アート連載「境界のかたち」Vol.12 NFTの可能性を実例とともにひもとく 山峰潤也×施井泰平×スプツニ子!によるクロストーク -後編-

ビジネスからサイエンスに至るまで、アートの必要性を説くシチュエーションが激増している。コロナ禍で見える世界は変わらないものの、人々の心情が変容していく中で、その心はアートに対してどう反応するのか。ギャラリストやアーティスト、コレクター等が、ポストコロナにおけるアートを対象として、次代に現れるイメージを考察する。

第12回は、 “NFT”についての後編。仮想通貨の世界だけではなく、アート業界においてもブロックチェーンの技術を活用したNFTアートがマーケットの新風になっているのは言わずもがな。でも、NFTの実態と機能を的確に理解している人は少ないのではないだろうか。当然の話で、ブロックチェーンもNFTも成熟の途中にあるからだ。今回は美術館キュレーターの経験からメディアや企業とアートの社会的可能性を実証実験する山峰潤也と現代美術家でアートにおけるNFTの活用を事業化したパイオニアの施井泰平、2月に代表作「生理マシーン、タカシの場合」のNFTが50ETH(約2000万円)でコレクションされた、アーティスト・スプツニ子!とのクロストークが実現した。後編はNFTアートの可能性を実例をもとに語ってもらう。

非中央集権的な状況が生まれて、価値の文脈がリゾーム型に出てくるおもしろさ

山峰:現代アーティストのサイモン・デニーがブロックチェーンを使った作品を2016年に発表したんですけど、興味深かったのは権威という軸で別の誰かが利益を獲得していくような構造にも両義性があることを説明しながら見せていくような、アイロニックなメッセージが込められていたこと。NFTもそうですけど、開かれている印象の一方で、例えばGAFAが世界経済の中心になっていくような疑問もある。今NFTがその現状を更新して、新しい価値を作っていく場と考えた時に経済系だけの話にならないように日本で発信するにはどうしたら良いのかということが重要なポイントだと思います。具体的には、プッシー・ライオットのような活動を見てもらうことと、使い方の提案が必要。キュレーターとしても関心がありますね。

施井:日本はテクノロジーに対して社会課題解決ツールとしての希望が少ないと感じることが多いですね。例えば、Wikipediaの編集用語ランキングで、ドイツでは「ホロコースト」が上位にあるけど、日本の場合は「名探偵コナン」とか「ONE PIECE」だったかな、アニメが上位を占めていることが過去に話題になりました。ある意味、テクノロジーは現実社会とは別の軸や用途で扱われているように感じます。一方で西洋社会では、テクノロジーの下剋上じゃないですけど、今までできなかったことを成し遂げる道具であるという考え方があるように思える。民族性も関係していると思いますけど、テクノロジーの活用が課題解決につながるという考え方に至っていないことが、日本の残念なところだし、ならではだとも思うんです。

スプツニ子!:そういう文化の違いもあるのかな……。最近出てきたNFTコレクションで「アストロガールズ」っていうweb3.0にもっと女性を増やそうっていう目的のプロジェクトがあるんですけど、このNFTを購入した人は女性エンジニアのコミュニティの中でウェブ3.0を学べる仕組みがあります。さっき施井さんが仰ったように、テクノロジーを使ってどう下剋上するか、これまで白人男性中心だったテックワールドをどうハックするかっていう思想はウェブ3.0に根強い。現状はウェブ3.0やクリプトの世界ってまだ白人男性が圧倒的に多いんですよ。だからこそ、マイノリティをもっとエンパワーメントしようっていう動きが強まっています。アメリカは、今アートやカルチャー全体で、白人男性中心の歴史を反省して見直す構造ができつつある。だから「アストロガールズ」等のようなアクションがあるんですが、日本のNFTはどうかなと。

施井:国際的なアートの世界から見たら日本人男性も少なくともマイノリティだと思うんです。そこで、DAO(分散型自律組織)とかメタバース、NFTが完璧にその問題を解決するとは思っていないんですけど。例えば、LGBTQの人達が精子バンクにいくと白人男性の精子を選ぶ傾向にあるというデータもあり、マイノリティの人達もどこかで権威に対する欲望があったり、それが最適解になってしまう構造から抜け出せない状況に陥ってる。DAOに関してもそうですけど、例えば非中央集権組織を真剣に実現しようとしても、完全に非中央集権化するには無理がある。例えばどっかで誰かが意思決定をしたり、責任をとらなくちゃいけないから、そこにどうしても中央集権的な権威が宿ってしまうような。イタチごっこですし、人間の本質に1歩迫るとは思いますが、まだ何も解決しておらず、そこがテーマの時代になっただけなのだと思います。

