ブライアン・イーノによる音と光の展覧会「BRIAN ENO AMBIENT KYOTO」リポート

ブライアン・イーノによる展覧会「BRIAN ENO AMBIENT KYOTO」が京都中央信用金庫・旧厚生センターで開催中だ。会期は8月21日まで。同展の開催に合わせて、作品やグッズが買えるブライアン・イーノ公式ストア「ENOSHOP」が京都の他に、東京の代官山 蔦屋書店で7月14日まで期間限定でオープンしている。

イーノはこれまで音楽活動と並行して、「ジェネレーティヴ・ミュージック」の手法をヴィジュアルに採用、音と光がシンクロしながら途絶えることなく変化し続ける空間芸術「ジェネレーティヴ・アート」を提唱し、アートの領域を拡大し続けてきた。ヴェネチア・ビエンナーレをはじめ、シドニー・オペラハウス等、世界中でインスタレーションや展覧会も開催してきた。同展はコロナ禍において世界初の大規模展覧会となる。

展示は築92年の京都中央信用金庫・旧厚生センターを丸ごと活用。1〜3階に作品が展示され、イーノの代表作《77 Million Paintings》《The Ship》《Light Boxes》の3作品に加えて世界初公開の新作《Face to Face》、会場内各所のSonosスピーカーを通じて廊下や階段、化粧室等で流れる作品《The Lighthouse》の計5作品で構成される。

1階には作品やグッズを販売する「ENOSHOP」、会場の廊下や階段には京都の盆栽研究家・川﨑仁美がしつらえた盆栽や水石も展示されていて、会場の入口にはイーノの言葉が以下のように綴られている。

「ありきたりな日常を手放し、別の世界に身を委ねることで、自分の想像力を自由に発揮することができるのです」。

「By allowing ourselves to let go of the world that we have to be part of every day, and to surrender to another kind of world. We’re freeing ourselves to allow our imaginations to be inspired.」

このメッセージこそが同展のコンセプトを示しているのだろう。各展示に沿って構成を紹介する。

1.77 Million Paintings

最も大きな《77 Million Paintings》は途絶えることなく生み出され、変化し続ける音と光がシンクロして生み出されるインスタレーション。「7700万」という数字はシステムが生み出すことのできるヴィジュアルの組み合わせを意味している。2006年にラフォーレミュージアム原宿で世界初公開されて以降、アップデートが繰り返され、世界各国47回の展示を経て16年ぶりの日本で展示される。

室内には数本の木の柱と円錐形の砂山がしつらえられており、震えながら響く音楽に呼応するように中央のスクリーンに映し出された、4種類のイメージが時間の経過とともにゆっくりと絶えず変化を続ける。自動生成される膨大な数のヴィジュアルと音響体験をソファに身を委ね身体全体で感じ取ることができる。

2.The Ship

Brian Eno The Ship

《The Ship》はイーノの音楽とインスタレーションという取り組みを集約した展示だ。空間に流れる音楽は2016年にリリースした「The Ship」。1975年にイーノがプロデューサーを務め、自身のレーベル「Obscure Records」からリリースしたギャヴィン・ブライアーズの「The Sinking Of The Titanic」がある。

「The Ship」は真正面からタイタニック号の沈没と向き合ったわけではなく、タイタニック号の沈没という出来事と第一次世界大戦を結び、傲慢さとパラノイアの間を揺れ動き続ける人間をコンセプトの起点にしている。

暗闇の空間ではオーディオセットが薄く照らされ、さまざまな機種のスピーカーが点在し、囲まれるようにソファが並んでいる。人の声や海の中、教会の鐘、さまざまな音が交錯し、鑑賞者はじっくり聴くことも、歩きながら音の質感の変化を感じることもできる。最奥のオブジェクトの前では一瞬静寂が訪れ、それぞれの動きや立ち位置で多様な音響体験を得られる。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのカヴァー 「I’m Set Free」 でクライマックスを迎える音楽構成も素晴らしい。

