連載「時の音」Vol.18 歌い手・Adoが歌い続けて変えていく時代

その時々だからこそ生まれ、同時に時代を超えて愛される価値観がある。本連載「時の音」では、そんな価値観を発信する人達に今までの活動を振り返りつつ、未来を見据えて話をしてもらう。

第18回は現代を代表するアーティスト、Ado。2020年に発表した「うっせぇわ」でメジャーデビューして以降、子どもから大人まで年齢や性別を超えて、多くの人が魅了されてきた。そして、映画『ONE PIECE FILM RED』の主題歌「新時代」は、各種サブスクで100冠を獲得するなどのメガヒットを記録。Apple Musicのグローバルチャートでは世界1位を獲得し、文字通り世界中から注目される存在となり、これまでに2度開催されたライヴも即完売する反響で大きな話題となった。

彼女の行動の1つ1つが日本を動かすほどの巨大なアクションとなった今、20歳のAdoは自らのことをどう捉え、何を思うのか。椎名林檎との新作「行方知れず」の話を交えながら、2020年代を変えていく歌い手、Adoはどのような存在なのかを探りたい。

Ado
2002年10月24日生まれの歌い手。メジャーデビュー「うっせぇわ」で社会現象を巻き起こし、日本の音楽シーンに新たな風を吹かせた。全世界をにぎわせる映画『ONE PIECE FILM RED』の主題歌「新時代」収録の『ウタの歌 ONE PIECE FILM RED』も大好評。10月には、椎名林檎とタッグを組んだ楽曲「行方知れず」(映画『カラダ探し』の主題歌)を配信リリース。12月2日から初ツアーとなる『Ado LIVE TOUR 2022-2023「蜃気楼」』が敢行される。
https://www.universal-music.co.jp/ado
Twitter:@ado1024imokenp
Instagram:@ado1024sweetpotet
YouTube:Ado

劇中の出来事と現実がリンクしたように感じたウタの「新時代」

――デビューからわずか2年で、Adoさんの名前は日本中に知れ渡りました。まずは、この2年間を振り返ってみていかがですか?

Ado:本当に濃密な2年間だったと思います。メジャーデビュー曲「うっせぇわ」でAdoのことを世間のみなさまに知って頂き、その後も映画やドラマの主題歌など、数多くの貴重な機会を頂きながら歌を歌い続けてきました。ライヴも2公演行いましたし、直近では映画『ONE PIECE FILM RED』でウタの歌唱役を担当させて頂いたことで、より多くの人にAdoの声を届けることができたのかなと思っています。そして、全国ツアーの発表から、「行方知れず」で椎名林檎さんとタッグを組んだことなど……本当に、語り尽くせないほど大きな出来事がありました。

――映画『ONE PIECE FILM RED』における主題歌「新時代」はApple Musicのグローバルチャートで世界1位を獲得する偉業を成し遂げました。この反響に対して、どんなことを感じましたか?

Ado:これほどの大きな反響を頂けたのは、やはり『ONE PIECE』という大きな作品に携われたからこそなんでしょうけれど、ウタの歌唱役のオファーを頂いた時はやはり不安な気持ちもありました。ウタのビジュアルとAdoの歌というギャップをみなさまに受け入れて頂けるのかどうか、しっかりと“歌姫ウタ”として表現できるだろうか、そういった心配がありました。

作中のウタは、新時代の歌姫として世界中で愛されるキャラクターでしたが、結果的に、現実においても、楽曲「新時代」は世界中のみなさまに愛して頂けて、さながらアニメの世界で描かれていたことが現実世界にもリンクしているように感じました。そこに私が携われたということがすごく嬉しいですし、この作品に携わったみなさまに心から感謝しております。

――一方で、4月4日にZepp DiverCityで初のワンマンライヴ「喜劇」、8月11日に2ndライヴさいたまスーパーアリーナで「カムパネルラ」と、ファンにとっては待望のライヴも行われました。この2回を経て、ライヴに対してどんな印象を持っていますか?

Ado:ライヴはすごく好きですね。これからも続けていきたいと強く思っています。2回の公演を通して、もっと素晴らしいパフォーマンスをして、より大きな衝撃をみなさまにお届けしたいと考えています。そのようにステージングに対しては、常に進化をし続けていきたいですし、最新のライヴがもっとも素晴らしいと言われるように努力し続けていきたいです。ツアーという意味では、一貫したテーマがあるので、どのような場所でもあっても、同じクオリティーをステージで発揮したいです。

Photography Viola Kam

椎名林檎との共作「行方知れず」

Ado 「行方知れず」

――冒頭に名前が挙がりましたが、椎名林檎さんとタッグを組んだ楽曲「行方知れず」を発表されました。椎名林檎さんとのレコーディングはいかがでしたか?

