ROADSIDER’S=路傍の編集人、都築響一が手掛けるリアルアートの巣窟「大道芸術館」

都築響一
1956年、東京都生まれ。作家、編集者、写真家。1989年から91年にかけて美術選集『アート・ランダム』にて『アウトサイダー・アート』と『アウトサイダー・アートⅡ』を出版し、欧米のアウトサイダー・アートの動向をいち早く日本に紹介。現在に至るまで、独自の視点で世界各国のアウトサイドに属するアート、ファッション、民俗など幅広く紹介し続けている。これまでに昭和のラブホテル、世界の地獄アートなど、長年追い続けてきた数々の出版書籍は、年代、人種を超え多くのコアなファンを持つ。現在は大道芸術館のキュレーションを行う他、自身が発信するWEBメディア「ROADSIDER’s weekly」を配信中。
https://roadsiders.com
X(旧Twitter):@kyoichi_tsuzuki

東京・墨田区向島。かつて江戸城から隅田川を越えた東の地域は、“向こうの島”と呼ばれ、下町のさらに下町、江戸のサバーブ庶民が暮らす地域だった。そこには地元に愛される料亭があり、花街、置屋、赤線地帯が存在する場所として知られていた。

その向島に、ミュージアム「大道芸術館」はある。元料亭だった建物を、ミュージアムとバーに創り上げ、数々の路傍アートをキュレーションするのは、作家、編集人としてROADSIDER’sを提唱する都築響一。大衆、昭和、エロを軸に、この先、世に残すべき文化を紹介する芸術館には、今の世を生きる人々の奥深い部分に宿る純粋なツボを、ポチッと押してくれる気持ちよさがある。

昨年にオープンをして以来、日本国内はもちろん、世界各国から噂を聞きつけた一筋縄ではいかない人々が足を運ぶ「大道芸術館」とは、一体どのような館なのか。さあさあ、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい……館長の都築響一に話を聞いた。

秘宝館と変わったアート

——2022年に「大道芸術館」がオープンして約1年が経ちましたが、メディアでの紹介はほとんどなく、口コミで広まっていった印象があります。

都築響一(以下、都築):海外のメディアでは紹介されたけど、日本のメディアではあまりないかもしれないです。やっぱりエッチな部分に注目されることが多いから、媒体を選んでいるうちに取材してくれるところがなくなっちゃったんですよ(笑)。街紹介で普通にペロっとやってもらっても仕方ないし、それよりもここに来たいと思う人に来てもらって、SNSで発信してもらったほうが、僕としては気持ちいいかなって。あとはたくさんの人に来てもらっても対応できないというか、周りは住宅街だから人が並ぶことは絶対に避けたかったし、静かにやりたかったんです。だけど静かすぎる時もあるんですけどね(笑)。

——「大道芸術館」を始めるにあたり、誰からどのようなアイデアが出たのですか?

都築:「ケンエレファント」という、ガチャガチャやソフビを作っている会社の社長が、僕が昔からやっていることを気に入ってくれていて、最初は秘宝館のガチャガチャを作りたいという話だったんだよね。大竹伸朗くんのガチャを作っていて、そこに僕が解説を書いたりしていたので、その流れで秘宝館のソフビを作る話も出たんだけど、ガチャガチャって18禁のものはできないんですよ。すごいボリュームで作るものだし、置くところが公共の場所なので非常に難しいということで、じゃあ空いている空間で秘宝館とかできればいいよねと話していたんです。そこからコロナになっていくつか空き物件が出てきたので、面白いからいろいろな物件の内覧に行って、何軒か見ているうちにこの場所が出てきた。それでここが一番面白いかなって借りることになったんです。

——向島だけでなく、他の地域でも物件を探していたのですか?

