COMPUMAのソロ・アルバム『A View』 長年の活動で見出したサウンドの眺めとは?

ある時は手書きポップが注目される名物レコードバイヤー、ある時は独自のエレクトロニック・サウンドが存在感を放つバンドメンバー、ある時はダンスミュージックから演歌までプレイするDJ、ある時はさまざまなメディアに音楽を届けるミュージックセレクター。多才な顔を持つCOMPUMAが、昨年(2022年)6月、自身初となるソロ・アルバム『A Vew』を発表。さらに、そのアナログレコードと映像作品を収録したDVDが満を持してリリースされた。30年にわたる活動のなかでようやく見つけたサウンドの眺め――『A View』とは?

COMPUMA(コンピューマ)
松永耕一、1968年熊本県生まれ。ADS、スマーフ男組での活動を経て、DJとしては国内外のアーティストDJとの共演やサポートをしながら、日本全国の個性あふれるさまざまな場所で日々フレッシュでユニークなジャンルを横断したイマジナリーな音楽世界を探求している。自身のプロジェクト「SOMETHING ABOUT」よりMIX CDの新たな提案を試みたサウンドスケープ「SOMETHING IN THE AIR」シリーズをはじめ、コレクティブ「悪魔の沼」でのDJや楽曲制作、リミックスなど意欲的に活動。Berlin Atonal 2017、Meakusma Festival 2018への出演、ヨーロッパ・ラジオ局へのミックス提供など国外での活動の場も広げる。レコード、CDバイヤーとして培った経験から、コンピレーションCD 「Soup Stock Tokyoの音楽」の他、BGMの選曲、アート、ファッション、音と、音楽にまつわるさまざまな空間で幅広く活動。
https://compuma.blogspot.com
https://soundcloud.com/compuma

1つの舞台から派生した音の世界観

−−昨年リリースした『A View』はもともと、2021年の秋に上演された北九州の劇団「ブルーエゴナク」による演劇作品のために提供した楽曲が素材になっているそうですね?

COMPUMA:そうなんです。劇団の代表・穴迫信一さんから、「ブルーエゴナク」の演劇「眺め」への音楽制作の依頼を頂いたのがきっかけなんです。2020年の春、〈BLACK SMOKER RECORDS〉からリリースした『Innervisions』というミックスCDがありますが、それを穴迫さんが気に入ってくださって、そのイメージで音楽として参加してくれないか、と。『Innervisions』はBPM100で、さまざまな電子音のコラージュをわずかなビートとリズムだけでミックスしたような、少々実験的なエクスペリメンタルで、かなり抽象的なイメージだったんです。自分なりのダンスミュージック/フロアミュージックとの狭間へアプローチしたような内容だったので、“そういった世界観であれば、がんばればなんとか自分にもできるかもしれない”と思ってお受けしたんです。実際に台本ができあがってきたところで、改めて楽曲について相談したところ、実はシーンごとに音楽の展開が必要になるということで……いわゆる音楽的な展開や構成が必要となるリクエストだったんです(笑)。「……アレ!?」とかなり驚いてしまったんですが、“お受けしたからにはこれはもうやるしかない”と、ここ最近、スタジオ作業や録音などでお世話になっているhacchiさんの協力の下、トライしたという経緯があるんです。hacchiさんとは同世代で、1990年代半ば自分がADSというバンドで活動していた頃にはHi-Speedのメンバーとして〈UNKNOWNMIX〉のレーベルメイト、その後は、Deavid Soul、URBAN VOLCANO SOUNDSとして活動されています。

−−舞台「眺め」は、演劇においての「声」の可能性や影響力を検証するような実験的なアプローチを感じさせる作品とのことですが、具体的にはどのような楽曲が使われたのでしょうか?

COMPUMA:当初は、演者さんの声をサンプリングした素材で構築するミニマルな音楽をイメージしたりもしたんですが、穴迫さんいわく「演劇としてはそういうテーマだけれど、音としては声を使わなくてよい」とのことだったんです。手始めに、台本を基にシーンごとの音のイメージに繋がるキーワードを挙げてもらったんですけど、どういう風に舞台の心象風景が移り変わるのかを本当に事細かく言葉でいただいて、そのイメージを探りながら音を作って行きました。「BPM(楽曲の速さ)はすべて90でお願いします」と穴迫さんからリクエスト頂いたので、そのBPMを基準に、『Innervisions』の抽象的な電子音や心象風景を表すような音を盛り込んでいったんです。

COMPUMA「Innervisions」MV

舞台『眺め』は、2021年10月に北九州芸術劇場で4公演、その後、Theatre E9 Kyotoで4公演行われたんですが、コロナ禍、私の周りでこの公演を見ることができた人はおそらく数名だと思うんです。もちろん演劇として劇場で体験していただくことが理想ではありますが、“音楽として別で発表できたらいいな”という想いがあったので、穴迫さんに了承を得た上でカタチにすることにしたんです。

