現代における新しい場所の在り方とは 「SKWAT」が掲げる都市スペースの使い方

「SKWAT」は設計事務所「DAIKEI MILLS」の中村圭佑がスタートさせたプロジェクトで、当初よりアートブック専門のディストリビューター、「twelvebooks」の濱中敦史とともに展開している。現在、青山にある「SKWAT」は、地下から2階までのフロアで3つの異なるスペースが広がっている。スタートしたきっかけは、2020年に開催予定だった東京オリンピック。オリンピック後の都市には空き物件(スペース)が増え、どうその空間を活用すべきかという問題に対して、「SKWAT」というプロジェクトで空きスペースを占拠しコンテンツを作り、街を活性化させていくということだった。それが新型コロナウイルスによって大きく状況が変わってしまい、現在に至る。今後人々に求められる、ユニークかつ楽しくて新しい場所とはどんな空間か。立ち上げメンバーの中村と濱中、さらに「SKWAT」が青山にオープンするのに合わせて運営に加わったエドストローム淑子の3人に、場所の在り方を聞く。

場所の特性を見極め、最小限の行為で最大限のパフォーマンスを

「SKWAT」。語源となった“squat”は、“占拠する”の意味を指す。イギリスやオランダ、ドイツなどの欧州諸国では、不法占拠者がいつく建物があり、その使われていない建物を無断で占拠することを“スクワット(スコッター)”と呼んだりもしている。バックパッカーらが「今日は適当なスクワットでも探して寝泊りする予定だよ!」などと話しているのは、そういった行為を指すものだ。

プロジェクト名として、“スクワット”を掲げているのは、一定期間特定の場所を占拠することで広がりを見せていくことを示唆しているからだ。スタートは2019年の12月、原宿にあった小さな青い一軒家から。その後、2020年3月には「CIBONE Aoyama」がクローズに向かう2週間、店内の一角を占拠。さらに5月29日には、表参道のみゆき通りの一角に、現在の「SKWAT/twelvebooks」をオープンさせる。1階には10月1日にブランド「ルメール」のショップがオープンし、9日には地下にギャラリースペース「PARK」を公開。
「どこであっても『SKWAT』に共通する思想は、“最小限の行為で最大限の価値深いパフォーマンスを発揮していく”ということなんです。場所を占拠して、メッセージを込めたアクションを発信し、訪れた人達に何かを感じてもらう。そうして街が開けていくということを考えているんです」(中村)。

「SKWAT」では、むき出しの内壁やダクトがそのまま空間のデザインにもなっているのだが、ここにも思想が反映されている。「コストをかけずとも、場所の特性を読み取れば、豊かで今までにない空間になる。それはこれまで作られてきた空間の在り方とは、異なる視点になるんですけど、それが本質的な空間の使い方だと思います。費用をかけることが悪いという意味ではなく、これからのアフターコロナの時代であったり、もともと僕らが見据えていたオリンピック後の街の状況などを考えていくと、何かきらびやかなものを作るのではなくて、今できること、身の丈と時代性に合った、今ならではのやり方を考えていく必要がある。つまり、身の回りにあるものを変容させたり、場所の特性を見極めて少しだけアジャストさせていく。それをオリジナリティあふれるものにできれば、予定調和ではない空間を作れると思うんです」(中村)。

「SKWAT」の壁には、ところどころ赤いペイントのラインがあるのだが、これは元から刻まれていたもので、H鋼にも赤いさび止めが塗られていた状態だった。そのままにしているのは、最初に訪れた中村さんがこの赤にインスパイアされ全体を赤い空間にしていこうと考えたからだ。ここにも、在るものに対してどう寄り添うかという“最小限の行為”が発揮されている。当然、最近オープンした1階の「ルメール」のショップでも赤は反映されている。
「僕達の哲学を体現した上で、場所の特性を生かしながら『ルメール』の世界観も崩さず、両者が共存できる新しい在り方は何かと考えて設計していきました。そこでブランド側と打ち合わせを重ねる中、尊敬している日本の物作りや日本家屋にフォーカスして、日本の美術的な歴史を掘り起こしてアップデートさせるのが良いと考えたんです。そのタイミングでたまたま大阪に築100年くらいの日本家屋が解体予定であることを知り、その柱材、梁材を余すことなく再構築して、伝統的な手法である木組みのみでショップをデザインしました。木組みなので、場所を移動することになったとしてもパーツを外すだけで持っていくこともできます。100年存在した歴史を再構築して未来へつなぎ、そして再び歴史を作っていくというのは、『SKWAT』が目指す思想ともマッチしています」(中村)。
「エドストロームオフィスで『ルメール』の国内PRを手伝っているので、その流れからだったのですが、ブランドがSKWATのコンセプトを瞬間的に理解してくれたので、スムーズにショップのデザインが進んでいきました。お互いのやりたいことをリスペクトしながら空間が完成していったんです。まれに見る良い流れでしたね」(淑子)。

余白を残した不完全な場所であることがカウンターカルチャーに

2階には「twelvebooks」が入っており、手掛けている濱中さんは、「SKWAT」の立ち上げメンバーだ。もともと中村さんとは同じ職場で、独立後も関係性を保ち続けていたのもあり、今回のプロジェクトを立ち上げる際にも、その思考や哲学に対し共感できたという。この「SKWAT」で「twelvebooks」を運営するにあたり、どのように考えているのだろうか。
「プロジェクトが立ち上がる以前の『twelvebooks』は、書籍の卸がメインだったので、一般の方とはあまり触れ合う機会はなかったんですよね。でもいずれは一般の方とも直接のアクションを取っていきたいと考えていたので、『SKWAT』のスタートは、直接マーケットにアプローチできるきっかけになりました。コロナ禍に見舞われ世の中の動きがオンラインに向かっている今、必要なものが何かという取捨選択を問われる時代に、足を運ぶ価値がある場所だとリアクションをしてもらえているのはすごく嬉しいです。こんな時代だからこそ、人が集まる場所を持つ人間として、何が魅力的で楽しいのかを考えるべきですし、『SKWAT』はそこを追究している空間だと思います。誰でも入ることができて、気分良く過ごせたり楽しんだりすることができる空間ですかね」(濱中)。

