愛するカルチャーを継承するためにーー「Lodown Magazine」のトーマス・マレッキ × 土谷尚武による交換書簡

1995年に創刊されたベルリン発のストリートカルチャー誌「Lodown Magazine」。創設者兼クリエイティブディレクターであるトーマス・マレッキは、アートや音楽、ボードスポーツやグラフィティをはじめ、常に自分たちの愛するカルチャーの最前線を見つめてきた。そんな彼が交換書簡の相手に選んだのは、長年の友人でありイラストレーターの土谷尚武。「Lodown Magazine」を通じ、幾度となくコラボレーションを重ねてきた同志だ。言葉も国籍も世代も違う2人をつなぐのは、アートとカルチャー。愛するカルチャーを継承するために、私たちは何ができるのか? 真っ白な紙に各々が今感じていることを赤裸々に綴った交換書簡には、その答えが詰まっている。

「Lodown Magazine」がつないだ2人の出会い

尚武へ

元気にしてるかな。久しぶりだよね……。初めて尚武の作品を見たことを覚えてるよ。ウィーンにいる僕の友達、パトリック・パルシンガーの自宅だった。僕の本『M – transforming language』のサウンドトラックを制作していたんだ。今見てみると、あの本はインスタグラムの先駆け的なものだったね…。それはそうと…パトリックはその時ちょうど日本へ行ってて、君のエキシビジョンから作品集を持って帰ってたんだ。本当に感動したよ。だからLodownで特集するために君に連絡すべきだと思って…それで2002年に始まったんだよね。それ以来ずっとLodownや他の案件へのサブミッションをお願いする時は、君のことを頼りにしてる。尚武の作品はいつも素晴らしいよ。Lodown 35号のバーガーショップ、Lodown 39号の表紙、アディダスのスーパースター35周年ブックのコントリビューションや一緒に手掛けたABSOLUT WORLDSとか…最近だと「Stay Puff」Tシャツだよね…。

君は一度だけベルリンへ来たけど、これもかなり前の話…思い出せないよ。先進国で渡航制限が出る前だったのは確かだね…最近はどうしてる…? COVID-19で何か影響はあった?・・・

親愛なるトーマスへ

お久しぶり。
お変わりありませんか?
いつもLODOWN(by LODOWN)の最新号を送ってもらっているから近くに感じています。
初めてLODOWNを見つけた時の衝撃は凄かった!
1999年頃かな。場所は青山のオン・サンデーズ。まだクリップで綴じられていた初期のLODOWN。あの時からLODOWNは僕の教科書になっています。企業や権威的な匂いが全くなく制作者の哲学がそのまま雑誌になっている感じに深く共感しました。同時に雑誌そのものが新しいカルチャーを作り出している感じがあり、その事がまた僕の心を鷲掴みにしました。
 『ここには自由があるっ!!』頭の中でそう叫んでいたのをハッキリと覚えています。あまりの衝撃にパトリックが買ってくれた作品集は当時のLODOWNのサイズをまんまコピーして制作しました。
当時から今日まで僕のクリエイティブを見守ってくれてありがとう。
僕はころころとイラストのスタイルが変化するから、トーマスを混乱させているかもしれません。LODOWNにも変化を感じます。最近はアート的な力強さを誌面から感じます。トーマス自身アーティストとしての活動も活発な気がします。よりアート活動に力を注ぐのですか? ベルリンには広い空間があります。自分のアトリエを持っていますか? 家族もできましたね。すごい変化!! でも冬はきっちりスノボやっているし家族を持った事でライフスタイルに変化はありましたか? スポーツシューズの大人買いをやめたとか??
LODOWN no.32で特集を組んでもらった時はこれで死んでも良いと思いました。2002年、当時僕の絵を評価してくれる人は全くいなくてガッカリしていたから。
プロジェクトの中でもアディダスのスーパースター35周年ブックとABSOLUT WORLDSは僕にとっても特別な仕事でした。これらのプロジェクトで作りあげたイメージは進化させてまた表現したいです。
先日、組ませてもらった「Stay Puff」Tシャツは最高でした!!!
OPEN MINDEDシリーズを起用してくれてありがとう。Stay Puffの意味を知って大笑い。2015年にベルリンのFirmamentでの展示の話が来てOPEN MINDEDシリーズかCHILDHOOD’S ENDシリーズにするかとなってCHILDHOOD’S ENDシリーズになったのが凄く昔のことに感じられます。
COVID-19に東京が占領されてからは自転車によく乗る様になりました。緊急事態宣言中の人のいない渋谷、青山、原宿を自転車で走るのは奇妙な経験でした。
8月に東京駅構内にオープンしたVINYLというショップから2.5Dアクリルフィギュアが発売されました。『発狂するキャラクター達』という新しいシリーズです。

カルチャーの変遷とパンデミックとの向き合い方について

尚武へ

返信ありがとう。いつだって君からの連絡は嬉しいよ。初めて出会った時から尚武はいつも何かに取り組んでるところが好きだし、いつも新鮮で、社会に対するちょっとしたコメントも入っててさ。

