していくと思うし、価値観もどんどん変化していくなかで、どう自分のやりたいことを実現させていくかっていうことしか考えてないです。2021年に会社を辞めたのは、部長的なポジションになるタイミングが目前に迫っていて、管理職になってからでは会社にも部下にも迷惑をかけるので、その前に辞めようっていうことでした。

——年齢を重ねていくことと仕事との関係については、どう考えていますか。

佐久間:僕は今46歳ですが、50歳になったら自分のバラエティセンスは通用しなくなる、と決めているんです。もしずれてなかったらラッキーですが、基本的にはずれるものとして考えています。

——もしずれたとして、その時はどうするのですか。

佐久間:ものすごい意識して、なんとか修正して今と同じ仕事を続けるか、それまで培った経験なり知識を活かせる別のジャンルに行くか、そのどっちかでしょうね。現状、40代も後半になった自分がお笑いの仕事を続けていられるのは、古いテレビ業界を支配していたマッチョな空気にまったく馴染めなかったことが功を奏しているわけで、意識してアップデートしたわけではありません。なので、ここからさらに繊細さを求められるようになってきたとしたら、その時代の空気に馴染めるか、そこは未知数ですね。

佐久間宣行のずるい仕事術 僕は会社にいながらこうやって消耗せずにやりたいことをやってきた』

■『佐久間宣行のずるい仕事術 僕は会社にいながらこうやって消耗せずにやりたいことをやってきた』

22年間のサラリーマン人生の集大成として、「いい仕事」をしたい全てのビジネスパーソンに向けて書いた本気のビジネス書。誰でもできるのにやっている人はとても少ない、「いい仕事」をするためのちょっとずるくて、ものすごく役立つ仕事術をまとめた1冊。

著者:佐久間宣行
発売日:4月6日
定価:¥1,650
仕様:四六判並製 232ページ
発売:ダイヤモンド社
https://www.diamond.co.jp/book/9784478114797.html

Photography Hironori Sakunaga
Edit Atsushi Takayama(TOKION)

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テレビプロデューサー佐久間宣行インタビュー前編 「自分が生きるために、30代はハラスメントの撲滅に奮闘してました」 https://tokion.jp/2022/04/15/interview-tv-producer-nobuyuki-sakuma-vol1/ Fri, 15 Apr 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=110582 書籍『佐久間宣行のずるい仕事術 僕はこうして会社で消耗せずにやりたいことをやってきた』を出版したテレビプロデューサー佐久間宣行インタビュー前編。

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佐久間宣行
佐久間宣行

1999年にテレビ東京へ入社し、これまでに『ゴッドタン』や「ウレロ」シリーズ、『あちこちオードリー』といった話題の番組を次々と立ち上げてきたテレビプロデューサー・演出家の佐久間宣行。2021年3月にテレビ東京を退社したあとは、YouTubeチャンネル『佐久間宣行のNOBROCK TV』や、Netflix『トークサバイバー!〜トークが面白いと生き残れるドラマ』などを手がけ、テレビにとどまらない活躍を続けている。さらに、会社員時代から現在も、他局であるニッポン放送で『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)』のパーソナリティを務めており、テレビ局からラジオ局までメディアを横断するそのキャリアは、とても自由で、順風満帆のように見える。しかし本人は、「入社してすぐに、テレビ業界も芸能界もサラリーマンもまったく向いていないことがわかった」と語る。ゆえに「戦略的にならざるを得なかった」と。そんな佐久間が生き残るために身につけた知恵と技術をまとめた書籍『佐久間宣行のずるい仕事術 僕はこうして会社で消耗せずにやりたいことをやってきた』が、このたびダイヤモンド社から刊行された。本書の中で綴られている「ずるさ」の秘密とは。そして、経歴書には載らないバックヤードでの功績と、組織改革に奔走した当時を振り返る。

佐久間宣行

佐久間宣行
1975年11月23日、福島県いわき市生まれ。テレビプロデューサー、演出家、作家、ラジオパーソナリティ。『ゴッドタン』『あちこちオードリー』『ピラメキーノ』『ウレロ☆シリーズ』『SICKS~みんながみんな、何かの病気~』『キングちゃん』などを手がける。元テレビ東京社員。2019年4月からラジオ「佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)」のパーソナリティを担当。YouTubeチャンネル『佐久間宣行のNOBROCK TV』も人気。著書に『普通のサラリーマン、ラジオパーソナリティになる』(扶桑社)がある。
Twitter:@nobrock
Instagram:@nobrock1
YouTube:『佐久間宣行のNOBROCK TV』

自分が呼吸できる方法はないか、戦い方を模索してから辞めよう

——タイトルにも「ずるい」とありますが、この本では佐久間さんがいかに策士で、戦略的な思考に基づいて仕事をしていたのかが綴られています。

佐久間宣行(以下、佐久間):普段のラジオとかでしゃべっていることに比べると、テンションも内容もだいぶ違いますよね。「仕事術」なんて、普段はなかなか人に伝える機会もないですし。

——正直、考えるよりまず行動、なんならちょっと不器用な人くらいのイメージを持っていた方もいると思うのですが。

佐久間:いろいろ策を練るようになったのは、テレビ東京に入社してすぐ、自分はテレビ業界も芸能界も向いてないってわかったからなんですよ。もっと言うと、サラリーマンにすら向いてないぞって。だからこそ、これはじっくり考えて、戦略的に行動しないと生き残れないなって思ったんです。

——どういうところが「向いてない」と感じたのですか。

佐久間:上司なり先輩なり、上の立場の人に意思決定権を握られていることがとにかくダメで。自分で決められないことがストレスでしょうがなかったんです。呼吸ができなかった、と言ってもいいくらい。それで、これはもう辞めるしかないか、とすら思いました。

——それでも辞めず、結果的に約22年間、サラリーマン生活は続きました。

佐久間:まったく向いていないことはわかったので、どうせなら自分が呼吸できる方法はないか、戦い方を模索してから辞めようと思ったんです。それでどうにか20年以上続けることができました。

——その20年以上に及ぶ戦い方が、この本には書かれていると。

佐久間:5年くらい前からですかね、インスタのDMにものすごい数の仕事に関する悩み相談が届くようになったんですよ。大学生からサラリーマンまで、いろんな人から。さすがに今は返信してないですが、最初の頃はけっこう悩みに答えていて、答えた人は100人は超えているはず。悩みの内容は、だいたいが「組織に向いてないんです」「組織の中で好きなことをやるにはどうしたらいいですか」「自分の強みがわかりません」「チームの作り方がわかりません」という感じで。そういう悩みに答えているうちに、自分の中で、仕事論や組織が抱える問題への回答が、体系化されてきました。

