池松壮亮
1990年7月9日生まれ、福岡県出身。『ラストサムライ』(2003)で映画デビュー。2014年に出演した『紙の月』、『愛の渦』、『ぼくたちの家族』、『海を感じる時』で、第38回日本アカデミー賞新人俳優賞、第57回ブルーリボン賞助演男優賞を受賞。2017年に『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』などで第9回TAMA映画賞最優秀男優賞、第39回ヨコハマ映画祭主演男優賞を受賞。2018年に『斬、』で第33回高崎映画祭最優秀男優賞を受賞。2019年に『宮本から君へ』で第93回キネマ旬報ベスト・テン主演男優賞、第32回日刊スポーツ映画大賞主演男優賞、第41回ヨコハマ映画祭主演男優賞などを受賞した。近年の主な映画出演作に『アジアの天使』(2021)、『ちょっと思い出しただけ』(2022)、『シン・仮面ライダー』(2023)、『せかいのおきく』(2023)などがある。待機作として『愛にイナズマ』が2023年10月27日に公開を控えている。
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森田剛
1979年2月20日生まれ、埼玉県出身。1995年、V6のメンバーとして「MUSIC FOR THE PEOPLE 」でCDデビュー。2005年、劇団☆新感線の『荒神~Arajinn~』で舞台初主演を務め、『IZO』(208)や『ブエノスアイレス午前零時』(2014)、『すべての四月のために』(2017)、 『空ばかり見ていた』(2019)、 『FORTUNE』(2020) 、『みんな我が子』(2021)などに出演。主な映画出演作に『ヒメアノ~ル』(2016)、『前科者』(2022)、『DEATH DAYS』(2022)などがある。2023年10月より主演舞台『ロスメルスホルム』の公開が控えている。
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ジャズ・ピアニスト、南博の自伝『白鍵と黒鍵の間に-ジャズピアニスト・エレジー銀座編-』が映画化され、10月6日から全国公開される。同作は1980年代の銀座を舞台に、ジャズ・ミュージシャンを目指す青年の姿を、鬼才・冨永昌敬監督が大胆な手法で描き出した。主人公「博」と「南」の2人を演じるのは池松壮亮。半年間に渡ってピアノの練習を積んで初のピアニスト役に挑戦した。そして、「博」に絡む男、「あいつ」を演じたのは森田剛。謎めいたキャラクターをリアルに演じて異彩を放っている。今回、初共演となった2人に話を聞いた。
※記事内には映画のストーリーに関する重大な記述が含まれます。
——今回、池松さんが演じた「博」と「南」は、1人の人物の過去と現在というユニークな演出でした。「博」と「南」を演じるうえで何か意識したことはありました?
池松壮亮(以下、池松):銀座にやってきてジャズ・ピアニストを目指す若者、「博」。それから3年経って、銀座の夜の世界に染まった「南」。その両者のキャラクターを2人の人物として演じ分けることによって、2つの時間を一夜に共存させています。非常に映画的な表現だと思いました。ミステリックに物語が進みながら、だんだんとその真相が見えていきます。博と南の抜け出したいけど抜け出せない人生のいっときを、それぞれ、時にユニークに、時にエレガントに、切実に演じたいと思っていました。
——どういう風に役に違いを出すかは冨永監督と相談しながら?
池松:そうですね。歩き方からさまざまなことをその都度相談しながらチューニングしていきました。
——一方、森田さんが演じた「あいつ」は正体不明のキャラクターですね。刑務所から出所したばかりの音楽好きのヤクザで、やたらに「博」に絡んでくる。
森田剛(以下、森田):寂しいやつなんですよね。「博」がピアノを演奏している姿を見て、すごく満たされた気持ちになって声をかけてしまう。
——その姿がどこか切なくもあって。
森田:監督から、周りの人々には「あいつ」のことは見えていない。透明人間みたいな存在なんだって言われたことをすごく覚えています。「あいつ」の空っぽの感じが出ればいいな、と思って演じていましたね。
お互いの印象
——今回お2人の共演は初めてだそうですが、共演シーンで印象に残っていることがあれば教えて下さい
森田:池松くんがピアノを弾く姿がすごく印象的でした。池松くん、ずっと弾いているなあっていう印象ですね(笑)。撮影以外の時もずっと触っていたりして。
——池松さんはピアニストという役柄なのでピアノの練習も大変だったのでは?
池松:そうですね。苦労しましたが、ピアノを触っている時間がそのまま役に近づくための時間になってくれました。ピアノの技術的なことだけでなく、ピアノの前の佇まいや風情も大事でした。今回、音楽監修をしてくださったジャズ・ピアニストの魚返明未さんがアレンジしてくれた「ゴッドファーザー 愛のテーマ」を一曲フルで弾けるようになる、というのが目標でした。
——これまでピアノを弾いたことはあったのでしょうか?
