イルでハッピーな切り絵ワールドwackwack「Circle of friends」インタビュー ―後編― 大いに遊んで作品作り

前編に続き、切り絵アーティストとして活動をするwackwack(ワクワク)のインタビュー後編。
原宿にあるブック&ギャラリースペース「ブックマーク」で開催された個展「Circle of friends」の話を聞いている(詳しくは前編で)と、この1~2年のコロナ禍の中、個展に向け手と頭をとにかくフルに動かし作品を作り続けてきたことがわかる。またそれぞれの作品には、これまでに交わしてきた仲間との交流や、夜な夜な遊んできた経験から得たアイデアが託されているようだ。リアルライフで思い描いたwackwack物語を、切り絵を通じて夢のような世界へと変換する。後半もその魅力をお届けしたい。

外せないのは、1990年代レイヴ&ヒップホップカルチャー

ーーちなみに最初に作ったキャラクターはなんでしたか?

wackwack(以下、WACK):クマと男の子ですね。なんか海外の絵本の中の端っこのほうに、ああいうキャラクターがいて。それがなんかかわいいキャラだなと思って、それをちょっとサンプリングしたというか、テイストはまったく違いますがそんな感じで作ったんです。クマのキャラクターってどこにでもいるけど、男女ともにウケがいいのでずっと作っています。ちなみに独眼竜ベアと言います。男の子のキャラクターはマイボーイっていうんですけど、実は絵を描き始めた頃からああいったキャラを描いているんです。どちらかといえば、自分は女の子っぽいテイストのものが好きなのかもしれないですね。今回の展示を観に来てくださったお客さんの中で、僕のことを知らない人は「女性のアーティストだと思っていました」という人が何人かいて、実際に僕に会って「すいません、おじさんです」みたいな(笑)。

ーー色のセレクトしかり、ちょっぴりサイケデリックな部分もありますね。

WACK:そうですね、そこはもうレイヴカルチャーが好きなので。宇宙人の作品なんかは、1990年代のレイヴのイメージで作っています。アシッド感というか。

ーー気になったのですが、作ってる時に音楽を聴いて制作はしていますか?

WACK:自分はラジオをよく聴いています。ラジオって聴きながらでも、作業に没頭できるんですよね。音楽をシャッフルとかで聴いていると、たまに聴きたくないなっていうのも入ってくるじゃないですか。ラジオはそのままかけっぱなしでも気にならないし、しかも自分の好きな曲とかが不意打ちでかかったりすると思わず気分が上がってしまったり、昔の曲とかを聴くと当時のことを思い出したり。だから高木完さんのラジオ番組(J WAVE「TOKYO M.A.A.D SPIN」)なんかは、僕の好きな時代の人達がゲストに呼ばれてトークが繰り広げられるので、その話を聞きながら作業をして、「あの時のあれ、格好よかったな」とか思い出したりしてます。

ーー今回の展覧会では、フライヤーやアートブックの表紙にもなっている独眼竜ベアの作品を冒頭に、そこから始まる作品の展示の流れも素晴らしいなと感じました。

WACK:みんなで遊んでる感じですね。ばかになって、遊びにドツボでハマっちゃって。流れとしては、こいつら(クマ)はそれぞれの家に帰ったのに、いきなりこんなビヨンビヨンになっちゃって。甘いものいっぱい食べてお休みしちゃったとか、ブーちゃん(=ROCKASENのISSAC)ぽくてかわいいんですよね。もう本当、そんなラフな発想です(笑)。

ーー目についてなのですが、なんだか以前よりも進化して、遂に丸い点になってしまったような感じがしています。

WACK:確かに点になりました。シンプルな丸が、一番いいってことに落ち着いたので、最新の作品はすべて目が点になっています。やっぱり目は一番重要だから、僕は目だけを何個も描くんです。絵を描く時に目のところだけを抜いといて、目だけをどんどん描いていくんですけど、最終的に気付いたことが、普通の点が一番かわいいみたいな。しっくりくるっていうか。昔のシリアルのパッケージやアメコミとかを見ると点の目だったりするので、結局、余計なことはしないほうがいいなってことになったんです。

ストリートであることと、夜遊びから得た感覚を作品に託す

ーー切り絵で影響を受けている作家さんはいますか?

WACK:インスタで海外の人の切り絵をチェックしていますけど、ゴスっぽいものだったり僕とはテイストが違うんですよね。だから特に影響を受けている人はいないんですけど、それが逆に自分には良かったのかもしれません。技術的には自分よりも上の人達はいるだろうけど、僕みたいにストリート的な解釈で切り絵をやっている人はあまりいなかったから。

ーー今“ストリート”という言葉が出ましたが、やはりご自身はストリート出だと思いますか?

