ゆるやかにつながり、軽やかに夜を明かす――2021年版FNCYのセカンドアルバム『FNCY BY FNCY』

未だ猛威を振るうコロナ禍において、パーティの火が消えかねない現下の状況も、次の波を待つ時間と、FNCYは再び自分達の音楽を鳴らした。FNCYは、ZEN-LA-ROCK、G.RINA、鎮座DOPENESSの3人によるヒップホップユニット。1980~1990年代から今へと至るダンスミュージックへのオマージュもサウンドにちりばめ、懐かしくもフレッシュな世界観をヴィジュアル込みで提示し、フレッシュな風を音楽シーンに届けている。

その彼らの、今の息苦しさや迷いも軽やかに振り切る新作『FNCY BY FNCY』に胸をなでおろし、音と声に身を任せれば、おのずとそこにはかつての、そしていつかまた目にするであろうダンスフロアの喧騒が広がる。メンバー3人が思い思いにアルバムで歌うように「THE NIGHT IS YOUNG」――夜はこれから。
結成から新作に至るまで、3人の現在の声を届ける。

個々の共演を経て、グループの結成へ

ーーFNCYというユニット名はどこから来ているんですか?

ZEN-LA-ROCK(以下、ZEN-LA):確かRINAさんから出たのかな。3人で喫茶店とかよく行って、星の数ほどアイデア出たけど、最初はどれもしっくりこなくて。

鎮座DOPENESS(以下、鎮座):そこで3人の共通項はなんだってなった時に、“ファンシー”なもん好きなとこなんじゃないかなっていう。3人ともファンシーフィルターがあるんですよね。

ーーはは、そうなんですか。

ZEN-LA:それで「FANCY」から「A」を取って字面を「FNCY」にしたらあっ! みたいな。それも誰かに言われたんだよな。石黒さん(=石黒景太。幅広くデザイナーとして活動し、FNCYのファーストアルバムでもアート・ディレクションを担当)かな? 石黒さんには「俺じゃないよ」って言われるかもですが(笑)。

ーーともあれ、それぞれの活動がある中で結成に至った大きな理由はなんだったのでしょうか?

ZEN-LA:お互い個々に共演してたから、自分の4枚目のアルバム(=『HEAVEN』)の時に3人でコラボした曲(「SEVENTH HEAVEN feat.鎮座DOPENESS & G.RINA」)を作ってビデオ上げたら、それが評判がよくて。それで、1曲しかないのに3人で地方に呼ばれることを何度かくり返して、移動やメシの時も楽しかったんで、勇気出して誘ったっていう(笑)。

ZEN-LA-ROCK 「SEVENTH HEAVEN feat.鎮座DOPENESS & G.RINA」

懐かしいフィーリングを今にアップデートするFNCY

ーーその時点である程度方向性は固まっていたのですか?

鎮座:根本的にはヒップホップですよね。

G.RINA(以下、RINA):それぞれソロとは違うアプローチなんですけど、3人だとよりファニーなエンタテインメント性を持ってできる。最初に喜んでくれるお客さんが見えてスタートできたので、こういうことをやると楽しんでもらえる、それが私達も楽しいっていうフィードバックから曲ができていった感じはあるかな。

ーーお互い感覚的に共有する部分が多かったということもありましたか?

RINA:この3人なら懐かしいフィーリングを今の感じにアップデートできるって思ったし、その懐かしい音楽の好みが近いっていうところはあるかもしれないです。

ZEN-LA:で、最初に「AOI夜」を狙い撃ちで作って。

FNCY 「AOI夜」

ーー「AOI夜」はFNCYのファーストシングルですね。

RINA:「SEVENTH HEAVEN」の1980年代感を喜んでもらえたので、FNCYの1発目もその延長線上にある曲がいいかなと思って作ったのが「AOI夜」です。1980年代だったら歌が全編乗るような曲にラップが乗るっていうところでポップに作れるんじゃないかなっていうのもありました。

ーーではグループの原型もそこでできたと。

ZEN-LA:まあそうですね。その曲がグループ始めるきっかけだったし。

ーーRINAさんから話のあった「懐かしいフィーリングのアップデート」という視点はミュージックビデオなどヴィジュアル面にも明確ですよね。

鎮座:作品に残すっていう時は、客観的に見て遊んでる要素もありますね。できたものよりも、過程がすごく大事っぽくて、その過程がそういうのにつながってる。

ーー過去の名盤へのオマージュが続いた7インチシングル群のアートワークもまさにその遊びでしょうか?

