イルでハッピーな切り絵ワールドwackwack「Circle of friends」インタビュー ―前編― 止まらぬワクワク感と広がる輪

切り絵アーティストとしての活動を本格的にスタートさせた、wackwack(ワクワク)の記念すべき個展「Circle of friends」が、原宿のブック&ギャラリースペース「ブックマーク」で開催された。幼少の頃に影響を受けた日本の漫画やアメリカの映画、そして物心ついてから夢中になった1990年代のストリートカルチャー、さらにはレイヴ、ヒップホップといった音楽ともリンクして創り出されるwackwackワールド。

ちょっぴり毒気がありながら、思わず笑みがこぼれる愛おしいキャラクター達。サイケ調な色合わせとストーリー性のある作品群など、オンリーワンな切り絵アートを生み出しては多くの反響を得ている。観るほどに惹かれてしまうその魅力とは。

今回は大成功に終わった個展「Circle of friends」に加え、アーティストとして活動を始めたきっかけなど、前編・後編の2回にわたり、wackwackのプライベートインタビューをお届けする。

願うことは、友達の輪を広げること

ーー「Circle of friends」、とてもいいタイトルでいらっしゃいますね。

wackwack(以下、WACK):はい、友達の輪ですね。まさに、僕の。「Circle of friends」は、作品を作っているうちにいい響きのタイトルだなと思い始めたんですけど、この展覧会がみんなの出会いの場になってくれたり、来てくれた人達に新しい友達が増えていってくれたらいいなと思ってつけたんです。実際に展示が始まってからは、これまで自分が知り合わなかったようなタイプの方もいっぱい来られて、どんどん輪が広がっているのを感じているし、この機会にいろいろまた広げられたらなっていう意味も込められていますね。

ーーwackwackさんがグラフィックや切り絵を始めたきっかけは、その友達の輪が広がった中からスタートしたというイメージがあるので、すごくいいタイトルだなと思いました。

WACK:僕は友達に恵まれていますね。もともと友達に「絵を描いてみれば?」って言ってもらったのがきっかけでアートも始めたので、このタイトルにした意味が大きいです。

ーー絵を描くことは、子どもの頃から好きでしたか?

WACK:好きでしたね。『キン肉マン』や『ドラゴンボール』『Dr.スランプ アラレちゃん』といった、僕達がリアルタイムで観ていた日本のアニメがすごく好きで、それをまねして描いたり、アメリカのコミックも好きだったので、フィリックスやミッキーとかを小学生の頃から描いたり、その時は意識してなかったんですけど、そういった作品に自然と影響を受けて絵を描いていました。親父にアメリカの映画や海外の映画をいろいろ観せてもらっていたので、その影響もちょっとはあるのかなって思います。

よく遊び、そこで得た感覚を作品へ託す

ーーでは、仕事として絵やグラフィックを始めたきっかけと、切り絵を始めたのはなぜですか?

WACK:絵は、10年前に友達のCDジャケットやフライヤーだったりを頼まれて描くようになったんです。最初に頼んできた友達はラップグループ、ROCKASEN(ロッカセン)のTONANなんですけど、絵ぐらいだったらと描いてみたら、「なかなか上手いじゃん」ってなって、それからなんですよね。それからDJ NOBUさんが主催している「FUTURE TERROR」の10周年記念のTシャツや、BUSHMINDのアルバムジャケットなどのデザインを描いたりして、人目につくようなことが多くなりました。他には、中村穣二さん達にTシャツの刷り方を教えてもらったり、ZINEを作った時に、当時の「タワーブックス(タワーレコード渋谷)」に持っていって、そこで持田さん(持田剛:現「ブックマーク」マネージャー)と村田さん(村田泰行:現「マークジェイコブス渋谷パルコ店」ストアマネージャー/「ブックマーク」アンバサダー)に出会って、店にZINEを置かせてもらったり。その流れで今回、村田さんが声をかけてくれて「ブックマーク」での展覧会が実現したんです。

ーーご縁で広がりをみせていった感じですね。

WACK:まさにそうですよね。自分の周りにおもしろい人が多かったというのもあるし、友達が多かったんで、遊びにいった時に紹介された人との出会いがどんどん広がっていつの間にか。

ーーどんなカルチャーで遊んでいたことが多いですか?