WACK:なんだろうな。遊び好きな人はストリートだと思ってるし、自分自身もずっとそういったところで育ってきたし、夜遊びも大好きだし。ここ最近はコロナ禍もあって家にいることが多いですけど、ずっと家にいるのも好きじゃないし、やっぱり遊びありきの発想からの自分の作品だと思ってるんで。実際に僕の周りにいる人達もそういう人ばかりですしね。自分はその環境の中で、トップを目指していけたらなって思っています。

ーー遊びから得た、イル(ILL=イケテル、やばいといった意味)なエッセンスが入ってくるのもwackwackさんの魅力かなとも。

WACK:僕の周りにはもっとイルな人達がいっぱいいすぎて、自分はまだまだ。だからそういう人に早く追いつきたくてやっているようなもんです。“アーティスト”って言われること自体がまだこっ恥ずかしいし、本にサインとか言われても、「サイン? そんなのない!」みたいな(笑)。僕自身まだ夢物語の途中だし、道端でゴロゴロしてストリートで酒飲んでぶっ壊れてるぐらいでいいのかなって。ビッグになんてまだ程遠い。だけどコロナ禍でなかなかストリートに行けなくなってしまって、うっかりインドアになってしまってますけど、それがあったから今回の作品を作れたというのはあります。

ーーコロナ禍を経て、この先の作風に何かしら変化が出てくると思いますか?

WACK:徐々に自分も落ち着いてきた感があるので、もしかしたら作風が変わるかもしれないです。花とか自然とか、またはもっと変なものになるかもしれない。というのも先日、友達が箱根で経営している「箱根翠泉」という旅館から観た箱根連峰の風景を描いたんです。実際に旅館に行って、風景写真を撮ってそれを見ながら作ったんですけど、初めてキャラクターがいないものを描いてみて、風景も悪くないなと感じて。それに風景画はもしかしたら、部屋とかに飾りやすいのかななんて。キャラがいるとそれに特化して持ってかれちゃうんで。なんで、風景画は今後チャレンジしてみたいなと思いました。

いい作品を作ると、気分が晴れる

ーー風景画もいいです。作っていても気持ちよさそうですね。

WACK:作っていてなんか気持ちが浄化されましたね。だけど最初はどういうふうにでき上がるのか不安だったんです。やっぱりキャラがあるのが自分の作品のイメージだし、キャラがいないものを作ることに対して大丈夫なのかなって。だけど作ってみてなかなか良かったので、これからは自然とかのナチュラルなものも作ってみたいなと。

ーー普段も作品を作っていて、浄化されていますか?

WACK:すごく浄化されてます。ストレス発散じゃないですけど、自分の思いが入っているから、でき上がった時は嬉しいというか、「やべえのできたな」って毎回思えているんで気分が晴れますよね。特に今回は本当に満足しているし、いい作品ができ上がるってやっぱり気持ちいいもんです。デトックスです。で、いいのができ上がった日は銭湯にでも行って、ビールでも飲んじゃおう! みたいな(笑)。

ーー今回は作品集の他に、お香立てやお皿なども制作されましたが、今も手に入りますか?

WACK:個展が終わってからも、「ブックマーク」と「スタックス」、あとは自分のウェブショップでも販売しています。木のお香立てとお皿は「WORK STUDIO KIDUKI」さんに作っていただいたんですけど、お香立ては横から見るとwackwackのWWになってるんです。お香以外にも小物置きにも使えるし、アートピースとしても飾ることができるので自分でもすごく気に入っています。

ーー欲しいものがたくさんありすぎて……(笑)。

WACK:着払いであれもこれも送っちゃいますよ(笑)。今日、選んでもらったお気に入りの作品とか、あのでかい作品も一緒に返品不可で!
とにかく今回の展覧会のために、このコロナ禍の1年をかけて作った作品です。そのタイミングも含め、今の時期に「Circle of friends」をやれたことは、自分にとって本当にいいターニングポイントになったと思います。

wackwack
1977年生まれ。千葉県出身。2009年から、wackwackとしてアート活動を開始。アートジンの制作、ROCKASEN、BUSHMINDなど盟友達のアルバムジャケットワーク、フライヤー、Tシャツデザインなど、多くの作品を提供。2017年からは切り絵へと作品作りをシフトし、2018年に原宿にあった「ヘンリーハウズ」にて「PLAY EVERYDAY」、2021年に「ブックマーク」で「Circle of friends」と題して個展を開催。近年は、GYAO!×TOKYO FMの「木村さ~~ん!」番組オフィシャルグッズや、ASIAN KUNG-FU GENERATION 25th Anniversary Tour 2021 “Quarter-Century”のオフシャルグッズデザインを手掛けるなど、幅広いジャンルで活躍中。
Instagram:@wackwackpress02

Photography Yoshiteru Aimono

author:

Kana Yoshioka

フリーランスエディター/ライター。1990年代前半ニューヨークへの遊学を経て、帰国後クラブカルチャー系の雑誌編集者となる。2003年~2015年までは、ストリートカルチャー誌『warp』マガジンの編集者として活動。現在はストリート、クラブカルチャーを中心に、音楽、アート、ファッションの分野でさまざまなメディアにて、ライター/エディターとして活動中。

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