あと、その時期には他局や制作会社から企画に関する講演の依頼も来るようになって、講演のためにパワポの資料をけっこう作ってたんです。そういうのが溜まってきて、いつでも本にできるなと思っていたところに、本を書きませんかっていう依頼が来たので、今回それを1冊にまとめました。もう個別の悩みには答えられないので、この本を読んでくださいっていう、いわば回答集ですね。

——「戦い方を模索してから辞めよう」とは言っても、向いていないとわかっていながら、20年以上も続けるのは相当に難しくないですか。

佐久間:とにかく悔しかったんですよ。僕がテレビ東京に入社したのは1999年で、その当時はハラスメントも横行していたし、殴るディレクターもいました。なんでおもしろくもないこの人達の言うこと聞かなくちゃいけないんだ、なんでこの人達のせいで自分の夢を諦めなくちゃいけないんだ、っていうのは続けるモチベーションになりました。だったら、嫌な人達をどうにか封じ込めながら、自分の好きなことをやる方法はないかって、戦略を持って立ち向かうしかないって思ったんです。

——組織の中でやっていくには、やはり戦略や根回し的な振る舞いは不可欠だと思いますか? アイデアやおもしろさだけで一点突破は難しい?

佐久間:アイデアやおもしろさだけで一点突破できるような人は、テレビ局にしても出版社にしても、組織に入る必要はないですよ。本物の天才は、自分一人で何かをやったほうがよっぽど早く、大きな結果を出せます。天才ではない人が組織の中でどうにかやっていくには、それなりの戦略が必要でしょうね。誰にも邪魔されず、嫉妬もされず、嫌な上司にも当たらずっていう、よっぽど運が良くない限りは。僕は20代のうちに会社を辞めて、実力だけで好きなことを仕事にできる確信もなかったですし、まずはテレビ局の中で確かめないと、自分がどの程度なのかもわからなかった。それもサラリーマンを続けた理由の1つですね。

——もともと営業職志望で就職活動をしていたんですよね。

佐久間:はい。向いているのは営業職だと思っていたので。声も大きいし、居酒屋でバイトしていた時もやたらお客さんから好かれてましたし(笑)。実際に営業職でいくつか内定はもらいました。ただ、フジテレビの入社試験で、制作は自信がなかったので事業部志望で受けていたんですけど、二次面接の時に「最近おもしろかったもの」と「事業部でこういうことをやりたい」というのを聞かれたんです。そこで、当時はじまったばかりのフジロックについてとか、電気グルーヴのライブが熱い話とか、日本のインディーロックが盛り上がっている話をしたら、「君は自分の好きなものを言葉にすることができるし、おもしろいものを発見する力もあるから、制作も受けたほうがよかったんじゃない」と言われて。フジテレビの偉い人がそう言うならって、その言葉を真に受けて、慌ててテレビ局の制作を募集しているところを探したら、まだ応募できるのがテレビ東京だけで、唯一制作で受けたテレビ東京に受かったんです。これはほぼほぼ確信しているのですが、あの時、僕に制作をすすめてくれたのは、のちにフジテレビの社長になった亀山千広さんだったはず。

陰で悪口を言うくらいなら、会社に報告したほうがいい

——これまで壁にぶつかったことはないんですか?

佐久間:もちろんありますよ。先輩と大げんかして、学校でいう停学みたいになったことが何度もありますから。でも社会人にもなって、そんなに停学ばっかりくらっていてもしょうがないので、どうにか衝突しないでうまくやる方法を考えました。それがこの本に書いてあることです。

——本の中では「会社の悪口は決して言わない」と書いてますね。会社の悪口を言っても、何もいいことないぞ、と。

佐久間:陰口は100%本人にバレると思ったほうがいいです。

——でも絶対的に相手が悪い場合は、ちゃんと訴えることも必要ですよね。

佐久間:それは本当にそう。だって絶対的に相手が悪いのであれば、本人にバレたところで何の問題もないし、むしろ問題を顕在化させて、人事なりに伝わったほうがいいですからね。それこそ30代の頃は、めちゃめちゃ偉そうな言い方をすると、「この人は自分の上司になる資格がない」と認定した人を、ばんばん会社に報告しまくってました。

ただ、会社に申し入れる前に、きちんと問題点を因数分解する必要はあります。怒られるのは自分の能力が低いせいなのか、それとも理不尽な嫌がらせを受けているのか。あるいは、怒られること自体が問題なのではなく、上司の言い方が悪いのか、手を出してくることに問題があるのか、とかね。ただ嫌な奴だから訴えるのではなく、社会的・客観的な問題がどこにあるのか、きちんとリストアップして、まわりに相談して意見を聞いたりもして、論理的に説明できるようになってから、初めて会社に報告するようにはしました。陰で悪口を言うくらいなら、きちんと問題点を洗い出して、正当に人事とかに報告したほうがよっぽどいいですよ。

——とはいえ、日々テレビ番組を作っている多忙の中で、上司の嫌な部分を細かくリストアップする作業は、けっこうな負担になると思うのですが。

佐久間:でも仕事って、それこそ日々の中でかなり重要なウェイトを占めるものですからね。職場が辛いと、生きていくこと自体が辛くなるじゃないですか。問題点がわかっているのに放置してメンタルを削られるくらいなら、時間と労力をかけて解決したほうがいいと、僕は思います。とにかく職場で呼吸ができなくなることが、本当に嫌だったんですよ。入社した当時の精神的な追い詰められ方は、ほかの社員よりもだいぶひどくて、どうにか解決しないと生きていけないほどだった。切実な死活問題だったからこそ、そこまで行動できたっていうのはありますね。

30代はそうやって人事に働きかけたり、ハラスメントの撲滅にけっこうな労力を費やしていたこともあって、一時期は僕の担当する番組にメンタルが弱っている若手スタッフが次々と送り込まれるようになったんですよ。もはや療養所みたいになってました。佐久間のところに行けば安全だし、少しずつ回復するだろうって。

——いい番組を作ることに勝るとも劣らない、偉大な功績です。

佐久間:正義感でやったわけではないですけどね。あくまで自分が生き残るために、自分本位でやったことが、たまたまほかの人間の役にも立ったのかもしれないっていうだけで。

——入社当時、業界の慣習やハラスメント以外にも、辛いことはありましたか?

