対談〈佐久間裕美子 × Z世代〉「経済状況と教育の2つの問題」能條桃子——中編

カルチャー、ライフスタイル、ファッション、社会運動など幅広いジャンルの執筆活動をし、著書『Weの市民革命』では若者が率先する「消費アクティビズム」のあり様を描いたNY在住の文筆家、佐久間裕美子。キラキラした世代と描かれることも多い一方、気候変動や所得格差など緊急の社会イシューとともに生きるZ世代についての解説を求められる機会が増え、それなら本人達の声を聞き、伝えたいと考えるに至ったことで持ち上がった〈佐久間裕美子 × Z世代〉の対談企画。

第2弾の対談相手は、NO YOUTH NO JAPANの代表理事を務める能條桃子。中編では2021年10月の衆議院議員選の話から現状維持満足層の増加、SNSとの付き合い方について。

前編はこちら

2021年10月の衆議院議員選を振り返って

佐久間裕美子(以下、佐久間):(前編からの続きで)2021年10月の衆院議員選の話に戻って、デンマークでは、若者の政治参画が進んでるところでの話も聞いていきたいんですけど。私も選挙に向けて「投票へ行こう」という活動をする中で、ここで若い参加者が増えても、スケールを大きくして見た時にそこまで浸透してないんじゃないかなとは思っていたんですよ。そこら辺は桃子さんにはどういう風に見えましたか?

能條桃子(以下、能條):そういう意味で言うと、「思ったより投票率が上がらなかったな」というよりは、「2%上がったのは結構すごくない?」 みたいな。ポジティブな受け止めをしていています。

佐久間:そうそう、私もそっち。

能條:「投票に行こう」というメッセージを発信したり、選挙の存在を知らせる、そして選挙で投票するために必要な情報提供をわかりやすくするっていうのが私のやっているアプローチだけど、それで「できること」と「できないこと」は明確にあるだろうなとは思っていて。でもまず今はこのアプローチを選んでやっているので、それだけで全てが変えられるとは思ってないんです。やっぱり今回新しく何百万人って投票に行った人が増えたこと自体は本当にすごいなと思うし、首都圏の女性の投票率がすごく上がってるのとかは、明確に自分達がやってきてることの反映を感じます。逆に急に1回の選挙で投票率が20%上がるのも怖いというか。それを次また維持するのは難しいと思うので、だからジワジワ上げていく方が良いのかなと。だから、そこまで今回の選挙に対して投票率の面で落ち込みはないですね。やっていることが無意味ではないことを実感できたくらいの感じです。

佐久間:結果に対してはどう感じている?

能條:正直「だろうな」みたいな。私自身も今回どこに投票するか、ベストでここに入れたいって思えるところが1つもなくて、きっとそう思った人は多かったと思うんですよね。例えば私の価値観だと、人権政策優先したら絶対に自民とか維新って外れるじゃないですか。そしたら意外と残るところが少ないし、しかもその中で、例えば私達の世代まで年金がもらえるのかみたいなところで見ると、左派ほど高齢者支持が強いから政策がそっちに向いていて。若者リベラル層の受け皿がないからこそ、毎回絶望する、という現象は正直あるかもしれないですね。

佐久間:その受け皿がないって問題、有権者の側ではなかなかいかんともし難いよね。

能條:だから毎回選挙で「結局受け皿作りをしていかなければ」っていう問題意識は強まるけど、「じゃあ受け皿を作ったらそこが伸びるのか」と言われれば、投票に行ったり選挙について考える人が増えないとちょっと厳しいと思うから、どれか1つじゃ解決しないなって思いますね。あと今回、リベラル界隈のジェンダーバッシングが強めというか、リベラル界隈というか左派、立憲とかに入れる人達の「いやジェンダーとか言ってたからだろ」みたいな。気候変動もそこに入るのかもしれないけど、ちょっとずれちゃってるバッシングが強めだったなと思っていて。多分ジェンダー政策が、女性という「弱者」を助けるための政策というように映ってる間は変わらないですよね。でも政党側もそういう雰囲気でキャンペーンはっちゃってる部分あるし、政策内容だったりは結構むず痒いですね。

