漫画家兼モデルとして活躍するイタリア人ペッペ 日本のアニメとの出会いから初連載までを語る

イタリア出身で漫画家兼モデルとして活動するペッペ。2015年に来日後は、しばらくモデルとして活動し、2019年には『テラスハウス東京編』に出演し、人気となる。またそれと並行して2019年に「週刊ビッグコミックスピリッツ」で『ミンゴ イタリア人がみんなモテると思うなよ』(小学館)の連載がスタート。単行本全4巻を出版し、現在は次の連載に向けて構成を考え中だという。

「TOKION」では、そんなペッペに連載を依頼。ペッペが実際に日本の文化を体験し、実際にどう感じたかを漫画にしてもらう。今回は連載のスタートを前に、日本に興味をもったきっかけから、実際に日本で漫画家になるまでのことなど、改めて話を聞いた。

——他のインタビューでもたくさん聞かれていると思いますが、改めて日本に興味を持ったきっかけは?

ペッペ:子どもの頃に触れたアニメとゲームでしたね。僕が子どもの頃はイタリアのテレビで、日本のアニメが結構流れていたんです。もともとイタリアのオリジナルアニメはあまりないし、アメリカのカートゥーン ネットワークみたいなアニメもそこまで好きになれなくて。だから『北斗の拳』『シティーハンター』『デスノート』『NARUTO -ナルト-』(以下、『ナルト』)『ワンピース』とか日本のアニメのほうが全然おもしろかった。あと、ポケモンやコナミ、カプコンとかの日本のゲームでもよく遊んだりしていました。

学校の歴史の授業とかで日本のことが出てきた時も「おー日本だ! アニメとか作ってる国!」って心の中で思ったりして(笑)。それからサムライのこととか、日本の歴史も少しずつ知っていきました。

——やはりアニメをきっかけに日本に興味を持つ人は多いんですね。

ペッペ:そうですね。僕と同じ年のイタリア人はほぼみんな日本のアニメを見て育ってるから、日本のアニメが好きなイタリア人は多いと思いますよ。大学で日本の歴史を勉強している時に先生が「日本はアニメとゲームを使って世界に進出した」って話をしていて。たぶん戦略的にやったわけではないと思うんですが、そうなっている。昔のイタリアのファッションとサッカー、美術みたいな感じに近いのかな。

——漫画との出会いは?

ペッペ:漫画に出会ったのは 16歳の時で、漫画って1人でも描けるんだって知って、すごく衝撃を受けました。ゲームとかアニメだと何人もいろんな人と力を合わせて作るけど、漫画だと1人とか2人で作れる。これなら自分でもできるかもと思って、それで漫画家を目指したんです。

この時からずっと漫画は描き続けていて、毎年新しい読み切りを描いては、友達に見せたりしていました。

——漫画でハマったものはどんな作品でしたか?
ペッペ:アニメでも見ていた『ナルト』ですね。『ナルト』の漫画をみつけて「同じストーリーだ!」って調べて、全部読みました。他にも、『BLEACH』や『ワンピース』『HUNTER×HUNTER』とか。「少年ジャンプ」でやってた漫画は全部読んだんじゃないかな。そのあとすぐに青年誌の『バガボンド』とか『リアル』。あとアニメで好きだった『シティーハンター』とかも読んでたりしてました。

——当時はイタリア語に翻訳されたものを読んでいたんですか?

ペッペ:そうですね。まだ日本語もしゃべれなかったので。今もイタリアの家に自分のコレクションはありますが、今は日本語で読めるようになったので、オリジナルのほうを読んでますね。映画の吹き替えとかと同じ感じでイタリア語版よりも、日本語版のほうが気づくところが多くて。1000冊以上イタリア語版の漫画を持っているけど、日本語版と交換してほしいです(笑)。

モデルのスカウトは渋谷のハチ公前

——イタリアの大学では日本語の勉強をしていたんですか?

ペッペ:そうですね。日本語の他に日本の歴史とか文化についても勉強して、テストも受けました。日本語は大学で勉強してすごく書けるようになったんですけど、会話は全くできなかったから、会話は日本にやってきてから覚えました。

——大学卒業して、すぐ日本に来たんですか?

ペッペ:そうですね。大学卒業してすぐの2015年1月に日本に来ました。日本はビザが厳しいからまずは日本語学校に通いながら、早く仕事を見つけて漫画を描こうって思ってました。

——実際に日本に来て、日本のイメージは変わりましたか?

ペッぺ:イメージは変わりましたね。それは初めて日本の来た時のオタクだった僕が成長したからだと思います。だから日本だけじゃなくてイタリアのイメージも変わりました。離れて見ると、嫌だったイタリアのことが好きになったり、実際に日本に住んだことで、興味がなくなってしまったこともあります。

——モデルの仕事もやられてますよね?

ペッペ:モデルは渋谷のハチ公前でスカウトされたのがきっかけです。ありがたいことにモデルとしてある程度仕事しながら、自由な時間もできて、じゃあ夢を目指そうと思って、本格的に漫画家を目指しました。

——漫画家を目指すとなると、誰かのアシスタントになるのを想像しますが。

ペッペ:ビザがもらえればやるんですけど、アシスタントだとビザが難しくて。だからモデルをしながら少しずつ漫画を描いていましたね。

——「週刊ビッグコミックスピリッツ」(以下、「スピリッツ」)に持ち込んだのは松本大洋さんや花沢健吾さんが連載している雑誌だからと、以前のインタビューで話されていましたね。

