気鋭の若手写真家を取り上げて、1つのテーマをもとに自身の作品を紹介する連載。テーマは「BACK VIEW」。「後ろ姿」というのは一見して哀愁や寂しさを感じられることが多いが、対象や状況によっては希望に満ちたポジティブな情景が感じられることもある。今回登場するのは、映画監督、写真家として活躍している枝優花。ノスタルジックな描写に、青春のような高揚が感じられる作品が印象的な彼女であるが、そんな彼女が表現する「BACK VIEW」とは。
わかるものとわからないもの
祖父が使っていたフィルムカメラで不意に撮った1枚の写真。たしか初めて撮ったものだった気がする。渋谷の街でよくわからない人が立っていた。
“わかるけど、わからない”
そこに強く惹かれてシャッターを押した。この写真を撮ってからもう何年も経つけれど、今見ても好きだ。この時の感情ははっきりと覚えていて、この写真を見るたびに同じ気持ちになる。
この仕事を始めてからたくさんの人やものに出会った。
名刺が1週間で100枚なくなることもザラで、本当に毎日が目まぐるしい日々だった。そしておもしろいことに、それ以上にたくさんの自分と出会った。
「こんな自分もいたのか?」
「はあ、そうかこれが本当の自分だ、いや違う」
「こっちが本当の自分か?」
「もうわからない」
そのようにして、何人もの自分に出会ってきたのだ。
“わかる、わからない”を繰り返して、積み重ねては崩れて。
何度も何度も生まれ変わっている。
この世の中にはわからないものがたくさんある。
知っては受け入れての繰り返し。
「それは時代遅れだよ」
「新しいことを受け入れないと」
「アップデートしてください」
たびたび無知に対する批判の言葉が飛び交うのを目にするけど、私は自分自身すら未だに理解できていないのだ。
わからなくて、怖い。だけど新鮮。
そして思う。
自分すら理解できないのだから、他の人やものはもっとわかるはずがない。
だからおもしろくてありがたい。
生きている限りは、常に自分の知らない世界に触れながら、どんどん自分の可能性を広げていきたい
ーー写真を始めたきっかけは?
枝優花(以下、枝):祖父の使っていたフィルムカメラを見つけて使い始めたのがきっかけです。
ーーシャッターを切りたくなる瞬間は?
枝:空を見るのが好きで、夕焼けで空がピンクや青やオレンジが混ざったような瞬間によく写真を撮りたくなります。でも普段カメラは持ち歩かないのと、スマホでは撮らないので「あ〜なんで今カメラを持っていないんだろう」とよく後悔しています。それでもカメラは重たいので持ち歩きません。
ーーインスピレーションの源は?
枝:映画や本や音楽は好きなので毎日浴びていますが、それでは正直あまりに直接的すぎる気がして、それ以外のものが大きく影響していると最近は思います。自分が何も考えずに心から良いと思うものが少しずつ繋がっていて、動物や空、ご飯…。多分無数にあります。
ーー今ハマっているものは?
枝:自分の身体がどのように形成されているのかが気になっていろいろと試しています。もともと料理が好きなので、何を食べたら身体がどう変化するのか試してみたり……。そうなるとやっぱり和食ってすごいんだと気付いたり。あとは筋トレをしたらどうなるかとか(笑)。良いものを作る上で、自分の身体が健康であることが一番大事だと思ったからなのですが、文字にすると変な感じですね(笑)。
ーー今後撮ってみたい作品は?
枝:マクドナルドが好きで、それは食べ物というよりも建物やその空間に漂う空気が好きなんですね。だから世界中のマクドナルドを撮りたいです。
−−目標や夢は?
枝:良いものを作り続けたいです。そして作ったものを通して、自分の知らない(言語も文化も違う)人達とコミュニケーションをとって繋がりたい。生きている限りは、常に自分の知らないものや人と出会って会話をして歩み寄って、どんどん自分の可能性を広げていきたいです。そして最終的には本当に自分が豊かで幸せだと思える人や環境で思い切り自由に生きていたいです。