山峰:その二面性があらゆるところで語られていますよね。僕も美術館の展覧会でアクティビズムやソーシャルに結びつくような事例を取り上げてきましたけど、美術館は象徴的かつ権威的な場所で、ラディカルに活動してきたアーティストを権威付けしていき、「ラディカルであること」自体が美術の価値の構造に吸収されていく状況に矛盾を感じたんですよね。

もう1つは前回のヴェネチア・ビエンナーレにいった時に世界のセレブリティが集まりますよね。加えて、世界有数の観光地であるヴェネチアに来ることができるのは限られた人達です。ビエンナーレを見るようなカルチャーエリートが、各地から集められた作品を通して世界の悲惨を嘆き、慈しむ、という状況に違和感を感じたんです。こういう欺瞞の世界に陥ってしまっているのではないか、社会を変革するアクションのためではなくて、世界の富裕層の同情心や自己満足をくすぐるために何かをしていることに「おかしくないか?」と。その答えがあると思って美術館の仕事から離れてしまったんです。

もちろんDAOがすべてではないと理解しています。権威活性する中間的な存在、野菜で言えばJAみたいな中間団体って、美術館やキュレーターのような存在が権威を作って、搾取してるんじゃないかっていう話がありますよね。ブロックチェーンの話をすると、ウォレットを難民の1人ひとりに配布することで中間業者を排除することができて、適正なマーケットにすることができるけど、実装の問題点は山積みです。ただ、直接構造になっていくことで、非中央集権的な状況が生まれて価値の文脈がリゾーム型に出てくるおもしろさがあると思うんです。僕の立場だと混乱しますけどね(笑)。

施井:NFTはあくまでインフラだから、みんなにとって良いものになるだろうけど、どう進むべきか、最終的にどんな世界になるのかは、まだわからないですよね。この間、アップルペイがメタマスクに対応して、日本でもクレジットカード等から直接イーサリアムが買えるようになりました。これまで日本でNFTを購入するには、ビットフライヤーなりコインチェックなりでKYCを経た上で口座開設して、仮想通貨を買った上で別に用意したメタマスクアカウントに送金してやっと購入準備が完了する、みたいな複雑で時間のかかるプロセスを経なければいけなかったのに、ウォレットへのアクセスが簡単に得られるようになったのは、「アップル」という巨大資本が対応するデバイスを広げてくれたから。今後も世界は、パーソナルコンピューターで個人がエンパワーされたり、個人が組織から独立する力を持つようにさらに進んでいくと思います。最近の戦争問題等を見ていますと、国家に縛られて国民が命を落とすような社会構造に違和感を感じている人も多いと感じます。

山峰:ウクライナの問題は、批評家がメッセージしてそれが世の中に広がって、政治が動き始めたパワーが見えてくるような状況と、ナラティヴ(物語)に牽引されてそういう考え方が立ち上がったことが、これまでとは決定的に違いますよね。「助けたい」というDAOが生まれて、最終的に経済系の民主化が生まれる時にようやく環境が整ったと考えられる気がするんですよね。

DAOとNFTとリアルなカルチャーを結びつけて、根っこにある文化的価値を守る仕組み

スプツニ子!:ファンドレイズして、みんなで作品をコレクションするっていうDAOは実際にあるんですけど、山峰さんもDAOをやってみてほしい。

施井:確かに、それおもしろい。「山峰DAO」。

スプツニ子!:もうそれを作っちゃうか、海外のアートコレクション系のDAOに入っちゃおうよ。現状のアートコレクション系DAOのメンバーは、テクノロジー系の人が多くてアート史に詳しい人はまだ多くないので、山峰さんのような人の知見が必要なんじゃないかな?

