「WATOWA GALLERY / THE BOX TOKYO」で企画展「Artificial Realityー嘘をつくホンモノ」を開催 人間の多様な存在のあり方をアートにより可視化する

アートプロジェクト・コレクティブ WATOWA GALLERY は、8月6日まで東京・浅草にある「WATOWA GALLERY / THE BOX TOKYO」で企画展「Artificial Realityー嘘をつくホンモノ」を開催している。

展示名の「Artificial Reality(AR)」は、人工的に構成された現実感、いわゆる拡張現実を意味する。昨今、デジタルデバイスを通して、日々多くの情報を得る中で、一見本物のようでも実は人工的に作られた偽物であることも起こりえる。さらに昨今のChat GPTをはじめとした生成AIへの信頼性。そうした状況を踏まえて、同展では今日のポスト·インターネット社会におけるデジタル技術に関する「人間性」の問題に焦点を当て、現代における人間の多様な存在のあり方をアートにより可視化することを目的に企画された。展示にはテクノロジーとアートに親和性のある平瀬ミキ、yang02(やんツー)、SHINKA(羊喘兒)、Lin Yuhan(林煜涵)の4人の作家が参加し、作品展示を行っている。

WATOWA GALLERY代表の小松隆宏は開催にあたり、「展示作品を通じて、テクノロジーによって加速した社会における私達自身のアイデンティティや『人間』としての存在のあり方を考えるきっかけとして、また、既存の認識を超えた物事との付き合い方を見出し、これからを創る人々に、テクノロジーと人間の新たな関係性を築くヒントとなることを目指します」とコメントする。

平瀬ミキ

平瀬ミキの《三千年後の投射術》は鏡面加工された石にレーザー加工機を用いて文字やiPhoneで撮影した写真を彫刻加工し、加工を施した石の表面に光を当てることで、反射した光によって像を壁面に写し出す。

「現代ではデジタルデバイスを通して、高解像度の図像を見ることが日常的にできるようになった。ただ、近年の電力逼迫のニュースや資源不足の問題を目にする中で、生活から電力が失われた時代がいつか来ることがあるのではないかと考えた。そんな時代が来た時でも、私達が現代で目にしている図像や投影方法の名残を留め、再生する手段として、本作品では半永久的に残り続けるような記録媒体として石に着目し、光があれば投影することが可能な今回の手法に至った。これまで現存してきた石板などと同じように、数千年先の未来にも残りうる可能性を持つ記録媒体として機能するメディア装置としての作品」(平瀬ミキ)。

平瀬ミキ

平瀬ミキ
武蔵野美術大学美術学部彫刻学科卒業、情報科学芸術大学院大学[IAMAS]メディア表現専攻修了。主な展示に「第14回恵比寿映像祭」(2022年)、「差異の目」(2019年)、「エマージェンシーズ! 036《Translucent Objects》」(2018年)など。「第25回 文化庁メディア芸術祭」新人賞、「やまなしメディア芸術アワード」Y-GOLD(最優秀賞)受賞。デジタルデバイス上での情報を見る行為に素材の特性を組み合わせることで、情報の残存性や人の見ようとする力にアプローチする作品を制作する。
https://mikihirase.myportfolio.com

yang02(やんツー)

yang02はドローイングマシーンを使用した作品とそのドローイングマシンを展示。東洋の仏像画と西洋のテクノロジーの融合をコンセプトに、AIに仏像画が何枚も読み取らせ、そこから自動でドローイングされた作品が並ぶ。また、アーティストのNAZEとコラボした作品も展示されている。