佐久間:行きたいライブや演劇、映画とかに行けなかったこともかなり辛かったですね。今でも覚えているのは、入社1年目の1999年に、電気グルーヴの石野卓球さんが主催する「WIRE」っていうテクノイベントの第1回が開催されて、それに行くために葬式だって嘘ついたんですよ。あまりにベタですよね。案の定すぐにバレましたけど。でも本当にそんなベタな嘘をついてでも行きたかったんです。ただ、「WIRE」も第1回だし、そもそもクラブのレイヴイベントがどういうものかもよくわかってなくて、あれって盛り上がるのは夜中なんですよね。わざわざ嘘ついて仕事を抜け出さなくても、仕事終わりの夜中から行けばよかったじゃんって、あとあと気づきました(笑)。「WIRE」は嘘ついて行きましたけど、入社2年目くらいまでは、やっぱり演劇にも映画にも行けなくて、好きなゲームとかもやる時間なかったですね。

——あと何年かの辛抱だ、今はしょうがない、と諦められなかった?

佐久間:多少はしょうがないと思う気持ちもありましたけど、その当時の自分がやっていたADの雑務をするために、自分が大好きなものに触れられないのは、どうしても我慢できなかったですね。それはもう、嫌な上司とか業界の古臭い慣習とかと同じくらい苦しかった。だからこそ、1年でも半年でも早く、自分が裁量を持って仕事ができるように、深夜でも何でもいいから企画を通して、自分の番組を立ち上げないとダメだって思いましたね。

後編へ続く

佐久間宣行のずるい仕事術 僕は会社にいながらこうやって消耗せずにやりたいことをやってきた』

■『佐久間宣行のずるい仕事術 僕は会社にいながらこうやって消耗せずにやりたいことをやってきた』

22年間のサラリーマン人生の集大成として、「いい仕事」をしたい全てのビジネスパーソンに向けて書いた本気のビジネス書。誰でもできるのにやっている人はとても少ない、「いい仕事」をするためのちょっとずるくて、ものすごく役立つ仕事術をまとめた1冊。

著者:佐久間宣行
発売日:4月6日
定価:¥1,650
仕様:四六判並製 232ページ
発売:ダイヤモンド社
https://www.diamond.co.jp/book/9784478114797.html

Photography Hironori Sakunaga
Edit Atsushi Takayama(TOKION)

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テレビプロデューサーの佐久間宣行が4月6日に仕事本を出版 「いい仕事」をするための仕事術を紹介 https://tokion.jp/2022/02/10/nobuyuki-sakuma-works-book/ Thu, 10 Feb 2022 03:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=96422 22年間のサラリーマン人生の集大成として、「いい仕事」をしたいすべてのビジネスパーソンに向けて書いたビジネス書。全232ページ。NFTデジタル特典が付く特装版も。

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フリーランスの番組プロデューサー、ラジオパーソナリティーとして多方面で活躍する佐久間宣行が、仕事本『佐久間宣行のずるい仕事術 僕は会社にいながらこうやって消耗せずにやりたいことをやってきた』(ダイヤモンド社、¥1,650)を4月6日に出版する。

本書は佐久間が22年間のサラリーマン人生の集大成として、「いい仕事」をしたいすべてのビジネスパーソンに向けて書いたビジネス書。実際に佐久間が行ってきた、誰でもできるのにやっている人はとても少ない、「いい仕事」をするためのちょっとずるくて、ものすごく役立つ仕事術をまとめた一冊。

例えば、
●「誰にでもできる退屈でしんどい仕事」を「自分にしかできない仕事」にする方法は? →自分オリジナルの色を加えれば、小さな仕事でも、誰かが必ず見ていてくれる。誰かが評価してくれる。
●ミスをしたときに絶対にやってはいけないこととは?
→保身の言い訳をしたり、会社の悪口を言ったりする。
●仕事の悩みは、誰にすべきか?
→自分とは圧倒的に戦力の違うキーマン。1~2年次上の先輩に相談しても意味なし。
●縁をつなげるためにおすすめの行動は?
→とにかく「すぐやる」。
●その他大勢から抜け出すカギは?
→どんな会議にも「準備万端」で挑み、一目置かれる存在になる。
など、ムダに戦わず、会社とも上司・クライアントとも揉めず、最短の道で、最速でやりたい仕事をやるために、いますぐできる仕事のコツ62を紹介している。

またお宝写真と没になった幻の企画書がNFTデジタル特典として付く特装版の限定数発売や、刊行記念オンラインイベントの開催も決定している。

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佐久間宣行 × 祖父江里奈 ドラマ『生きるとか死ぬとか父親とか』で伝える「人生の豊かさ」 https://tokion.jp/2021/04/08/nobuyuki-sakuma-x-rina-sobue/ Thu, 08 Apr 2021 01:00:32 +0000 https://tokion.jp/?p=28050 テレビ東京で4月9日深夜0時12分から放送されるドラマ『生きるとか死ぬとか父親とか』のプロデューサーを務める佐久間宣行と祖父江里奈による対談。

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多くの話題作を生み出してきたテレビ東京の金曜深夜の「ドラマ24」。4月9日(深夜0時12分)からはコラムニスト、ラジオパーソナリティーとして活躍するジェーン・スー原作のエッセイ集『生きるとか死ぬとか父親とか』をドラマ化。同作は、ジェーン・スーが、自身の家族の出来事と思い出を描いたリアルな物語で、ドラマでは主人公・蒲原トキコを吉田羊が、その父の蒲原哲也を國村隼が演じる。また、メイン監督、シリーズ構成を、『溺れるナイフ』や『21世紀の女の子』など多くの映画作品を手掛ける山戸結希が務める。なお山戸は今作が初めての連ドラ監督となる。

今回、3月でテレビ東京を退社しフリーとなった佐久間宣行とテレビ東京の祖父江里奈、2人のプロデューサーにドラマ化から山戸監督の起用、キャスティング、そしてプロデューサーとしての想いを聞いた。