都築:浅草とか江戸川の上流のほうとか、いろいろ見たけど、細長いビルで使い方が難しいとか、環境が難しいとか、一長一短あって、その中でここが一番使いやすいかなと思いまして。だから最初から向島でやりたいと思っていたわけではなく偶然なんです。

——向島は料亭街もあるし、未だに昔ながらの文化を継承している地域だと思いますが、そこに「大道芸術館」が良い感じにはまったのではないでしょうか。

都築:向島は、東京で唯一花街としてきちんと生き残っている場所かもしれませんね。新橋、赤坂とかもありますけど、ここには料亭が10軒以上あって、芸者さんも80人以上いて、東京の芸者さんの半分以上は向島にいるんですよ。だからアクティヴに動いている料亭街としては、一番栄えているんじゃないかな。

だけど僕達はそんなことをほぼ知らずに借りて、花街として動いていることをそのあとに知ったんです。やっぱり昔ながらの料亭街のしきたりがあるので、露骨にエロを表現したら浮いてしまうわけだし、難しいことはいろいろありましたね。

——昭和・大衆・性文化を取り扱っている印象がありますが、いつどのようにそのアイデアが浮かんできたのですか?

都築:最初は秘宝館のものとか、見世物小屋の絵看板を見せたいところから始まったわけですが、なにも昭和だけをやろうと思ったわけではないんです。実際に展示されている作品は、今、作られているものが圧倒的に多いし、なので昭和に関してはとっかかりですね。

例えば昭和の大衆文化に対する誤解があったり、コンプライアンス的にも難しくなったりしているし、その一方で幻想としての昭和というか……例えば、「昔のラブホテルかわいいよね」みたいに、昭和の後に生まれている人達は思うわけだけど、実際にラブホにしろ、秘宝館にしろ、見世物小屋にしろ、もう実物を見ることができない。だからそういうものを見て体感してほしいというのもありますね。あと展示されているほとんどの作品が、現代美術では評価されていないんです。今作られている“変わったアート”とでもいいますか(笑)。

——その“変わったアート”作品が並ぶと、それはそれでたまげたことになっているなと思います。作品に関しては目にしていいなと感じたら、購入する感じですか?

都築:僕はコレクターではないので、ただ買うことはありえないんですよ。大体のものが取材をした人の作品ですね。僕が取材を通じて知り合った人達は経済的に恵まれない人達が多いので、そういう人達の作品を買いたい。買ってささやかな応援をするというか。それと取材をさせてもらうために買うこともあるし、本当にいいなと思うから売ってくださいと頼むこともある。だけど結果として集まってきたものをどうしようかなって思っていたので、この場所ができて良かったという感じですね。

——ということは、都築さんが好きで興味のあるアーティスト達の作品が、芸術館には展示されているわけですね。

都築:そういうことになります。僕自身はハイアートも好きなんですよ。だけどほとんどの人がそっちではないものが好きなんです。こういう編集者業界にいると、ファッションでいえば「グッチ」や「プラダ」とかいわゆるハイブランドをみんな好きだと思いがちじゃないですか。だけど世の中の9割は「ユニクロ」や「しまむら」でもいいわけ。アートにしても普通の人が好きなのは、ラッセンみたいな海からイルカがジャンプしている絵だとかそういうものなのよ。そういう人達が世の中9割だと思うし、そういう人達のほうが元気なんですよ。

狭い中で仕事をしていると、それが見えなくなることがすごく怖いし、ハイカルチャーに属している人達のほうがマイナーなんだということを知らないと恥ずかしいと思うわけ。だから両方とも取り上げることが使命だと思うのに、みんな一方しか取り上げないから残りを僕が引き受けているって感じですね。