佐久間:今回の野党連合が負けた、ということも含めて、ナラティブの構築って大切だなと思っていて。今のジェンダー政策の話も、「なんでジェンダー平等が必要なのか」ってところのナラティブがやっぱり弱いし、それをうたっている政党も分かってないんじゃないかなって思うところがあったよね。

今回“みんなの未来を選ぶチェックリスト”という、政党に質問表を送るプロジェクトに参加したんだけれど、あれをやった理由も、要は私も毎回選挙のたびに悩むタイプの野党支持者で、気候変動とかに関してはやっぱり共産党みたいな党が厳しくやってくれないと全体が動かない。でも共産党の気候変動政策自体にもモヤモヤしていて、「よし、共産党に言いに行こう」っていうのが最初のきっかけだったのね。同じタイミングで共産党に陳情に行った人達と「野党連合を応援しよう」となったことがきっかけになったんだけど、結局やっぱり、共産も立憲も、ジェンダー平等の観点で見ると比例の名簿にはがっかりして。これから私は何を応援したらいいのだろうって、ちょっと自分自身も頭を抱えていて。選挙に行こうとかイシューを明確にするとか、そういうことはできるけれども、じゃあ誰に、どこに投票するってなった時に答えが用意できなくて、そうすると「選挙行かなくていいじゃん」ってなっちゃう人も多いんじゃないかなって思う。

能條:そうなんですよね。投票率が上がるまでのすごく長い道のりだとは思うけど、今回の衆院選、1つのピークを超えた感じはしています。というのも、私達がNO YOUTH NO JAPANを2019年に始めた時は、インスタでこういう発信をしているアカウントがそもそも自分達しかいなかったんですよ。でも今回、芸能人やメディアからの発信もそうだし、SNSを主戦場にしながら「まずは投票に行こう」「どう選ぶのか」みたいなところを分かりやすく発信するアカウントがすごく増えた。きっと、私達が黙っていても、次の選挙の時にはまた今回の動きに触発されて発信する人が増えると思うんです。グラフィックも合わせて「投票に行こう」っていうのがSNSで盛り上がって、これは今後も続くと思うと、次のフェーズに行けば良いのかなって。

現状維持満足層が増えている

佐久間:そうだね。私はそのポジティブシンキング大好きです。今、斎藤幸平さんが監訳した『ジェネレーション・レフト』 (キア・ミルバーン著、堀之内出版)っていう本が話題になっていて、世界的にZ世代、若者と言われる層はすごく左傾化していると。これが日本だと実は右傾化しているって言う人もいるじゃない? その辺は体感的にどうですかね。

能條:右傾化しているとは思っていなくて。ただただ現状維持満足層が増えていますよね。今の政治のスペクトラムを見ると、特に安倍政権時代に右傾化したから、現状維持と、それが合わさって右傾化しているように見えるだけであって、若者自体の考え方が右傾化している感じはしないです。でも、これ以上悪くならないでくれという意味での保守的な思考、例えば“家族”とか、伝統的な価値観を基軸にした保守というよりは、今の自分の生活に対する大きな変化を求められないという意味での、保守的な感覚は広いと思います。

こうなる理由は大きく2つあると思っていて、1つは経済状況の問題。昔はもしかして給料がちゃんと上がる未来が見えていたかもしれないし、15年くらい前だったら「きっと今は景気悪いけどこれから良くなるだろう」「今がちょっとおかしいんだ」という感覚だったかもしれないけど、今はもう「きっとこれからも悪いであろう」という想定の中で生きていると感じるんですよね。

