対談:唐田えりか × 芋生悠 親友同士だからこそ伝わるセリフを超えたリアルな想い 映画『朝がくるとむなしくなる』で初共演

唐田えりか
1997年9月19日生まれ、千葉県出身。2015 年にドラマ『恋仲』(フジテレビ系) でデビューし、『こえ恋』(2016/テレビ東京系)、『トドメの接吻』(2018/日本テレビ系)、『凪のお暇』(2019/TBS系)などのテレビドラマに出演ほか、韓国 Netflixドラマ『アスダル年代記』(2019)にも出演。映画では、ヒロインを演じた『寝ても覚めても』(2018/濱口竜介監督)が第71 回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門の参加作品に選ばれた。2022 年には主演映画『の方へ、流れる』(竹馬靖具監督)、2023 年にはヒロインとして出演した映画『死体の人』(草苅勲監督)が 公開となった。2024年にはNetflixシリーズ『極悪女王』の配信が控えている。
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芋生悠(いもう・はるか)
1997 年 12 月 18 日生まれ、熊本県出身。2015 年デビュー。 主演映画『ソワレ』(2020/外山文治監督)で注目され、映画やドラマ、舞台、 CM と幅広く活躍。映画『37 セカンズ』(2020/HIKARI 監督)、『ひらいて』(2021/首藤凛監督)、『左様なら』(2019/石橋夕帆監督)などに出演。
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もともと友人として仲の良い唐田えりかと芋生悠が、『左様なら』の石橋夕帆監督作『朝がくるとむなしくなる』で初共演を果たした。中学のクラスメイトだった希(唐田)と加奈子(芋生)が東京で再会し、お互いにかけがえのない存在になっていく様子を、リアルな会話と温かい眼差しで描き出す。「芋ちゃん」「唐ちゃん」と呼び合う2人へのインタビューから、お互いへの信頼が現場での親密なコラボレーションに繋がっていることが浮かび上がった。

出会って8年、初めての共演

——お2人が仲良くなったきっかけから教えていただけますか?

唐田えりか(以下、唐田):18歳の頃、高校の同級生でカメラマンを目指している子が、「東京でかわいい子を撮った」って芋ちゃんの写真を見せてくれたんです。それで「かわいい!」となって。

芋生悠(以下、芋生):(照れ笑い)。

唐田:当時、公式のInstagramをやっていたんですけど、直接の知り合いしかフォローしていなかったんです。でも、芋ちゃんのアカウントだけは自分からフォローしたら、芋ちゃんがメッセージをくれて。すぐに「会おう」となって、意気投合しました。芸能界に入って初めてできたお友達で、もう8年くらいの付き合いになります。

芋生:当時の唐ちゃんはフィルム写真を撮っていたので、遊びで一緒に写真を撮ったり、ご飯を食べたり、お風呂に入ったりしているうちに、すぐに“マブ”になりました(笑)。

唐田:本当にめっちゃ会ってました。現場で一緒になっていない(同業者の)人と、こんなにも短い期間で仲良くなれたことはないかもしれないです。

芋生:仕事の話とか全くしないよね。いい意味でただの友達だから、なんでもないことを、いっぱい喋る。

唐田:うん、地元の友達感がある。

——『朝がくるとむなしくなる』で初めて共演することになって、どう思いましたか?

唐田:脚本を先に読んでいたので、加奈子役が芋ちゃんになったと聞いて、ありがたいというか、シンプルに嬉しかったです。

芋生:今回、役として再会しますけど、実際に数年ぶりの再会だったんです。夢に出てくるぐらい唐ちゃんのことを「元気かな」「幸せに暮らしてるかな」ってずっと考えていたから、「やっと会える!」という気持ちでした。

唐田:私が休業している間、1年間ぐらい携帯(電話)を持たない生活をしていたので、連絡先を知っていた方との関係も全部リセット状態でした。誰とも連絡を取らず、事務所の寮から外に出ない生活をしていました。

——それは芋生さんも気になりますね。

芋生:気になりました。だからふとした時にハッとなって、「唐ちゃん、元気かな」って。

唐田:嬉しい……!

——現場でいうと、今作は唐田さんにとって休業が明けてから何本目の作品ですか?

