目は口ほどに物を言う。写真は言語ほどに伝達する――フットボール熱病大国のスケートボーダーなドミニク・マーレー

プレミアリーグだけじゃない。3部どころか4部だろうが、もっと下部リーグでもおらが町のヒーローは、フットボーラーに決まってる。2020年ユーロでも沸いたロンドン。実は、スケートボードも熱い。かつての「ブループリント」や「ヘロイン スケートボード」に始まり、今では「パレス スケートボーズ」といった、スケートインダストリーが台頭している。

ドミニク・マーレーは、その地でスケートボーダーもフットボーラーも記録してきたフォトグラファーだ。ニック・ジェンセン、ルシアン・クラークなど、彼によって日本でもよく知られるようになったスケートボーダーは多い。だから、今度はその張本人、ドムのことをみんなに紹介したい。

ドムとの10年以上続いているやりとりにおいて、とても印象的なこと。それは、普通はあたりまえでないと困ることなんだけれど、締め切りを絶対に守ること。原稿だって、写真だって、絶対に落とさない。締め切りの日付変更線をまたいだことがない。モノクロームな写真。被写体の多彩さ。そこには無言の誠実さがいつも漂っている気がする。

彼が撮影する被写体について

生まれも育ちもロンドンの生粋のロンドナー、ドミニク・マーレー。通称、ドム。彼が、フーリガンとストリートヘッズとパンクロックなどで騒々しいロンドンで頭角を現していったのは、フォトグラファーとしてだった。

ヨーロッパのスケートボードメジャー誌『キングピン』では、スタッフフォトグラファーとして、以前にこのコラムで紹介したパリのフォトグラファー、バンジャマンとデスクを並べていた。現在は、人気ブランドの「パレス スケートボーズ」や「ナイキ」のホットボーラーのビジュアルなどを手掛けている。その中でも記憶に新しいのは、「パレス スケートボーズ」とドイツ、メルセデスベンツとのコラボレーション。ルマンやF1などでかつて見たような本格的なレーシングサーキットでの写真。スケーターがストリートでバンクを使ってメイクするのとは別規格のデカイRがついたサーキットのバンクでの撮影。4つのタイヤつながりで、行くところまで行った感じがして、痛快だった。

その他には、動物のポートレートの写真も印象的だ。それはサバンナやジャングルで撮るものではない。動物園で撮るものでもない。あえて言うならば、ドムのセットを背景にした動物達の記念写真という感じ。それらを見て思ったのは、彼のやり方で、私が大好きなパンダをどうにかして撮影できないだろうかということ。そんなことを考えていたら、ドムのほうからアプローチがあった。
「一緒にパンダの本を作りたい。いつかこのコンセプトでやってみようじゃないか」。
お互いスケートシーンに長くいて、いくつかの特集を一緒に組んでやってきた。その中で、パンダが好きなスケートメディアの人間は、私とドムくらいかもしれない。私はパンダもスケートボードも好きだし、ドムの写真も好きだ。だから、この偶然を生かしたいと思っている。

彼のモノクローム写真について

ドムの写真はカラーもいいけれど、モノクロームの写真がまたいい。ロンドンの裏路地のラフな感じがよく出ていると思う。

以前に私が発行し続けている『Sb Skateboard Journal』というスケボーマガジンで、彼の特集を組んだ時、全編モノクロームの写真で構成することにした。モノクロといっても、いろいろあって、光と陰のコントラストや濃淡でグッとくるものがあったり、ドムのように(とくにドムの古いアーカイブの写真などは)もともとその路地には色がなかったのではないだろうかと思えてくる世界観があったりする。昔のサイレント映画を観た時に錯覚するのと似ているかもしれない(ああ、20世紀以前は街全体がモノクロだったんだなぁ、と)。

それがまたパンクロックとかスペシャルズとかのロンドンなイメージと、(勝手にだけれど)妙にだぶってくる。そんなドムが現在、全編モノクロームの写真集を制作中らしい。これはぜひ見たい。付け加えるなら、白と黒のパンダも、ドムだったらあえてモノクロームで撮影してプリントしてもいいかもしれない。おもしろい、と思うのは私だけだろうか。

彼がまた東京にやって来たら

たまに思う。ドムが東京を撮ったら、やっぱりそれは「ザ・東京」って感じになるのだろうか。それとも、ロンドンの路地のように写っているのだろうか。東京らしいネオンやガチャガチャした落ち着きのない色を排した、彼のモノクローム写真がどんな風になるのか。興味深い。

以前に紹介したバンジャマンやジャイ、デニスなんかもそうだけど、彼らは、思ったままに東京の一部を切り撮る(切り取る)からおもしろい。狙ったりしていないというか、欲張らないというか。

30年ほど前に、たまたま見たナン・ゴールディンの東京の写真を思い出す。地下鉄の駅のプラットホーム。タバコに火をつけようとしているリーゼントのあんちゃん(当時はホームで喫煙できた!)。当時の私には見慣れた光景。たいしたことのない瞬間。だけど、グッと来た。カッコつけたあんちゃんがおもしろかった。私は、すごい偶然を経て、それから7年後にはそのフルカラーの実際のあんちゃんと友達になっていた。真っ先にその写真の話をした。ドムと世界的名声を得ているナン・ゴールディンを比較する必要はまったくないはずなのだけれど、ドムはきっとおもしろいモノクロ写真を撮るはずだ。

今はまだコロナ禍だけれども、彼が来日するのが先か、パンダがたくさんいる中国四川省で落ち合うのが先か。それともロンドンの裏路地か。ぶっちゃけどこでもいいから、ドムと撮影に出掛けるのを今か今かと楽しみにしている。
本当は2020年にロンドンで会うはずだった。それもこれもコロナのせい。そして、こんな時代だからこそ、そろそろ次なる才能達が世界に名を馳せるチャンスがやってきていると思ってもいる。

ドミニク・マーレー
フォトグラファー。スケーターで素敵ダッドでウィークエンドには波乗りも楽しむロンドナー。スケートボードはもちろんのこと、ファッションシュートに動物写真も数多く発表している。現在は、今や世界有数のスケートボードインダストリーのメッカになったロンドンをアーカイブした写真集を制作中。
https://www.dominicmarley.com/
Instagram:@dominic_marley

author:

小澤千一朗

エディター、ライター、ディレクター。2002年に創刊した雑誌『Sb Skateboard Journal』のディレクターを務める。その他、フリーランスとして2018年より『FAT magazine』ディレクターやパンダ本『HELLO PANDA』シリーズの著作など、執筆・制作活動は多岐にわたる。 https://senichiroozawa.com/

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