山戸監督ありきで始まったプロジェクト

――まず、ジェーン・スーさんのエッセイを山戸結希監督でドラマ化することになった経緯を教えてください。

佐久間宣行(以下、佐久間):もともと僕はドラマ部じゃなくて、やるとしても『SICKS〜みんながみんな、何かの病気〜』のようなシチュエーション・コメディーだったんですけど、このプロジェクトの始まりは、山戸結希監督で何かを作るということが根本としてあったんです。僕は「ミスID」の審査員で山戸監督とご一緒していて面識があったので、それもあってこのプロジェクトに入ることになりました。僕と祖父江は、山戸監督の独特の才能を活かして、このドラマを成立させるために入った人間という感じです。

――そうだったんですね。この一報を聞いた時は、山戸監督とジェーン・スーさんという意外な組み合わせが新鮮でした。

佐久間:山戸監督が「生と死」についてやりたいというのがあって、いろんな原作を持っていった中で、監督自身がこの作品を選んだんです。スーさんの作品には、「老い」「家族」「親」「東京」「女性の生きづらさ」なんかがすべて書かれていたので、監督の思っていることと合ったんだと思います。

――山戸監督のこれまでの作品を見てきた者からすると、今、ドラマの宣伝などで見ているイメージはちょっとカラっとしてポップな感じがしていますが、その辺は見ていくと山戸監督のカラーというのも出てくるんでしょうか。

佐久間:1話の冒頭の6分、7分くらいで出てきますね。

祖父江里奈(以下、祖父江):やっぱりドラマをやってきた人間としては、とっつきやすさも大事にしたいところなんですけど、山戸さんだからこそ、その6〜7分の部分を活かそうということになりました。監督のカラーがにじみ出ちゃう感じです。監督もドラマに寄せた作り方も意識してくれましたけど、それでもにじみ出る「らしさ」があります。

佐久間:もともとは山戸監督の天才性をドラマに存分に活かしたいということから始まった作品なので、脚本も現場も監督の気持ちを大事にしました。とにかく冒頭を見れば「普通のドラマじゃねえな」ということがわかると思います。

――今の段階のプロモーションを見ていると、そういうことはまだ見えていなくて、ポップな部分がフィーチャーされていますね。

佐久間:まだ隠してるんですよ(笑)。楽しい親子の関係性とかを今の段階では押し出しているけれど、ドラマが始まって、後半にいけばいくほど情念とかすごい世界が見せられるんじゃないかと。

祖父江:映画とテレビを見る人の動機って違っていて、映画は監督の作風を知っていて、その上で見にいくところがあると思うんですけど、ドラマは間口が広くて、なんとなくおもしろそうだなということで見始めるものだと思うんですよ。とはいえ、ポップな部分が押し出されていることも嘘ではないんですよ。ちゃんとラジオのシーンや家族のシーンにはポップさもあって、見ていくうちにディープなところも垣間見えていくので。

佐久間:この原作ってもともと、娘と父親の日常があって、だんだん過去を描くにしたがって、それぞれの家族にある「地獄」が見えてきて、それを乗り越えて今があるという話で。そういう経験があったからこそ、今のジェーン・スーさんが出来上がったんだと思うんですね。人の心に踏み入っていい距離感があったり、どんな人にも対等に向き合うことができるような。そういうスーさんの生きてきた過程は、見事に山戸監督に合っていると思いますね。

祖父江:原作にはないオリジナルな部分もけっこうあるんです。特に、女友達のシーンを入れたことで、女性が結婚するとか働くとか子どもを産むとかということも描かれています。そのオリジナルなシーンも、監督の関心に寄せた要素になっていると思います。

――監督とスーさんが打ち合わせなどではどんなお話をされてましたか?

佐久間:スーさんには、シナリオがある程度出来上がった時に、確認してもらって。その時点で監督とディスカッションする機会がありました。スーさんは「うちの父親はこんな殊勝なことは言いません」とか「こんな申し訳なさそうな態度にはなりません」とか言ってましたね(笑)。それと、ラジオの相談のシーンも、かつてはこう答えたけれど、今なら少し違う答えをするのではということなんかもチェックしてもらいました。

ラジオ現場のキャスティングにも注目

――吉田羊さんと國村隼さんのキャスティングについても教えてください。吉田さんがここまでスーさんに寄っているビジュアルにも驚きました。

佐久間:衣装合わせに立ち会ってみて、こんなにそっくりになるんだってびっくりでしたね。スーさんと吉田羊さんは年齢的にも近いし、1人の女性として、これまでのキャリアを考えても、この役に重なるところがあるんじゃないかと思っていたので、ジャストなキャスティングになりました。

――それと、國村さんのイメージも、今までとは違う感じもあって新鮮ですよね。

祖父江:『コクソン』のイメージとかですよね。

――そうですそうです。厳かな役も多い方だと思っていたので。

祖父江:抜群の演技力で自由奔放で人たらしな父親を見事に演じてくれました。ご本人も、優しくておしゃべりでユーモアもある方なんですよ。番組のためのオフショットを撮らせてもらう時も、國村さんが一番、お茶目なポーズをしてくれて、その写真をいつも佐久間さんに送ってました(笑)。

佐久間:スタッフから「今日もかわいい写真が撮れました」ってくるから松岡茉優さんの写真かなと思ったら、國村さんの写真で(笑)。

――ラジオの場面に出られる方や、次々と発表になるゲストの方も気になります。

祖父江:そこは間違いなく佐久間さんですよね。

佐久間:ラジオの現場で働くキャラクターは、もともとはセリフがほとんどなかったんですよ。なので、トンツカタンの森本くんは、作家にいそうな顔をしてるし、ヒコロヒーも技術者にいそうだし、オカモト“MOBY”タクヤ(SCOOBIE DO)くんも、適当な感じのディレクターにいそうってなって、ビジュアル重視で選びました。芝居をしたことがない3人だったんですけど、すごく軽妙な感じで雰囲気もあっていたので、トキコのラジオの場面で、いろんなリアクションをするシーンが増えていったんです。

祖父江:特にMOBYさんは、もともとスーさんとは面識があったそうで、役作りのためにTBSにも見学に行ってました。スーさんはキャスティングにMOBYさんがいるのを見て、爆笑だったらしいです。見学についても、「出演したこともあるのに必要ないでしょ?」ってスーさんは思ったらしいんですけど、MOBYさんは「ディレクター目線で現場を見たいんだ」と。真面目な方で、演劇の分厚い本も読んで演技に挑んでくれましたね。

佐久間:田中みな実さんもいいんですよ。実際のスーさんのラジオでは、パートナーとしてTBSのアナウンサーの堀井美香さんなどが出られているんですけど、ドラマの中のトキコのパートナーも、実際にTBSのアナウンサーだった田中みな実さんだとおもしろいなと。