ペッペ:そうです。花沢さんの『アイアムアヒーロー』とか好きでした。それと松本大洋さんは来日してから初めて知ったんですが、『ピンポン』は今まで読んだ漫画の中で一番好きな漫画です。『ピンポン』はイタリアで売ってなくて、まだまだ漫画っていっぱいあるんだって驚きました。調べたら「スピリッツ」で連載をしていたと知って。『ピンポン』と『アイアムアヒーロー』のタッチは全く違うから、じゃあ「スピリッツ」だったら、イタリア人の私のスタイルも受け入れてくれるかなって思って、持ち込みをしたんです。

それで1回持ち込んで、それを賞に出して、一番小さい賞をとって、1万円もらって。それが嬉しくて、次の読み切りを持っていって、その1つ上の5万円の賞をとって、やったー ちょっとずつ絵もうまくなってるって自分でも感じていて。それで連載をやらせてもらえるようになって、『ミンゴ』がスタートしました。

——『テラスハウス』に出演したのも同じくらいの時期でしたよね?

ペッペ:『ミンゴ』の連載が決まってから、『テラスハウス』の話ももらって。みなさんと相談したら「ペッペならなんでもできるから大丈夫じゃない」って言ってもらえたので、だったらやってみようかなと思って、『テラスハウス』も連載もやらせてもらいました。

——『テラスハウス』に出ることに抵抗なかったですか?

ペッペ:最初から「ある程度したら卒業」と約束していので、つらくても、約束があるから「やってみよう」かなって。でもやっぱり連載が始まったら『テラスハウス』を続けていくのは無理だと思って。それで約束通りに卒業しました。

初めての連載は超大変

——初めての週刊連載はどうでしたか?

ペッペ:超大変でした。週刊のペースは2度とやりたくないですね(笑)。連載前に『テラスハウス』があったので、あまり、ちゃんと準備できなくて、普通は連載が始まる前に10話くらいネームのOKをもらった分をストックしておくんですが、僕は3話分しかなかったから、すぐしんどくなって。何とか続けて『ミンゴ』は4巻まで出せましたけど、ちゃんと準備したほうがいいなってすごく思いました。だから次は、ちゃんと準備してから描こうと思っています

——確かに週刊だと3話はすぐ終わってしまいますね。

ペッペ:本当にすぐでした。次のネームを描かないといけないと思いつつ、『テラスハウス』のプレッシャーもあって大変でしたね。

——『ミンゴ』は結末を決めて描いていたんですか?

ペッペ:だいたい決めて描いてました。ただ『ミンゴ』はコミュニケーションがメインだから、1話ずつの細かいストーリーを決めずに、毎回、人を笑わせるためのトピックを考えながら描いていました。

——実体験に基づいている?

ペッペ:エピソードは、自分に実際に起きたことや友達に起きたこと、友達の友達に起きたことにインスパイアされて描いています。実話だと思っている人も多いんですが、実際には半分くらいはフィクションで、ちょうどいいバランスで描けたかなと思っています。

——『ミンゴ』を読むまでは「イタリア人」っていうと、勝手にジローラモさんみたいなイメージでしたが、そのイメージも変わりました。

ペッペ:日本に来るイタリア人はみんな「ナンパが上手い」とか言われると思います。僕はモデルの業界にいたから特にそう言われて、毎回「もういいわ!」って思ってました(笑)。だから『ミンゴ』では、他にもこういうイタリア人もいるよ、って伝えたかった。僕の友達とかもそうだし。『ミンゴ』ではそれができたかなって思います。

漫画だけでなく、生活とのバランスも大事

——『ミンゴ』を描いたことで、手応えは?

ペッペ:初めての連載としてはすごく満足できたし、4巻まで出せて、本当に信じられない。連載中は何度も「無理だな」って思って、何回も泣きました。1日1回泣いてましたね。でも、初めての連載であのスピードで描けたのはよかった。次の作品はもっとクオリティーが高くなるように今がんばっています。

——家族に『ミンゴ』は見せたんですか?

ペッペ:はい。今イタリア語版でも3巻まで出ていて。日本で漫画家として活躍しているイタリア人がいるってことで、いろんな新聞に載ったりして、話題になったんです。そのおかげで家族も喜んでくれた。家族からすると、話は聞いてたけど実感はなかったと思うんですが、いっぱいイタリアの新聞に載ったりして、本当にすごいって思ってくれて。やっと母が100%喜んでくれたって僕も嬉しかった。僕が育ったのは小さな田舎の町なんですが、町をあげて喜んでくれているみたいです。

『テラスハウス』や『ミンゴ』のおかげで、いろんなチャンスをもらえるし、いろんな体験ができるようになりました。それはすごくありがたいですね。漫画だけじゃなくて、ほかのこともどんどんやりたいですし。

でも、まだ漫画家としては1作しか出してないから、満足はしていないです。もっといい作品を出して、それでいい生活ができたらいいなって思います。

ペッペ
1992年12月24日生まれ イタリア・アブルッツォ州出身 。日本文化、中でも漫画に強い憧れを抱き、ヴェネツィア大学日本語学部へ進学。日本で漫画家になることを夢見て、2015年1月に単身日本へ来日。生計を立てるべく、モデルの世界にチャレンジする。フリーのモデルとして、さまざまな雑誌やTVCFに出演。 また、『テラスハウス東京編』に出演し人気に。2019年10月12日発売の「ビッグコミックスピリッツ」で連載『ミンゴ~イタリア人がみんなモテると思うなよ』をスタート。全4巻を刊行している。
Instagram:@peppedesu

Photography Yohei Kichiraku

author:

高山敦

大阪府出身。同志社大学文学部社会学科卒業。映像制作会社を経て、編集者となる。2013年にINFASパブリケーションズに入社。2020年8月から「TOKION」編集部に所属。

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