日本の美を体験する場「ビエン;」がパリにオープン ヨーロッパでのJビューティの立役者・須山佳子の新たな挑戦

2022年11月に、パリで日本の美を体験するショールーム兼コンセプトストア「ビエン;(Biën;)」がオープンした。立ち上げたのは、TOKIONの連載「ヨーロッパのJビューティ通信」を監修する須山佳子と、パリを拠点にファッションデザイナー兼アートディレクターとして活動する星野貞治だ。

須山は日本の優れた美容プロダクトをイギリス等のヨーロッパへと広めた、Jビューティの立役者でもある。2010年頃からブランドの代理としてセールスやPR、ブランディングまでを幅広く担い、2016年に日本の美容とライフスタイルをテーマにした「ビジョ;(Bijo;)」をスタートさせた。ロンドンのパンテクニコンとパリのボン・マルシェで常設コーナーを設ける等、着実に成長を続け、その世界観をさらに拡張させたのが「ビエン;(Biën;)」だ。“生活に宿る美”という、日本独自の美的表現をプロダクトや空間、サービスを通して表現している。自然光が吹き抜けから差し込む清々しい店内で、Jビューティの体験ができる「ビエン;」のコンセプトや展望について聞いた。

須山佳子
東京都生まれ、パリ在住20年。INSTITUT FRANCAIS DE LA MODE でブランド経営学のMBAを取得。2010年に日本の市場からヨーロッパ市場への進出、ブランド戦略、セールス、コミュニケーション専門のコンサルティング会社「デッシーニュ」を立ち上げる。2016 年、Jビューティとライフスタイルブランドをキュレーションするコンセプトプロジェクト「ビジョ;」を主催。取引先はハロッズ、ボン・マルシェ、リッツ・パリ、セフォラ等、大手デパートからセレクトショップまで約20ヵ国、150店舗。2022年11月に日本の美を体験するショールーム兼コンセプトストア「ビエン;」をオープン。

外側だけではなく、インナービューティや所作、機能美といった日本の美の概念を包括

−−店名の「ビエン;」の由来とは?

須山佳子(以下、須山):欧文では「Biën;」と表記しています。Bi=美、ën=縁・円・苑という日本語から成り立っており「さまざまな美と出会い、美のご縁が生まれますように」という願いを込めました。ここでいう“美”とは外側だけの美容ではなく、インナービューティや所作、機能美といった日本の美の概念を包括しており、それらを訪れる方に体験してもらうことを目的としています。

−−実際に「ビエン;」ではどのような体験ができるのでしょうか?

須山:月曜日から水曜日はアポイントメント制を取っており、時間をかけた商品説明と美容製品を試していただけるようにしています。その際、日本から取り寄せた白川村産の美しい檜のカウンターでお客さまを迎え入れ、日本茶と和菓子を提供します。このように丁寧に対応する日本文化に根付いた接客というホスピタリティを、プロダクト以上に重視しています。また、多目的スペースの中2階では、セルフマッサージのセミナーや風呂敷の講座、専門家とともに行う漢方茶作り等、さまざまなワークショップを通して日本文化を体験してもらう場となっています。「ビエン;」はショールームとしての機能も果たすため、クライアントや企業の方々に足を運んでいただいた際も、この日本美を意識した空間の中でプロダクトの説明をすることで、より深く理解してもらえると考えているのです。

−−空間作りとインスタレーションにも大変こだわっているようですね。

須山:「ビエン;」共同創業者兼クリエイティブ・ディレクターの星野貞治が内装デザインを手掛け、商品棚やランプシェード、椅子といったすべてを日本の製品で飾っています。店内は陰陽をテーマに、左側にライフスタイルプロダクトや作家の作品を置く“陰”のスペース、右側は美容とウェルネスのプロダクトが並ぶ“陽”のスペースに分けています。洗練された日本の美を体現するもので空間を作ることにこだわりました。

−−取り扱う製品についても教えていただけますか?

須山:「ビエン;」のコンセプトは美・衣・食・住です。美はJビューティに特化しており、TOKIONの連載で取り上げた「レイ トウキョウ」や「Shikohin」といった、日本古来の知恵と最先端技術を融合させた製品を扱っています。素材や品質だけでなく、見た目の美しさも重要で、例えば月桃ハーブを使った「ルハク」は海外市場向けにパッケージデザインも一新させました。革新的な日本製の美顔器「ヤーマン」や「スリムセラ」といったツールが大変好評を得ています。

衣のカテゴリーでは、京都西陣織の「細尾」や有松絞りの「Suzusan」、今治タオルといった日本ならではの繊維を用いた衣服を揃えています。

“美食同源”をテーマにした食は、「ビジョ;」が独自開発したオーガニック日本茶ブレンドやコラーゲン美容ドリンクを提供します。インナービューティは昨今ヨーロッパで注目されているキーワードであり、「ビエン;」も美しく健康であるためには体の中に入れるものへのこだわりこそが重要だと信じています。

住のライフスタイルのスペースのテーマは、“用の美(beauty in use)”です。繊細で静か、たおやかな佇まい、精巧で卓越した美しさ、そして職人の手仕事により生み出された機能美を兼ね備えるプロダクトを厳選しています。開化堂の茶筒や16代続く朝日焼の茶器、竹職人の公長齋小菅の花籠など。ヨーロッパの生活に馴染むという点も重視し、例えば中川木工の伝統的な檜のワインクーラーは、和の趣きを感じるデザインでありながらフランスの食卓に欠かせないアイテムとして、人気商品の一つです。作家やアーティストの個展も定期的に開催し、プロダクトと人とのご縁が生まれる空間になっていくことを願っています。

日本の作家や職人、ブランド創業者や生産者の声を代弁

−−オープンから1ヶ月半が経過し(取材時時点)、どのような手応えを感じていますか?

須山:Jビューティや日本の製品に関心がある、パリ在住の方々が足を運んでくださっています。ボン・マルシェ百貨店の「ビジョ;」の常設コーナーは混雑していることも多いため、製品の説明を聞いたり試してみたい、カウンセリングを行ってほしいというお客さまが、「ビエン;」の落ち着いた空間に満足していただけているようです。また、「ビジョ;」では展開していなかった衣・食・住のプロダクトもお客さまの好奇心を掻き立て、新たな発見を提供できていることを大変嬉しく思っています。

−−「ビエン;」の世界観をどのように発展していきたいと考えていますか?

須山:直近では、美容のスペースにドイツ発ブランド「アオイロ」の製品を追加する予定です。アロマセラピー×ビスポークのパフュームを展開するすてきなブランドで、繊細で詩的な香りとデザインに心惹かれました。中2階のスペースで提供する短時間のマッサージが好評を得ており、今後はスパサービスへと発展させることを計画中です。場所については要検討ですが、来年には要望にお応えしたいと思っています。

日本の作家や職人、ブランド創業者や生産者の声を代弁し、ものづくりへの思いやこだわりを代弁する場として、「ビエン;」を育んでいきます。そして、日本のものづくりをする人たちにとって、「ビエン;」が希望の場所になることを目指しています。

author:

井上エリ

1989年大阪府出身、パリ在住ジャーナリスト。12歳の時に母親と行ったヨーロッパ旅行で海外生活に憧れを抱き、武庫川女子大学卒業後に渡米。ニューヨークでファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。ファッションに携わるほどにヨーロッパの服飾文化や歴史に強く惹かれ、2016年から拠点をパリに移す。現在は各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビューの他、ライフスタイルやカルチャー、政治に関する執筆を手掛ける。

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