唐田:4本目です。仕事を再開するとなった時に、ないと不便だということで、連絡用にまた携帯を持ち始めました。でも、事務所の人と家族しか繋がっていない期間が結構長かったんです。

——今、お2人は繋がっていますか?

芋生:(嬉しそうに)はい!

唐田:無事に繋がりました(笑)。

『朝がくるとむなしくなる』での役作りについて

——石橋夕帆監督はこの作品を、唐田さんの主演ありきで作り始めたそうですが、どのようにコラボレーションを進めていったのでしょうか?

唐田:まず事務所でお会いして、「何が好きですか?」「普段何してますか?」といったパーソナルな部分について、軽い感じで会話をしました。そして、希役にあて書きしていただいて、脚本をいただいたという流れです。

芋生:私は夕帆さんと『左様なら』でご一緒してから、ずっとお友達みたいな感じで、ご飯にも普通に行ったりしていて。私がいつも唐ちゃんの話をしていたので、夕帆さんも唐ちゃんが気になっていったのかなと思いました。

——芋生さんから見て、希役に唐田さんを「あて書きしているな」と感じる部分はありますか?

芋生:(唐田と顔を見合わせながら)どうだろうね? 今まで唐ちゃんが演じた役の中では、一番本人に近い気がするけど。

唐田:希が見せるバカっぽいところが、一番自分っぽい気がします(笑)。

芋生:酔っ払って、路上でマイケル・ジャクソンみたいな動き(ムーンウォーク)をするところとか(笑)。ああいう人間味が出る瞬間に、唐ちゃんを感じます。

唐田:希の淡々とした感じももちろん自分の一面ではあるんですけど、芋ちゃんのように気心知れた人の前では、素の陽キャな部分が出てきます。

——加奈子は芋生さんに重なりますか?

芋生:希と会話する時の感じは、すごく似ているかもしれないです。私も加奈子も、聞き役になることが多いので。

唐田:いつも私が延々と喋っています(笑)。

——役を演じるにあたり、意識したことをお聞きしたいです。

唐田:私と芋ちゃんをキャスティングしていただいた時点で、この関係性に委ねてもらっているなと感じました。だからこの空気感の中で、本当にリアルな会話ができたらいいなと。ただ、仲がいいからこそ、希と加奈子が再会してからしばらくは、この仲の良さや自分が出過ぎないようにということはちょっと意識しました。

芋生:夕帆さんの脚本は会話がすごくリアルなので、言葉がなじみやすいんです。なおかつ私達の仲の良さを知った上で書いてくださっているので、現場では何のストレスもなく、ラフに会話をするだけでした。

——あの即興感のある会話が台本通りなのですか?

芋生:(唐田に向けて)アドリブはそんなになかったよね? 一緒に飲んでいるシーンでバンドマンの話をするところや、枝豆が飛び出て笑うところは、アドリブから出てきたものが使われていたと思います。

唐田:そういうシーンは長回しをしてたかも。バンドマンのところは、当日に追加でセリフをもらった気がします。監督から「バンドマンについて、このセリフを言ってほしい。そこにたどり着くまでの会話は自由で」って言われました。

芝居を超えた2人の関係

——加奈子の部屋で会話するシーンが感動的でした。カットを割って、それぞれの寄りのショットで、涙を捉える。そこまで引きのツーショットが多かったので、お2人にとっても集中力が必要な場面だったのではないでしょうか。

芋生:あそこはだいぶテイクを重ねました。唐ちゃんはテイクのたびに涙を流していて、すごい集中力でした。そのお芝居を受けるとどうしても泣いてしまって。夕帆さんから「泣かないようにやってほしい」と言われて何テイクもやって、でも泣いちゃって……。

唐田:うん。

芋生:何度もやって、最終的にやっと泣かずにあのセリフが言えてOKになりました。「正しくなんて生きられないよ」って。

——あのセリフ、素晴らしかったです。唐田さんはどう受け止めましたか?

唐田:女優としてだけでなく、芋生悠という人間としてのすごさがあの言葉を通してバーン! と突き刺さり、感極まってしまいました。あそこは脚本では泣くようなシーンではなかったんです。

——そうだったんですか!

