アーティスト・KYNEが個展を開催 さまざまな要素が混在するその独自の作風に迫る

福岡在住のアーティスト・KYNEによる個展「KYNE Kaikai Kiki」が、4月28日まで東京の「カイカイキキギャラリー」で開催されている。

一見ポップな女性のイラストに見えるKYNEの作品には、「日本画」「グラフィティ」「1980年代の大衆文化」、そして「現代のミックスカルチャー」からの影響が反映されており、「僕の絵を伝える上で、一見何の関連性もないこれらの要素はどれ1つとして取り除くことはできません」と話す。

今回の展示では村上隆との共作も発表。世界から注目を集める2人による作品は、まさに今の日本のアートシーンを代表する作品といっても過言ではない。どういった経緯でコラボに至ったのか。個展の開催に合わせてKYNEに話を聞いた。

共作で感じた村上隆の偉大さ

——まずは、今回「カイカイキキギャラリー」で個展を開催することになった経緯を教えてください。

KYNE:はじめは福岡にあるセレクトショップ「チェリー」の石田(武司)さんの紹介で、東京・中野の「Tonari no Zingaro」(以下、「Zingaro」)で村上さんとお会いしました。後日、村上さんから「Zingaro」で作品の販売をやりませんかってお誘いをいただいて、それで僕が所属している「ギャラリー ターゲット」と話をして、自分の作品性と村上さんとの相性なども考慮して、「一緒にやるのはいいんじゃないか」っていうことになりました。そこからどのように作品を発表していくかを話し合いました。

それが2019年頃で、当初は2020年の3月くらいには、「Zingaro」で展示しましょうかっていう話だったんですけど、新型コロナウイルス感染拡大していたので、一旦ストップしました。その後、昨年7月に僕が「ミヤシタパーク」の「SAI」で個展をやった時に村上さんとお話しして、仕切り直しました。

その「SAI」の後に、「版画を作りませんか」っていう話が村上さんからあって。「それだったら回数を決めて、最後の版画をリリースするタイミングで個展をやりたいです」と伝えて、今回の展示に至りました。

——今回、村上さんとのコラボ作品も発表されていますね。

KYNE:そうですね。「毎月版画を出すので、村上さんとコラボしたいです」って話をしたらOKをもらえて。それで2020年11月から毎月3種ずつオリジナルの版画作品をリリースして、今回の個展に合わせて村上さんとのコラボ作品ができたという流れです。

実際の作業としては、こちらで絵柄を決めて、それに対して村上さんのほうから背景の提案をいくつかもらった中からこちらで選ばせていただくという流れでした。

——村上さんの印象は?

KYNE:もともとお会いするまでは、メディアでもストイックで厳しい発言をされていて、怖いっていうイメージでした(笑)。でも実際にお会いすると、僕みたいな若手のアーティストにも丁寧に接してくれて。これは村上さん自身でも言っていたんですが、世間的には「お金もうけが好き」みたいなイメージが持たれていると思うんですが、スタジオに行かせてもらったら、それとは全然違う印象でした。創作への熱意がすごくあって、僕とは違う次元でもっと先を見ている人でしたね。一緒に作品を作ってみて、改めて日本を代表するアーティストだなと実感しました。

——展示に関しては、コラボ作品以外はどういった構成になっているんですか?

KYNE:以前、版画で描いていたものをペイントで描き直したのが5点と、そのほか新作が6点、あとはこれまでにリリースした版画作品になります。

作品に内在するさまざまなカルチャー

——現在も福岡在住で、東京にも「オンエアー」という拠点を持っていますが、創作自体は福岡でされているんですか?

KYNE:そうですね。東京では全く制作はしないです。東京はいろいろなイベントや展示が同時にやっていたりするので、それはすごく刺激になります。ただ、制作に関しては、東京だと没頭できないと思うので、福岡でやるほうがいいなと思っています。

——多くのインタビューで1980年代のアイドルや音楽、カルチャーなどの大衆文化の影響を受けてきたと語っていますが、それに出合うきっかけはあったんですか?

