承認欲求が暴走するリアルな日常 『メインストリーム』でジア・コッポラが発信する“いいね!”に取りつかれた野心と恐怖とは?

SNSで名声を得ることの快感と刺激、危うさは、YouTuberの暴走など、日本でも度々ニュースで見聞きする。今の自分達がリアルに感じている承認欲求、もしくは何者かになりたいという野心。誰もが持っている“有名になりたい”という感情をもとに、若者達が自身のアイデンティティーを問い、暴走してゆく姿を描き出した「メインストリーム」が10月8日に公開される。監督はフランシス・フォード・コッポラの孫であり、ソフィア・コッポラの姪、『パロアルト・ストーリー』(2013年)でも知られるジア・コッポラ。

SNSや動画投稿を通じて快楽と破滅を描いた『メインストリーム』では、映像作家を志望するフランキー(マヤ・ホーク)と話術の天才・リンク(アンドリューガーフィールド)、作家志望のジェイク(ナット・ウルフ)の3人を中心に、ある種の脆さや狂気を秘めた中でラブ・ストーリーが展開する。一方で、Instagramや動画のクオリティーなど、細かな演出からは、等身大のヒリヒリとした感覚が伝わってくる。『メインストリーム』を通じてSNS時代に生きるわれわれへの問いかけとは何なのか? ジア・コッポラの言葉から考える。

周囲の視線や承認欲求から解放されて生きることの大切さ

−−ジア監督にとって『パロアルト・ストーリー』から約6年ぶりの長編作品です。その間にSNSが急速に発達しインフルエンサーが台頭しました。『メインストリーム』は以前からあったアイデアなのでしょうか? それとも何か特定の出来事からインスピレーションを得たのでしょうか?

ジア・コッポラ(以下、コッポラ):『パロアルト・ストーリー』を作った時は、映画制作そのものが楽しかったですし、その機会が嬉しくて自分のすべてを注ぎ込んだので、公開後は疲れてしまって具体的な未来像は考えられなかったんです。ただ、次回作は映画を作るための構想ではなく、自分が共感できるテーマをとにかく掘り下げるような作品にするイメージが漠然とありました。時間もあった中で、エリア・カザンの映画『A Face in the Crowd(群衆の中の一つの顔)』(1957年)を観て、現状と一致する点が多いことに気が付いたんです。もちろん、ネットもスマホもない時代ですが、状況は現代に置き換えても同じ方向に進んでいると。ラブ・ストーリーの描写も気に入っていて、この現代版を作ろうという思いからテーマが固まっていきました。同時期にインフルエンサーのマネジメントをしている友人から、彼等の日常や膨大なフォロワーへの影響力についての話を聞いて、“いいね!”を得る仕組みやルールに興味を持ったことで作品の輪郭がはっきりしていきました。

−−その『群衆の中の 1つの顔』の公開から50年以上が経って、当時のテレビとYouTube、SNSと手段が変わっただけで、そもそもの人間の承認欲求やエゴは変わらないと感じます。

コッポラ:本当にそう。今はインフルエンサーのフォロワーの多さや“いいね!”の数だけに意識が向かいがちなんですが、間違ったメッセージであって、長い人生においては必ずしも満足につながる行為とは思えないです。人間関係の充実や自然との触れ合いから自分を受け入れる。そうすることで周囲の視線や承認欲求から解放されて生きる喜びが感じられるんじゃないでしょうか。

−−アンドリュー・ガーフィールドが演じるリンクの一見、脆さや弱さを感じさせつつも承認欲求を求めて暴走していくシーンの移り変わりのリアリティーが印象的でした。リンクのモデルとなるようなインフルエンサー、特定の人はいますか?

コッポラ:モデルになったのはアンディ・グリフィスですね。ただ、アンドリュー(・ガーフィールド)が演じる上で、リンクの狂気性とともに演じる楽しさを理解してもらうことを考えながらキャラクターを固めていきました。今は、誰もが世界同時に瞬間の満足は得られる、自分のエゴを貫ける状況ということを心に留めながら、アンドリューと話し合ってリンクというキャラクターを作り上げたんです。自分自身、これまで彼が演じてきた役では見れない表情を期待した気持ちもありますが……。

−− “No One Special”というクルーの名称は、一見誰にでも当てはまるような印象も受けます。一方で『メインストリーム』を象徴する言葉であり、人が簡単にクレイジーになってしまう可能性を秘めているように感じたんですが、“No One Special”と名付けた理由を教えてください。

コッポラ:ずっと、ハンドルネームをどうしようか考えていた時に、トム(・スチュアート)のアイデアで“No One Special”となりました。作品全体に関わっている“皮肉”も表しているのでこの言葉以外は思いつかなかったですね。

社会問題や環境問題に敏感に反応して行動を起こす若い人達に感じる未来への希望

−−物語が進むにつれてリンクとフランキー、2人の感情のバランスが崩れていく様がリアルでヒリヒリしました。リンクをストーリーテラーにして自由なマインドを持つフランキーの人生を支配していくというように撮りたいと思ったことはありましたか? 

