気鋭の若手写真家を取り上げ、「BACK VIEW」というテーマをもとに、切りとられた自身の作品を紹介していく。「後ろ姿」というのは一見して哀愁や寂しさが感じられることが多いが、対象や状況によっては希望に満ちたポジティブな情景が感じられることもある。
今回登場するのは、ファッションやポートレイトを中心に雑誌や広告での撮影を数多く手掛けている写真家・岩本幸一郎。デジタルとアナログの双方で独創的な作品を発信し続けている彼が表現する「BACK VIEW」とは?
isolation
「記憶の回想」を題材に制作し、最初の個展「isolation」でも披露した作品です。
僕は高校へは行かずに、両親が山梨県の鳴沢村という土地に別荘を所有していたのでそこに1人で暮らすことを選びました。
暮らし始めた当初は、避暑地ということもあり夏は暮らしやすかったけど、季節が過ぎていき、冬になれば雪が積もって食料を買いに行くにも往復2-3時間くらいは歩かなければいけないような過酷な場所でもありました。それで「ここでずっとは生活できない」と思い、程なく東京に出てきました。それからは雪山というものにネガティブな感情がありました。けど、写真を始めてから雪山に行く機会があり、いざ雪原と対峙した時に
“当時抱いていた感情”と”想起したことにより生じた感情”の差異を感じました。薄暗く思い出そうともしなかった記憶なのに、とても美しく感じたんです。そこから、記憶の回想をテーマに作品を制作することにしました。
雪山で撮影することだけは決めていて、そこから「記憶の回想」と結びつく写真のアプローチを考え、あとはモチーフをどうしようか考えたんですけど、実はこの作品は両親を描いているんです。でも、実際に両親を被写体にしてしまうと僕の記憶を押し付ける作品になってしまうのではと感じ、この作品で表現したかったのは感情の機微なんです。なので、両親はあくまでも「男女」という記号にして、男女のモデルを起用しています。
当時の記憶を回想しつつ、僕が生まれる前、ここで若かりし両親が暮らしていたという事などを想像しながら、全く違うものを補填するという作業をして撮影しました。
真っ白な雪山に寄り添う2人。
その姿を後ろから眺めている孤独だった僕。
美しいと感じるものは不意にむこうからやってくると思うので、想像を超えた瞬間を意識下のなかで逃さないようにしている。
−−写真を始めたきっかけは?
岩本幸一郎(以下、岩本):20 歳のときに父親からカメラをもらってからです。ライカの M6 というカメラで、写真にというよりその機械に興味を持ち始めたのがきっかけでした。
−−シャッターを切りたくなる瞬間は?
岩本:僕は日常的にカメラを持ち歩いて撮影しているタイプではなくて、頭のなかで撮影したいモチーフが明確化されてから撮影に臨みます。たまに「追うカメラ」と「待つカメラ」、という対比関係で説明されたりしますが、僕はどちらかといえば「待つタイプ」なのかなと思っています。あくまでも主観ですが、美しいと感じるものは不意にむこうからやってくると思うので、想像を超えた瞬間を意識下のなかで逃さないようにしています。
−−インスピレーション源は?
岩本:ここからインスピレーションを受けている、と断定はしないようにしています。実際は、本や音楽など様々な物からインスピレーションを受けていますが、例えば、だらしなくお酒を飲んでいる時にハッとする閃きが生じることもありますし、「ここからクリエイティブに」という風に考えていると視野が狭くなってしまう気がするので、「こんなものを鑑賞してインプットする」というような、断定的な考え方にはならないようにしています。
−−今後撮ってみたい作品は?
岩本:今は記憶を題材とした作品を製作していますが、久しぶりに他業種の方と作品を0から作り上げたいとも思いますし、「窓」を題材に撮りおろしてみたいなとも思っています。構想を練っている作品はいくつか頭の中にあります。
−−目標や夢は?
岩本:写真集をつくりたいです。