連載「ぼくの東京」vol.9 「いつでも安心できる私のホーム」 モデル&ヴィーガン料理家のキャサリン・アーンショーが東京の魅力を語る

ぼく・わたしにとっての「東京」を紹介する本連載。第9回は、キャサリン・アーンショーが食文化を通して感じる東京の今。

キャサリン・アーンショ
日本で生まれ育ち、23歳で渡米。アメリカで環境問題や動物愛護に関心を抱くようになりヴィーガンに。2020年に日本へ戻り、2022年にはオールヴィーガンのシチリアンピザ屋「HOMECOMING VEGAN SICILIAN PIZZA」を三軒茶屋にオープン。現在はクローズし、アトリエとして活用。「HOMECOMING VEGAN BAKED GOODS」としてオールヴィーガンの焼き菓子を卸&WEB販売している。

ヴィーガンとの出会い、そして新たな挑戦

日本で生まれ育ち、23歳の時に渡米。ニューヨークに8年間、そしてフィラデルフィアで5年間を過ごしたキャサリン・アーンショー。2020年に日本へ戻り、日本初のヴィーガンのシチリアンピザ屋をオープンさせたことで話題となった。実はアメリカでは服飾デザイナーとして会社勤めをしていた彼女。もともと料理は好きだったらしいが、なぜ帰国後にヴィーガンフードの世界へ身を置くことにしたのか?

「ニューヨークに住んでいる時にヴィーガンという言葉を知りました。実際、ヴィーガンの友人もたくさんいて。私もちょうど動物愛護や環境問題に関心を持ち始めた頃だったので、感性とフィットするヴィーガンを始めてみたんです。もう10年前になります」。

ベジタリアンやヴィーガンの多いアメリカでは、食に関するカルチャーがとても発達している。当然、ヴィーガンの人も料理や食材の選択肢が多く、日常に負担がない。おいしい食事で、楽しみながらヴィーガンの暮らしを実践できる環境が整っているのだ。

「帰国前から年に1度は日本に来ていたんですが、いつも食の選択肢の少なさに困っていました。アメリカと比べるとずいぶん遅れているな、と。だったら、自分でこの世界を広めていこう。ニューヨークで得た知識を日本で発揮できたらおもしろい。そう思ってヴィーガンフードを始めるため、日本に帰国しました」。

15、6歳から1人暮らしを初めていたキャサリンは、当時から料理が好き。モデルとして活動する傍ら、趣味の料理やお菓子作りを続けていた。2020年にオープンしたピザ屋は現在クローズしたが、その場所をアトリエに改装し、今は「HOMECOMING VEGAN BAKED GOODS」としてオールヴィーガンの焼き菓子を作っている。

東京で出会った新しい友人に刺激をもらう日々

クッキーやブラウニー、パウンドケーキなど、さまざまな焼き菓子を提供する「HOMECOMING VEGAN BAKED GOODS」は、店舗を持たず、WEBストアと全国のショップの卸だけで販売。

「お菓子作りはもちろん、卸先へのデリバリーやパッケージングまで、すべて1人でやっています。最近は地方への卸も増えてきたので、発送作業も多いですね。とてもありがたいことだけど、休む暇がないほど忙しいです」。

オールヴィーガンにこだわるキャサリンにとって、日本では材料調達も至難の業。日本のスーパーでは動物性の材料を一切使用しないバターなどは手に入りにくいため、自身で作っているという。その時間も加算されるため、日々やることでいっぱいなのだ。

「友人のナタリーが神宮前で経営しているコーヒーショップ『HOTEL DRUGS』が、実は最初の私の焼き菓子の卸先です。最初はモデルの仕事で知り合ったのだけど、あっという間に意気投合しました。ピザ屋をオープンする時にも多くのアドバイスをくれ、サポートしてくれて、本当に頼りになりました」。

「1歳になる子どもの食事アレルギーや食の安心に関心を持ち始めた頃、キャサリンに出会いました。ヴィーガンという言葉は以前から知っていたけど、根底にある思想などは全然知らなくて……。キャサリンが新たな扉を開いてくれた! って思ってます」とナタリー。

ヴィーガンは健康にいい、環境にいい、動物に優しい。となるとやらない理由がない。とキャサリンは言う。そんな彼女は東京での移動は9割ほどが自転車。クルマが単に怖いという理由もあるが、何より自由で小回りが利いて環境にも優しい。そんなところが好きなのだという。

街と自然のバランス、食と心のバランス。東京に新しい風を吹き込む

「自分の時間を作るのが苦手で、1人だとすぐ仕事しちゃうんです。目の前にある作業はもちろんですが、新しいレシピを考えたくなったり、もっとお菓子の研究をしてみたくなったり…。だから、友達と公園で過ごす時間は貴重ですね」。

カフェに行くより公園でお茶をする方が好きだというキャサリンは、代々木公園、世田谷公園、新宿御苑など、お気に入りの場所に自転車で颯爽と現れる。心地よい風に吹かれ、音楽を聴きながら自宅からサイクリングしているのだ。

「自転車は渋滞とは無縁だし、何より頭がクリアになる。メンタル的にもすごくいいと思っています。実際、東京は自転車でどこでも行けちゃうサイズ感。街の広さや自然とのバランス、気候が以前住んでいたニューヨークとも似ています。何より魅力的なのはアメリカよりも断然安全なこと。夜も怖くないし、どこにいてもビクビクすることがない。ニューヨークにいる時はヘルメットを被って自転車に乗っていたんですよ。クルマも猛スピードで危険なので……。だからこそ東京にいると『私のホームだな』と、心からリラックスできます」。

未来をプランニングせず、その時々でベストなことに注力するのがキャサリンのスタイル。アメリカでヴィーガンベイキングのオンライン教室に1年通って基礎を学び、あとは独学で研究を進めてきた。“ヴィーガンのことをもっと広めたい。おいしさにも気付いてほしい”その気持ちに突き動かされて努力を続ける彼女の焼き菓子はどんどんとファンを増やし続けている。

「東京に帰ってきて正解でした。いろんないい出会いがあったし、新しい友達もできました。ナタリーに出会えたことも大きかったですね。思考が似ているから話が合うし、お互いにおいしいものを好きなのがいい。仕事のジャンルは違えど、彼女とはなんでも話ができます。昔からの友人も含め、東京にはたくさんのコミュニティがある。たとえ今後、違う国へ移住したとしても、やっぱりここは私のホームなんだと思います」。

■HOMECOMING VEGAN BAKED GOODS
Webショップ:https://veganbakery.base.shop
Instagram:@homecomingveganbakedgoods

■HOTEL DRUGS
住所:東京都渋谷区神宮前2-12-3
営業日:10:00〜18:00(月〜木)、10:00〜20:00(金、土)
Instagram:@hoteldrugs

Photography Otsuka Misuzu
Text Akemi Kan
Edit Kana Mizoguchi(Mo-Green)

author:

mo-green

編集力・デザイン思考をベースに、さまざまなメディアのクリエイティブディレクションを通じて「世界中の伝えたいを伝える」クリエイティブカンパニー。 mo-green Instagram

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