文筆家・絶対に終電を逃さない女が初の著書『シティガール未満』を語る 「1冊を通して1つの物語を描く」

絶対に終電を逃さない女
1995年生まれ。早稲田大学文学部卒業。大学時代よりライターとして活動し、現在はエッセイを中心にWebメディア、雑誌、映画パンフレットなどに寄稿している。本作『シティガール未満』が初の単著となる。
Twitter:@YPFiGtH
https://note.com/syudengirl/

文筆家・絶対に終電を逃さない女による初の単行本『シティガール未満』(柏書房)が1月に出版された。同著は「GINZA」のウェブで2019年3月15日から2022年8月22日まで掲載されたエッセイ連載をベースに加筆・修正し、さらに新たに書き下ろしを加えた一冊。絶対に終電を逃さない女の飾らない等身大の文章は、連載中からTwitterでは多くの共感を得ていた。今回、念願だった初単行本を出版した今の心境を、彼女の思い出の地、東京・中野で聞いた。

——念願の初書籍を出版して、今の率直な感想を教えてください。

絶対に終電を逃さない女(以下、終電):ちょうど昨日、新宿の紀伊國屋書店に行ってきたんですけど、そこに私のサイン色紙を飾ってもらっていて。サインと一緒に自分の本が置かれているのを見たら、嬉しいというか、不思議な気持ちになりました。本を出版してみて、こんなにも多くの人から反応をもらえるんだなと感じています。

——そうした反応で嬉しかったものってありましたか?

終電:全部嬉しいんですけど、DMでいただいた感想で「理想と現実に素直なところが終電さんの可愛らしいところだなと思いました」と書いてくれた方がいて。可愛らしいかどうかはさておき、確かに言われてみれば自分は理想と現実、それぞれに素直かもしれないなと思いました。

——1年半くらい前にお会いした時は、書籍化に向けて出版社を探しているなんて話もしていましたが。

終電:何社かに企画を持ち込んで、最終的に柏書房さんで出版することになりました。今回の単行本の編集を担当してくれた天野さんとは以前から知り合いだったのと、たまたま営業担当も以前から私のファンの方だったりして、結果的に柏書房さんから出せてすごく良かったです。

——今はようやく出版できたという気持ちですか?

終電:そうですね。でも本を出版した後よりも、出版を発表した時のほうがたくさんの方からお祝いのコメントをもらえて、その時のほうが実感は大きかったです。それまで自分が本を出せるという実感があまりなかったので、そうした他者の反応を通して、初めて実感が湧きました。

——単行本用の書き下ろし「TOGAの靴」もすごく好きなんですけど、そこに出てくる恩師には出版のことは伝えたんですか?

終電:伝えてないですし、特に伝えるつもりはないです。

——では、どこかでこの本を手に取って気付いてもらえればという感じですか?

終電:そうですね。でも気付いてもそっとしておいてほしいです(笑)。

憧れのKOさんからのメール

——もともと「GINZA」のウェブで連載するきっかけが、あのおしゃれエディターのKOさんからの依頼ということで。

終電:ちょうどKOさんから連載の依頼をいただいたのが2019年の1月で。打ち合わせをしたちょうど4年後にこの本を出版できました。

——KOさんは何を見て依頼されたんですか?

終電:以前から私のTwitterやnoteのエッセイを見てくださっていて、それでオファーしてくれたらしいです。最初はメールで依頼が来ました。

——でもKOさんからの依頼ってすごいですね。それこそKOさんってまさに「シティガール」っていうイメージですから。

終電:本当に一方的に見ているだけだと思っていた、憧れていた人からのオファーだったので、その依頼のメールを見た時のことは今でも鮮明に覚えています。近所のスーパーに買い物に行った時に、入り口でスマホを見たら、メールの通知がきていて、「GINZA」編集部の大平です、と書いてあって。驚きと嬉しさでめちゃくちゃ体温上がりました。

打ち合わせの時点では、KOさんからは「地名とか建物とか東京の固有名詞が出てくると東京っぽさを感じるので、東京の固有名詞が出てくるエッセイ連載をお願いしたい。東京の固有名詞が出てくれば自由に書いてもらっていい。結果的に共感する人達が出てくるはずだから」というオファーがあって。

それで帰ってから、そのKOさんとの打ち合わせの日について書けばおもしろいんじゃないかと思って、第1回はその話を書きました。

——連載タイトル「シティガール未満」はすぐ決まったんですか?

終電:最初は「POPEYE」に「シティボーイの憂鬱」という連載があるので、それをもじって「シティガールの憂鬱」がいいんじゃないかなと思ったんですけど、ちょうど「POPEYE」のシティガール特集(2019年1月号)で、水野しずさんが「シティガールの憂鬱」ってエッセイを寄稿していて。すでにあるんだと思って。それでKOさんから「シティガールと東京で」というのはどうかと、提案がありまして、何かシティガールになりきれないみたいなニュアンスが欲しいなと思ったので、「シティガール未満」というタイトルにしました。

——エッセイを書くにあたってはどのようなことを意識していたんですか?

