シンガーacaneに聞く、SNS時代におけるセルフプロデュース術

依然として厳しい状況にあるコロナ禍の影響で、思うように活動ができないアーティストが多い今日の音楽業界。ライヴやサイン会といったフィジカルな活動がなかなかできない状況で、ミュージシャン達に求められているのは、SNSを中心としたセルフプロデュース能力。今やメジャーだから、レーベルに所属しているから、という理由で売れたりするような時代ではない。
このような状況下で、YouTube動画の総再生回数4500万回を超え、話題と支持を集めているのがシンガーのacaneだ。彼女は現在もなお、事務所やレーベルには所属しない無所属アーティストとして活動を展開している。さまざまなアーティストが大手レーベルに所属しながらも苦労している中で、SNSを中心に脚光を浴びている彼女はどんな活動をしているのか。彼女ならではのセルフプロデュースについて話を聞く。

無所属だからできる距離感でファンの皆様とつながっていくことが大切

――そもそもどのような音楽活動を行っているんですか?

acane:新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が発動するまでは、路上ライヴを中心に活動していました。毎週末に1日5時間ぐらいやっていましたね。その頃からYouTube配信をやってはいたのですが、始めた当初は撮りためたライヴ映像をアップするぐらいでした。そしてコロナ禍になってからは、路上ライヴやライヴハウスでのライブができなくなってしまい、YouTubeやインスタグラムといったSNSでの配信に力を入れるようにして、TikTokも始めたりという活動をしています。

――具体的にSNSではどのようなことを?

acane:主にインスタグラムとYouTubeでの発信がメインですね。特に今は毎日、朝と夜にインスタライヴを行っています。現場でのライヴができない状況だと、ファンとの距離感を遠くに感じてしまうんです。だからインスタライヴでファンとコラボをしたり、ファンレターの返事を書いていますよってトークしたりしています。そうやって直接会えなくても、ファン1人1人としっかりと絆を深めていきたいんです。無所属だからできる近い距離感でファンとつながっていくことを大切にしています。

――インスタグラムでの投稿にはルールを作っていますか?

acane:毎日、インスタストーリーの投稿は途切れないように心掛けています。フィードでの投稿は1日1回更新して、3投稿のうち1つは必ず動画にしています。そうすることで、サムネイルに統一性が出ますし、私のアカウントを見た時に、すぐ歌を聴いていただけるようにしています。

――ではYouTubeやインスタグラム以外のツールではどうですか?

acane:YouTubeチャンネルは週に4回更新してます。月曜日と金曜日は歌動画を、水曜日と日曜日は企画ものを配信しています。あと最近は、TikTokも大切にしていますね。というのも、TikTokをアップするのとしないのでは、インスタのフォロワーの増減が100人ぐらい違うんですよ。今ってYouTubeとインスタグラム、TikTokはすべてつながっていて、その中でTikTokからインスタやYouTubeにアクセスする人が、日本だともっとも多いらしいんです。なので、私もTikTokを始めてからはフォロワーが増え続けています。

――やはりSNSは毎日、投稿することが大事なんですね。ちなみに自身のSNSのフォロワーが伸びている背景についてどうお考えですか?

acane:特に私の場合は、YouTubeで路上ライヴ動画がバズったことがきっかけでした。新宿での路上ライヴで4人のシンガーで歌った「100万回のアイラブユー」を、YouTuberの4Kさんが撮影した動画なのですが、800万回ぐらい再生されたんですよね。この動画をきっかけにYouTubeチャンネルの登録者数とInstagramのフォロワーが一気に増えたんです。あとは、ファンの皆様が「#acaneを有名に」というハッシュタグまで作ってくれたりもして。それからは誰かが私の路上ライヴの映像をYouTubeアップすると、10万再生ぐらいはされるようになっていたので、アップする際には必ず内容欄に、私のYouTubeチャンネルとインスタのアカウントを記載してもらえるよう自分から呼び掛けたりもしました。すると、インスタグラムのフォロワーが1日2000人ぐらいずつ増えていったんです。これは、私1人の力じゃできなかったことですし、路上ライヴを続けてきたからこそのできごとだったと思います。ライヴ動画をきっかけに、音楽だけでご飯を食べられるようになりました。

YouTuberの4Kさんが撮影した「100万回のアイラブユー」

コロナウイルスに左右されずにファンの皆様のためにできることをやる

――では動画でのバズがあったことで無所属でいることを決意したんですか?

acane:実は先ほどお話した動画がバズったことで、20社ぐらいから声を掛けていただけたんです。それで去年の春には、その中の1社にマネージャーと2人で所属しようと思っていたんですけど、コロナウイルスによる緊急事態宣言が発令されてしまって。その時に事務所に所属するべきかどうか冷静に考える時間ができたんです。私が事務所に入ってやりたかったことは、大きなライヴハウスでのライヴだったんです。フリーだとやはり、400~500人規模のライヴハウスが精一杯だったので。でも、コロナ禍でライヴが思うようにできなくなったのであれば、事務所に入る必要はあるのかなって。正直なところ、その頃にはマネージャーと2人ならば、音楽だけで生活はできるぐらいにはなっていたんです。自分達だけでもやりたいことが少しずつできるようになっていたので、事務所に所属することによって制限されることもないかなと考えたりしました。そして、このコロナ禍のタイミングではライヴがなかなかできないので、メジャーデビューしたとしてもさらっと流されてしまうのではとも思って、自分達だけでSNSをやりながら活動していく道を選びました。