祖父江:2人のかけあいがめっちゃいいんですよ。

佐久間:アナウンス原稿も読めないといけないし、それ以外のところの芝居はめっちゃナチュラルだし、女性アナウンサーが年齢を重ねて感じる悩みだったり、キャリアに対する悩みだったりが、田中さんともシンクロしていて。彼女のゲスト主役回みたいなのもあって、すごくいいですね。

――ヒコロヒーさんの演技も楽しみですね。

佐久間:ヒコロヒーもいいですよ。

祖父江:佇まいがいいんですよ。音声さんの役なんですけど、いそうなんですよね。寡黙でときどきぽろっといいことを言う。ヒコロヒーさん自身が働く女性についての文章も書かれていて、そういうことからも意識して役に結びつけた感じはありますね。

佐久間:それと、岩崎う大(かもめんたる)くんもいいんですよ。トキコの元カレ役なんですけど。

祖父江:そのシーンがフランス映画みたいですごいおしゃれなんですよね。

佐久間:その元カレが、人生がなかなかうまくいかない役で、元カノのトキコの前でかっこつける感じがよくて、「これは岸田戯曲賞ノミネートされただけあるわ」って。

祖父江:後半もいいんですよね。

佐久間:松岡茉優さんがトキコの若い頃を演じていて、父親との「地獄」の部分を担ってくれています。そういう「地獄」って誰の人生にもあると思うんですけど、その部分もすごくよくて。それと、ひょんなところで現われるDJ松永(Creepy Nuts)にも注目してほしいですね。アイツ、全然セリフを覚えて来ないのに、絵力があるんですよ(笑)。この間、ラジオでその時のことを話してて、「ドラマってセリフを覚えて行くもんだってことを知らなかった」って(笑)。

祖父江:それで私が困って泣きそうになりましたからね!現場で急きょ、セリフ合わせに付き合うことになって。ステージママじゃないんだから!

佐久間:どこの子役だよ!って(笑)。でも松永の役がぴったりでね。

祖父江:すごいのが、セリフは覚えてこなかったんですけど、一度覚えちゃうとその後はとちったりしないんですよね。

佐久間:やっぱり、旬の人って輝きが違うんだなと。いいシーンになりましたよ。

生きること、死ぬこと、家族のことを通じて、自分のことを考える

――佐久間さんは、このドラマの発表があったのと同時期に、テレビ東京を退職してフリーになるということも発表されて、二重に驚きました。

佐久間:このドラマが立ち上がったのがかなり前で、その時には、フリーになることは考えてなかったので、周りのみんなもびっくりしていましたね。僕自身は変わんないですね。テレ東との契約は別の形になるけれど。

――祖父江さんはその話を聞いていかがでしたか? 寂しいとか、辞めないで、みたいなこととかは。

祖父江:まあ佐久間さんはどこにいても佐久間さんだし、テレ東という狭い世界から外に出て何をするのかのほうが楽しみということもあるので。

佐久間:みんな、それなりに寂しいとかって言ってはくれるけど、誰も引き留めてはくれなかったからね(笑)。

祖父江:「でしょうね」って感じだったんじゃないですか?

佐久間:「でしょうね」もそうだけど、3年くらい前から、会う人に「いつフリーになるの?」って言われてたし。僕自身は野心もないし、会社でやるほうがリスクもないしって思ってて、でも中年を超えると「どうやらサラリーマンのほうが大変じゃないかと」思うようになって。

――管理職になって直接番組作りに関われなくなるという立場になりますしね。

佐久間:自分としては、40半ば超えたら、管理職にモチベーションが湧くと思ってたんですよ。でも、実際にそうなってみると、やっぱり番組作りとか、その仕組みを作るほうがおもしろいと思ってしまったので仕方がないですね。

――今って「顔の見えるプロデューサーやディレクター」ってテレ東に一番多いですよね。そういう空気ってどこからきてるんですか?

祖父江:1つは、局員の発信に対する規制がテレ東はわりと緩くて、好きなこと言っても怒られないこととか、あとは素人さんにカメラを向ける番組が多くて、そこでディレクターが顔を出すことが多くて抵抗がなくなっているいうこともあるかもしれないですね。

佐久間:伊藤(隆行)さんは、一番、ちゃんと前に出る人だと思います。それがあるから、他の人が前に出ても止められないのかな。それと、テレ東って小さい局なので、制作者が説明したほうが嘘がない企画も多くて。それって映画で監督が説明するようなことと似てるのかもしれないですね。『ゴッドタン』とか『あちこちオードリー』にしても、僕以外が説明しにくいということもあるのかもしれないです。

――お2人とも、「顔の見える」プロデューサーだと思うんですけど、プロデューサーとして、これからはどんなことがしたいですか?

祖父江:一貫して、自分と似た境遇の女性が元気になるものを作りたいということがあります。今は恋愛とか仕事がテーマになっているけれど、年齢を重ねたら、そのテーマが老いとか介護とかにも変わっていくかもしれないし。それって、今、宮藤官九郎さんがやってることで、それを超えることは難しいかもしれないけれど、その時にも同年代の女性が見て元気になるものをやっていきたいですね。それと、ファーストサマーウイカさんやヒコロヒーさんとも何かやってみたい、形にしてみたいとも思ってますね。

――佐久間さんはフリーになられて今後やりたいことは?

佐久間:僕はこれまでよりも、ストーリーのあることに関わることも増えるかもしれないですね。これからは、後輩から仕事をもらっていきたいですね(笑)。僕はけっこう、全局ひっくるめて、優しい先輩だったと思うんですよ。後輩を甘やかしてきたので、今度は甘えさせてもらって、その分を回収しないと……。

祖父江:佐久間さんは私達が悩みを相談しても、深夜でも打ち返してくれる人なんですよ。昔から“ポンコツ社員再生工場”でもあって。

佐久間:他の番組でうまくいかないADを番組で引き取って、心を回復させて元の場所に帰していく。濱谷(晃一)とかね。

――佐久間さんは、いろんな人の悩みを聞いたり、再生させたりする中で、自分もしんどくなったりダメージ受けたりしないんですか?

佐久間:僕はダメージ受けないです。祖父江から見てどうだろうな?