KYNE:中学生の時に氣志團に出会ったのがきっかけです。歌詞とかCDジャケットとかにいろんな80年代のオマージュが含まれていて、その元ネタを発見するたびにおもしろさを感じて。そこから辿って80年代のさまざまなカルチャーに触れていきました。

——その中でも具体的に誰に影響を受けたとかは?

KYNE:一通りいろいろな人を見てきて、それがなんとなくのイメージとしてあって、この人っていう人はいないです。レコードも集めるのが好きなんですが、特定の人っていうよりは広く聴く感じですね。

——80年代以降の90年代、00年代のカルチャーからも影響を受けましたか?

KYNE:そうですね。90年代はグラフィティなどのストリートカルチャーの影響を大きく受けていて。ヒップホップを知る前に、グラフィティに出合って、実際に自分でも描いていました。80年代的なものへの興味もありつつ、ストリートカルチャーへの興味も深めていった感じです。

——そうしたストリートカルチャーの影響も受けつつ、大学では日本画を専攻したのは意外です。

KYNE:高校から美術を勉強していて、そこではデッサンから油彩、彫刻、陶芸、染色、デザインなど一通りやっていました。当時から人物画を描くのが好きだったんですけど、同級生にすごく上手い人がいて、そこで自分が油彩に向いていないと気付かされました。

それで大学では、どうせならこれまでやってこなかったのがいいなと思い、日本画を専攻しました。当時は、村上隆さんや松井冬子さんのように日本画出身の人や会田誠さんや山口晃さんのように日本的なものを題材とした作家が注目されていた時期でもありました。

大学では日本画を学びつつ、並行してグラフィティはずっと続けていました。グラフィティでもゆっくり描けるところでは、人物画を描いたりもしていたんですが、もっと街中で自分の作風を見せられたらいいなと考えていました。

大学を卒業してからは、日本画ではなく、アクリルで描くようになり、それで人物画を描くようになりました。ただ写真っぽいリアルな絵を描いても写真と変わらないなと思って、それなら日本画の時に描いていた線で描いたほうが、特徴が出るんじゃないかと。それで今の作風になりました。

——今回の展示に寄せたコメントで「僕が今描いている女性のポートレートは、日本画やグラフィティから吸収したエッセンスをもって描く80年代アイドル的女性像ではなく、女性の姿を借りた『自分自身が通過してきたさまざまな文化とその時代のムード』なのです」と話していますが、あまり女性というのは意識していないんですか?

KYNE:作品を描く時は「こういう女性を描こう」というよりは、自分の中にあるカッコいいものを描こうと思っていて。だから、絵の中には僕が影響を受けてきたさまざまな要素が反映されているんです。それが女性というモチーフを通して表現されている、という感じです。

——今は女性をモチーフに描かれていますが、今後は男性や、他のモチーフを描いていこうとは考えていますか?

KYNE:どうですかね。そこまでは考えていないですが、自分の中で納得がいくものができれば描いてもいいかなと思っています。

——最後に今後やっていきたいことは?

KYNE:大きなサイズの作品や立体的な作品にも挑戦したいですね。あと、販売する作品が多いので、所有することが目的でないパブリックアート作品にも興味があります。

KYNE(キネ)
2006年頃から地元福岡にて活動をスタート。2010年頃クールな表情の女性を描く現在のスタイルを確立。1980年代のカルチャーからインスパイアされた独自のアートで注目を集める。最近では、福岡市美術館に巨大な壁画ペインティングが展示される。国内外から熱視線を浴びる現代アートシーンの重要アーティスト。
http://kyne.jp
Instagram:@route3boy

■ 「KYNE Kaikai Kiki」
会期:2021年4月9~28日
会場:カイカイキキギャラリー 
住所:東京都港区元麻布2-3-30 元麻布クレストビルB1F
時間:11:00~19:00 
休日:日曜、月曜、祝日 
入場料:無料
http://gallery-kaikaikiki.com

©️KYNE 

Photography Yohei KIchiraku

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author:

高山敦

大阪府出身。同志社大学文学部社会学科卒業。映像制作会社を経て、編集者となる。2013年にINFASパブリケーションズに入社。2020年8月から「TOKION」編集部に所属。

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