アルバムとして発表する上で、改めて音を微調整したり、作り直したり、いろいろと磨き直しました。当初は、「Bandcamp」のようにデータでもいいと思ったんですが、せっかくリリースするからにはやはりフィジカルなプロダクトとして発表したいという気持ちが芽生えて、そこから相談をして、今回も画家の五木田智央さん、デザイナーの鈴木聖さんにアートワークをお願いすることになったんです。

−−そんな素材を基にした『A View』では、アンビエント、ニューエイジ、エレクトロニック、ダブ、テクノがボーダーレスに融合されているようにも聴こえました。

COMPUMA:本当にそれはたまたまで、シーンごとのキーワードをイメージした音に変換して構築していったら、自分がそれまで親しんできたいろんな音楽の要素が自然に組み合わさっていったように感じています。特にアンビエントとか環境音楽、ニューエイジに特化したいというつもりは全くなくて、どちらかといえば、“そういうふうにはしたくないな”という気持ちのほうが強かったかもしれません。とはいえ、この作品を聞いた時にどんな印象を持たれるかはリスナーの皆さんの自由ですので、まずは聞いてもらえるだけでもありがたいですし、そこはホント自由に楽しんでいただけたら嬉しいです。

COMPUMA「A VIEW MOVIE(LIVE DUB)」Teaser MV #1

−−そもそも、「こういうものにしたい」というようなアルバムのイメージはあったんでしょうか?

COMPUMA:1曲仕上がっていくごとに、少しずつアルバムの世界観ができあがっていきました。7〜8割できてきたところでようやくおぼろげに着地点が見えてきましたが、それまでは試行錯誤しながら、シーンごとの音をひたすら構築していくような作業でした。あと、演劇の音楽を基にしているので劇中ではセリフが加わりますし、あまり音を足し過ぎないように意識したかもしれません。なるべく余白を残したというか、あえて音楽的に説明し過ぎないように、なるべく聴き疲れしないように最低限の演出ができればいいと思いながら作りました。

−−実際に制作はどうされたんですか?

COMPUMA:今回は、演劇のための音楽という自分にとって新たな音作りへの挑戦ということもあって、いろんな音を鳴らして試してみたのですが、自分の持っている機材だけでは思い描いているような音に対応できなかったんですね。あまり押し付け過ぎない音のイメージといいますか、よりニュートラルな音の世界観を作るためには自分の機材だけでは限界があったので、hacchiさんのスタジオで、パズルのようにピースを探してはイメージに合う音の組み合わせを1つひとつ作りながら、少しずつカタチにしていきました。

−−ダブ・ミックスである「View 2」を手掛けたのは、LITTLE TEMPOや、OKI DUB AINU BANDなどのメンバーでもあるサウンド・エンジニアの内田直之さんですが、今回、ダブを取り入れようと思った背景について教えてください。

COMPUMA:アルバムを完成させる最終的な段階に入った時に、作品としてもう1つ何か説得力を持たせたいと考えたんです。自分自身ずっとダブが好きで聴いてきたものの、これまで一度も着手したことがなかったんです。それでダブ・ミックスをお願いしたいと考えた時に、真っ先に内田さんが頭に浮かびました。お互いに面識はあったんですけどこういうカタチで仕事をオファーしたことがなくて、思いきって相談をしてみたんです。そうしたら、「やってみますよ」と快くお返事を頂いて、できあがったのがこのダブ・ミックスなんです。音源を頂いた時は最高過ぎて、“これで完成できた! 着地できた”と、ようやくアルバムとして完成したんだなと感じられたんです。

内田さんがエンジニアをされているFLYING RHYTHMSの存在も大きいんですけど、それ以前(2001年)にFLYING RHYTHMSのドラマー・久下恵生さんがリリースされたソロ・アルバムがめちゃくちゃ最高で、その録音、エフェクト効果も内田さんが手掛けていたんです。当時、久下さんのドラムだけのソロ・ライヴもあって、内田さんがダブ・ミックスをされていたんですが、今でも忘れられないくらい度肝を抜くかっこよさで凄まじかったんです。ライヴ後には、高円寺「LOS APSON?」のヤマベケイジさん達と、狂喜して盛り上がっていました。確か、その頃の2人のセッションが発展して、FLYING RHYTHMSが結成されていったような気がしています。そんな流れと内田さんの人柄だけでなく、LITTLE TEMPOからDRY & HEAVY、最近ではOKI DUB AINU BAND、GEZANまで、レゲエの枠に留まらないさまざまなミキシング・エンジニアとしての活躍を拝見していたこともあり、勇気を出してお声がけして、“やっと、お願いできた……!”という感じです(笑)。