そうだね、Lodownは自由なプラットフォームだし、一度も売り切れたことがないよ、はは…だからこそ僕らはまだ君が考えられる最小のインディペンデントな存在だよね。僕らの焦点はプリントだったから、結局Lodown 3.0には至らなかったんだ。次なる目玉を約束され、可能性を秘めていたiPad版があったけど、Appleは制限とアップデートによってそれを墓場に置いてったしね。僕らにとっては金の墓場だったよ。とにかくすべては前に進む、後戻りはしない…少なくともそう願うよ。芸術的な観点からいえば、COVID19は僕にとって大きな分岐点だった。たくさんのことが僕のレーダーから抜け落ちてしまって、もう興味が湧かない。それに僕らが愛するポップカルチャーは企業の欲に溺れてるから、啓発する見込みのあるエッセンスを見つけることは難しいんだ。本当に…すべてのゴミと過去によかったモノのリサイクルやそれを繰り返すことは、その価値を下げるだけ。何があるんだ…? 尚武がクリエイションへの道を見つけることを願うよ、だってそれだけが重要だからさ。

これからどうなるのか見てみようよ。僕らの世代が発展したように、ユース世代が消費主義に盲目にならなければいいな……。

親愛なるトーマスへ

返事をありがとう。
LODOWNのiPad版は本当に残念でした。
LODOWNが創刊された1995年当時と比べ今はストリートカルチャーもポップカルチャーも、黎明期的で素朴な高揚感が失われた事は否めないと思います。小さなサロン的グループの人数が増えて大きなグループになった時の変化に似ていると思う。当時のストリートカルチャーやポップカルチャーが現在メインストリームになったという事でしょう。僕が子供だった1980年当時パンクの文化圏に属していない人間がパンクを語ったり絵のモチーフとして扱う行為ははばかられる空気が一部にありました。今はあらゆる事柄に対して全ての人が自由に物言える環境です。若い世代は先入観なく過去のカルチャーを再解釈している様に見えます。この自由な再解釈という部分に期待をしています。新しい表現やカルチャーはここを起点として出て来ていると感じています。時々?というモノもありますが。
COVID19は街や人々を暗く社会を萎縮させたと思います。この様な状況でもギャラリーやイラストレーターは対策を考えて展示をしています。効率が悪くても可能な限り日常の生活を保つ事。今はそれが大事だと思っています。
LODOWN(byLODOWN)では最近YOUTHをテーマにした号を二回刊行しています。トーマスのYOUTHへの期待と思いを強く感じます。
毎回送られてくる誌面から伝わってくるゴロッとした圧力と強さはWEBではなかなか体感できません。とは言えLODOWNのWEBサイトは本誌の構成とは全く違うアプローチをしながら巧みに本誌とリンクさせておりその手腕は流石の一言です。
1秒でも先の未来が見たい!これは僕のクリエイティブにおける切なる思いです。自分にとって新しい表現が世間にとっても新しければ良いのですがかなり難しい。キャリアを重ねて経験値が上がったら分からないことは少なくなると思っていました。実際は分からない事だらけです。2018年に個展を開催しました。クリエイティブ人生後半戦のスタートに位置付けた展示でした。商業イラストレーターとしてクライアントのリクエストにひたすら答える仕事をしてきましたがこの展示では自分をクライアントにしました。自分の哲学やメッセージが自分のどこから湧き上がり誰に伝えたいのか?そして自分の立ち位置はどこなのか?それらを確認する為の展示でもありました。商業イラストレーターはあまりメッセージ的な要素を作品に持ち込まない方が良いというのが僕の考えですが自然にメッセージを発している自分がいます。時代の空気が自分を後押ししています。

昔、トーマスが来日し三宿のタケハーナ(現在は閉店)で夕食をした際、僕が「人生は複雑で厄介だ」と言ったら「僕はシンプルだと思うよ」とトーマスに返された事がいまだに印象深く思い出されます。あ、それから「前菜にお寿司が食べたい」とリクエストされて食文化の違いを感じたのも懐かしいです。

愛するカルチャーを継承するために、私たちができること

尚武へ

2通目のお手紙をありがとう。今、ベルリンに戻る飛行機に乗っているよ。家族と9日間ポルトガルに行って、波に乗ってきたんだ。どうしてもビーチに行きたくてたまらなくてさ。前回の旅行はこのパンデミックが始まったばかりの3月に行った北海道。未知のウイルスへの不安が揺れ動いていたけど、最高の旅だったよ。ゲレンデは空いていたけどね。とにかく、サブカルチャーは何度も何度も食べられて消化されてきたと思うんだけど、それでいいんだ。好きなことをやっているだけで楽しい時間を過ごせた。僕はいつも神は若者を愛していると言っているし、これは残るべきだよね。

残念なことに、今はすべてのものがあっという間に吸い上げられて、お金で評価されなければならなくなった。このハイパー資本主義は文化を浸しているだけで、価値がどうやって生まれるのか理解できない。ブラック工場で作られたスニーカーに大金をつぎ込んで、人々が貧しい暮らしをしているとか、僕にとってそれはただの失敗だよ。