「急成長し巨大化したIT企業や、それらの主体が加速的に推し進めた情報技術の発達は、知識欲や物欲、承認欲求など、現代人の様々な欲望を余すことなく吸い上げ、保存し、構築されたデータベースによって成し遂げられている。より高度な『知性』とされるシステムは、それらのデータを礎に組み上げられる。欲望の渦から洗練された知性は、リコメンド機能に代表されるように、多くのオンラインサービスの裏側で暗躍しており、人々は半ば思考停止状態で神に教えを請うように、巧みに編集され、提供される情報を教授している。それらのある種、私達にとって他者のようなシステムは、現段階において生身の人間のような意思を持つことなく、自ら欲(煩悩)を持たず、それは解脱した仏のような存在と思える。一方、現行のあらゆるテクノロジーは、合理主義的なデカルトの哲学をベースに、産業革命やモダニズムを経由して現状の状況に至っており、つまり極めて西洋的な思想で成立していると言える。本作では、西洋思想を基に、古今東西の『知』について非言語的に語り、『知』の本質を考察する」(yang02)。

yang02(やんツー)

yang02(やんツー)
1984年、神奈川県生まれ。美術家。セグウェイが作品鑑賞する空間や、機械学習システムを用いたドローイングマシンなど、今日的なテクノロジーを導入した既成の動的製品、あるいは既存の情報システムに介入し、それらを転用/誤用する形で組み合わせ作品を構築する。菅野創との共同作品が文化庁メディア芸術祭アート部門にて第15回で新人賞(2012)、同じく第21回で優秀賞(2018)を受賞。2013年、新進芸術家海外研修制度でバルセロナとベルリンに滞在。近年の主な展覧会に、「六本木クロッシング2022展:往来オーライ!」(森美術館、東京)、「遠い誰か、ことのありか」(SCARTS、札幌)など。和田ながら演出による演劇作品の舞台美術や、contact Gonzoとのパフォーマンス作品など、コラボレーションも多く手掛けている。
http://yang02.com
Instagram:@yang02

SHINKA(羊喘兒)

SHINKAはコンピューター画像認識技術を使用した作品を展示する。画像認識というのは客観的に識別していくが、そこに作家が独自にラベリングした人間特有の感性を数値で見せる。

「現在、日常のあらゆる場面で広く利用されている人工知能による自動画像認識システムは、実際には多くの人工または半人工の労働を通じて、大量の同類の画像を反復的に「ラベル」付けすることによって得られる結果である。その後、機械学習のトレーニングが行われる。この「ラベル付け」の過程では、流れる生命の場面が機械が読み取れるように分割された画像に変換される。このようにして、機械の眼は欺瞞的な能力を得て、構造を解体し、架空の世界に意味を与えることができる。
《眺望を飼いならす》(Taming the Vistas)はコンピューター画像認識技術に基づくアーティスティック・エクスペリメントである。アーティストはデータラベリングソフトウェアを使用して日常の風景に対して主観的な「感性のラベル」を付け、映像報告を生成することで、機械の「正義」という使命を揺さぶろうと試みている。このプロジェクトは、観客とともに、「機械の眼」が本当の真実を見抜くものなのか、あるいは単なる幻想に過ぎないのかを考える機会を提供することを目指している」(SHINKA)。

SHINKA(羊喘兒)

SHINKA(羊喘兒)
東京と上海を拠点とした活動しているメディア・アーティスト。2018年多摩美術⼤学⼤学院情報デザインメディアアート専攻修了、2022年同校美術研究科博⼠後期課程修了、博⼠号取得。様々なデジタル・メソッドを使い、消費主義の分脈における、現実である巨⼤な⼈造物は、どのように計算、⽣成、配置されるのかをテーマに創作活動を⾏い、リアリティの虚構性を捕捉する。作品は、3331千代⽥アートセンター、YCC横浜創造センター、東京科学未来館、鳳甲美術館(台湾)、原美術館(重慶)、成都時代美術館、上海当代芸術博物館などにて展⽰された。⼤京都Re: Researchアーティスト・イン・レジデンシープロジェクト(2020、2021)、ATAMI ART GRANT 2023に参加
https://yaaaaaawn.com/
Instagram:@yaaaaawn_

