MADSAKIの個展「1984」が東京のカイカイキキギャラリーで開催されている。会期は10月1日まで。同展は、MADSAKIが幼少期に影響を受けた「マスターズオブザユニバース」のマテル製のフィギュアやコミック、包装を題材に、当時の玩具を約15倍に拡大した彫刻作品や10歳の頃のMADSAKIのぎこちない笑顔の写真をモチーフにした絵画作品で構成されている。
村上隆によるコメントでは、「1980年、MADSAKIが6歳の時に英語を全く話せない状態で、大阪からアメリカのニュージャージーのバーゲン・カウンティへ移住した。当時彼はクラスメートとの間に大きな壁を感じていて、放課後は家で1人でテレビアニメを見ることが多かった。とりわけ熱中したのは、マテル社が開発した『マスターズオブザユニバース』という玩具をもとにしたアニメ番組『ヒーマン&ザマスターズオブザユニバース』だった。同シリーズは、1982年に玩具としてデビューし、その後テレビアニメ、コミックス、ゲーム、実写映画など、幅広いジャンルへ展開。たくましい体躯をもつ金髪のヒーロー『ヒーマン』は、どんなときも自分が置かれた状況と行動の1つひとつをはっきりと自信満々に説明する。そうした有無を言わさぬ調子で繰り出す教訓めいた解説は、MADSAKIにとっては途切れることなく耳に飛び込んでくる英語の教材であり、なじみのない周囲の環境と自分との間に、文化的かつ言語的な絆をもたらしてくれるものでもあった。そうした継続的なリスニングを通じてMADSAKIは自分の思いを英語で声に出して伝えられるようになった。つまり、ヒーマンこそ、彼にとって、文化の架け橋を作ってくれた作品であり、人格形成の中核を担っている。その英語をマスターした年が1984年。そして、『マスターオブユニバース』が、ブームの頂点に達した年も、その年であった」とMADSAKIと「マスターオブユニバース」、「1984」の関係を説明する。
加えて、オーウェルの小説『1984』との関連性については、「アップルが1984年1月22日のスーパーボウルの時に放映した、リドリー・スコット監督によるマッキントッシュのCM。コンピューター業界最大手のIBMに挑むインディー企業アップル、という物語は、新しいコンピューター世代の台頭とともに、時代そのものがガラリと変わった象徴でもあった。その元ネタがジョージ・オーウェルの小説『1984』であり、権威と体制と個人の自由の相関性が書かれたものだった。つまりMADSAKIにとって、難攻不落の壁は言語であり、その壁を破ってくれたヒーローが『ヒーマン』であった、と。MADSAKIの人生における真のヒーローと世界観を描き出す、という意味において、オーウェルの『1984』も援用された」と解説する。
MADSAKIは1974年大阪府生まれ。1980年、6歳の時に大阪からアメリカのニュージャージーのバーゲン・カウンティへ移住。1996年にニューヨークのパーソンズ・スクール・オブ・デザインでBFAを取得。アーティス集団Barnstormersのメンバーとして数年間活動。1999年〜2002年まで、マンハッタン島内でメッセンジャーの仕事に従事。2004年に日本へ帰国。裏原宿のブランドとのコラボを行いながら、年に1~2回個展を開催。2017年カイカイキキの所属作家となる。