池松:中学3年の時に合唱コンクールで、クラスでピアノを弾ける人が足りなくて。何故か猛特訓して「大地讃頌」を弾きました。姉と妹がピアノを習っていて、実家にもピアノはありました。
——大役ですね!
池松:大役です(笑)。ピアノに触るのはそれ以来でした。でも楽しかったです。いくつになっても何か新しい挑戦をするというのは良いことだなと思います。目の前に映画という目標があることで挑戦することができます。ピアノっていいなって改めて思いました。
——じゃあ、レッスンも苦じゃなかった?
池松:いやあ、伸び悩みました。当たり前ですが、ゴールがとても難解な曲なので、半年間で弾けるようになるにはちょっと無謀でしたけど、ほんとに少しずつ上達していきました。同じく音楽監修で入ってくださった鈴木結花先生が付きっきりで指導してくれました。
——ピアノを弾く演技では、原作者の南博さんを意識されたのでしょうか。
池松:南さんとは映画の撮影途中に初めてお会いしました。それまで僕は写真でしか拝見していませんでした。その写真や原作から受けるイメージは頭にありました。その他自分が好きなビル・エヴァンスやセロニアス・モンク、坂本龍一さんや、今回ピアノを教わった魚返さんや鈴木先生など、それぞれからの影響が入っていると思います。ちなみに当時の南さんもビル・エヴァンスに憧れていたそうです。冨永さんも大好きでした。劇中の南の髪型はビル・エヴァンスを真似しています。
——なるほど。池松さんは森田さんとの共演シーンで印象に残ったことはありました?
池松:いっぱいあります。この映画の裏面っていうのかな。そのムードを、森田さんが作ってくれたと思っています。この話はご本人は嫌がるかもしれませんが、森田さんは現場でいっさいご飯を食べず、カフェインも全部抜いてこの役に臨んでいました。そのことは現場では誰も気付いておらず、今も知らないと思います。僕は現場中、森田さんのマネージャーからこっそり聞いたんですけど。というのも昔僕のマネージャーをやっていた人が今森田さんとエージェント契約をしていまして。すごいな、と思いました。そういうアプローチをしながら、この役のピュアな切実さとこの映画のユーモラスな部分を絶妙なバランスで突いてくる森田さんのセンスはほんとに素晴らしかったです。なにかうちに秘められた、決してひけらかさない、すさまじいパワーを感じました。
——ご飯やカフェインを抜いたというのはどうしてだったんですか?
森田:(ちょっと照れながら)え〜っと。
池松:チクってすいません(笑)。今自分がどれくらい頑張ったか、経過をひけらかす俳優しかいませんからね(笑)。そういう森田さんの美意識がとても好きです。
——池松さんは森田さんの芝居から刺激を受けていたんですね。森田さんからご覧になって、池松さんの役者としての魅力はどんなところだと思われましたか?
森田:僕はけっこう、池松くんの作品を観ているんですよ。「池松壮亮」っていう名前があると観たくなるというか。すごく自由で観ていてドキドキするというか、何をするかわかんない感じがありますね。だから、つい追ってしまう。
——共演されてみていかがでした?
森田:安心感がありましたね。僕より年下なんですけど、受け止めてくれる感じがすごくしました。「博」と二人三脚で走るシーンがあるんですけど、撮影前にセリフの組み替えとかいろいろあって、僕はいっぱいいっぱいだったんです。でも、池松くんは超クールにこなしていて、すごいな、と思いました。
——二人三脚のシーンでは、「あいつ」のズボンが脱げるタイミングが絶妙でした(笑)。
森田:あれは難しかったですね(笑)。
人生になくてはならないもの
——でも、2人の間に不思議な絆が生まれる良いシーンでしたよね。「博」と「あいつ」を繋いだのはジャズでしたが、お2人はジャズは聴かれますか?
池松:父親が生粋のジャズ・マニアで、母親も好きで、寝る時とテレビ見ている時以外、リビングからジャズが流れてない時間がないような家だったんです。僕は知識はあまりないんですが、ビル・エヴァンスやチャーリー・パーカー、マイルス・デイヴィスとか、そのあたりの有名な人の音楽は知らないうちに身体に入っています。今も聴いていて一番落ち着く音楽はジャズで、家の中や移動中など、よく聴いてます。
——では、この映画をお父さんがご覧になったら喜ばれるのでは?
池松:とても喜ぶと思います。はやく観たいと楽しみにしてくれています。もともといつか音楽映画をやりたいと思っていましたが、念願かなって、しかもそれが自分の好きなジャズで。冨永さんに心から感謝です。とても幸せでした。
——森田さんはジャズは?