Ado:私がレコーディングをしたその場で歌を聴いて頂いて、それに対して椎名林檎さんのアドバイスを反映させる形で進めていきました。その中で、普段の歌い方とは異なる引き出しを椎名林檎さんが見つけてくださったんです。

――“普段とは異なる歌い方”というのは、どういう部分でしょうか?

Ado:イントロからAメロにかけての歌は無機質な印象になっているんですけれど、そのパートに対して椎名林檎さんから「ボカロの無機質な感じで歌って頂きたい」というアドバイスを頂きました。その言葉を聞いた時、私のことを深く理解してくださっているんだと感じました。私が歌を歌うきっかけであるボカロの部分を大事に考えて頂けたのではないかと、すごく嬉しく思いました。同時に意外性も感じましたし、そういった経緯を経て「行方知れず」はAdoと椎名林檎さんの楽曲なんだと改めて実感しています。

――楽曲「行方知れず」の制作に対して、椎名林檎さんはAdoさんの声に対して「『なんと理想的などら猫声なんだ』とおののきました」とコメントされています。“どら猫声”については、いかがでしょうか。

Ado:“どら猫声”というのが褒め言葉として嬉しく感じることがあるんだな、と驚きました。自分でも自分の声をどう説明したらいいのかわからないのですが、椎名林檎さんがそう評してくださって、私自身すごくしっくりきましたし、その言葉の選び方が、実に椎名林檎さんらしくて、心から嬉しく思いました。理想的などら猫声、という表現も非常にユーモアに富んでいてユニークですよね。

――本当にそうですね。どら猫声と聞いて、納得させられました。

必要なのは楽しみながら歌い続けること

――続いてAdoさん自身のルーツについても聞かせてください。イメージディレクターをORIHARAさんが一貫して担当されています。どんな流れがあって、ORIHARAさんがAdoさんのイメージを描き続けることになったのでしょうか?

Ado:もともとORIHARAさんは、私のファンアートを描いてくださっていた方なんです。すごく印象的なイラストを描いてくださったので、すぐに目を引きまして、YouTubeのアイコンなどに使わせて頂いていました。その後、Adoがメジャーデビューをするタイミングで、イメージビジュアルを制作することになりまして、今後も私のイメージを作ってくれる人が必要だという話になって、ORIHARAさんにお願いさせて頂きました。

――Adoさん的にも、ORIHARAさんが描くイメージは自分の印象に近いと感じる部分があるんですね。

Ado:そうですね。今もそうですが、私がこうでありたいと思う形を言葉がなくとも表現してくださるんです。Adoという人物を深く理解してくださって、頭の中にある理想を超えてくるイメージを描いて頂いています。しかも、年々そのクオリティーが上がっていて本当に素晴らしいと思います。

――12月からは「Ado LIVE TOUR 2022-2023『蜃気楼』」がスタートしますが、本ツアーについてとその先の目標について教えて頂けますか?

Ado:私の中での全国ツアー「蜃気楼」は、さいたまスーパーアリーナという大きな目標だったステージのその先の景色だと考えています。現実では幻想であったとしても、遠くに見えるものはなんなのか、ということを知っていくためのツアーであり、ライヴだと捉えています。その先にあるゴールは何かを考えると、やはり歌い手としてもっとも理想的な存在になりたいということだと思います。今までになかったような驚くほど衝撃的で素晴らしくてカッコいいところに行き着きたい、ということがテーマの1つとしてあります。

――そうなるために考えている具体的な目標はありますか?

Ado:現段階で1つ考えているのは、海外のファンのみなさまとももっと交流したいと思っています。日本以外の国でもAdoの歌を聴いて頂ける状況ができてきたので、求められるのであれば海外でもライヴしていきたいですし、コミュニケーションを取っていきたいです。それが目標の1つ。あとは、もっと大きなステージを目指していきたいです。あと数年の間で、これまでになかったような規模感でライヴができるようになりたいと考えています。

――では最後に、AdoさんがAdoであるために、歌を磨き続けるために、日々実践されていることはどんなことですか。Adoさんのようになりたいと願う小さな子どもから年下のファンに向けて、アドバイスがありましたら。

Ado:やはり歌い続けることでしょうか。それも楽しみながら。自分が好きなことを諦めないで、自分を信じて歌うことをやめなければ、きっと歌があなたの味方をしてくれると思います。

Text Ryo Tajima

author:

相沢修一

宮城県生まれ。ストリートカルチャー誌をメインに書籍やカタログなどの編集を経て、2018年にINFAS パブリケーションズに入社。入社後は『STUDIO VOICE』編集部を経て『TOKION』編集部に所属。

この記事を共有