祖父江:佐久間さんはとにかくフラットな人なので、誰かに何か言われても傷つかないし、私も佐久間さんに怒られたことは一度もないです。

――佐久間さんて、めちゃめちゃお忙しいし、それでも体力的にも元気そうだし、メンタルも丈夫なんですか?

祖父江:強靭な体力と、頭の回転の速さがこの仕事のスタイルを可能にしてますね。

佐久間:体力はまああるね。こんなこと番組の宣伝と関係ないけど、やっぱり、10代の頃はキツかったんですよ。田舎で周りにあわせて擬態して生きてきたから。今はちょっとでもいいことがあると、スタート時に比べて「ここまでよくやれたな」って思えるから、野心がないんですよ。だから怒ったりもしないんです。

――過度な期待がないから、俺はもっと評価されるべき、みたいな不満が溜まらなくて、今起きてることをありがたがれるってことなんですね。それはあるかもしれないですね。

祖父江:ちょっと話がずれるんですけど、私は佐久間さんから年齢とか外見をいじられたことが一度もないんですよ。だから、このドラマをやる上でも、絶対的な信頼があって。テレビ局ってまだまだ、セクハラ発言に気付かない人もいるので。そういう核の部分でのズレがないということでもやりやすかったですね。

佐久間:確かにね。「これってセクハラになっちゃうの?」っていうことを打ち合わせでする必要がなかった。

祖父江:そのリテラシーの部分のすり合わせから始めないといけない打ち合わせもあるので。

――佐久間さんは、ある時期からそういう人になったのか、それともずっとそういう人だったんですか?

佐久間:大学の頃から変わんないとは言われるから、変わってないのかもしれないなと。でも、そういう僕が『ゴッドタン』とかよく作ってるよなって。まあ、出た人には芸人さんにしても、女性達にしても皆に売れてほしいと思ってるんですよ。

――最後に、もう一度このドラマについておすすめいただけたらと。

佐久間:このドラマってラジオ局というメディアでの悩み相談の部分があるし、東京で生きる中年女性とその老いた父親や、その2人を囲む大人達も悩んでいて、簡単に解決しないながらもどう生きていくのかということを、一話一話やっていく究極のパーソナルな作品なんです。見ていくと、タイトル通り、生きること、死ぬこと、家族のことを通じて、自分のことを考えられるのではないかと。最後まで見ると浄化されたりするんじゃないかと思います。

祖父江:生きていく時間は長いから、時には頭ではわかっているけれど、思ったようにはできない葛藤なんかも生まれると思うんですね。女性をポジティブに応援したいという部分ももちろんあるんですけど、理屈だけではままならない部分にも注目してもらえたらと思っています。

佐久間宣行
1975年福島県いわき市生まれ。1999年に早稲田大学商学部を卒業後、テレビ東京に入社。『TVチャンピオン』などで、チーフアシスタントディレクターやロケディレクターとして経験を積みながら、入社3年目に『ナミダメ』を初めてプロデューサーとして手掛ける。現在は『ゴッドタン』『あちこちオードリー~春日の店あいてますよ?~』などのバラエティ番組でプロデューサーを務める他、ニッポン放送『オールナイトニッポン0(ZERO)』で水曜日のパーソナリティを担当している。2021年3月末をもってテレビ東京を退社し、フリーランスとなる。
Twitter:@nobrock

祖父江里奈
2008年テレビ東京入社。入社後、制作局CP制作チームに配属。バラエティ番組制作を担当した後、2018年に制作局ドラマ制作部(現:制作局ドラマ室)に異動。『来世ではちゃんとします』『だから私はメイクする』『共演NG』『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』プロデューサー。今年の夏は『来世ではちゃんとします』シーズン2を手掛ける。
Twitter:@RSobby

■ドラマ24「生きるとか死ぬとか父親とか」
2021年4月9日(金)深夜0時12分からテレビ東京系列で放送開始。
放送日時:毎週金曜深夜0時12分〜
原作:ジェーン・スー『生きるとか死ぬとか父親とか』(新潮文庫刊)
主演:吉田羊、國村隼
出演: 田中みな実、松岡茉優、富田靖子、オカモト“MOBY”タクヤ(SCOOBIE DO)、森本晋太郎(トンツカタン)、ヒコロヒー、岩崎う大(かもめんたる)、DJ松永(Creepy Nuts)、岩井勇気(ハライチ)、平子祐希(アルコ&ピース)
監督:山戸結希、菊地健雄
シリーズ構成:山戸結希
脚本:井土紀州
https://www.tv-tokyo.co.jp/ikirutoka/
Twitter:@tx_ikirutoka

Photography Takahiro Otsuji(go relax E more)

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#映画連載 佐久間宣行 世界って残酷。でもだからこそかけがえのないものに出会えることを教えてくれる映画作品4本 後編 https://tokion.jp/2020/08/27/series-of-movie-nobuyuki-sakuma-2/ Thu, 27 Aug 2020 03:31:40 +0000 https://tokion.jp/?p=3815 テレビ東京制作局プロデューサー・佐久間宣行が、自身の思い出とともにオススメ映画を紹介する。

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映画鑑賞は動画配信サービスの普及によって、もはや特別な行為ではなくなり、感想の共有やレコメンド検索も簡単になった。しかし、それによって映画を“消費”しているようにも感じる。同連載では、映画を愛する著名人がパーソナルなテーマに沿ったオススメ作品を紹介。

テレビ東京制作局プロデューサー・佐久間宣行には、「10代の頃に観ていたら価値観が変わったかもしれない作品」を4本挙げてもらった。新旧名作は、多感で不安定な時期の人にとっては、きっと人生の指針の1つとなる。もちろんその時期を過ぎた人にとっても、過去を懐かしみ、新たな考えを持つ良いきっかけとなるはずだ。

前編では『そうして私たちはプールに金魚を、』『ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから』を紹介いただいたが、今回はどんな作品が登場するのか。

『ガタカ』発売中  英題:GATTACA
Blu-ray 2,381円(税別)/DVD 1,410円(税別)
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント (Sony Pictures Entertainment Japan)
©1997 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

3本目に挙げるのは、『ガタカ』です。遺伝子至上主義の近未来を描いたもので、自然出産によって生まれた“不適格者”の青年ヴィンセント(イーサン・ホーク)が、遺伝子操作されたエリート“適格者”しかなれない宇宙飛行士を目指す話なんですけれど、これを僕はディストピアものではなく、希望の物語として紹介したい。運命が決定づけられている世界の話だけれど、ヴィンセントは手持ちのカードで精一杯抵抗する。知恵と勇気で自分の人生を切り開いていく物語です。

