ヘアスタイリストKUNIO KOHZAKIが仮面を再構築 「破壊」と「再生」による新たな創造

へアスタイリストとして活躍するKUNIO KOHZAKI(光崎邦生)が、初となる個展「破壊再生世代 / 一寸先は光」を、東京・表参道のギャラリー・MATで開催している。会期は6月28日まで(※会期が延長されました)。今回の個展では、儀式や魔除けなどで使用される民族仮面を「破壊」し「再生(再構築)」することで誕生した新たな“仮面”を展示。これまでの民族仮面の概念を覆す、アート作品として楽しめる展示となっている。今回、KOHZAKIがなぜ仮面を題材に個展を行ったのか、会場で話を聞いた。

——もともとヘアスタイリストとして活動しているKOHZAKIさんが民族仮面を題材にした個展をするのは意外でした。ヘッドピースとかだとイメージできるのですが。

KUNIO KOHZAKI(以下、KOHZAKI):ヘアスタイリストの仕事でもヘッドピースだけではなく、マスクとかも作ったりしていたので、「首から上のものを作る」っていう意識は昔からありました。だから、僕はヘアスタイリストというよりは、「ヘッドスタイリスト」みたいな感覚で仕事をしていて、今回の仮面の作品もそこにつながっているものだと考えています。

あと、ヘッドピースだと専門的になり過ぎるので、せっかく展示をするなら、それとは違う表現方法に挑戦したら、面白いものができるんじゃないかっていう思いもありました。

——展示の作品は民族仮面を一度分解して、再構築しています。この作品を作ろうと思ったきっかけを教えてください。

KOHAZKI:僕は仕事でヘアを作る時は、今まであるものを作るっていうよりは、「破壊」して「再生(再構築)」するっていうことを意識しています。そうしないと新しいものが作れない。今回はその「破壊」と「再生」を自分の好きな民族仮面でやってみたという感じです。

——民族仮面にはもともと興味があったんですか?

KOHAZAKI:父の事務所に不気味な民族仮面が飾ってあって、それを子どもの頃に見て、ずっと記憶に残っていて。自分が成長する中で、ヒッピーのカルチャーに興味を持つようになって、自然とそうした民族仮面にも引かれるようになり、大人になってからは旅先などで購入して集めていました。

それで今回の展示にあたって、昔飾ってあった仮面について父に尋ねたら、それは僕が母親のお腹の中にいる時に、父がインドとネパールを旅して買ってきたものだって聞いて。その仮面が僕の記憶に残って、ルーツにもなっているっていうのは、すごく不思議な縁を感じましたね。

あと今回の展示に関しては、そうしたヒッピー以外にも、もう1つのルーツであるパンクの要素も入っています。「破壊」と「再生(再構築)」っていうのはパンクからの影響で、それこそイギー・ポップの「Search & Destroy」やマルコム・マクラーレンの「パンクとは生きる姿勢だ。破壊であり、破壊に秘められた創造の可能性だ」という言葉からだったりします。あと、そのヒッピーとパンクの要素をミックスさせるというのは、高校時代に毎日聞いていたミクスチャーロックからの発想で。だからこの展示では、自分のルーツとなっている好きなものの要素がすべて込められているんです。

あえて神聖な仮面をポップに仕上げる

——なるほど。自身のルーツが今回の展示作品に込められているんですね。展示の仮面はいつ頃から作り始めたんですか?

KOHZAKI:最初に作ったのは1年半くらい前で、そこから何個か作って。でも本格的に作りだしたのは、展示をやろうと決めた半年前くらいからです。

——最初に作ったのは?

KOHZAKI:この仮面とかですね。アフリカ系の仮面は別ですが、ベースとなる仮面は2つくらいのデザインで、あとはその構築の仕方を変えて、全く異なる作品に仕上げています。

——分解する時に、ある程度仕上がりをイメージしているんですか?

KOHZAKI:全然していないです。まずは分解してみて、そこから組み合わせは考えます。中には3つくらいを使ってできた作品もあります。ただ、分解する時はあとで組み合わせしやすいように、等分になるように定規でしっかりと長さを測ったり、建築に近い感じでやっています。大きさがバラバラだと上手く組み合わせられないですから。

——展示の中には『エヴァンゲリオン』や『ガンダム』っぽい仮面もありますね。

KOHZAKI:最初は分解してそれを再構築して作っていたんですが、ある時に新しい形が作れなくなって悩んでいた時期があって。それで他の方向性で新しいものを作れないかと考えて、民族仮面ではあまり見ない、あえてポップなものを作りました。『エヴァンゲリオン』や『ガンダム』っぽいもの以外にも、原宿の“kawaii”や、ラメを使ったキラキラの仮面とかもあります。一部、蓄光絵の具を使っていて、暗闇で光るものもあったり、今までにない仮面になったんじゃないかと思っています。

でも、こうした仮面ってもともとはシャーマンがかぶったり、魔除けの意味を持っていたりする神聖なもの。だから軽い気持ちでは分解していなくて、ちゃんと心を込めて分解していますし、1つも無駄にしないように心掛けています。

——確かに扱いは慎重になりますよね。

KOHAZAKI: そうですね。やっぱり神聖なものを壊すっていうのは勇気がいるし、失敗したら戻らない。そういう怖さもあるけど、一歩勇気を持って踏み出さないと新しいものができない。だから「すみませんが、壊させていただきます」って感謝の念を込めて、仮面は作っていますね。

——あと、今回の展示に向けてZINEも作られたんですよね。

KOHZAKI:展示をしようと決めた時にインビテーション用のフライヤーを作ったんですが、その時のイメージが、黒い背景に仮面が並べられている国立博物館とかでやるような仮面展のポスターだったり、民族の仮面図鑑だったりして。それならフライヤー以外にも図鑑みたいなZINEを作ろうと思ったんです。それで、そこにもパンクの要素も入れて。サイズはパンクの7インチレコードと同じにしていて、裏表紙とかも昔のパンクのレコードをイメージしました。

——最後に今後も仮面は作り続けるんですか?

KOHZAKI:もう本当にこれ以上は作れないっていうところまで考えたので、今のところはもういいですね(笑)。

KUNIO KOHZAKI
渡英後、NYでSee management 所属。帰国後W所属。ファッション誌やCM・広告、またショーのヘアスタイリングから ミュージシャンなどのアーティストへ提供するウィッグやヘッドピースまで手掛ける。パリの「コレット」などのセレクトショップで取り扱いのあったヘアアクセサリーライン「PINS」に続き、 新しいアクセサリーライン「KNEW(ニュー)」を発表するなど幅広く活動している。
https://wtokyo.co.jp/artists/kuniokohzaki/
Instagram:@kuniokohzaki

■「破壊再生世代 / 一寸先は光」展
会期:2021年6月19〜28日
会場:MAT
住所:東京都渋谷区神宮前5-49-5 RハウスB1F
時間:13:00~20:00 
※6月27日は13:00~18:30、28日は13:00~16:30
https://matnewspace.thebase.in/about

Photography Mayumi Hosokura

author:

高山敦

大阪府出身。同志社大学文学部社会学科卒業。映像制作会社を経て、編集者となる。2013年にINFASパブリケーションズに入社。2020年8月から「TOKION」編集部に所属。

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