連載「The View My Capture」Vol.8 写真家・富澤大輔が写し出す、いつもの日常、初めて見る日常

気鋭の若手写真家を取り上げて、「後ろ姿」という1つのテーマをもとに自身の作品を紹介する連載企画。後ろ姿というのは一見して哀愁や寂しさを感じられることが多いが、見る対象や状況によっては希望に満ちたポジティブな情景が感じられることもある。今回は「南方書局」という版元を立ち上げ、自身で写真集や書画、額縁までを手掛ける写真家・富澤大輔。父の形見のカメラから写真に没頭するようになった彼が切り取る、さまざまな日常とそこにある「後ろ姿」。

たちぎれ

思い返してみると僕が最初に手にした自分のカメラは父の形見だった。そのカメラで写真を撮り始めたのは中学2年生の頃だったと思う。それは地元の台湾を離れ、進学のために1人で渡日することを決めた年でもあった。

自分で決めたこととはいえ、家族や友人と過ごし、増えることのない父との思い出が残る街を去ることへの感傷的な気持ちは徐々に募っていった。そしてある日、「当たり前のように過ごしているこの日常は二度と訪れないよ」という母の一言にハッとなり、引き出しにしまってあった形見のカメラで、周りの見えるものを闇雲に撮り始めたのが写真に没頭したきっかけである。

当時写した被写体のほとんどは本当にどうでもいいモノばかりだったような気がするが、それでも僕にとってはどれもとても大切なモノであった。また、父がのぞいていたファインダーから「父の眼差し」を感じようとしていたのかもしれない。

そのプロセスがどのように今の自分に関係しているのかはわからないが、カメラを持っている時はつい、ふらふら歩いてしまう。何かを見ているような、何も見ていないような。そしてただただ呆然と佇む。それを何度も繰り返し、少し進んでは翻って、来た道をもう一度歩いてみたりするのだ。

不思議なことに来たはずの道を振り返って見てみると、全然知らない道に見えたりする。そんな時、「ないはずのものがあるかもしれない」と思えたりするのである。

「生まれ育った街や街の人々、家族を記録したい」という想い

−−写真を始めたきっかけは?

富澤大輔(以下、富澤):中学卒業を機に故郷の台湾を離れて、日本の高校に通うことを決めていました。そこから生まれ育った街や街の人々、家族を記録したいという想いが強まって、父の形見であったカメラを使って写真を撮り始めたのがきっかけです。14歳頃だと記憶しています。

−−シャッターを切りたくなる瞬間は?

富澤:その日持っているカメラによってそのシチュエーションは変わる気がしています。

−−オンとオフで愛用しているカメラは?

富澤:ローライ(Rollei)35s、ライツミノルタ(Leitz Minolta) CL、スーパーセミイコンタ(Super Semi Ikonta)、ニコン(Nikon)35Ti、ミノルタ(Minolta)HI-MATIC S、フジ(FUJI)GS645等、20台前後をオンオフ関係なく使い回しています。

−−インスピレーションの源は?

富澤:カメラとカメラの操作です。

−−今ハマっているものは?

富澤:朝鮮民画、篆刻です。

−−今後撮ってみたい作品は?

富澤:鳩が撮ったみたいな写真です。

−−目標や夢は?

富澤:長く作品を発表し続けることです。

富澤大輔
1993年生まれ。2003年に父の形見としてニコンFGを譲り受ける。2010年に日本へ渡り、母方の姓「富澤」を名乗る。2019年写真集『GALAPA』『Peer Gynt』刊行、2020年写真集『新乗宇宙』刊行、2021年新聞『時代』刊行開始。2022年写真集『字』を刊行。
Instagram:@tomizawa93

■富澤大輔 写真展『字』
会期:7月18日まで
会場:ON READING
住所:愛知県名古屋市千種区東山通5-19 カメダビル2A & 2B
時間:12:00〜18:00
休日:火曜
公式サイト:https://onreading.jp
新聞型ヴィジュアル紙『時代』

Photography & Text Daisuke Tomizawa
Edit Masaya Ishizuka(Mo-Green)

author:

mo-green

編集力・デザイン思考をベースに、さまざまなメディアのクリエイティブディレクションを通じて「世界中の伝えたいを伝える」クリエイティブカンパニー。 mo-green Instagram

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