『A view』とシンクロする映像体験

−−およそ30年にわたる音楽活動のなかでソロ・アルバムを発表したことは1つ大きなステップだったと思います。

COMPUMA:いろいろとありがたい限りです。そして、今作はソロ名義でありますが、hacchiさんの協力がなかったら実現できなかったことでもあります。自然な流れでこの作品をリリースできたこと、それがきっかけとなって昨年9月末に渋谷「WWW」でリリースイベントとライヴ・パフォーマンスが実現できたことは非常に大きいです。

−−今回、アナログレコードと同時に、「A View(眺め)」というテーマにふさわしいミュージック・ビデオ、映像作品もリリースされますね。

COMPUMA:そうなんです。『A View』のCDリリースからもうすぐ1年が経ちますが、ようやく自主レーベルの〈SOMETHING ABOUT〉からアナログレコードをリリースします。それと同時に、54分ほどの映像作品となるDVDもリリースするんです。昨年「WWW」でのライヴ・パフォーマンスでは、このアルバムを解体・再構築してミックス、さらにいくつかのシンセサイザーを交えて演奏したのですが、演奏と同時に内田直之さんにリアルタイムでダブ・ミックスをしていただいたんです。DVDではそのライヴ録音の音源に合わせて、アルバム収録曲「Vision (Flowmotion In Dub)」のミュージック・ビデオをお願いした映像作家の住吉清隆さんに長編の映像を制作していただいたんです。

住吉さんとは長年の交流があり、自分が彼の映像作品のファンなので、彼がNYにいた頃からこれまでにもいくつかミュージック・ビデオでお世話になっていました。いつか少し長めの映像作品が一緒に作れたらと願っていたので、このコラボレーションの実現はとても嬉しく思います。こういった経緯を経て、今回『A View』で目指した世界観、音とダブ・ミックス、映像とが三位一体となった映像作品「A VIEW MOVIE(LIVE DUB)」が完成しました。

COMPUMA「Vision (Flowmotion In Dub)」MV

−−水流、水面、水滴をはじめとする有機的なモチーフの中にCGを重ねた映像が印象的でした。どのように制作したのでしょうか?

COMPUMA:「Vision (Flowmotion In Dub)」のミュージック・ビデオを作る際に、音と一緒にいくつかのイメージを住吉さんに伝えました。何と言いますか、「何も起こらない感じにしてほしい」と……(笑)。これは言葉にしがたいところですが、例えば、寄せては返す波のような波紋の広がり、宇宙空間をただただ漂うような諸行無常、自然の摂理、そういう意味で“何も起こらない自然現象、真理”……? そういったニュアンスだけをお伝えして、あとは基本的に、住吉さんにおまかせしました。そして、この映像ができあがったんです。ハイスピードカメラを使って撮影されていて、スタジオでさまざまな実験をしながら映像素材を作られたそうです。

−−そもそも、映像にもこだわった理由は何ですか?

COMPUMA:個人的に映画やミュージックビデオが好きで、実験アニメーションや映像芸術、ヴィジュアル・ミュージックにもすごく興味があったんです。自分の作品でも、何かしらでそういった要素を取り入れたいという気持ちがあります。今回の映像作品は、もともと昨年のライヴ・パフォーマンスのために用意したもので、映像体験として元映画館である「WWW」の大きなスクリーンに映し出すために制作しました。そういった経緯があり、この作品は、例えばパソコンでも音楽と一緒にミュージック・ビデオを画面いっぱいに再生して見るとかなりの没入感があるので、自宅のようなプライベートな空間でもぜひこのトリップ感を体験していただけたらとフィジカルなリリースへたどり着きました。

−−リリースがきっかけで、少しずつ活動に広がりを感じています。今後の展開について考えていることはありますか?

COMPUMA:今年4月にはこだま和文さん & Undefinedさんとの共演がありました。音響・内田さん、映像・住吉さんと3人でセッションする『A View』のライヴ・パフォーマンスは、またぜひトライしたいです。願わくば、いすがあって座れたり、座れないにしてもゆったりとした空間・大きめのスクリーンがあったりするホール、屋外等でも実現できたらうれしいです。それと『A View』の続きにもなるような、新たな景色が広がる作品のリリースも目指していきたいです。

■「A VIEW MOVIES(LIVE DUB)」
DVD+ダウンロードコード
¥2,200

■『A View』
LP2枚組+ダウンロードコード
¥4,950
https://compuma.blogspot.com/

Photography Yasuhiro Ohara

author:

草深 早希

東京生まれ。編集者・ライター。2005年よりキャリアをスタートし、カルチャー誌『TOKION』、ライフスタイル誌『ecocolo』、ファッション誌『菊池亜希子ムック マッシュ』等の編集を経てフリーランス。現在は、月刊誌の編集から音楽や旅、食等カルチャーの執筆まで、ジャンルを問わず活動中。 Linktree   Instagram:@sakikusafu

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