それは(スニーカーの)カルチャーではなく、搾取や退廃。でも、高級品業界全体が何だか時代遅れなんだよね……。

とはいえ、僕は変化を受け入れていくべきで、今こそ新しい常識が必要だね。忘れ去られた知識の上に積み重ねていかなければならないんだろうな…。現実がもはやかつてのものではないとき、ノスタルジアはその完全な意味を仮定している。(ボードリヤールの引用)僕は情報過多のフラットさから逃れようとしてる。一番いいのは、サーフィンやスノーボードに行って、そのとき1つの存在になること。僕にとってそれはシンプルさの縮図なんだ。不幸はいずれ誰にでも訪れるものだから、僕は不幸を求めない。人類が現代の不信と操作のサイクルにブレーキをかけることを願っているよ。

僕らの存在の喜びを忘れないでね。

親愛なるトーマスへ

これが最後の書簡ですね。早いな。    
いつの時代も世界は激動している。古代ローマの哲学者の言葉を借りるまでもなく人間の本質は変わらないのでしょう。人々の格差が増大し固定化される傾向が顕著な世界で搾取や退廃が進む。人間の欲望のなせる技なのかもしれない。
この様な社会で行われるのは弱者の淘汰。トーマスの言う『(スニーカーの)カルチャーではなく、搾取や退廃』になるのだと思います。
一番助けを必要としている人間に援助の手が届かない。周りを上手く使ってすり抜けようとする。間違った事に異を唱えないで巻かれる。この様な行為に怒りを覚えます。
僕たちの世代は(僕はトーマスより12歳年上だけど)アナログからデジタルへの変換と70年代から現在までのカルチャーの変遷を経験してきました。この50年間のカルチャーの変化は前世代のカルチャーに対する何らかのカウンターとして登場してきたと思う。しかし最近の動きは過去の歴史と完全に解離した感じです。
お金で評価されるのとSNSのフォロワー数やいいね!の数で評価が決まるのには同じ違和感を感じています。優れた表現が必ずしもいいね!される訳ではない。僕たちが20代だった頃よりも目先の事に気持ちが引っ張られやすい時代だと思います。経済が低迷し格差が広がる社会(日本がまさにそれ)ではお金とフォロワー数による評価は強く存在し続けるでしょう。人気の作られ方が変わったのだと思う。
COVID-19の状況が変化し続ける現在だけどこの騒ぎが落ち着いた時、僕たちはホッとして肩の力が抜けるだろうと想像します。
その時何か変化が起きるのか?何も起きないのか? 。。。 。トーマスが北海道を再訪するのは予想できるな。
サーフィン、スノーボード、スケートボードにスニーカー。あるべき物があるべき場所にあるべき佇まいで存在し続ける社会であって欲しい。
LODOWNは無名のアーティストに多くの誌面を割いてきました。僕もあやかった一人です。いつもLODOWNが届くのを楽しみにしています。LODOWNが作られる。それが何より僕たちの愛するカルチャーを継承し伝える事になるから。そして新しいムーブメントも!
最後はトーマスのこの言葉で。
素敵な言葉です。

神は若者を愛している 
by Thomas Marecki

トーマス・マレッキ
1972年、ドイツ・ベルリン生まれ。「Lodown Magazine」の創設者兼クリエイティブディレクター。MAROK名義でグラフィックデザイナーとしても活動している。1995年にストリートカルチャー誌「Lodown Magazine」を創刊。2016年に発表した100号目を機に、レギュラーイシューを終了。現在はユースなどスペシフィックな内容に関するイシューを定期的にリリースしている。
www.lodownmagazine.com
www.instagram.com/marok_tm/
www.instagram.com/lodownmag/

土谷尚武
1963年、アルゼンチン・ブエノスアイレス生まれ。イラストレーター。日本大学芸術学部卒業。1996年に、ザ・チョイス年度賞大賞を受賞した。森ビル、ユニクロ、キリンハードシードルなどの広告をはじめ、イラストレーターとして活躍中。ウメキマキコと共に設立した有限会社アポロの主宰も務めている。「Lodown Magazine」とは2002年から交流があり、2020年に発表した「Stay Puff」Tシャツで再びタッグを組んだ。
www.instagram.com/shobutsuchiya/

author:

山根裕紀子

エディター、ライター/『RISIKO』編集長 広島県生まれ。2012年よりベルリンへ移住。主にファッションやカルチャー誌を中心に企画、取材、執筆をしている。今年、ドイツのアンダーグラウンドな音楽シーンの”今”を紹介するインディペンデントマガジン『RISIKO(リジコ)』を創刊。「WALL(壁)」をテーマとした創刊号では、クラウトロック、ノイエ・ドイチェ・ヴェレ、ハンブルガー・シューレ、 そして現代を生きるドイツ在住のミュージシャン30組 をピックアップ。彼らの言葉から今のシーンを紐解く。 www.yukikoyamane.com   Instagram:@risikomagazine

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