もう1つは教育の問題。この数十年で、自由になっているようで学校現場はきつくなっている部分もすごく大きいと思うんです。生徒の半数が大学に行く時代で、昔は一般入試、いわゆるペーパー入試が主流だったけど、もう今やペーパーのほうの割合が少ない。推薦やAO入試といった自分の能力でというよりも誰かからの評価に基づいた試験が増えてきていて、良し悪しはあると思うんですけど、AOや推薦で合格するには学校の成績が良くなきゃいけないし、そしたら学校の先生に歯向かうとかあり得ないし、となりますよね。権力に対する従順さがあったほうが賢く生きれるみたいな風潮が、メインどころでは多い感覚なんじゃないかな。「いい子になってる」ってよく言うけど。

佐久間:与えられているものが少ないということはあるよね。最近Z世代の人達と話すと、「安心して読めるメディアがない」っていう話が上がるんだけど、桃子さんはどの辺のメディアを見ている?

能條:私は朝日、毎日、日経とか新聞が多くて、テレビはあまり見ないです。あとはSNSかな。ウェブだとBuzzFeedとかハフポフトは読んでます。活動を始めるようになってからは、どちらかと言うと、メディア擁護者に変わってきているんですよね。もちろん大手メディアに情けないところはたくさんあると思うんですけど、NO YOUTH NO JAPANを始めて、ファクトチェックの難しさであったり、いかに情報を作って届けることが大変かを学んだんです。その中で実は新聞社がやっていること、言ってることって、見逃していただけでたくさんあるんだなって気づけるようになりました。新聞社が持っているあのリソースって宝だし、購読者数が減っていてかつメインの購読者層が亡くなってしまったら保てなくなるこのビジネスモデルをどうにか変えないと、日本の民主主義がこれ以上悪くなったらもうどうしようもない! って思っています。

佐久間:私の友達の知り合いに、桃子さんが某ネオリベ系メディアに出演したのを見て、そこで選挙のことを学んで実際投票に行ったっていう人がいたんだって。いろいろな思想を持ったメディアがある中で、幅広く出演してる桃子さんは素晴らしいなって話になっていました。

能條:よかった。実際、いわゆる私の感覚と違う人達で構成された場に出ていくべきか、結局そこに出るしかないのかについてはすごく迷ってます。新聞も同じですよね。新聞は比較的上の世代が読んでいるからこそ、フィールドとして社会を変える力があるなって思います。

佐久間:やっぱり難しいよね。外から見ていて私が素晴らしいなと思うのは、そういった場に出て嫌な思いをすることもあるんじゃないかなと思うんだけど、そこをポジティブに、軽やかに、かわせている感じがするんだよね。それは桃子さん的にはどんな感じ?

能條:社会科見学です。活動を社会科見学だと思ってやっているから、割と楽しんでいるところはあります。軽やかかどうか自分ではわからないけれど、傷つかないための防御策はたくさん張っていますよ。それでも瞬間的に傷つく時はあるし、でもこの社会は役割分担だと思った時に、今自分ができることはやっておきたいなと思います。

SNSで傷つかないために

佐久間:傷つかないための防御策というと、例えば?

能條:エゴサーチしないっていうことであったり、Twitterでも、自分のフォローしている人以外のコメントは基本読まないようにしています。どうしても読みたい時は、先に誰かに読んでもらう。最初は、顔も出さない人のことなんて無視しておけばいいって思っていたけど、いくらしょうもないことでも数で圧倒されることって本当にある。街中歩いていたら、きっとこの中の1人も私のこと知らないはずなのに、ネットだけ見ていると責められている気分になる。もうそういう経験はしない方が良いなと思って、そこら辺は徹底しているかもしれないですね。

佐久間:セーフティネットを自分で構築したわけだよね。

能條:そうじゃないと健康でいられない。学生生活においては、あまりこういうことを気にしないタイプだったんです。人からの評価を気にしないことに自信があったけど、意外と「気にしい」だったことに気づくと言うか。

佐久間:SNSが、気にしないタイプだった人を「気にしい」にしたという可能性はない?