コッポラ:おもしろいですね。バランスはとても難しいんですが、フランキーの視点から描いたからこそ、リンクに飲み込まれていくリアルな表現ができたと思います。メインキャラクターでありつつも、さらに大きな存在に押しつぶされていく様子を描くことによって、フランキーは何を感じているのか、リンクの狂気性にどう支配されていくのかを感じ取れるはずです。ですので、あえてフランキーの視点から物語は進んでいきます。リンクの視点で描くと、彼の言動や行動を不快に感じる人もいるかもしれないですし。

−−ラブ・ストーリーに関して、フランキーがリンクになびいていくのは、10代の女性がバッドボーイに憧れるような感情を表しているような印象を受けました。ジア監督のティーンの頃の感情が彼女に反映されていますか?

コッポラ:ラブ・ストーリーは大好きなんですが、個人的な感情よりも、不良への憧れというか、手に入らないものへの憧れや好きになってはいけない人へ抱く恋愛感情とか、痛みを伴いながら大人になることって誰でも経験していますよね。いつも、みんなが人生の中で経験したことを盛り込みたいと思っています。

−−最近の日本でも“迷惑系YouTuber”という存在に加えて、SNSの暴力なども問題視されています。ジア監督はSNSの在り方についてどう思いますか?

コッポラ:SNSは無法地帯なので、言いたいことを無責任に発信するのは危険な状態。スマホのメールやネット上のいじめなどを描いた『I Love You, Now Die』というドキュメンタリー作品でも同じようなメッセージを発信しています。でも、社会問題や環境問題に敏感に反応して、自分の意見を発信したり、行動を起こす若い人達が確実に増えていますよね。未来に対しての希望を感じます。

−−ジア監督はフォトグラファーでもありますが、コロナ禍でどのように創作のモチベーションを維持していましたか?

コッポラ:とにかく読書をしていました。あと、祖父(フランシス・コッポラ)が古い映画をみんなで鑑賞する会を開いてくれたり、家族とできるだけ時間を過ごすようにしていました。

−−最後に、ジア監督は「ユナイテッドアローズ」のCMをディレクションされたり、日本にゆかりがありますし、日本人のファンも多いです。日本に対しての印象を教えてください。

コッポラ:日本は本当に大好きです。CM制作も楽しかった印象しか残っていない。キコ(水原希子)も含めて、素晴らしい才能を持った人が多いですよね。キコは今、世界的な活躍をしていますが、当時からずば抜けた才能を持っていると感じていました。コロナが終息した後は、必ず日本で仕事したいですね。

ジア・コッポラ
ロサンゼルス出身。フランシス・フォード・コッポラの孫。写真家としても活動する傍ら、2015年に水原希子を起用した「ユナイテッドアローズ」のCMディレクターやさまざまなアーティストのMVを監督も務める。2016年には「グッチ」プレフォールコレクションに関連した映像作品を発表した。『メインストリーム』は2015年に発表した『パロアルト・ストーリー』に続く、長編映画作品の2作目で、脚本と監督を務めた。

■メインストリーム
公開:10月8日
会場:新宿ピカデリーほか、全国ロードショー
配給:ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト:『メインストリーム』
公式Twitter:@mainstream_jp
公式Instagram:@mainstream_jp

author:

芦澤純

1981年生まれ。大学卒業後、編集プロダクションで出版社のカルチャーコンテンツやファッションカタログの制作に従事。数年の海外放浪の後、2011年にINFASパブリケーションズに入社。2015年に復刊したカルチャー誌「スタジオ・ボイス」ではマネジングエディターとしてVol.406「YOUTH OF TODAY」~Vol.410「VS」までを担当。その後、「WWDジャパン」「WWD JAPAN.com」のシニアエディターとして主にメンズコレクションを担当し、ロンドンをはじめ、ピッティやミラノ、パリなどの海外コレクションを取材した。2020年7月から「TOKION」エディトリアルディレクター。

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