林煜涵 Lin Yuhan

林煜涵の《850nm》は普通のデジタル一眼レフを改造し、すべての可視光線を除いた防犯カメラの特定の波長(850nm)の赤外線だけ撮影できるカメラを用いた作品で、人間のものではない視点、人間的な視点以外の機械的な視線に注目する。

「防犯カメラの自動撮影機能と同じように人感センサーを設置し、人が通り過ぎると自動撮影するように設定した。防犯カメラの下にカメラを隠し、その間はカメラを動かさず、操作もしないようにした。最終的にメモリーカードが埋まるまで撮影し、300〜400枚ほどの写真が撮れ、その写真を重ねて作品作りを行った。自分も写真を撮るたびに防犯カメラの範囲に入り、すべての写真に自分の目線を残した。機械の目線のループから抜け出し、視聴者に見ること、見られることについて考えさせる意図である。シャッターを押すのは人間ではなく、すべてカメラ自体によって、その撮影が果たされるもので、防犯カメラに対する防犯カメラとも言える。賑やかな夜の道で、すべての可視光線を取り除くと、群衆が亡霊のように歩いているように見える」(林煜涵)。

林煜涵 Lin Yuhan

林煜涵 Lin Yuhan
1996年中国福建省生まれ、2018年清華大学美術学部卒業、2022年東京芸術大学先端芸術表現科卒業。その後アーティス トとして活動を始める。「主に写真メディアによって作品を作っている。画像生成のロジック自体が「写真の本質」であると信じ、特にリアリティ、見ること、写真であることの本質性について、興味を抱いている。視覚情報を用いて、いかに大衆の関心を一定の方向に向かわせるかということが、私の制作の大きな動機となった」
https://www.linyuhan.work/850nm/
Instagram:@ linyh14

AIを巡るアーティストトーク

また、WATOWA GALLERY代表の小松と4人の作家による座談会も行われた。各自に作品紹介とともに、AIとアートについて語られた。「AIは読み込ませるデータによってアウトプットも変わってくるので、万能ではない。それがすべて正しいと思い込むことは危険。どううまく付き合っていくか」「グローバルなAIではなく、日本に特化したAIなどローカルなAIもおもしろそう」「これからは人間性が大事」などこれからの指針となるようなことが語られた。座談会の様子はWATOWA GALLERYのInstagramで見ることができる。

WATOWA GALLERYは、現代日本のストリートカルチャーやファッション、独創的・先進的なテクノロジーや「ジャパニーズ・フィロソフィー」を取り入れた新しい感性を持つ若手の作家を中心として、アート・コミュニケーションの場を提供するアートプロジェクト/ プロデュース集団。2022年9月に初の本拠地となる「WATOWA GALLERY / THE BOX TOKYO」を浅草・今戶にオープンした。

Photography Yohei Kichiraku

■「Artificial Reality ー 嘘をつくホンモノ」
会期:2023年7月22日~8月6日
会場:WATOWA GALLERY / THE BOX TOKYO
住所:東京都台東区今戸1-2-10 3F
時間:12:00-19:00 
休日:木曜
入場料 : ドネーション¥500~
※8月2日は無料
※事前予約制
https://artsticker.app/events/11686
※⾃⾝で⾦額を決定するドネーションシステム。ミニマム¥500から⼊場料を⾃⾝で決定し、それが若⼿アーティスト⽀援のためのドネーションとなるシステム。アーティスト⽀援と国内アートシーンの活性化を⽬的としたアートアワード WATOWA ART AWARD 2023 EXHIBITION に寄付される。
http://www.watowa.jp/news/2023/07/ArtificialReality.html
https://watowagallery.com
Instagram: @watowagallery

author:

高山敦

大阪府出身。同志社大学文学部社会学科卒業。映像制作会社を経て、編集者となる。2013年にINFASパブリケーションズに入社。2020年8月から「TOKION」編集部に所属。

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