唐田:会話の一部として流れていくはずだったんですけど、私も感極まってしまって。現場判断で、あの流れでもラストに繋がるだろうということで、OKとなりました。あの時間は、今でもすごく覚えています。

——加奈子が「大丈夫だよ」言いながら、希を抱きしめます。あの時の加奈子は、希だけでなく自分も励ましているように感じました。加奈子の人生について、この映画は多くを説明しませんが、いろいろあったんだろうな……と。

芋生:人に与える言葉によって自分も抱きしめられるというか、加奈子にとっても一歩進んだ瞬間でした。あのシーン、本当に好きで。(唐田の方を向いて)なんか、ね。あの時間が良かったよね。

唐田:うん。撮り終わってからも泣けた。「ありがとう〜」って。

芋生:今回夕帆さんが脚本に起こしてくれたことによって、自分自身の気持ちもお芝居に込めることができました。あの日の撮影が終わった瞬間に、なんだかお風呂上がりみたいな気持ちになりました(笑)。

唐田:(笑)。日々、周りの方々に支えられて今があります。お仕事ができなかった時期は、みんなが声をかけづらい状況にいたと思うんです。自分がこの仕事をやっていいのか、続けてもいいのかと悩みましたし、やっぱり人が怖い時期でもありました。自分的には、言葉をかけていただかなくても、近くに存在してくれるだけでありがたいというのが前提にあります。いろいろな不安がある中で、今回この作品があって、セリフを書いていただいて、芋ちゃんがセリフを超えてきてくれました。「大丈夫だよ」という、すごく短くて熱い言葉を言ってもらって、自分自身もすごく救われました。

——監督が「唐田さん自身が救われるような映画が作れたら」と製作の動機についておっしゃっていました。直接言われていましたか?

唐田:撮影が終わってから言っていただきました。このお話に自分が重なる瞬間がありましたし、今でも自分の中に残っている感覚があります。石橋監督と芋ちゃんに、優しく背中を押していただけているなと、芝居をしながら感じていました。

——芋生さんは、監督からこの映画における役割みたいなものを伝えられましたか?

芋生:言葉はなかったですが、夕帆さんとはすでに信頼関係があったので、夕帆さんの思いやしたいことなど、自然に伝わってくるものがありました。現場では、希と加奈子がお互いを支え合うような時間になればいいなと思っていました。

——唐田さんは、石橋監督と初めてのお仕事でしたが、いかがでしたか?

唐田:初めてなのに、ホームみたいでした。すごく好きな人達ともの作りができている感覚があって、とても楽しい現場でした。キャスト同士の相性をすごく考えてくれて、常にお芝居がしやすい環境作りをしてくださる方なんだろうなって思いました。

芋生:夕帆さんは役者さんが大好きで、“役者オタク”みたい人なんです。物語の登場人物を生み出して、そのバックボーンが夕帆さんの中でどんどん広がっていくんです。「この人ってこういう癖あるよね」みたいに、その人物が本当に存在しているんじゃないか、というレベルで会話ができるんですよ。だから夕帆さんの映画で役を演じると、その映画が自分の記憶や思い出の一部になるんです。思い返してすごく切なくなったり、楽しくなったり。現場での夕帆さんは、昔はマスコットキャラクターみたいな人だったんですけど、今回は職人みたいでした(笑)。

唐田:そうなんだー(笑)。

芋生:私と夕帆さんはご一緒するのが久々だったので、成長している姿を見せたかったというのもあって。お互いにちょっと気合いを入れて挑んだ感があったと思います。

メンタルを保つために

——希のアルバイト仲間の、自己肯定感の高いギャルの、メンタルが最強で最高でした。お2人には、メンタルが弱った時に強化する方法や、悩み事を解決する方法はありますか?

芋生:目標を決めるとそれが縛りになってきつくなる瞬間があるんですけど、「自由」を目標にするとなんでもありになるんです。自由って無敵だなって思います(笑)。

——どういう経緯でそこにたどり着いたんですか?