——毎日、高級料理を食べるのもいいけど、ご飯と漬物&おみそ汁だけのおいしさもあるということにも似ていますね。

都築:毎日、「吉野家」だっていい人もいますからね。今日、ちょっといいことがあったらお新香をつけるとか……そういう人達のことも知らないと。

意識の低いことに劣等感を持つべからず

——大衆文化の良さを改めて言葉で言いますと。

都築:意識が低いということかな。世の中、意識が高いほうがいいみたいな感じがあるじゃないですか。だけど普通の人はたいてい意識低いんですよ。だけどその意識の低いことに劣等感を持つ必要はないと。高くてもいいけど、低くてもいいじゃんって。だからメディアばかり見ていると、意識高いほうがいいじゃんってなるけど、高いってお金もかかるわけですし。食で意識高い人達は、オーガニックなものばかりを食べて、スローフードとか言ってるけど、そんなことできない人達が大勢いるわけ。夜遅くまで仕事して、家に帰る時は夜に開いてるスーパーやコンビニでしか買うことができなかったり。そういう人が多いと思うけど、そういう人が意識が低いかというと違いますしね。

意識高くあれっていうのは、メディアが作り上げた1つの商売の形であって、ハードルを上げることはいいことだけど、これを買え、あれを買え、うちの雑誌を読んでくださいね、みたいなことを言うのは汚い商売の1つだと思っています。

——となるとハイアートとは何ぞや、ということも考えてしまいます。

都築:もちろんハイアートもいい。だけどアートをダメにしているのは美大なんです。美大に入ることがまず失敗の原因だと思う。

——辛口ですね(笑)。

都築:(笑)。これでも抑えて言っているんですけど、子ども時代に友達はできないけど、絵を描いている時はハッピーだったとか、そういう人達がいっぱいいるわけじゃないですか。絵を描いている時だけはリストカットのこと考えなくても大丈夫とか。

だけど絵を描いて生きていける道は美大へいくしかないと言われて、美大に行くための予備校へ行かないといけなくなる。ようやく狭き門を突破して入学金をたくさん払って美大へ入ったら、「コンセプトを述べよ」みたいな。そもそもきちんとコンセプトを語れるような論理的でコミュニケーション能力ある人は美大に来る必要ないと思うし。そういうことを繰り返して、4年も経てばどんどん純粋に絵を描きたいという気持ちが失せてくるわけです。

だったら中卒や高卒でアルバイトや仕事をしながら、夜に絵を描いている人のほうが4年間先に進んでいると思うんですよね。アートの世界で生きるなら、美大へ行かないといけないみたいな馬鹿げた誤解が未だにまかり通っていて、そういうのを僕は若い頃からずっと見てきておかしいなと思っているの。だけどアートメディアはそういうことを言わない。だって美術メディアにとっては美大と予備校って大きな広告主だからね。

——そういう風に成り立っているわけですね。

都築:そうだよ。美大の予備校で教えているのは、美大の大学院生とかだし。だから子ども達をカモに商売が成り立っていることがあるし、そうやって理論武装させられているうちに、難解なほうがいいと思うようになってきちゃうわけです。現代美術の展覧会に行っても、ほんとはよくわからないのに、わかってるふりをしないと恥ずかしいとか。そのためには難解な解説を読まないといけなくなるから、図録や解説書を買えとなるんです。そうすると美術出版社が成り立つ。評論家や学芸員は、論文を載せるのが一番の仕事だと思っているから、そういう風にしてみんなが“頭のいいふりゲーム”をしているわけです。

一方、その外側で好きな絵を描き続けてきた人達は、評価されないままいる。そういう人がいっぱいいることを僕は取材を通して知っていったんです。

——好きで描いている作品だから、「大道芸術館」に展示されている作品からは自由を感じるのかもしれません。

都築:以前、水戸芸術館で個展をやったんですけど、美術館には部屋の隅に膝にストールとかを掛けて座っている人達がいるでしょ。美術館によって呼び名が違うんだけど、水戸芸術館ではフェイスさんと呼んでいるんです。そのフェイスさん達と仲良くなって、一緒にお茶を飲んだりしてさ。だってあの人達が朝から晩まで同じ作品を1日中、何時間も観ていて一番アートに詳しいですから。それで話をしているとわかるけど、コンセプチュアルで難解な作品の部屋は15分くらいで交替するけど、面白いものは1時間ぐらいいられるって。作品にも直感的に受け入れられるものと、受け入れられないものがあるんですね。

