連載「ヨーロッパのJビューティ通信」Vol.7 日本発「和流」を世界へと届ける投資家  Jビューティを通して日本の哲学を伝える

欧米の美容業界で注目を集める“Jビューティ”。伝統的に培われた美意識と、概念や習慣に由来する日本の美を象徴した美容法が、世界中の人々の日常の一部へと浸透し始めた。連載「ヨーロッパのJビューティ通信」は、欧米で知名度を上げるJビューティブランドを紹介し、日本古来の美容法を深く掘り下げていく。同連載の監修を行うのは、パリ在住20年以上で、日本の美容ブランドのヨーロッパ市場進出をコンサルティングする「デッシーニュ」の須山佳子代表。ヨーロッパのJビューティトレンドの立役者である彼女がオススメするブランドの魅力と、それぞれが捉える日本の美意識に迫る。

第7回は、日本の伝統的な“調和した生き方”をビューティで体現する「和流」。日本で生まれた同ブランドにほれ込んだ、投資家で輸入業を営むマルコ・ピアチェンティーニがヨーロッパを中心に世界へと届けている。製品からパッケージに至るまで100%日本製にこだわり、スキンケアを通してバランスの取れたライフスタイルを提供することを指針とする。ピアチェンティーニは、「Jビューティは健康や社会的表現、人間の尊厳に深く根差している」と語り、世代を超えて受け継がれる儀式的な美容法に魅せられたと語る。世界最大の化粧品見本市コスモプロフの日本パビリオンの運営者でもある彼に、Jビューティの魅力について存分に語ってもらった。

マルコ・ピアチェンティーニ

マルコ・ピアチェンティーニ
イタリア北部のクレマ出身。ミラノポリテクニック大学で化学技術者の修士号、ETHチューリッヒ大学で技術科学の博士号、SDAボッコーニ・ビジネススクールでMBAを取得。ETHチューリッヒ大学の研究員として環境触媒を研究し、その後、2007年にスキンケアやパーソナルケア製品の梱包を行う国際的な企業でチーフ・イノベーション・オフィサーとして従事。2011年から、ユーロフィン・サイエンティフィック・グループで、ユーロフィン・コスメティック&パーソナルケア・イタリアのナショナル・リーダー(CEO)として、マネージング・ディレクターを務める。

須山佳子

須山佳子
東京生まれ、パリ在住20年。アンスティチュ・フランセ モード(INSTITUT FRANCAIS DE LA MODE)にてブランド経営学のMBAを取得。2010年に日本からのヨーロッパ市場への進出、ブランド戦略、セールス、コミュニケーション専門のコンサルティング会社「デッシーニュ」を立ち上げる。2016 年、Jビューティとライフスタイルブランドをキュレーションするコンセプトプロジェクト「Bijo;」を主宰。取引先はハロッズ、ボンマルシェ、リッツ・パリ、セフォラなど大手デパートからセレクトショップまで約20ヵ国、150店舗。

日本の伝統的な“調和した生き方”という哲学

−−まずは、「和流」について教えてください。

マルコ・ピアチェンティーニ(以下、ピアチェンティーニ):「和流」の哲学は、日本の伝統的な“調和した生き方”を表していると言えます。バランス、愛、尊敬、生きることへ意識を向けた人々のコミュニティーであり、これらの価値観が日本の伝統的な文化の芯にあることを見出しました。肌は体の外側の部分であり、私達が世界と接触するための器官です。肌は感情を表し、感情を語り、健康を反映するもの。したがって、肌は私達の価値観や調和を表現するものと考えます。だからこそ「和流」は、その哲学と価値を伝えながらケアすべき対象として、肌を選びました。

−−「和流との出合いは

ピアチェンティーニ:「和流」は、2014年に横浜にある日本の会社の中で生まれました。2016年に日本政府のゲストとして初めて日本を訪れたときに「和流」を紹介され、世界へと広めたいと思ったのです。その第1の動機としては、製品を作っている人達の心でした。デジタル化、そしてAI化が進む中で、「和流」は人の手で、人のために作られています。

−−「和流」のベストセラーとシグネチャー商品は?

ピアチェンティーニ:ベストセラーは、ダブルクレンジングセットとアイクリームの2つ。ダブルクレンジングセットは、ディープクレンジングでありながら、敏感な肌を尊重した優しい仕上がりとなっています。初めて使用した時から、肌が明るく、トーンが均一になり、より引き締まった印象になることが実感できます。自社で製造する優れた製品を主要な成分にしていることから、この高い効能を発揮するのです。また、天然エッセンシャルオイルを使用していることによって、繊細な香りを作り出し、肌を洗いながら本物のアロマテラピーを体験できます。

アイクリームは、そのマットな質感、即効性と引き締め効果で、目の輪郭、肌のたるみ、くま、小じわを改善すると高く評価されています。その他の代表的な製品は、エミュリューション(アクア、モイスト、リッチの3種類)とセラム。これらの商品は、日本の伝統的な花嫁衣装である「白無垢」をモチーフにしたユニークなデザインのパッケージに包まれています。このパッケージは、2014年ペンタワーズの化粧品パッケージ部門で金賞を受賞し美術館で展示され、カタログにも掲載されているんですよ。

健康や社会的表現や人間の尊厳といった価値観に深く根差しているJビューティ

−−各国に独自の美容文化がある中で、なぜJビューティに魅了されたのでしょうか?

