高齢者がオンラインゲーム、若者は美術館へバーチャル訪問。フランスではパンデミックが文化格差を縮める

新型コロナウイルスによるパンデミックの影響で、あらゆる人々の生活様式は変化を強いられた。経済にも大きな打撃を与え、あらゆる方面で社会的格差が広がっている。一方で、フランスでは世代間や収入による文化活動のギャップが縮まったことがわかった。フランス文化省は、2020年3月から約2ヵ月にわたったロックダウン中の過ごし方についての調査を行った。1978年以来、毎年定期的に実施されている調査は、昨年前例のないパンデミックの最中に行われることとなった。

その調査結果から顕著だったのは、60歳以上の高齢者がデジタルの世界へと入り始めたことだ。ロックダウン中に60歳以上はオンラインビデオ配信、オンラインゲーム、SNSに時間を費やした。2018年の同じ調査で「オンラインゲームをやる」と回答したのは全体の17%だったのに対し、2020年には倍の34%に増加した。子どもや友人と会う機会がなくなり、孤立状態から社会との繋がりを求めてSNSを始めた人も増えたようで、「頻繁にSNSをやる」と答えた60歳以上は2年前の12%から43%へと大きな伸びを見せた。調査結果のレポートで社会学者フィリップ・ロンバルドは「物理的に人に会えないため必要に迫られたことと、デジタルに対するイメージが変わっている」ことを理由に挙げている。世界保健機関(WHO)は“Play Apart Together”(離れていっしょに遊ぼう)というスローガンを掲げ、デジタルの社会性を促進し、オンラインゲームが孤独感を解消するのに役立つことを積極的に発信している。

もともとデジタルカルチャーが身近にあり、SNSに多くの時間を費やしてきた若年層(15〜24歳)の慣行にも変化が見られた。この層で絵画、写真、歌、ダンスといった文化活動を少なくとも1つ実践した人は71%に急増し、2年前と比較して14%伸びた。SNS上では窓辺で歌う動画が多く投稿され、TikTokでダンスを披露するユーザーが増えたことから、SNSへの投稿を目的に実生活で文化的活動を取り入れる若者が増えたことが背景にある。なかでも、「写真について勉強した」という回答が最も多く、SNS上での自身のイメージを上げるためにロックダウン中に技術を習得しようと試みたようだ。この分野において、60歳以上の層では約35%と例年と変わらない数字だった。高齢者がデジタル化へ進み、若年層が文化活動を実践するといった、世代間でのデジタルカルチャーのギャップが縮まったのがわかる。

調査結果では、ホワイトカラーとブルーカラーの文化活動の格差も数字に表れている。ロックダウン中にテレワークが行えないブルーカラーは、政府から給与7割の保障を受けて休業扱いとなり、自宅で余暇を過ごすこととなったことを受けて、オンラインで体験できる美術館のバーチャル訪問やオペラ鑑賞、科学・天文学・歴史研究など文化教養プログラムを子供とともに積極的に利用したという結果が出た。対し、テレワークを継続したホワイトカラーは文化活動において消極的で、本来最も熱心に取り組む「読書」においても減少傾向にあった。一日中スクリーンの前で過ごすテレワーク疲れによって、自由時間にはデジタルから離れて過ごしていたようだ。

ロックダウン中のパリ市役所は閉鎖されている美術館へのバーチャル訪問を促進するキャンペーンのために、専用サイトを立ち上げて市民に文化活動を推奨していた。フランス文化省が行った調査結果では、パンデミックによりデジタル化が進んだことで、学歴、収入、世代を問わず文化の民主化が可能になったと記されている。しかし、通常の生活に戻った後、これらの新しい文化慣行が継続されるのか現時点では不明だ。パリ市や各文化施設も、引き続きオンラインでのサービス提供についてはまだ言及していない。社会学者ロンバルドは「今後文化活動がどれだけ定着するかが注目すべき点である。一度見つけた楽しみはそう簡単には手放さない」と予想する。身体的な理由から美術館へ足を運ぶのが難しい高齢者や、経済的に教養プログラムを子どもに与えるのが難しい家庭などは、ロックダウン中に見つけた楽しみを諦めざるを得なくなるのだろうか。本当の意味で”文化の民主化”が進むのは、パンデミック終息後の政府と文化施設の方針にかかっている。

author:

井上エリ

1989年大阪府出身、パリ在住ジャーナリスト。12歳の時に母親と行ったヨーロッパ旅行で海外生活に憧れを抱き、武庫川女子大学卒業後に渡米。ニューヨークでファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。ファッションに携わるほどにヨーロッパの服飾文化や歴史に強く惹かれ、2016年から拠点をパリに移す。現在は各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビューの他、ライフスタイルやカルチャー、政治に関する執筆を手掛ける。

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