ZEN-LA:だから今回のアルバムのジャケもYMOってよく言われんですけど、別にそうではなくて。

ーーTシャツからマグカップ、ライターなどに至るさまざまなグッズ、コラボ展開に見るフットワークの軽さも、感覚的には遊びの延長ということですかね。

ZEN-LA:それは俺の真骨頂ですね。いろんな業者とつながりすぎてまして(笑)。

ーー「TOKYO LUV」の7インチリリースに合わせた限定オリジナルビールの販売しかり、今作の特典となったバジル栽培キットしかり。

ZEN-LA:そのあたりは俺から2人に「話来たけどどう?」みたいな。バジル栽培キットはレーベルの人が「バジル最近売れるらしいですよ」って持ってきたんだけど(笑)。

届けるサウンドは大きいくくりでのダンスミュージック

ーー過程が大事って話がありましたが、曲作りにおいても重要になっていますか?

鎮座:うん、まさに。(完成に)たどり着くまでみんなでしゃべる、やる。「最近こういうこと思ってるよね」とか、(目の前のペットボトルにある文字を見て)「“最強刺激”か。なんか残りますね」みたいなことから始まって、それが音とくっつけば1回吹きこんでみて、1人が吹きこんだら誰かが吹き足してみて。そこで何かアイデアが見えてきたら「ここはこう変えましょうか」みたいな感じ。結構そういうことが多いですよね。

RINA:リリックに関してはそうですね。音はその場で弾いたりしてるわけではないので、3人で話したことを持ち帰って、それに合うような音を考えたり、いくつかある候補の中からテーマに合うんじゃないかってモノを選んだり。こういうのはどう? ってこちらから投げるものもあるけど、大体はそういう感じです。

ーー今回の『FNCY BY FNCY』も、前作に続きRINAさんが制作の中心を担う形ですが、プロデュース面で意識の違いなどはありました?

RINA:1枚目の時は、「AOI夜」を作る時とかも絶対盛り上がる曲を作らなきゃと思って作ったし、グループに必要なものは何かをすごい考えたんです。でも、今回は先に「TOKYO LUV」や「みんなの夏」があったおかげで、私はバラエティのほうに向かえるなと思いましたし、それぞれの背景にあるヒップホップ以外の好きな音楽とか、こういうこともできるよねっていうバリエーションを増やすほうでできたかなあと。

FNCY 「TOKYO LUV」

ーー確かにJengi制作の「TOKYO LUV」や「みんなの夏」そして新曲の「FU-TSU-U(NEW NORMAL)」をはじめ、外部制作のトラック群が前作から続くFNCYらしさを担う一方で、UKガラージ的な「COSMO」あり、2000年代初頭の名レゲエリディム「DiWali」を思わせる「THE NIGHT IS YOUNG」あり、ヒップハウスを解釈した「REP ME」ありと、RINAさんプロデュースの楽曲がアルバムの幅を広げてますよね。

FNCY「FU-TSU-U(NEW NORMAL)」

ZEN-LA:大きいくくりのダンスミュージックは、言ったらグループの最初のコンセプトの1つですからね。

すり合わせるのはお互いの“ムード”

ーーそのコンセプトを引き継ぎつつ、本作にはコロナ以降の状況やマインドが影を落としてる曲もあって。

RINA:ライヴに行って、そこで話して曲作りが始まるっていう私達のサイクルが止まっちゃったから、もう曲作るしかないって感じだし、この状況は記録せざるをえない、しておきたいって感じでしたね。それがヒップホップかなと。

ZEN-LA:まあでも今までと変わったってことはそんなにないんですけど。インプットは残念ながら減ってる感じはあるし、毎週毎週やってたものがまったくないっつうのは調子が絶対的に出にくいけど、みんなそういう状況だろうし、若干慣れてきちゃってもいる今日この頃なんで。ただ、他の取材で今回のアルバムが1枚目よりもまとまってるって言われたんですけど、確かにちょっと落ち着いてて、それはたぶん社会のムードも関係あんだろうなあっていう。1枚目の時はなかったもんね。

ーーかといって重苦しいアルバムではないですよね。その軽みがFNCYかなとも思いますし、いい意味で産みの苦しみも感じさせない音楽といいますか。

鎮座:3人でやる場合は産みの苦しみというより、「あー、こういうことやりたいな」みたいなものが出てくる感じかもしれないですね。チャレンジというか。

RINA:時間的なこと以外はわりとFNCYは楽しくできてるよね。

鎮座:歌やったあとラップしてたりもするんで、何人もの自分を出せるし。

ZEN-LA:確かにそこはあるかな。

ーーお互いが出してきたものに対してこうしてほしいっていうような注文をつけることは?