山峰:チャットコミュニケーションに途中で心が折れるっていうのがあるんですけど(笑)。やりたいことはいくつもあって、今までマーケットに乗りづらかったタイプの作家がソーシャルアクションできる場を作りたいので、DAOを媒介にして、作品のプロセスで出てくるNFTコンテンツやプロジェクト、そこから生産される副産物をNFTコンテンツ化して販売することで彼等の行動を支援したいです。

もう1つ、日本の建築遺産とか工芸はIP化できるものが多いですよね。刀とか鎧でもいいですし、それを使ってクリエイターがスピンオフで作品を作る。そのNFTが異なるメタバースでも使えるように整備さえすれば、日本の文化が世界に発信できて、かつアレンジされるという、インターネットならではの二次流通のおもしろさが生まれる。DAOとNFTとリアルなカルチャーを結びつけて、根っこにある文化的価値を守りたい。

施井:ものすごく重要ですよね。現状、DAOの運営って法的にグレーなものも多いんです。ブロックチェーン関連のファンドレイジングに切り込むスピード感がある人の中にはマネーロンダリング目当てだったり、反社会組織が関わっていたりする場合もあるので、どうしても規制に向いてしまう。これだけ社会を良くしていく可能性がある仕組みにも関わらず、社会的意義のある事例がまだまだ少ないんですね。でも、真面目な人は先行者にならない傾向にあるし、結局、怪しいものとして規制される。なので良い社会課題解決案を思いついたらみんなどんどんやってほしいです。

山峰:アイデアはあるんですけど、実装後の問題もあるので。このメンバーでやれたらおもしろいですよね。スプさんはアーティストとして実践しているし、情報も入りやすいのではないでしょうか?

スプツニ子!:実践のコツというか、英語力は大事だと思います。ニューヨークやロンドン、東京に住んでるっていう地理的な障壁はなくなっているけど、日本では言語の壁があるので、英語でコミュニケーションしていかないと、プロジェクトが大きくなりづらいんですよね。友達の草野絵美さんが1980年代の日本のアニメをテーマにした「新星ギャルバース」っていうNFTを作っていて、私の今のアイコンも「新星ギャルバース」なんです。

施井:僕「ゾンビーズーキーパー」持ってます(笑)。

スプツニ子!:すごくかわいいし、「NFT発のアニメを作る!」というビジョンも独特でアメリカのインフルエンサーがSNSのアイコンを「新星ギャルバース」にしてるんです。絵美ちゃんは英語ができるので、アメリカのインフルエンサーの新星ギャルバースアイコンを作ったり、プレゼントもしているから、これからすごく広がっていくと思います。日本にいても、英語ができればプロジェクトは大きくなりますよね。絵美ちゃんのような新しい時代のコミュ力が重要。

山峰:アーティストとして成立すると思う一方で、誰もが作品について語れるわけじゃないですし、チャット空間にも長時間いられない現状もありますよね。

スプツニ子!:私はずっとチャットするのはしんどいタイプ(笑)。

山峰:フルタイムコミットメントですからね。アートオークションでオークショニストがハンマー役として盛り上げることと同じで、誰かがコミュニケーションを代替してあげることで言語問題を解決できたらいいなと思います。あと、文化財のIPみたいな話になると作者は生きていないので、誰かが代わりに語ってあげなきゃいけないし、インターネット空間における盛り上がりを理解していることが大前提。

スプツニ子!:私も英語はできるけど、ディスコードのマネジメントは無理だな……。日本だと「TART」っていう会社がアーティスト支援に力を入れていて、作品について英語で発信したり、インフルエンサーに作品を届けてマーケティングをサポートしていますよね。

施井:彼等はすごいです。2016年くらいからブロックチェーン関連事業をやっていて、作品も作っています。ジェネラティヴマスクを広げたマーケティングとか、おもしろい活動をしていますよね。過疎村の地方創生NFTプロジェクトとかもそう。

山峰:知人からマンションの住民が組合のコミュニケーションとしてDAOを使って、価値が下がらないようにするっていう話を聞いた時はおもしろいと感じましたね。共通の問題を抱えている人達が互いにインセンティヴを交換できる状態を作るプロジェクト。以前、北海道出身の著名人の方から「アートを使って町おこしをしたい」という相談を受けた時に、町の自然は美しいし、食べ物もおいしいから、そこにアーティストがレジデンスして勝手に広がっていく可能性で構造化ができると考えていました。ただ、ファンになった人達をどうつなげるのかが問題で、過疎化していく場所に対して「セカンドホームDAO」みたいな、居住者以外もそこをセカンドホームタウンって思える人が参加できるやり方を考えたんです。そこから生まれるコンテンツをメディア化していく。過疎村のプロジェクトの考えにも共通すると思いました。

スプツニ子!:過疎村のプロジェクトもNFTでコミュニティ化できるでしょうし、メタバース上のイベントが実現できるかもしれない。それに、先程のアップルペイがメタマスクに対応した話も「アップル」にはそういう力があるなって。デバイスとかアップルペイとかでNFTが突然身近になるような。

