連載「Books that feel Japanese -日本らしさを感じる本」Vol.11 ブックディレクター・佐和田成美が選ぶ「四季折々の美しさと “描き文字” からみる日本らしさ」を感じる2冊

国内外さまざまあるジャンルの本から垣間見ることができる日本らしさとは何か? その“らしさ”を感じる1冊を、インディペンデント書店のディレクターに選んでもらい、あらゆる観点から紐解いていく本連載。

今回は、2015年より学芸大学の住宅地にて営業している、タイポグラフィを中心としたグラフィックデザイン、写真集等のアートブックを扱う書店「BOOK AND SONS」の佐和田成美にインタヴュー。

学生を中心に、デザインの学びを深めてもらうことに喜びを感じるという店主の思いから、“立ち読み推奨” を掲げる、なんともユニークなこの書店。そんな「BOOK AND SONS」でブックディレクターとして選書を担当する佐和田が、四季のたゆたい・うつろいに見る日本らしさや、ブックデザイナー・平野甲賀が生み出し続けた “描き文字” に重ねる日本らしさを紹介する。

『鶴子』

日本の四季を味わえる、ぜいたくな1冊

−−まずは、選ばれた『鶴子』について、教えてください。

佐和田成美(以下、佐和田):こちらは、京都在住の茶事懐石料理人・半澤鶴子さんが持つ「自然に対するまなざし」を、同じく清水寺を10年以上にわたり撮影している写真家・須藤和也さんが撮影した写真集です。ただ、一口に「写真集」とは言えないんですよね。水をテーマにしたエッセイ(鶴子さんによるもの)が掲載されていたり、彼女がつくるお料理のレシピが少し載っていたり。1年間を通して、鶴子さんが見つめてきた自然の魅力を撮影し続け、それを本としてまとめた1冊です。

−−この本の魅力はどんなところにあるのでしょうか?

佐和田:日本の食文化はきっと、自然に対する敬意とともに発展してきたものだと思います。そのリスペクトの心が、等身大に描かれている。それこそが、この本の魅力だと考えています。例えば、情報がぎゅうぎゅうに詰め込まれておらず、“余白” のページがそれぞれ見開きの1ページに設けられていたり。これもきっと、日本建築によく見られる “余白” を意識されてのことだと思っています。鶴子さんが言うには、「茶事に関する情報やレシピ等は、先人達による口伝でしか残っていない」と。それを何かの形として残したい、という思いがあったのだそうです。

−−特に、どんな人に読んでもらいたいですか?

佐和田:どんな方が読んでも、きっと、静かに楽しんでいただけると思います。春、夏、秋、冬と、四季の移ろいを1冊にまとめているという点も、大きな魅力だと思っていて。自然と共存していく生活、その日本特有のあり方が、この1冊に詰まっている。1人で山にいる時のような、静かで落ち着いた気持ちになれるんです。少々ベタではありますが、日々の暮らしにちょっと疲れてしまった人等には、きっと喜んでいただけるような気がします。人間って、本来、こうあるべきなんじゃないかな? と感じられるような。そんな本ですね。

『平野甲賀と』

ある親子の、ある1日

−−次は、『平野甲賀と』について、教えてください。

佐和田:こちらは、装丁家・グラフィックデザイナーの平野甲賀さんによる、描き文字“画文集”の決定版です。彼が82歳になった日、息子である写真家・平野太呂さんが、娘さんを連れて、甲賀さんの1日を撮影したものですね。甲賀さんは2021年に亡くなられてしまったのですが、その1年前、2020年に発刊されたものです。彼はたくさんの “描き文字” を残してきたのですが、その中から厳選したものを、こちらの本に収録しています。また、甲賀さんと親交の深い方々によるエッセイ等も収録した1冊ですね。

−−この本の魅力は、どんなところでしょうか?

佐和田:きっと本がお好きな方ならば、一度は、甲賀さんによる“描き文字”を目にしたことがあると思うんです。本屋へ行けば、必ず書棚の中に、甲賀さんの文字を見つけ出すことができるような。彼の名前を知らなくても、文字だけで認識できると思っています。そんな“描き文字”を多数収録していて、かなり読み応えがある1冊だと感じます。また、彼が描く文字には、どこか日本的な民藝のようなエッセンスを感じるんです。ちょっと無骨で、すごく大胆で、伸びやかで、それでいて繊細かつ緻密にデザインされている。その魅力を感じられる本だなと思います。

−−表紙の下部に、「BOOK AND SONS」と。

佐和田:甲賀さんの奥様である平野公子さんが編集を担当、写真は平野太呂さん。また、若いデザイナーの2人と協力して、BOOK AND SONSから出版しました。その際の合言葉として、“絵本のように”という言葉があって。読み応えはあるけれど、読みやすいものとして、多くの方に読んでいただきたくって。そんな願いも込められた、とても大切な1冊ですね。

Photography Masashi Ura
Text Nozomu Miura
Edit Dai Watarai(Mo-Green)

author:

mo-green

編集力・デザイン思考をベースに、さまざまなメディアのクリエイティブディレクションを通じて「世界中の伝えたいを伝える」クリエイティブカンパニー。 mo-green Instagram

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