WACK:千葉の先輩達のテクノパーティや、ROCKASENが近くにいたからヒップホップのパーティに行ったり。音楽があるところが自分は大好きで、もちろんお酒を飲むのも大好きだし……。だから本当にそこで遊ぶためのお小遣い稼ぎのために、絵を始めたようなもんです。だけどクラブに行ったら、1杯800円の酒にガンガン使っちゃうじゃないですか。だから最初の頃は絵が売れても、本当に全部飲み代にお金が飛んでいきました(笑)。

ーーそして朝方には酔いの姿になられていくわけですね(笑)。

WACK:そうそう、泥酔の(笑)。でも出かけるといろいろな出会いもあるし、こういうのを描いたら格好よさそうだなとか、この雰囲気いいみたいなとか、いろいろなインスピレーションを受けますから。酒にお金払ってでも身になることがいつもあったんで。今はコロナ禍もあってなかなか出かけられないけど、遊ぶことはすごく大事だなといつも思っています。

ーー作品を拝見しますと、遊びを通して見てきた世界が詰まっているのかなと。

WACK:そうですね。だけど仕事を辞めてアート1本になったんで、もう遊びじゃなくなったっていう(笑)。ネクストのレベルに行かないと。

ーー切り絵をやるようになったきっかけはなんだったのですか?

WACK:Struggle For Pride(ストラグル フォー プライド)のアルバム『WE STRUGGLE FOR ALL OUR PRIDE.』のジャケットからですね。こんな感じにしてほしいという元ネタが切り絵で、見よう見まねでやってみたんです。その機会がなければ、今も切り絵はやっていなかったですね。それまで切り絵はまったく知らなかったから見たままやってみたんですけど、1発目からきれいにできちゃって「これはいけるかも!」みたいな。それで切り絵を始めたんですけど、続けてみようかなと思ったのは、絵が上手い人はいっぱいいるじゃないですか。だから1回目の展示会では絵を中心に展示をしたんですけど、絵では自分は勝負できないかなと感じたんで、2回目の展示会から切り絵にしたんです。

ーーちなみにwackwackは複数いるんですか!? それともソロ?

WACK:2人+1人。最初の頃はクルーだったんです。僕はパソコンが苦手なんで絵を描く担当、もう1人は企業の広告やクラブのフライヤーなんかを作っていた、同級生でパソコン担当のマンブくん、+1は僕の中ではwackwackのイメージボーイを担ってもらっているスケーターのウガジンくん。最初はその3人で動いていたんですけど、今はどちらかというと僕1人で、何かあるとヤマモトくんというグラフィックデザイナーがサポートしてくれて動いている感じです。

「やるしかねえか」とアーティストとして本格的に活動開始

ーーアート1本でやっていこうと決められた理由はなんだったのですか?

WACK:コロナ禍の自粛で休んでいたら、仕事に行きたくなくなりました(笑)。それで仕事を辞めたんですけど、そうしたらこの展覧会の話がちょうど舞い込んできたんです。1年ちょい前ですかね。そこから立て続けに木村拓哉さんの番組(GYAO!×TOKYO FM「木村さ〜〜ん!」)のお仕事なんかもいろいろ入り始めて、「もしかして、これはいけるんじゃないか」と。今、44歳なんですけど、最後の夢を追いたいっていう時期だったのかもしれないし、自分の周りにいろんなビッグな人達がいっぱいいて、彼らに憧れてた部分もあったので、これはもう「やるしかねえか」と。お金も会社で働いてたから貯めてたのもあるし、駄目だったらまた働こうかなって気持ちで、ちょっとしたチャレンジ精神ですね。