ピアチェンティーニ:個人的な意見として、多くの国に習慣がありますが、儀式を持つ国はごくわずかです。その中で日本は、儀式を方法、ライフスタイルとして最もよく体系化していると思うのです。儀式は堅実で一貫性があり、世代を超えて伝えることができ、継承、表現、輸出することができます。さらにJビューティは健康や社会的表現、人間の尊厳といった価値観に深く根差しています。1つひとつの工程が、繰り返しの中で細部まで完成され、丁寧であること。だからこそ、Jビューティは、単に“メイド・イン・ジャパン”ではなく、日本の文化や価値観が染み込んでいるのです。

−−Jビューティをどんな言葉で定義しますか?

ピアチェンティーニ:何世紀にも渡って日本で育まれた、日々のパーソナルケアに関する伝統や手法のことを意味します。これらの伝統や方法を西洋の美容と比較すると、その特徴は予防的かつホリスティックなアプローチにあります。なぜなら、日本の子ども達は肌の老化が心配される前に、幼い頃からスキンケアやパーソナルケアについて学んでいるからです。スキンケアは老化の兆候を消したり、美の基準を真似たりするのではなく、肌を良好な状態に保つための常識的な習慣と考えられているのです。ホリスティックとは、日本ではスキンケアがヘルスケアの一部であることを意味します。スキンケアは見栄を張る行為ではなく、身体全体の健康に良い影響を与える意識的なセルフケアなのです。

−−昨今Jビューティがこれほど人気になっている理由は何だと思いますか?

ピアチェンティーニ:2016年、世界最大の展示会「コスモプロフ・ボローニャ」でのグローバルフェアの際にパブリックスピーチで「Jビューティが強くなる一方で、Kビューティも始まる」と話したのですが、おそらくJビューティのコンセプトを初めて大勢の前で伝えたので、当時としてはかなり大胆な発言と思われたようです。会場には日本の代表団も来ており、これがきっかけで同年の7月に日本政府から招待され、日本を訪問することになりました。今も同じ思いでいます。その理由は、日本が世界で化粧品会社やメーカーの数が多い国だから。そして、優れた製品を作るためのポジティブな素質がたくさんあるということもそう。資生堂と花王は2大メーカーですが、化粧品やパーソナルケアの分野では、メイド・イン・ジャパンのブランドの一部に過ぎません。最後の理由は、日本が今でも神秘的であり、プレミアムな国として認識されています。中国はマスマーケット、韓国はマーケティングとユーモア、日本はプレミアムとラグジュアリー。もちろん、これらの考え方はステレオタイプですが、欧米ではごく一般的なこと。ですから、Jビューティに対してすぐに好奇心や関心が高まるのは理解できます。

−−「和流」のユーザーからの反響は?

ピアチェンティーニ:ミラノの旗艦店は、高い顧客定着率を誇っています。顧客が再来店するのは、自分の肌が変化していることを実感し、カスタマイズされたサポートを常に受けられることを知っているからです。私達は単に製品を売るだけでなく、体験も提供しています。1人ひとりに合わせたスキンカウンセリングのアフターサービスを継続的に提供し、フィードバックや提案に耳を傾けるよう心掛けています。旗艦店をオープンした時にヨーロッパで初めてJビューティの体験型センターを作りました。顧客からも好評で、このような体験ができることを評価していただいています。

−−最後に、今後のビジョンについて教えてください


ピアチェンティーニ: 現在、私達は最も重要なJビューティの輸入業者の1つと考えています。ボローニャで開催される世界最大の化粧品見本市「コスモプロフ」の日本パビリオンを企画し運営も行っています。私達の成功は、地域社会の生活の質を向上させるための社会貢献活動によって、地域社会に還元されることです。また、スキンケアの方法と自己啓発について教える「和流」アカデミーのような新しいサービスを立ち上げています。ジェンダー平等を推進するため、「和流」チャレンジカップというゴルフをはじめとするスポーツイベント、アーティストや職人を通じて、日本のライフスタイルを表現する文化イベントにも投資しています。私達は、未来の世代のために、健康と尊敬を創造することを目指します。

Direction Keiko Suyama

author:

井上エリ

1989年大阪府出身、パリ在住ジャーナリスト。12歳の時に母親と行ったヨーロッパ旅行で海外生活に憧れを抱き、武庫川女子大学卒業後に渡米。ニューヨークでファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。ファッションに携わるほどにヨーロッパの服飾文化や歴史に強く惹かれ、2016年から拠点をパリに移す。現在は各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビューの他、ライフスタイルやカルチャー、政治に関する執筆を手掛ける。

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