3. Face to Face

《The Ship》と同じく3階では世界初公開作品となる《Face to Face》が鑑賞できる。実在する21名のポートレイトを1枚の静止画に収めた写真が制作の起点となった。特殊なソフトウェアを使用し変化と合成が繰り返されるのだが、ある人物の顔が別人の顔へとゆっくりとピクセル単位で変化を続ける中で、ロボットのような質感の実在しない人物が連鎖的に現れる。毎秒30秒人ずつ36,000人以上の新しい顔を誕生させることができるという作品で、イーノ本人の若い頃や最近の顔も見られる。

4. Light Boxes

光を放つ3つのボックスが、絶妙な速度で色彩を変化させていく幻想的な作品《Light Boxes》。LEDの技術を駆使した3つの半透明のボックスから発光した光が時間の経過とともに部分的にゆっくりと変化を続ける。

音楽と同期しながら変化する色彩は、鮮やかでありつつ穏やかに輝く。光の組み合わせが変化するため、たとえ、同じ場所で鑑賞したとしても異なる見方ができ、それぞれの展示の意味を見出せるのではないだろうか。

5. The Lighthouse

日本初公開となるオーディオ作品《The Lighthouse》は《Light Boxes》と《Face to Face》の展示空間と入口から会場内、化粧室に至るまでシームレスに結ばれている。《The Lighthouse》は、イーノが2021年からスタートしているストリーミング・ラジオ・サービス「Sonos Radio HD」でしか聴くことができないアーカイヴ・チャンネルで、現在日本はサービス外。その楽曲をSonosスピーカーを通じて会場内の廊下やトイレなどで流れる音楽作品として表現している。

ブライアン・イーノの空間芸術から垣間見える哲学

代表作から日本初公開の新作までが結集した本展は、作品に対する鑑賞者のあらゆる接し方を受容する空間だ。絶え間なく変化し続ける音と光がシンクロする空間においては、その瞬間にしか感じることができない映像と音響体験ができ、鑑賞者それぞれの想いに共鳴する工夫に溢れていた。鑑賞後に改めて入口のイーノのメッセージを読むと、その一端を理解できたと感じられるかもしれない。2階のラウンジには、イーノへのメッセージを書き込めるノートが用意されているので、この特別な鑑賞体験の想いを綴ってみてはいかがだろうか。

■BRIAN ENO AMBIENT KYOTO
会期:8月21日まで
会場:京都中央信用金庫 旧厚生センター
住所:京都市下京区中居町七条通烏丸西入113
時間:11:00 〜 21:00(入場は閉館の30分前まで)
入場料:平日/一般 ¥2,000、大学生・専門学校生 ¥1,500、中高生 ¥1,000、
土日祝/一般 ¥2,200、 大学生・専門学校生 ¥1,700、中高生 ¥1,200
チケット購入サイト: https://www.e-tix.jp/ambientkyoto/
※当日券は予定枚数が完売している場合があるので、予約優先チケット(日時指定制)を推奨
※混雑状況については公式SNSで最新情報を掲載
公式ホームページ:https://ambientkyoto.com
Twitter:@ambientkyoto
Instagram:@ambientkyoto
Facebook:@ambientkyoto

Photography Mayumi Hosokura

author:

芦澤純

1981年生まれ。大学卒業後、編集プロダクションで出版社のカルチャーコンテンツやファッションカタログの制作に従事。数年の海外放浪の後、2011年にINFASパブリケーションズに入社。2015年に復刊したカルチャー誌「スタジオ・ボイス」ではマネジングエディターとしてVol.406「YOUTH OF TODAY」~Vol.410「VS」までを担当。その後、「WWDジャパン」「WWD JAPAN.com」のシニアエディターとして主にメンズコレクションを担当し、ロンドンをはじめ、ピッティやミラノ、パリなどの海外コレクションを取材した。2020年7月から「TOKION」エディトリアルディレクター。

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