――無所属がゆえに苦労していることなどはありますか?

acane:昨年、ヴィレッジヴァンガードからカバーアルバムをリリースさせてもらったのですが、その時に流通の強さを知りました。それまでは音源やグッズをネットで買えるようにしていたのですが、ヴィレッジヴァンガードに置かせてもらったら、初動で驚くぐらい売れて、グッズも含めた全体の売り上げが、ネットだけでリリースしていた時と比べ物にならないほどだったんです。ネットでの購入って簡単なようで難しいことでもあるんですよね。例えば、お金を振り込むから封筒にCDを入れて送り返してくださいというお手紙を頂いたこともありましたし。

――アフターコロナ後も無所属での活動を考えていますか?

acane:今のところはメジャーデビューしたいという考えはないですね。テレビに出ることも目標の1つなのですが、フリーのままキャスティングしてくれる人が現れたら、事務所に所属する必要はないかなと思います。もちろん、入りたくないっていうわけではないので、良いお話しを頂けるのであれば考えます。

――無所属で活動する上で、心掛けていることを教えてください。

acane:まず、応援してくれているファンの皆様を大切にすることです。私のファンの皆様って、性別も年齢層も幅広いんです。小さな子どももいれば、おじいちゃんおばあちゃんもいるんです。思い出に残っているエピソードとしては、私の「君が化粧をする前に」というオリジナル曲を聴いて、「昔の恋愛を思い出して涙が出てきた」と話してくれたおじいちゃんがいたり。そんな温かくて優しいファンの皆様をもっと大切にしたいと思っています。

「君が化粧をする前に」

――ファンの支えは大きな力になりますね。

acane:もちろん今の時代、SNSでの活動も大切ですが、それだけじゃないと思うんです。インスタグラムやTikTokは、良い意味でも悪い意味でも私の名前を知らなくても顔がちょっと好きとか、私の服装が好きっていう人もいれば、本当によくわからない人だっています。ライヴまで行かなくても動画で観られたらいいやって人もいるんです。なので最近作ったファンクラブでは、ファンミーティングをしたり、限定のアパレルを作ったりと、しっかりコミュニケーションが取れるような環境作りをしています。そうすることでもっと深く私のことを知ってもらえますし、もっと仲良くしてもらえたらいいなって考えています。

――まだまだコロナ禍の影響はありますが、今年はどのような活動をしていきたいですか?

acane:2020年は、コロナ禍がなかったら、コロナ禍が落ち着いたらこうしたいなど、確実にできるかもわからないことばかり考えて動いていたんです。でもこれからはそうではなくて、コロナ禍の影響に左右されずにできることをやりたい。そうじゃないと気持ちがブレてしまう。ファンががっかりするようなことはやりたくないです。まずは、オリジナルの楽曲をたくさんリリースしたいし、MVもどんどん撮影して配信したい。そしてYouTubeの撮影や曲作りがしやすいスタジオを作ったりと、環境作りもしっかりしたいと思っています。あとは全国のみなさんの前でライヴがしたいですけど、まだ確実にできる保証がない状況なので、未来のための準備期間として動いていきます。ブレない自分を作ることでコロナに負けないようにしたいんです。昨年はいろいろなことができなかったりしましたが、それは私だけではないですし、これからはコロナウイルスとの生活が日常と考えて活動していきます。

acane
福岡県出身のソロシンガー。YouTubeでの路上ライヴの模様が大きな話題を集めた。現在は東京を中心に活動しながら、歌うことで人の心を豊かにしたいと日々精力的に活動している。これまでに、オリジナルソング「僕のたからもの」がCM起用され、 2018年にはTV番組『NHK のど自慢』でグランプリを受賞。シンガー以外にも、モデルやイベントMCなど、マルチに活動している。そして、2020年10月には初のカバーミニアルバムをリリース。
Instagram:@acane0129
Twitter:@acane0129
YouTube:acane channel
TikTok:@acane0129

Photography Takaki Iwata

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author:

大久保貴央

1987年生まれ、北海道知床出身。フリーランスの雑誌編集者、クリエイティブディレクター、プランナー。ストリートファッション誌の編集者として勤務後フリーランスに。現在は、ファッション、アート、カルチャー、スポーツの領域を中心にフリーの編集者として活動しながら、5G時代におけるスマホ向けコンテンツのクリエイティブディレクター兼プランナーとしても活動する。 2020年は、360°カメラを駆使したオリジナルコンテンツのプロデュース兼ディレクションをスタート。 Instagram:@takao_okb

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