ーー格好いいですよね。

WACK:本当ですか! 嬉しいです。いや、みんな「ばかじゃねえの」っていう話だったんです。

ーーそう言いながら、周りの方々は期待が高かったのではないでしょうか……「やってくれるんじゃねえか」って。

WACK:そうだと嬉しいですよね。本当、気合いとノリだけでいっちゃいましたから。結果的には今回、思ったよりもいろんな人が来てくれて、久しぶりの再会もたくさんあったし、さらには自分が憧れてた人達も来てくれたりして。こうやって自分の作品が観てもらえただけで、すごく嬉しいです。

ーー人気だった作品など、展示を観にきた方々はどういう反応でしたか?

WACK:やっぱり、ぐにゃったクマが一番人気でした。あれはみんないいって。自分の中では切る手数が少ないし、そんなに難しくないんですけど、キャッチーみたいですね。それと先日、「フリークスストア 渋谷」で「ファーストダウン」のグループ展(「“stacks JUNE 2021” EXHIBITION Supported by FIRST DOWN BOOK LAUNCH & ART SHOW 」)をやった時に、一緒に出展していたアーティストの人達の作品が、抽象的な柄や模様で、そのスタイルに影響を受けたのもあって、グループ展が終わってから宇宙人やロケットの作品を作ったんですが、抽象的なものに挑戦したのは今回が初めてだったんです。それまではストーリーをある程度考えてから作品を作っていて、そこに強い言葉とかも入れていたんですけど、それが意外と飾りづらいこともあるということに気がついて。抽象的な作風であれば、もしかしたらどこでもハマるのかもと思って作ってみたら、やっぱり皆さんの反応がよかった。だから手数が多い=格好いいじゃなくて、どれだけキャッチーで印象的で、そこに自分のキャラも入れられるかが重要だというところに行き着きましたね。

ーー抽象的な作品は、今回が初の試みだったのですね。

WACK:初ですね。あまりパーツや物語を入れずくどくどさせないで、でもわけがわからない感じに。なので、宇宙人とロケットの作品に関しては、とりあえず「宇宙人とかロケットを作りてえ」っていう思いの中で、余計な情報は入れないで、どんどんパーツを足して埋めていった感じです。あとはこれをここに置いてみようとか、ロケットの煙でこうやったらいいかなとか、どうしてコンセントにしたのか全然わかんないんだけど、なんかウニュウニュしたものを作りたいなって感じで(笑)。特にテーマを決めずにフリーに。コラージュ的な作り方に近いかもしれないですね。
(後編へ続く)

wackwack
1977年生まれ。千葉県出身。2009年から、wackwackとしてアート活動を開始。アートジンの制作、ROCKASEN、BUSHMINDなど盟友達のアルバムジャケットワーク、フライヤー、Tシャツデザインなど、多くの作品を提供。2017年からは切り絵へと作品作りをシフトし、2018年に原宿にあった「ヘンリーハウズ」にて「PLAY EVERYDAY」、2021年に「ブックマーク」で「Circle of friends」と題して個展を開催。近年は、GYAO!×TOKYO FMの「木村さ~~ん!」番組オフィシャルグッズや、ASIAN KUNG-FU GENERATION 25th Anniversary Tour 2021 “Quarter-Century”のオフシャルグッズデザインを手掛けるなど、幅広いジャンルで活躍中。
Instagram:@wackwackpress02

Photography Yoshiteru Aimono

author:

Kana Yoshioka

フリーランスエディター/ライター。1990年代前半ニューヨークへの遊学を経て、帰国後クラブカルチャー系の雑誌編集者となる。2003年~2015年までは、ストリートカルチャー誌『warp』マガジンの編集者として活動。現在はストリート、クラブカルチャーを中心に、音楽、アート、ファッションの分野でさまざまなメディアにて、ライター/エディターとして活動中。

この記事を共有