施井:いろいろなものが作れますよね。しかも個人情報を秘匿化する「アップル」のブランディングに即している。

スプツニ子!:そうすると日本人も近づきやすいし、ウェブ3.0のハードルも下がる。

環境問題に関する議論の必要性

山峰:あと、美術館の展覧会であらゆる環境問題のことを話しても、展覧会自体が象徴主義で、たくさんのエネルギーコストをそこに費やしているのか? という矛盾があって。暫時的にやっても象徴的に見せることが次のアクションによって解決に結びつくのかという疑問が湧きます。美術もポストモダンと言いながらモダニズムから脱却できなかったじゃないですか。変革というよりも“変革のイメージがある革命者”でありたいっていう、ある種のプレイの部分だけに注目が集まるような、方法論やプレイヤーの細分化、ステレオタイプを作ってフォローさせていくのではなくて、何ができるのかという話。その意味で環境問題について解決への議論のDAOが作られること等議論が進んでほしいです。

スプツニ子!:私は外から否定や批判をするだけではなくて、その中に入ってエコフレンドリーなシステムになるように変えていきたいなと思います。でも、批判はあるべきですし、そのおかげでNFTやイーサリアム全体も更新された部分もある。イーサリアムも「PoS(プルーフ・オブ・ステイク)」にすることでエネルギー消費量が劇的に少なくなる「イーサリアム2.0」に年内に移行すると言われています。他にもNFTプラットフォーム「Rarible」で、購入したNFTの生成したカーボン・フットプリントをリムーヴするためのボタンが作られたように、システム設計でエコフレンドリーなものを作ろうっていう動きがある。

施井:僕等もガス代が高騰した時に「ポリゴン」に移行したんですけど、一方で資産性のあるNFTを発行したい人はイーサリアムベースにしたいっていう要望が多くて、しかもポリゴンってプルーフ・オブ・ステイクとかいろいろな処理を減らす努力をすることによって、結局ダウンしやすくなったり、信頼性に関してはイーサリアムと比べると低くなることもある。そもそも自分達が「ポリゴン」を使っているから良いってわけじゃないし、「ポリゴン」もイーサリアムの土台と信頼があるから、みんなが使っている状況もあります。人類全体の問題と思いますし、向き合い続けることでより良い解決策を生み出していくしかないですよね。

山峰:そうですよね。みんな動物の肉を食べているわけだし、大量の廃棄物を出しながら生きているわけですから。美術館も含めて“生きる”以上、多少のグレーゾーンは存在する。ただ、無意識化されているものと意識化されているものだけに分類して議論することには疑問があります。コンテンツやビジネススキームの話をする人は多いですが、実は、エネルギー効率の良いハードウェアや、エンジニアリングの効率化等、インフラの議論も進む必要があります。

施井:もちろんそうですよね。ソースコードを少しでも減らすことでトランザクション(取引)コストを減らしていくこともできます。収穫加速の法則というのがあって、そこでは世界が何かの目標に向かって技術力を高めていく時には必ず天才が現れて、結果、指数関数的に技術進化が行われると言われているんですけど。インターネットの拡大が教師データ収集を加速させて、結果、人工知能の進化をスピードアップさせたこともあるし、ハードウェアレベルももちろんですし、プロトコルレベルでもきっとそうなっていくんだと思います。

スプツニ子!:いずれにしても、変革の時期って絶対的におもしろいと思うんです。大どんでん返しが起きやすいからこそ、カオスな中に入って、動いてみるのが楽しい。「ユニコーンDAO」のようなNFTの世界に女性やLGBTQの視点をもっと増やそうっていう動きもを応援したいし、加速していってほしい。山峰さんのDAOも期待してます。

山峰:NFTのインフラに関しては、国内でマーケットプレイスも出てきています。ただ、文化財や建築、アニメ等のIPは日本の文化をおもしろがる海外層と結びつかなければならないと考えています。SNSでは日本からmixiが出てきたけど、結局Facebookが主流になっていったように、プラットフォームはグローバルに勝負できるところが強い。だからどうしても日本初のプラットフォームは厳しい。ただ、コンテンツでは日本も世界で勝負できる。その時にどうやってマーケットプレイス等のプラットフォームに対して、コンテンツホルダー側が強くいられるのかが重要で、メタバースコンテンツを作ってもメタバースそのものがなくなってしまったら、コンテンツもなくなくなるのではなくて、別のメタバースで使えるようなユニバーサルな状況があるべきですよね。言語問題で、ベースのインフラでは日本は世界に勝てないだろうと感じた時、一方で文化的アセットは豊富なので、それをどう生かせるかはポイントだと思うんです。