僕はこの作品をギリギリ大学生の頃、20代で観ることができた。その時の僕は、就職活動するのかしないのか、と揺れ動いている時期で。自分にできることや、できないことをはっきり認知して、「自分って全然天才じゃないな〜」なんて切ない気持ちを持っていた頃にこれを観て、とても勇気づけられたんです。

「もともとルックスが良い人はいるし、足がめちゃくちゃ速い人もいる。そういう子達が周りにいる中で、自分は天才ではないからってやりたいことを諦めるのか? でもそうじゃないだろう」って。自分のやりたいことがあった時にどうしたら良いのか。その回答を、この映画に見出したんです。今の10代が観ても、救われる部分が大いにあるはずです。僕は今の10代って、情報量が多すぎて、人間を信用して生きていない部分が大きいと思っていて。僕が10代の頃って、クラスの40人ぐらいと12年間付き合う人生で、しかもインターネットもないからその40人との世界が人生のすべてだったわけです。自分に似た人間が世界にいるだなんてことも思っていないから、自分がオタクだったことをひた隠しにして、自分は変わった人間なんだって思わざるを得ない人生だった。でも、今の子達はSNSのおかげで、自分に似た人が世界中にいることを早い段階から知っている。その一方で、自分が天才ではないこと、自分のルックスが全世界において何番目ぐらいなのかとか、自分がつぶやいても“いいね”がこれくらいしかつかない…とか、自分の世界からの評価みたいなものも圧倒的に早い段階から知っている。だから手持ちのカードを知ってしまっている中で生きていかなくてはいけないつらさがあるんですね。まさに『ガタカ』と一緒で。

でもこの映画の素晴らしいところは、たとえ産み落とされたのがどんな場所だとしても、人間は夢や希望を抱くもので、それって当然だよなって気付かせてくれるところ。この映画には、若かりし頃のジュード・ロウも出演しているんですが、もし僕が天才だったら、彼が演じる“適格者”のジェロームに共感したかもしれない。でも、僕は恵まれた側の人間じゃなかったからヴィンセントの気持ちで観ていて。きっと、今の10代も同じ視点で観ることができるんじゃないかなと思います。

発売日:2020年7月3日(金)
2015年/韓国/品番:OED-10666/価格:3,800円(税抜)
発売元:マンシーズエンターテインメント/販売元:中央映画貿易

そして4本目は『わたしたち』。韓国の映画です。これは、韓国の小学生同士の日常を描いた作品なんですが、とにかくすごい。何がすごいって、自分の小学生時代のことを鮮明に思い出させる映画なんです。小学生の女の子達が主人公で、仲間外れやらいじめやら、クラス内で起こる日常を大人の目線を徹底的に外して、子どもの目線のみで描いている。子どもの世界から大人を描くとこうなるっていうことをきちんと見せているし、子どもは子ども同士のコミュニティの中だけで閉塞感がありながら必死に生きていることを見せつけてくる。

子ども達のすさまじい演技と表情を見ていると、「わ、小学生の時ってこうだったわ」とか一気に思い出すんです(笑)。こちらは大人の目線で小学生の頃を回顧するから、微笑ましい思い出もたくさん脳裏に浮かぶんだけれど、一方で「もうやっべ。本当に大変だったなこの頃」っていうことも思い出してしまう。小学生の時なんてクラスと家がすべてだったから、1人でも嫌いな奴がクラスにいたら、「あー最悪だ、もう世界終わった」と思って生きていたなって。一言で言うなれば、コミュニティで生きることの大変さって、ここから始まるから、もう人間って大変だなっていう映画ですこれは(笑)。

その中で、『ガタカ』や『ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから』と似ているのは、世界が優しくないっていう残酷な部分をちゃんと描いているから、そこで不意に訪れる友情とかがとんでもない輝きを見せるところ。キラキラ映画の中の友情って、やっぱりキラキラ映画の中の話だから心に響いてこないけど、この作品は、世界は残酷だという大前提のもと主人公の仲の機微を捉えていて、そこに本当に感動してしまう。

なんか大人になって、急に世界に絶望する人がいるじゃないですか。会社に入って「なんなんですか、あの人!」と言い出す人とか。そういう人って、世界がめちゃくちゃ優しくて、自分が皆に理解されると勘違いしている。そういう人に僕は「え? 小学生の頃から大変じゃなかった? 忘れたの?」って言いたくなる。「自分を100%理解してほしい」とかそういうことを簡単に言う人には、この4本を観ろって伝えたい。特に『ガタカ』をね。

僕は映画をほぼ毎日1本観ていて、これは25年ほど続いている習慣なんですが、映画を観続ける理由は映画より贅沢な娯楽って他にはないと思うからなんです。何年もかけて何百もの人が関わって作り上げたものを約2時間で体験できるのは、とても贅沢ですよね。

あと間違いなく、10代から20代前半ぐらいまでに摂取したカルチャーで自分の人生の柔軟さが変わると思っていて。価値観が決まるとまでは言わないですけど、その時期にいろいろなものを入れられたかどうかで、自分の中に受け入れられる幅が変わる。しなやかさが変わってくるというか。やっぱりその間に偏ったものしか触れていないとか、自分が正しいと思うものとしか出会っていない人は、自分と違う価値観と向き合った時にそれを認められなかったり、自分が平気なものでも世界にはそれがつらくて耐えられない人がいることに気付けなったりすると思うんです。30代でも考えを変えることができる人もいますが、そういう人はやっぱり脳がゆるゆるの時期にいろいろなものを摂取していたりするんですよね……。だから時間がある10代のうちに、いろいろな映画や創作物でさまざまな価値観と触れ合っておくことをおすすめします。そうするとあとの人生がもっと生きやすくなるのではないでしょうか。いろいろな意味でね。

Edit Kei Watabe

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#映画連載 佐久間宣行 世界って残酷。でもだからこそかけがえのないものに出会えることを教えてくれる映画作品4本 前編 https://tokion.jp/2020/08/08/series-of-movie-nobuyuki-sakuma/ Sat, 08 Aug 2020 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=2989 テレビ東京制作局プロデューサー・佐久間宣行が選ぶ、多感な「10代の頃に観ていたら価値観が変わったかもしれない作品」とは?