——居心地が良いか、悪いか。「大道芸術館」にいて思うことが、みなさん長い時間滞在されているイメージがあります。

都築:ここだと人と違うことをバカにされないからなんじゃないかな。美術館で居心地が悪いと感じるのは、わからない自分を見せるのが恥ずかしいからなんですよ。

例えば美術館に石がポンポンとあったとしても「これって鉱物標本じゃないの?」とか言えないし、わかっているフリをしなくてはいけない。洋服も同じで、ブランドの高い服を記号として着ている。ジャージ上下に10万円出せる人は、誰が見ても高いってわかる服を通して「ファッショニスタです」っていう自分を見せているわけですよ。でも本当はブルドッグのマークが付いているジャージのほうが似合うのに。そういう風に、自分はもっとエロいのが好きなのに言えなくて、だけどここだとそれを言える。 だから同類が集まるわけですよね 。

——同類が集まれば、話しやすいですよね。 

都築:「今までこんなこと言えませんでした」って人もたくさん来る。だってさ、見世物小屋が好きですとかなかなか言えない。だけどそういうことを言えない環境というのがすごく窮屈なんだよね。

——東京オリエント工業のラブドールを入れたのも、都築さんのアイデアなのですか。

都築:ラブドールが好きだという人が結構いることは知っていたけど、実際にドールに対面したりとか、触ったりしたことがない人が多くいることがわかったんです。それで 一気にラブドールを買ったんですよ。今、大道芸術館には7人くらいラブドールがいます。

——先日、大道芸術館にいるドールの表情が明るく見えたので、「今日は元気だね」と女将に伝えたら、ラブドールにやられてると言われました(笑)。こちらのその日のテンションでラブドールの表情が変わって見えるそうで。

都築:ラブドールは持ち主の思いを反映するからさ。ラブドールも持ちきれなくてメーカーに返品されることや、修理に出されることもあって、それを「里帰り」っていうらしくて。その時に大事にされてきたドールと、適当に扱われてきたドールとでは顔つきが全然違うそうです。だからうちでカウンターに座っている子も、日によって表情が曇るのよ。だからドールの位置を変えたりしているの。

——ラブドールの素晴らしさは、ドールの近くにいると癒されることけです。ラブドールの存在は「大道芸術館」の大きな魅力だと思います。  

都築:あれがあるとないとではだいぶ違ってくるね。だけど本当にただの思い付きだったんですよ。最初からやりたいと思っていたわけではなくて、たまたま予算もあったので面白いかもって感じだったんですよ。 

——後付けだったんですね。



都築:すべて後付けです。あれもこれも入れてみたいと、いろいろ話しあいながら作っていったって感じですね。インテリアに関しても、あの映画の中のキャバレーに出てきたあのシーンみたいな感じがいいとか。断片的なアイデアがたくさんあって、それを建築家と話しているうちに固まっていく。そういう作り方の方が面白いんですよ。最近、絵を30点以上足したんですけど、何をどこに置くかはあまり考えずにとにかく持ってきて、前日の夜にウロウロしながらこの壁まだ空いてるなら、と入れられるだけ入れました。

——新しい作品が追加されギアが一段上がったなと感じました。

都築:最初の頃も相当グチャグチャだったと思うんです。「ドン・キホーテ」みたいに圧縮展示って感じだったんだけど、だんだんと目が慣れてくると隙間が気になってきて、作品を外すよりもっと入るんじゃないの?みたいな。今の美術展がスカスカ過ぎるんですよ。白い壁にポンと作品があるのがかっこいいみたいな。僕は白いところがあるなら、もっと作品を入れたらいいんじゃないって思うんですよ。だってアーティストは描いた作品を出したいなと思うわけだからさ。ポツポツが格好いいみたいなのは古い考えだと思います。 

ROADSIDE = 路傍からの視点で世の成り立ちを知る

——ちなみに都築さんは「大道芸術館」を通じて、皆さんに性の解放をしてほしいなと願っていますか?