能條:ありますね。かつ、リアルな人間関係は「私」と「誰か」だけど、SNSだとそれで自分の組織や親が悪く言われたり、すごく嫌です。ネットの良くないところ。

佐久間:デジタルネイティブ世代は常にSNSが身近にあって、子供の頃からルッキズムが擦り込まれていたり、孤独な気持ちにさせていたりするじゃない? 俯瞰で見た時に、世界中でいろいろなメンタルイシューを引き起こしている。これって一種、今この社会でユースを体験している人特有の問題かなと思うんだけど、「メンタルヘルスを大切にしよう」ということは桃子さんの世代周辺で語られていたりする?

能條:話題になることは多いですね。情報をたくさんとっている人ほど知っていたり、考えていたりするんじゃないかなと思います。あと、コロナを経て、周りの友達が鬱になったり、落ち込んだり、そういうことを聞いたことのない人が逆にいないんじゃないかっていうレベルで増えている感じがします。初期の緊急事態宣言で、ほとんど家から出られない、1ヵ月半1人暮らしで誰とも喋れなかったとかで、すごく元気そうだった子が鬱になったり、そういうこともあって、自分の心を大切にしようという感覚はすごくありました。

佐久間:人生をドロップアウト、つまり自死を選択する人もそれなりに増えていたり、心の問題が体の問題になってしまったり、それは深刻だし、長期的な問題だよね。そういう意味での情報リソースは足りているかな?

能條:それが結構問題だなと思っていて。例えば「鬱かも」って思った時に、ウェブ上にチェックリストは一応載っているけど、医療機関にアクセスするハードルが高いし、お金も結構かかる。医療機関に連絡したとしても、なかなか予約が取れなくて、今すぐ何かできるわけではないって友達が言っていました。かつ、病気だと認めちゃうと病気になる気がする、という考えもあるから、周りも「あんまり気にしない方がいいよ」って声をかけちゃう。そういうのも含めて、雰囲気としてタブー視されている感じはあるんだろうなと感じますね。

佐久間:そうだね。泣きたい時も「泣かない!」ってなりがちだよね。苦しい時に苦しいって言える、いたわり合える社会が良いなって思うよね。

後編へ続く

能條桃子(のうじょう・ももこ)
一般社団法人NO YOUTH NO JAPAN代表理事、慶應義塾大学院生、ハフポスト日本版U30社外編集委員。デンマーク留学中に現地の若者の政治参加の盛んさに影響を受け、選挙や政治を分かりやすく伝えるInstagramメディア「NO YOUTH NO JAPAN」を立ち上げ、若者の政治参加を促す団体NO YOUTH NO JAPANを設立。国政・地方選挙の投票率向上施策や政治家と若者の対話の場づくり、イベント実施などを行う。慶応義塾大学大学院で学びながら団体の代表理事を務め、社会問題について意見を発信する。近著に『YOUTHQUAKE:U30世代がつくる政治と社会の教科書』(よはく舎)。

Photography Kyotaro Nakayama
Text Nano Kojima

author:

佐久間裕美子

文筆家。1996年に渡米し、1998年からニューヨーク在住。出版社、通信社などを経て2003年に独立。カルチャー、ファッション、政治、社会問題など幅広いジャンルで、インタビュー記事、ルポ、紀行文などを執筆する。著書に「Weの市民革命」(朝日出版社)「真面目にマリファナの話をしよう」(文藝春秋)、「My Little New York Times」(Numabooks)、「ピンヒールははかない」(幻冬舎)、「ヒップな生活革命」(朝日出版社)、「テロリストの息子」(朝日出版社)。慶應義塾大学卒業、イェール大学修士課程修了。2020年12月に「Weの市民革命」を刊行したのをきっかけに、コレクティブになったSakumag Collectiveを通じて勉強会(Sakumag Study)、発信(Sakumag Stream)などを行っている。Twitter:@yumikosakuma Instagram:@yumikosakuma

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