鎮座:お互い要求は特に出ないですよね?

RINA:私もラップしてるんですけど、ラップは2人のほうが長くやってるし、いつ指摘してくれるかなって待ってるんですけど、絶対に言わない(笑)。こうあるべきじゃないかってことが自分の中でまだ定まってないので、こっちとしてはなんか言ってほしい時もあるんですよ。

鎮座:RINAさんはそうおっしゃるんですけど、そういうもんじゃないんすよ。RINAさんがラップやった、自然だみたいなところでこっちはOKで、新しく書き直したやつとか聴いてても「おもしろいなー、そっちに行ったんですね」としか言えない(笑)。

ZEN-LA:そもそもどこでどう指摘していいのかもよくわからないですから(笑)。

ーーではそれぞれが書いてくる内容をつき合わせるようなこともないのですか?

鎮座:うん。メッセージがどうのっていうより、各々のヴァースが成立すればそれでよくて、その場の現象をみんなが各々投影するって感じはあると思う。それを無理やり合わせるのはバンドっぽいっていうか。俺ら(の音楽)はビートの上で歌うっていうシンプルなものだから。

RINA:1曲の中で3人の考えが多少違っても「へぇ、そう感じるんだ」みたいな。

ZEN-LA:これをやろうっていう明確なテーマがなくても3人で曲は作るしね。

ーーその点ではいわゆるセッションに近いのかもしれないですね。FNCYのヒップホップ観もそこにあるような気がします。

RINA:音楽を中心にぐわっと1つになる瞬間があるけど、そこを離れるとそれぞれにたぶん生活も、普段考えてることとかも全然違うんですよ。だけど、そこで「そうじゃないよ」ってことにはならない。そもそも大人になってからグループがスタートしてるので。

ZEN-LA:3人とも同じこと言ってるのもいいかもしんないけど、3人とも違って普通。だけどグループを一緒にやってるわけで、全然違うわけでもないんですよ。

ーーその意味では個々のグラーデーションこそがFNCYの色とも言えるかと。

鎮座:だからすり合わせてるのは“メッセージ”とかじゃなくて、あくまでも“ムード”なんですよ。お互い雰囲気をすり合わせて曲に投入していくという。

ZEN-LA:だからそんなにずれないよね。お互いのムードはわかるし。

鎮座:それがあることによって、一方通行じゃない発見もありますし、きっと何年後かにわかるんですよ。「この関係性ウケるなあ」とか。

ZEN-LA:じいちゃんになって「あの頃は若かったなあ」みたいな?

鎮座:70歳ぐらいで合流してアルバムを作ってみたいです(笑)。

RINA:そのためには健康でいないとね。

ーーそこまで見すえた活動……なんですか(笑)?

RINA:いや、超行き当たりばったりで、2枚目出せたねーって感じだし、ここまでやろうっていう目標もないゆるやかな連帯なので(笑)。

ZEN-LA:2枚目の先には3枚目がある、かも? ぐらいの(笑)。

FNCY
楽曲単位の共演でそれぞれに交流を温めたZEN-LA-ROCK、G.RINA、鎮座DOPENESSの3人で、2018年夏にグループとして始動。1980~1990年代から今へと至るダンスミュージックへのオマージュもちりばめ、懐かしくもフレッシュな世界観をヴィジュアル込みで提示する。先頃渋谷のレコード店で開いたポップアップショップをはじめ、オンラインライヴ、公式YouTubeを通じたラジオ風プログラム『FNCY HOME RADIO』の生配信など、多岐に活動を広げている。
http://fncy.tokyo
Instagram:@fncy_official
YouTube:FNCY Official

『FNCY BY FNCY』Release ワンマンLIVE!!!
出演者:FNCY
日時:11月19日
会場:東京・渋谷 TSUTAYA O-EAST
住所:東京都渋谷区道玄坂2-14-8
時間:OPEN 17:00 / START 18:00
料金:¥4,000
http://fncy.tokyo

Photography Satoshi Ohmura

author:

一ノ木裕之

音楽ライター。神奈川県川崎市出身。ヒップホップ専門誌を出発にライターとしての活動を始め、ファッション、カルチャー誌などでアーティストの取材、執筆を担当。その後、インディレーベルのA&Rディレクターなどを経て、現在もメディア問わずフリーで執筆を続ける。

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