終電:「GINZA」のトンマナはある程度意識しました。定期的にファッションの話を入れるとか、自宅のトイレが詰まって池袋でラバーカップを探し回った話は絶対面白いけどGINZAには合わないからnoteで書こうとか。あ、でも「池袋 ロサ会館のゲームセンター」を加筆修正している時、今思えばハローワークの面談をサボった話なんてよく普通に書かせてもらえたな……と思いました(笑)。

——連載が多くの人に共感された理由って何だと思いますか?

終電:うーん……正直わからないですが、自分が感じたことを不特定の誰かに伝えるために、ただひたすら丁寧に言葉にしていく、という感覚で書きました。言葉にしたいという欲と、不特定多数に伝えたいという欲が強いんだと思います。

——「シティガール未満」というタイトルですが、終電さんが考えるシティガールとはどんなイメージですか?

終電:この本にも書いているんですが、ファッション誌とかでスナップを撮られたり、「POPEYE」とか「GINZA」に載っているようなおしゃれな場所に当たり前のように行ったりできる人です。

——でも、「GINZA」のウェブで連載して、こうして本も出して、終電さんも今や立派なシティガールなんじゃないですか?

終電:今回、本を出してから「私から見たら終電さんも十分シティガールに思える」というようなことを何人かに言われたんですけど、「GINZA」の連載が書籍化されてもスナップには載れないしおしゃれスポットにもなかなか行けないので……。相変わらず多少の劣等感はありますけど、そもそもシティガールになれるかどうかは重要ではなくて、なんであれ自分なりにやっていこう、という感じです。

——2019年から連載を開始して、今読むとこの時は若かったとか感じる部分はありますか?

終電:ありますね。他人にどう思われるかをかなり意識するタイプなんですけど、昔ほど気にしなくなりましたね。

最初から書籍化を考えていた

——連載のペースは決まっていたんですか?

終電:最初は月1回くらいのペースでやっていたんですけど、コロナ以降は出かけることが減ったら、あまり書くことが思いつかなくて、なかなか書けなくなりました。

——場所はご自身で決めていたんですか?

終電:はい。

——場所が主に東京の西側なのは意図していたんですか?

終電:そこは何も考えていなくて。各回のサブタイトルが東京の特定の場所なんですけど、回を重ねていくうちに、場所が偏っているなと気づいて。でも私自身がそんなにいろんなところに行っているわけではないので、そりゃ偏りますよね。

——渋谷が多いなという印象でした。編集者としては、浅草とか清澄白河とかも提案したくなりますけど。

終電:浅草や北千住、あと学芸大学とかも書きたいとは思っていたんですけど、あまり行かないので、書くことがありませんでした。柏書房の企画会議でも「登場する場所にシティ感がなくて、“未満”ですよね」という声があったと聞いて、まぁそれはそれでいいのかなと。

——上京した人は共感するような場所というか、そうした人が東京を感じる場所という気がします。ちなみに書籍化はいつ頃から考えていたんですか?

終電:KOさんと相談していたわけではなく、自分で考えていただけなんですけど、連載をするからには絶対に書籍化したいと最初から考えていました。ウェブだと1回読んで終わりというものが多いと思うんですけど、書籍になった時のことをイメージして、繰り返し読みたいと思ってもらえる文章を書くように意識しました。

——具体的にはどのようなことを心掛けたのでしょうか?

終電:基本方針としては、更新頻度よりもクオリティを優先するとか。あとは、エッセイ集なのでもちろん一編ずつ完結した話ではあるけど、1冊通して1つの物語としても読めるような構成をイメージしながら連載を進めていきました。連載の最終回も最終回らしい内容にしたんですけど、書籍版では連載最終回の後に書き下ろしを収録していて、それは「おまけ」ではなく、映画版をもって真の完結を迎える連続ドラマのようなものだと思ってほしいです。

——「歌舞伎町のサブカルキャバ嬢」や「渋谷PARCOとオルガン坂」「渋谷スクランブル交差点」など、若い女性ならではの体験やルッキズムに晒される回がいくつかあります。

終電:自分が東京で普通に生活して体験した、思ったことを書いているので、おのずとその中にはそういったエピソードも出てきます。オルガン坂の通りすがりのエピソードはただ傷ついたし、打ち合げで絡んできた人にはただ嫌だなという気持ちでした。その行為に関しては一生許さないとは思っているけど、ただその個人を責めるというよりは、社会の問題だと思っています。

——書いたことで反響はありましたか?

終電:そうですね。連載で一番反響があったのがその「渋谷PARCOとオルガン坂」でした。そうしたルッキズムに関する回は共感の声も多かったです。

恥ずかしいと思わないことが才能

——もともと終電さんは何者になりたかったとかありましたか?