芋生:体が自由じゃないな、乗りこなせていないな、という状態だったんです。こういう感情なのに、体がそういうふうに動かない自分がものすごくもどかしくて。もっと体を自由に動かしたくて、去年からバレエを習い始めたら、「自由って最強じゃない?」みたいな。

一同:(笑)。

芋生:それがうまくいかなくても、自由を求めてるんだからいいじゃん、みたいな。自由を目標にしてやることはどれも、自分を縛らないし苦しめないから最強です。

唐田:どんな悩みも本当はすごくシンプルだと思うんです。落ち込んだ時や悔しい時は、ノートに思いついたことをポンポンポンって書いていきます。それぞれについて、なんでだろうなんでだろうと考えて繋げていくと、「これだ!」というシンプルなものが浮かび上がるんです。それに対してどう対処すればいいかを考える作業というのをわりとしています。

——自分がつまずきがちな思考のクセ、みたいなものはありますか?

唐田:人対人の悩みだと、わりと自分で勝手に「あの人はこう思っているのかな」という想像がどんどん膨らんでいって、「絶対にそうだ」と思い込んでしまうところがあります。コミュニケーション不足が原因なので、まずその人と話して自分の余分な想像を消すようにしていますし、友人、家族、事務所に対して、ちゃんとコミュニケーションを取ることは意識しています。あと、私もトレーニングやキックボクシングで体を動かします。悩んでいると視野が狭まってしまうので、人に会ってバーっと話して違う視点を入れて、一歩引いて自分のことを考えたりもしています。

——『朝がくるとむなしくなる』は、自分にとってどんな作品になりましたか?

唐田:自分は映画作りが好きなんだなと、改めて思えた現場でした。これからも頑張り続けようと、背中を押してもらいました。

芋生:普通に好きな映画ランキングに入ってきました。自分が出ている映画をこんなふうに言うのはあれかもしれないですけど、めっちゃ好きです(笑)。

——この映画をどんな人に見てほしいですか?

唐田:いろんな方に見ていただきたいです。恐れ多いですけど、映画を通して誰かの力になれたらいいなと思うので。私もそうだったんですけど、日常の中で気付かなくなっていたこと、気付かないようにしていること、見ないようにしていること、見ているのに知らないふりをしていることなどが、見えてくる作品だと思います。すごく近いところにある大事なものや、忘れちゃ駄目なことに気づかされる映画でもあります。見終わって映画館から出た時に、優しい気持ちになれる作品だと思うので、ぜひ映画館で見てほしいなと思います。

芋生:大人になると、それぞれの人生や忙しい日常があるので、相手との距離感が大事がゆえに、自分の弱みをさらけ出せなくなっていくと思うんです。そんな中、お互いに自分の話ができて、お互いを支え合えるような友達が1人でもいるというのはすごくいいことだなと、この作品を見て思える気がしていて。だから自分の弱みを自分だけで抱え込まないで、近くにいる人にちょっと言ってみたら、もしかしたら変わるかもしれない。その人も何かいろいろあって、その人のことも聞けるかもしれない。何かが動き始めるきっかけになる作品なんじゃないかなと思います。

Photography Takahiro Ostuji
Styling  Mei Komiyama
Hair & Makeup Omagari Izumi

(唐田えりか)ブラウス/Eimee Low (chelsea)、ワンピース/AS KNOW AS PINKY
(芋生悠)ニット、ビスチェ/ともにEimee Low (chelsea)、パンツ/CHIGNON(chelsea)

『朝がくるとむなしくなる』

■『朝がくるとむなしくなる』
12月1日から渋谷シネクイントほか全国順次公開
出演:唐田えりか
芋生悠 石橋和磨
安倍乙 中山雄斗 石本径代
森田ガンツ 太志 佐々木伶 小野塚渉悟 宮崎太一 矢柴俊博
監督・脚本:石橋夕帆
製作:Ippo
配給:イーチタイム
2022 年/日本/カラー/76 分/アメリカンビスタ/5.1ch
https://www.asamuna.com

author:

須永貴子

ライター。映画、ドラマ、お笑いなどエンタメジャンルをメインに、インタビューや作品レビューを執筆。『キネマ旬報』の星取表レビューで修行中。仕事以外で好きなものは食、酒、旅、犬。Twitter: @sunagatakako

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