都築:そんなことはないけど(笑)。

——それは私が勝手に感じてることですか!

都築:きっとそうだと思います(笑)。僕が言うよりもすでにみんな、解放されているでしょうから。エロが好きな女の子はいっぱいいるけれども、友達には言えないっていう人が多いわけじゃない。だけどここに来ると学芸員のお姉さん達もあおってくるから、「話ができて楽しかったです」っていうお客さんもいる……「縛られてみたいです」とかさ。 みんないろいろあるわけじゃん。そうやってみんなが思っていることを、言える場所なんだと思うよ。

——女性がエロについて話せる場所はあまりないのでしょうか。

都築:場がないというより女友達同士ではあまりしないんでしょう。だけど同じタイプが何人か集まれば、パワーアップするわけですよ。前に渋谷で、「神様は局部に宿る」というタイトルでエロ系のイベントをやったことがあるんですけど、1ヵ月で1万5000人来て7~8割が女性のお客さんでしたね。カップルで来ても明らかに女の人が主導、男はイヤイヤ付いてくるみたいな。半分以上は僕のことを知らなくて、Instagramを見て渋谷で変なイベントをやっているからとやって来た女の子達が多かった。それで、あのラブホテル知ってるとか、ラブドールをいじくり回していく。そういうのを見ていると別に女の子が慎み深いわけではなくて、ただ場がないっていうだけで、本当はエロが好きなんだっていうことがよくわかりましたね。

——背中を押してくれる材料が、この芸術館のあちらこちらにあるからかもしれません。それと向島という場所も。向島のそばには有名な赤線地帯があったと聞いています。

都築:そうだよ。鳩の街といって、ここからすぐ近くは、昔はすごく有名な売春地帯だったの。だから今でも「鳩の街通り商店街」ってちゃんと看板出してるよね。

——ところで、「大道芸術館」という名前にした理由は何だったのですか。

都築:僕は「ROADSIDERS’ weekly」というメールマガジンを出してるんですけど、ROADSIDE = 路傍というのが1つのテーマでもあるんです。美術館みたいに限られた場所だけにあるものではなくて、地べたにあるものを探していて、そこから「MUSEUM OF ROADSIDE ART」という名前にしようとまず考えて、それから立派な伝統芸術ではなくサーカスやお祭りの場に生きてきた大道芸というニュアンスをつけたくて、「大道芸術館」という名前にしたんです。  

——なぜ路傍や道端のものを好きになったのですか。

都築:物事に優越をつけたくないんですよ。僕の仕事はジャーナリストで、評論家ではない。評論家というのはたくさんある中から「これがいい」というものを選んで、なぜこれが一番いいのか自分の名前を懸けて語るわけだけれど、それとは反対に、「これがいいって言うけどこっちもあるから、どちらか好きなほうを選べば」って選択肢があることを伝えるのがジャーナリスト。現代作家の展覧会に行って、わからないという人は自分の理解が足りないとか、教養がないとか、自分が劣っていると思うわけ。

だけど、そうじゃなくて好き嫌いにすぎないんだから、好きなほうを選べばいいだけで、そこに優劣はないっていうことをいろんなジャンルを通じて教えたいんですよ。有名美術館でやる人が一番偉くて、道端で作品を出してる人は日曜画家でしょ、じゃなくて、愛犬が好きすぎて絵に描きましたみたいなことを、恥ずかしがらず好きにやってほしい。それを言わせないのが評論家とメディアの汚い役割なんですよね。

——都築さんの中でアートの境界線みたいのはあったりするんですか?