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映画鑑賞は動画配信サービスの普及によって、もはや特別な行為ではなくなり、感想の共有やレコメンド検索も簡単になった。しかし、それによって映画を“消費”しているようにも感じる。同連載では、映画を愛する著名人がパーソナルなテーマに沿ったオススメ作品を紹介。“消費”するだけでなく、“吸収”し、糧となるような作品を掲載していく。

今回登場するのは、若い頃から映画や演劇などに親しむテレビ東京制作局プロデューサー・佐久間宣行。多忙を極めながらも、観たい作品をカレンダー上で管理してほぼ毎日のように映画を観るという佐久間に、「10代の頃に観ていたら価値観が変わったかもしれない作品」をテーマに4本選んでもらった。傷つきやすく、多感な時期に観ていたら、心の支えになっていたかもしれないし、違う人生を歩むきっかけになったかもしれない作品を、前後編に分けて2本ずつ紹介する。

『そうして私たちはプールに金魚を、』は、2010年代前半の埼玉県狭山市に生きる女子中学生の姿を描いた、実話を元にした作品なんですけれど、地方の閉塞感のようなものって、どの場所、どの時代でも変わらずあるものなんだなと思って選んだ作品です。僕自身は10代当時、閉塞感を持って生きていることなんて気付いてはいなかったんですけどね。でも今、大人になって振り返ってみると、作品に共感できることが多くて心に残ったんです。

僕が10代を過ごしたのは1980年代後半から1990年代前半。場所は福島県いわき市。インターネットもない時代だし、文化格差がものすごくある場所でした。というのも、僕が住んでいた海沿いのエリアでは、ニッポン放送とかいわゆるキー局のラジオを聴ことができたんですね。そのおかげで東京というか、最先端のカルチャーに触れることができた。例えば、「士郎正宗さんって人が『攻殻機動隊』『アップルシード』っていうすごい漫画を描いているらしい」だとか、演劇では「第三舞台とか、三谷幸喜っていうすごい人が出てきたらしい」だとか。そういう情報が深夜ラジオを通して耳に入ってきたんです。でも、そんなことを知っているのって、クラスの2〜3割ぐらい。電気グルーヴがインストでアルバム出すなんて言ってもほとんどの人は知らなくて、「は? 電気グルーヴ? インスト? 何それ?」って感じ(笑)。

そんな中で、どうやったら最先端のアニメやら舞台やらを観ることができるんだろう……って、ずっと憧れているような10代を僕は過ごしていました。

でね、当時のいわき市は基本的にヤンキー文化だったから、ちょっとでも変わったことをすると目をつけられてしまうんですよ。特に僕のような180cmも身長があって、ヤンキーともそこそこうまくやってる人間の鞄から『アニメージュ』が出てきたら「え、佐久間ってひょっとしてオタク?」って、いじめられちゃったりするわけです。もちろん、それぞれのジャンルで気の合う仲間はいましたけれど、総合的にカルチャーに興味のある友達は1人もいませんでした。アニメージュなんてエロ本の如く、「絶対に見つかってはならない」と思って持ち歩いていたし、めちゃめちゃメインカルチャーを好きなふりをしたりとか(笑)。

当時はそんな生き方に息苦しさや寂しさは全く感じず、むしろそれが普通のことだと思っていたんですけど、大学入学に合わせて上京した時、初めて自分が寂しさを抱えていたことに気付いたんです。今でも友人なんですけれど、東京で初めて仲良くなった人が相当なオタクだったんです。実家の金物屋の2階にある彼の部屋はSFや演劇関係の本であふれていて、床が抜けそうになってるほどで。そんな同じ趣味を持つやつと初めて出会って「あ、俺寂しかったんだな10代」って。

でもね、今、当時の自分に言いたいのは「絶対その趣味やめんなよ」ってこと。『そうして私たちはプールに金魚を、』の彼女達もそうですけれど、自分が興味のあることや本心を誰かに話しても興味を持ってもらえないことって、誰にでもあるわけです。それこそ言ったらいじめられちゃうかもしれない……とかね。僕自身も「なんだ、誰も観てないし、誰もおもしろいって思ってないじゃん」と、いっときは自分の趣味をやめたこともあったけれど、それでもずっと好きだって気持ちを見捨てずに触れ続けてきたカルチャーで得たもの=価値観が、今ではものすごい宝物になっている。その事実は、10代の自分に伝えてあげたいですよね。

『そうして私たちはプールに金魚を、』は、10代の頃の僕が観ても共感できる作品だと思ったりもするんですけれど、『ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから(以下、ハーフ・オブ・イット)』は価値観が最先端すぎて、10代の僕が果たして正しく理解できたかは疑問です。でも「世界で自分のことを理解してくれる人なんていないんだ」っていうわりと絶望的なところから始まる物語には自分と重なるところがありますし、10代の時にこの作品を観たのなら価値観がずいぶん変わるだろうなと思って選びました。

『ハーフ・オブ・イット』はラブストーリー・青春映画ってここまできたんだなっていう衝撃的な作品でした。ベースになっているのが『シラノ・ド・ベルジュラック』だったり、監督の実話でもあるんですけれど、物語が本当にみずみずしくって繊細で単純じゃなくって……。セリフの1つひとつもとても美しく、青春映画でここまでさまざまな価値観を描くことができるんだってすごく感動しました。

この作品は、自分を100%理解してくれる人なんていないし、いたらそれは奇跡なんだよということをちゃんと伝えてくれる。それって、「この世界って残酷なんですよ」って伝えていることと一緒だと思うんです。みんなが優しくて、あなたのことを両手を広げて待ってますなんていうことを描く映画って嘘じゃないですか。世界ではそんなことあり得ない。現実の残酷さをちゃんと描きながら、だからこそかけがえのないものがあるんだよということを伝えてくれているんですよね。残酷な世界の中で生きるからこそ、不意に訪れる友情がとんでもない輝きを見せる。心を打たれた理由は、ここにあると思います。今回チョイスした4本の中では『ハーフ・オブ・イット』が一番好き。

ちなみに、この2作品とも女性が主人公なんですが、特に意識して選んだわけではありません。でも女性は生きづらさだったり、どうやって生きていこうかっていうことに気付くのが早いですよね。10代の早い段階で自意識の葛藤がある。だから心震わされる10代をテーマにした映画は女性が主人公であることが多いんじゃないですかね。男ってこの時期は何も考えてなかったりするじゃないですか(笑)。

Edit Kei Watabe

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