終電:小学生の頃は漫画家になりたかったんですけど、中学生くらいの頃からは文章を書く仕事がしたいとうっすらと思ってはいました。書き下ろしに書いた通り、いつか本を出せたら死んでもいいとは思ってましたけど、子供の頃から野心も自信もないので、特に何かをやりたいとか、何かになりたいとか、それほど強く思ったことはないです。対人関係で苦手なことも多く、できることが少なかったので、できることをやっていたら今のような文章を書く仕事をするようになりました。

——文章の仕事でもエッセイって自分の心情を書くじゃないですか。そこに抵抗はなかったんですね。

終電:noteに初めて文章を書いてアップする時に、大学の先輩に見てもらったんですけど、その時に「終電さんは恥ずかしいと思わないことが才能だ」と言われて。その人は「普通なら恥ずかしいと思うことも不特定多数にさらけ出せるのが才能だ。表現者にはそれ以外いらない」とまで言っていて。私も例えばYouTuberのようなことは恥ずかしくてできないですが、エッセイなどの文章を書いて発表することに関しては恥ずかしさを感じないので、才能なのかなと思っています。

——今更ながら「絶対に終電を逃さない女」の由来を教えていただけますか。

終電:それに関しては、「新宿の相席居酒屋とディスクユニオン」の回に書いているので、詳しくはそれを読んでいただければと(笑)。

でも、この歳になって改めて考えると、茶番の終電逃しもそれはそれで楽しそうだなと思えてきました。昔は茶番やってんじゃないよって尖った感じで見てましたけど。そういうところも、今見返すと若いなって感じる部分ではありますね。

——「相席居酒屋」の回って連載では入ってなかったとは思うのですが、単行本に入れた意図は?

終電:これはnoteで掲載したんですけど、その時に結構読んでもらえたのと、自分でも面白いと思っていて。東京の地名も出てくるので、ちょうどいいかなと。あと、よく聞かれるペンネームの由来も書いているので。

——「絶対に終電を逃さない女」の由来は絶対に聞きたくなりますよね(笑)。今後もペンネームは変えずに活動するんですか?

終電:改名はずっと考えてはいます。こんな変な名前じゃ舐められるんじゃないかとか、堅い仕事をするには向いてないんじゃないかとかも思っていて。でも、しっくりくる名前も思いつかず、そのままやっているという感じです。気に入ってはいますけどね。

——本にも登場した「東京でやりたいことリスト」はできていますか?

終電:正直言うとまだ浅草の寄席には行けてなくて。あと、「若松町の階上喫茶」の回に書いたサークルの先輩が言っていた、葛西臨海水族園でザ・スミスを聴きながら1人で回るとか。古民家カフェで向田邦子を読むとか。上野の老舗旅館に泊まって、ひたすら美術館や博物館を巡るっていうのもやりたいです。

——そういうのって、やろうと思えばすぐにできるけど、なかなかできないものですよね。

終電:そうですね。でも、本当はすぐにやったほうがいいですよね。「中目黒の美容室」にも書きましたけど、好きだったお店とか場所とか、いつなくなってもおかしくないので、行けるうちに行っとかないといけないなって思っています。

——最後に今後の目標って何か考えていますか?

終電:小説を書きたいと思っています。エッセイを書いていると小説との境界線って曖昧だなと思うことがあるんです。エッセイを書きながら、実際にはこうだったけど、もし違う選択をしていたら、こうなったんじゃないかって想像が働く時があって、その流れで小説が書けるんじゃないかって思えてきて。純文学だと自分の体験をもとに書く人も多いですし。

——もう書き始めているんですか?

終電:少しずつですが書いています。

——終電さんの小説、ぜひ読んでみたいです。

終電:ありがとうございます。

Photography Mikako Kozai(L MANAGEMENT)

■『シティガール未満』
価格:¥1,650
発売日:2023年1月27日
出版社:柏書房
ページ数:192ページ
【目次】
1 渋谷西村フルーツパーラー
2 新宿の相席居酒屋とディスクユニオン
3 池袋 ロサ会館のゲームセンター
4 早稲田のオリーブ少女
5 奥渋のサイゼリヤ
6 沼袋の純喫茶ザオー
7 歌舞伎町のサブカルキャバ嬢
8 東中野 誕生日の珈琲館
9 道玄坂 やまがたと麗卿
10 渋谷PARCOとオルガン坂
11 新宿伊勢丹の化粧品フロア
12 日暮里のドラッグストア
13 若松町の階上喫茶
14 渋谷スクランブル交差点
15 国立 白十字のスペシャルショートケーキ
16 四谷三丁目のモスバーガー
17 高円寺 純情商店街
18 上野 TOHOシネマズと古城
19 御茶ノ水 神田川の桜
20 東銀座の喫茶YOUと八王子
21 下北沢の居酒屋と古着屋
22 代々木八幡のマンション
23 中野 東京の故郷
24 中目黒の美容室
25 原宿 TOGAの靴

author:

高山敦

大阪府出身。同志社大学文学部社会学科卒業。映像制作会社を経て、編集者となる。2013年にINFASパブリケーションズに入社。2020年8月から「TOKION」編集部に所属。

この記事を共有