音楽連載「あの時のことや、その時の音」第1回ゲスト:ZOMBIE-CHANG(ミュージシャン)

日々新しい楽曲が生まれ続け、ジャンルの細分化にもますます拍車がかかりゆくこの現在。未知の音楽と出会うことそれ自体はすごく簡単ではあるけれど、何かしらの指針なくしては「自分のための音楽」と感じられる1曲・1枚に出会うことは、むしろ難しくなっている。そこで頼りにしたいのが、信頼に足るミュージックラバー達の感性と経験に裏付けられた目利き力。本連載では、音楽を愛してやまないクリエイターや文化人達をゲストに招き、自身の近況と、その時の気分にそくした音楽を紹介してもらう。

第1回に登場してもらうのは、この8月に待望の4thアルバム『TAKE ME AWAY FROM TOKYO』をリリースしたZOMBIE-CHANG。アルバムに込めた想いやその制作の背景、そして今彼女が最も切望する「ライヴ」をともにしたい3組のアーティスト達について、話を聞かせてくれた。

ソロでもパワフルな音が出せるように試行錯誤した、「エレクトロ回帰」の4thアルバム

新型コロナウイルスが流行る前から、家にこもりっきりで曲を作っていました。8月にリリースした新しいアルバム『TAKE ME AWAY FROM TOKYO』は、本当は春頃にほとんど完成していたんです。アルバムに合わせて夏のフェスやヨーロッパツアーも予定していたのに、新型コロナウイルスの影響で全部ストップしてしまいました。

仕方ないので、自粛期間中は家で踊ったり、曲を作ったり、本を読んだり、グッズをデザインしたりして過ごしていました。私はもともと外にあまり出かけるタイプじゃないので、自粛中もやることは変わらなかったですね。でも、「自粛で暇だ」っていう人は多くて。みんなに楽しんでもらいたいし、私もできた曲を早く聴いてもらいたかったので、アルバムの中の曲を「?」というタイトルで毎週発表していくプロジェクトを企画しました。それから8月になって、ようやくアルバムをリリースできました。

あたりまえだけど、おもしろいと思える曲を出したいんです。自分の中で「普通」と感じる曲はつまらない。だけど「普通」って難しいですよね。例えば「SNOOZE」という曲。最初、私の中では普通で、あまりおもしろくないかなと出さないつもりでいたら、知り合いが「普通じゃないから発表したほうがいい」と言ってくれて。自分の中では馴染みのある音でも、他の人が聴いたら違うこともあるんだなと思いました。

私はずっとソロで活動してきましたが、バンドとエレクトロが混ざったパワフルなおもしろさに惹かれて、前回のアルバム『PETIT PETIT PETIT』は初めてのバンド体制で制作しました。やっぱりライヴでは、1人では出せないようなパワフルな音が出したかったんです。でも正直なところ、バンドをやったことで、「1人で曲を作ることから逃げたのでは」みたいな気持ちも生まれてしまって。 だから今回のアルバムは、自分への挑戦というか、今までやり残してきたことへの挑戦でした。音数を減らして一個一個の音にこだわったり、ソロでもパワフルな音が出せるように試行錯誤したり、DJでも使えるようにインストでも成り立つトラックをめざしたり。その一方で、「歌の歌詞がいい」って言ってくれる人もいるので、歌モノも大事にしたり。つまり、今までの自分のアップデート版かな。自分としては成長できたと思っています。今回は逃げなかった!

ZOMBIE-CHANGが一緒にライブしたいミュージシャン達の3作品

Polo & Pan『caravelle』

YouTubeの「Cercle」という番組で出会ったミュージシャンです。臓器に染み渡るような美しい音を身体の底まで届けてくれて、うっとりします。私はBPMの速い曲が好きなのですが、これはBPMが遅め。イメージとしては、BPMの速い曲が熱いお風呂にサッと入る感じだとすれば、Polo & Panの曲はぬるいお湯にゆっくり浸かっているみたいな感じです。

Boris Brejcha『Cocoloco (Live Stream Part 2)』

馴染みのなかった音が多いゴアトランスにハマっていた時期に、これもYouTubeの「Cercle」で関連動画として出てきました。ドイツのDJで本人曰く「ハイテクミニマル」というスタイルらしいのですが、上品なのにグイグイ来てくれる感じがすごく好きで。家でも、外を歩いている時でも、とにかくよく聴いています。今、一番日本に来てほしい人かも。

Gigi D’Agostino『L’AMOUR TOUJOURS』

このアルバムの中の「Bla Bla Bla」という曲が大好きです。シンセベースの音階が上下するだけのシンプルなパターンが多用されていて、そこにキックとクローズハットが入ってきて。その流れがあるだけで私は踊り狂っちゃいますね(笑)。なのに歌モノっぽい曲もあって、クラブミュージックなのにクラブすぎないバランス感が絶妙です。

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ZOMBIE-CHANG『TAKE ME AWAY FROM TOKYO』

前作のバンドサウンドとは打って変わり、彼女のバックグランドにあるエレクトロサウンドが前景化した仕上がりに。印象的なジャケットアートワークは、ファッションシーンでも活躍する写真家・水谷太郎によるもの。フレッシュ&アップリフティングな全10曲を収録する。

Edit Koshiro Tamada

author:

ZOMBIE-CHANG

メイリンの音楽ソロプロジェクト。作詞作曲、トラック、リリック全てを手掛け、2016年に配信「恋のバカンス E.P.」でデビュー。ジャンルに捉われないオリジナルティ溢れる音楽性と、独自の世界観を放つライブ・パフォーマンスは中毒性が高く、今最も注目される女性アーティストのひとり。 http://zombie-chang.com/

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