スプツニ子!:任天堂は理想的な日本のカンパニーって思いました。コンテンツの力で世界を席巻するようなイメージ。

施井:大きな質問だと思うんですけど、村上(隆)さんのアート活動にはそういう要素があるように思えます。日本のカルチャーって大衆からボトムアップで盛り上がっていく側面があって、逆に海外はトップダウンで、売り出し方にも「エリザベス女王が認めた」とか「MoMAの永久展示」という枕詞がつきますけど、村上さんはボトムアップカルチャーとトップダウンカルチャーの翻訳者的な活動をしています。彼が掲げている“スーパーフラット”というコンセプトも、情報社会における優劣のない社会的もさることながら、NFTの“スーパーフラット”をも示唆している。ある意味において日本のクリエイティヴが世界に挑戦していく時のキーワードになるだろうから、これまで村上さんが続けてきたことを理解することが重要なのかなと思います。同時にNFTマーケットのトレンドセッターはアメリカに多いけど、中心が必ずしもアメリカにしかないわけではないですし、ワールドワイドでマーケットが広がっています。日本のマーケットプレイスがあまり盛り上がっていないと言われますが、広くまとめると、NFTを1つのテクノロジーのムーブメントではなくて、新しいインフラの革命と考えた時に、情報社会と真剣に向き合うべき。どんなに情報社会が発展しても国家もコミュニティも存在するし、自身の身体性も切り離せるわけじゃないので、どう折衝していくかが論点になると思います。

明確な答えはないんですけど、最初に話した情報社会に生まれたミッシングピースが生まれたという感覚は、ようやくクリエイティブ領域も本格的なインターネットの時代に突入したということ。例えば、昔アーティストが作品を売る際にはコミュニティを醸成していたと思うんですけど、物理的にアクセスできるのがせいぜい30人くらいだったとして、情報社会で物理的制約がなくなって、世界中からアクセスできる分母が増えただけなのかなと。そう考えると、本質的なことはほぼ変わっていないし、情報ツールがこれまでの物理的な障壁を排除していくだけなのだと思います。ただし、そのダイナミズムを推し進めるのはとても重要なことですし、今後も向き合いたい。今日話した話はこの2、3年でどんな対談でも話していなかったので、かなりおもしろかったです。

山峰潤也

山峰潤也
キュレーター、NYAW代表取締役。東京都写真美術館、金沢21世紀美術館、水戸芸術館現代美術センターで、キュレーターとして勤務した後、六本木にあるANB Tokyoの企画運営に携わるほか、エイベックスが主催する「MEET YOUR ART FESTIVAL」等、メディアや企業によるアート事業の企画・監修を行う。主な展覧会に「The World Began without the Human Race and It Will End without It.」(国立台湾美術館)等。
Photography Ittetsu Matsuoka

施井泰平

施井泰平
現代美術家。スタートバーン、アートビート代表取締役。少年期をアメリカで過ごす。東京大学大学院情報学環・学際情報学府修了。2001年に多摩美術大学絵画科油画専攻卒業後、美術家として「インターネットの時代のアート」をテーマに制作、現在もギャラリーや美術館で展示を重ねる。2006年からスタートバーンを構想、その後日米で特許を取得。大学院在学中に起業し現在に至る。2020年にアートビート代表取締役就任。講演やトークイベントにも多数登壇。

スプツニ子!

スプツニ子!
アーティスト、東京藝術大学デザイン科准教授。ロンドン大学インペリアル・カレッジ数学部を卒業後、英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)で修士課程を修了。2013年からマサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ助教としてデザイン・フィクション研究室を主宰。RCA在学中から、テクノロジーによって変化する社会を考察・議論するデザイン作品を制作。2018年より東北新社フェロー。著書に『はみだす力』。共著に『ネットで進化する人類』(伊藤穣一監修)等。

author:

芦澤純

1981年生まれ。大学卒業後、編集プロダクションで出版社のカルチャーコンテンツやファッションカタログの制作に従事。数年の海外放浪の後、2011年にINFASパブリケーションズに入社。2015年に復刊したカルチャー誌「スタジオ・ボイス」ではマネジングエディターとしてVol.406「YOUTH OF TODAY」~Vol.410「VS」までを担当。その後、「WWDジャパン」「WWD JAPAN.com」のシニアエディターとして主にメンズコレクションを担当し、ロンドンをはじめ、ピッティやミラノ、パリなどの海外コレクションを取材した。2020年7月から「TOKION」エディトリアルディレクター。

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