森田:僕はまったく聴いてなかったですね。でも、撮影を通じて冨永監督の「ジャズが好き」という想いをすごく感じたので、それには応えたいな、と思いました。
——この映画を通じてジャズについては、どう思われました?
森田:演奏している人の人生が出るというか。かっこいい音楽だなって思いました。
池松:「あいつ」って実はこの映画において誰よりも切実に音楽を求めているんです。音楽の力というものを誰よりも知っていると言えます。そのことがとても重要なところだと思います。森田さんが「あいつ」に命を吹きかかけてくれたことで、博と南を演じる上で大きな助けとなりました。
——「南」や「あいつ」にとっての音楽のような、人生になくてはならないものがお2人にはありますか?
森田:何だろうな。僕は犬かもしれませんね。
池松:飼われているんですか?
森田:はい、飼っています。犬は喋らないところがいいのかもしれないですね。
——池松さんは何かあります?
池松:僕は映画ですかね。それ以外、今のところ何もありません。
——だから役者の道を選んだ?
池松:というわけではなかったんです全く。むしろ最初は嫌々でした。当時はまだ映画といえばゴジラとガメラしか観たことなかったですから。でも、気がつけば、誰に頼まれてるわけでもなく自らの情熱を捧げられるものになりました。映画が自分にとってのライフワークのようになっていました。
——では、完成した映画をご覧になって、どんな感想を持たれました?
池松:完成にとても満足しています。どんな見方をしてもらっても構いません。単に音楽映画としても存分に楽しんでもらえるものに仕上がっています。ミステリーなさまざまな仕掛けがなされてあって、例えば登場人物の中で「あいつ」だけが時空を超越しています。時系列に反して、イメージのような、メタファー的要素を孕んでいて、あの頃の銀座で、こんな人が博の側にも南の側にもいたであろうという象徴のような人物になっています。そのように奇妙なそれぞれの仕掛けを紐解いていくと、この世界はまるで、すべてがラストの主人公がピアノを弾き出す前の空想、イマジンのようにもとれます。
——銀座も異空間っぽいというか、ファンタジックな世界になっていました。
池松:昭和の銀座を舞台にしながら、当時を忠実に再現するというよりも、イマジンとファンタジーな要素が入ったネオ銀座的世界になっています。その全てが冨永さんらしい冨永映画ならではの仕掛けになっています。ぜひこのうっとりするような艶っぽい世界を、極上の音楽と共に映画館で存分に浴びてもらえたら幸せです。
——森田さんはいかがですか?
森田:さっきちょっと話しましたけど、僕からは見えているけど相手からはこっちが見えてないって、ありえないじゃないですか(笑)。
池松:もはや天使枠ですよね(笑)。
森田:観る人が映画のどこを切り取って、何を感じとるのかは自由。だから、演じている僕ももっと自由にやっていいんだなって思いました。あと、「あいつ」という役は音楽が救いでしたけど、何か自分の中で大切なものがひとつあったら生きていけるし、逆転もできる。そういう力強さを映画から感じましたね。
池松:この映画の重要な点のひとつは、博と南の人生には音楽があったということだと思います。人生はままならないけれど、音楽があること、ピアノがあることを悟るまでの物語ともいえます。白鍵と黒鍵の間を、人生の隙間を、変わりゆく時代の隙間を、世界の静寂や沈黙を、ピアノの音で埋めること。「博」と「南」にとっての音楽は、誰かにとっては映画かもしれません。この映画が、誰かの人生のほんの隙間を埋められるような、そんな作品であることを願っています。
Photography Mayumi Hosokura
Styling Tomotsugu Yoshimoto(Go Morita)
Hair & Makeup Ayumi Naito(Sosuke Ikematsu)、TAKAI(Go Morita)
■『白鍵と黒鍵の間に』(ハッケンとコッケンのあいだに)
10月6日からテアトル新宿ほか全国公開
出演:池松壮亮
仲里依紗 森田剛
クリスタル・ケイ 松丸契 川瀬陽太
杉山ひこひこ 中山来未 福津健創 日高ボブ美
佐野史郎 洞口依子 松尾貴史 / 高橋和也
原作:南博『白鍵と黒鍵の間に』(小学館文庫刊)
監督:冨永昌敬
脚本:冨永昌敬、高橋知由
音楽:魚返明未
制作プロダクション:東京テアトル/スタイルジャム
配給:東京テアトル
製作:「白鍵と黒鍵の間に」製作委員会
2023年/日本/94分/カラー/シネスコ/5.1ch
Ⓒ2023 南博/小学館/「白鍵と黒鍵の間に」製作委員会
https://hakkentokokken.com