都築:そんなもの何もないですよ。アートとアートじゃないものは分けにくいし、値段がつくものとつかないものしかないと思います。例えば民芸は値段もつくし価値があるのはわかるけど、タダでもらうのはよくてもお金を払って買う人なんていないような「おかんアート」はどうなんだって。でも見ようによっては分け隔てはほとんどないと思うし、そこに小難しい理屈がつくかつかないかだけかなんですよ。だって12歳ぐらいの裸の少女の写真撮って出したら速攻捕まるけど、じゃあバルテュスはどうなんだって。裸の女の子の絵を描いていても、それが何億円だと「アート」と認知されたりする。結局はお金でしょっていう話。「大道芸術館」の3階にある秘宝館のコレクションをルクセンブルグの現代美術館で展示したこともありますけど、そういう場所に置かれれば美術品になる。でもここに置かれればただの見世物。プレゼンテーションの場所によって人は評価するってことはありますよね。  

——確かに。少し前まではアートとして扱われなかったものが、突然騒がれることもありますよね。

都築:10年かそこら前まで日本の美術雑誌では、モザイクをかけないと浮世絵の春画は掲載できなかった。でも大英博物館などで展覧会をやったりしていくうちに、いつの間にか春画がアートということになっていた。それって誰が決めたの? って感じで、浮世絵も今は立派なアートだけど、百数十年前までは外国人が日本でお茶碗とかを買った時に使っていた包み紙だったわけです。日本人は誰もあれはアートとは思っていなかったのに、包み紙を見たヨーロッパの人が「お!」みたいな。それが逆輸入された時にはすでにアートになっていた。

そんなんだから、アートの基準っていうのは超いい加減ってことなんですよ。そこに確たる論理は何もなくて、その時の都合でそうなっているだけ。

——「大道芸術館」へ来たお客さんには、どのようなことを感じてもらいたいですか?

都築:男の人に恥ずかしがらず見に来てほしいですよね。優しい学芸員のお姉さん達にいろいろ教えてもらってください(笑)。それで自分の価値観を大事にするとともに、人と違うことに対してひるまないでほしいなと思います。世間がベジタリアンとか言っている中で、吉牛がいいということを隠さず話せるようになったら一人前。そういうことを言えるには18歳じゃまだ難しいと思うけど、だんだんと言えるようになってくる。歳をとるということはそういうことだからさ。だから自分が歳をとってだんだんとわかったことを伝えられたらいいなと思っています。 

——都築さんも変わられているんですね。

都築:変わっていますよ。いろんなことを確信できたのは60歳を超えてから、この数年だと思うよ。これだけ長くやってきたから、今になってどんなひどいことをSNSで書かれたって、どうってことない。作った本は売れてほしいけど、好きなことができたらあとはなんでもいいやって思える時がいつか来る。  

——我々にも、いつか……。

都築:そういう日が来るよ……っていうか、もう来ているんじゃないの(笑)。

Photography Vincent Guilbert

■大道芸術館
住所:東京都墨田区向島5-28-4
営業時間:月~金 15:00~23:00(20:00よりバータイム)、土・日 13:00~19:00(最終入館18:30)
休日:不定休
入館料:¥3000(館内で使用できるドリンク¥1000オフチケット付き)、平日20時以降はバータイムにてチャージ¥1500
※イベント開催時は入館の金額が異なる場合があるので、各SNSにてお確かめください。
museum-of-roadside-art.com
Instagram:@daidougeijutsukan
X(旧Twitter):@moratokyo

author:

Kana Yoshioka

フリーランスエディター/ライター。1990年代前半ニューヨークへの遊学を経て、帰国後クラブカルチャー系の雑誌編集者となる。2003年~2015年までは、ストリートカルチャー誌『warp』マガジンの編集者として活動。現在はストリート、クラブカルチャーを中心に、音楽、アート、ファッションの分野でさまざまなメディアにて、ライター/エディターとして活動中。

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