ではエドストローム淑子さんは、「SKWAT」についてどう考えているのか。
「濱中さんとは昔からの知り合いだったこともあって、オープン前に来たのですが、その時にすごく良い風が吹いていると感じました。何か直感的なものと言いますか。だからこそ一緒にやりたいと考えました。『SKWAT』はコピー&ペーストされたものではないんですよね。良い意味でサプライズがあって、誰が来てもウェルカムな状態がとてもすてき。それに過剰な演出がないことで、訪れる人が自分達の考えていることや興味を持っているものを重ねる余白がある。すべてが完成している空間でないからこその魅力がありますよね」(淑子)。
「ラグジュアリーブランドのショップがひしめき合う青山のど真ん中で、僕らが不完全な場所を作っていくことが、ある意味カウンターカルチャーになっていくと感じています。物の価値とはなんだろう。今、本当にきらびやかなものだけが必要なのか、という問題提起にもつながっていくはず」(中村)。

場所に求められるのは人の温もりやビハインドストーリー

新型コロナウイルスのパンデミックによって、直接的なコミュニケーションが減っている今、場所の在り方について中村さんは次のように考えている。
「コロナ禍によって人との距離がある意味、断絶されて孤独を感じることが多い時代。さらに今後もこの状況は続いていくでしょうし、通例になっていくかもしれません。一方で、WEBコンテンツは充実していて、オンライン上でどこまでつながれるかがビジネスを回す上でとても重要になってきています。『SKWAT』もならではなヴァーチャル表現をしているのですが、それだけでは人の心を温めることはできません。今後はフィジカルなコミュニケーションの場を持つことが重要になってくるはず。その場所に求められるのは、予定調和ではない個性が必要。一人よがりな個性を演出するのではなく、人の温もり、分断されてしまった人との距離を縮める役割も必要で、淑子さんが仰るように、“余白があること”が大事です。余白をどう考え、楽しむかを体感できるように、地下のスペースを『PARK』と呼んでいます。『PARK』のコンセプトは、少しコンセプチュアルでエクスペリメンタルなので使い方に戸惑うかもしれませんが、自由な空間です。多くの人に自由を感じてもらえれば、今後さらに目指すべき空間に近づいていくと思います」(中村)。
現在「PARK」では、グラフィックデザイナーでアートディレクターの田中義久と共同企画したインスタレーション、「田中義久之本棚」が展開されており、アートブックが完成していくプロセスを体験することができる。

今後「SKWAT/twelvebooks」はどうなっていくのか、最後に聞かせてもらった。
「『twelvebooks』では、今年の7月末に閉廊してしまった『Rat Hole Gallery』(『ヒステリックグラマー』を擁するオゾンコミュニティが、14年間運営していたアートギャラリー)で扱っていたアートブックを引き取っているのですが、もっとアーカイブの空間を広げていこうと考えています。実際にギャラリーで使われてた本棚や素材を一部譲ってもらえたので、南青山にRat Hole Galleryという場所があったということを伝えていきたいんですよね」(濱中)。
「『SKWAT』では特に新しい手法を取っているわけではないのに、来てみると新しさを感じられるのがポイントだと思っています。多くの人が考える素材や表層的なデザインではなく、人の思いや、すでに失われてしまったものを復元したり、もっと精神性から派生したビハインドストーリーをどれだけ色濃く反映できるかが、新しさにつながっていくと思います。時代性に沿って再構築していくことが、コピー&ペーストではない新しい価値になるはず。SKWATとしてはいろんな活動をしていきたい。僕達が今想像できていないことも含め、そのアイデアが世界中に広がっていって、これまでとは違うものを生み出していく。そんなふうに現代の人の価値観を変えていきたいです」(中村)。

中村圭佑
設計事務所、「DAIKEI MILLS」のデザイナー兼代表。「SKWAT」の発起人。「Artek Tokyo Store」や「イッセイ ミヤケ」「CIBONE Aoyama」など、数々の建築デザインを手掛けている。
http://daikeimills.com/

濱中敦史
2010年に東京を拠点にスタートしたアートブック専門のディストリビューター、「twelvebooks」を運営。現在はオフィスをSKWAT内に移転。バイヤーだけでなく、一般の人も取り扱い書籍を購入できる。
https://www.twelve-books.com/

エドストローム淑子
PR会社「エドストロームオフィス」代表。国内外のさまざまなブランドのセールスやPR業務を行う。「SKWAT」が青山でスタートする際に合流し、ともに事業展開に関する運営に携わっている。
http://edstromoffice.com/

■SKWAT/twelvebooks
住所:東京都港区南青山5-3-2
時間:12:00~19:00
定休日:月曜
https://www.skwat.site/
Instagram:@skwat.site

Photography Ryo Kuzuma
Text Ryo Tajima

author:

相沢修一

宮城県生まれ。ストリートカルチャー誌をメインに書籍やカタログなどの編集を経て、2018年にINFAS パブリケーションズに入社。入社後は『STUDIO VOICE』編集部を経て『TOKION』編集部に所属。

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