ベルリンのスケートシーンのハブ「CIVILIST」が地元と世界から愛される理由

スケートパークが公園の中に多数あり、ショップが数多く存在するベルリン。そんな中でも、「ナイキ」等世界の名だたるブランドとコラボレーションを果たし、スケーターシーンのみならず、オーバーグラウンドでの注目を常にさらっているのが「CIVILIST」だ。2009年のオープン以来、10年以上にわたってコミュニティのハブとして中心にいる彼らにその背景を探ってみることにした。スケーターの写真家としても活躍しており、現在は「CIVILIST」のボスとしてすべての側面で場を守り発信を続けるアレックス・フォーリーにコミュニティのあり方や街の魅力について話を聞いた。

いつでも誰でもウェルカム。敷居を感じさせない店作り

――この10年で「CIVILIST」のコミュニティはどのように変化したのでしょうか?

アレックス・フォーリー(以下、フォーリー):僕達の店はスケーターにとって、ちょうど休憩地点のような場所です。みんなここを目指してやって来るし、今働いているスタッフももともとはここのお客さんでした。最初お客さんとしてこの店にやってきて、少しずつ話すようになりやがて友達になりました。僕が人手を必要としていたある時、「週2日くらいでここで働いてみない?」と彼等に声をかけたら、良い返事をしてくれたのがきっかけ。毎日いろんな人がやってくるので、こういう光景は日常茶飯事です。

――「CIVILIST」をマネージメントする上で大切にしていることはなんでしょうか?

フォーリー:僕が子どもの頃、ローカルのスケートショップは、雑誌を読んだり、ビデオを観たり、そしてたまに働いたりする場所で、単なる”スケートショップ”以上の場所でした。初めてLAに行った時も、同じようにローカルなスケートショップを見つけて、いいスケートスポットやパーティ、おいしいレストランまで、地元の人にいろいろ聞いて回ったのを覚えています。それは良いクルーがいるという証しでもあり、店にとってもすごく大切なことです。今では、僕等はメンバーのキャリアの手伝いをすることもあります。「毎日決まった時間にオープンしているだけの店」以上の場を提供することが、僕にとってずっと大切なことです。

――それは街のコミュニティとして機能し続けることの大切さですね。

フォーリー:そう。夏には閉店後の店先で、みんなでビールを飲んで遊んでますしね。場合によっては、夜10時くらいまで店を開けていることもあります。スタンスとしては、いつだって誰でもウェルカムだということ。スケートボードをしているキッズは特に。スマホを充電させたり、トイレを貸したり、コミュニティプレイスのような場であることは僕にとってとても大事です。この店に来てくれる人達がチルして遊べる目的地のような場所を心掛けています。それは、お客さん同士の交流にもつながります。もしかしたら、将来ここで出会った人達とコラボして仕事をするかもしれません。そういう緩い繋がりこそが、僕達の店の重要なことです。

――次にやってみたいアイデアは?

フォーリー:たくさんあります。新しい店舗のアイデアもありますが、「CIVILIST」が一番大事にしているのは、オリジナルのアパレルブランドです。絶えず挑戦し続けて、成長させていきたいと考えています。他にもアイデアはありますが、まだお話しできません。いずれにしてもスケートボードには関わり続けていたいですね。それから、ベルリンに生きている以上、街と人に還元できる何かをしたいと思っています。

今や、スケートボードはオリンピック競技になり、これからますます競技人口が増え、大きくなっていくことでしょう。それは同時にスケートボードが「競技性」を持つようになるということも意味しますが、僕はアンダーグラウンド性をもっと大事にしていきたいです。オリンピック競技としてのスケートボードに興味を持たない人達もいますしね。

――スケーターの中でも考え方が二分していそうですね。

フォーリー:個人的には、ストリートで滑るスタイル、パークの外で滑るスケートボードが好きです。スケートパークに毎日通えば、日々上達するのは当然のことですが、子ども達には「『CIVILIST』の考えを理解したいなら、ストリートでスケートしなさい」と言っています。これも自分の経験ですが、僕等が子どもの頃はスケートパークがなかったので、公共の文化施設で滑っていました。ストリートで滑ると、街のことをよく知れるということも好きな理由の1つです。

――規律あるスポーツとしての側面もあるかもしれませんが、当初のようなアンダーグラウンド性を維持したいということですか?

アレックス:とはいえ「変わらないものはない」というのも事実。サッカーでさえ20年前と比べて商業性は増して専門性も高くなりました。シーンが大きくなれば、何にでも当てはまるので悲観することでもありませんが、僕は、DIY精神と自分探しが好きです。

例えば、スケートボードを持って行ったことのない場所を散策してみると、滑るのにちょうどいい建物が見つかるかもしれません。見慣れたスケートパークに行くよりも、その方が好きです。パークは楽しいですが、バスや自転車に乗って、スポットを探すストリートのスケートセッションが好きです。東京に行った時もやりましたよ。ローカルのスケートボーダーに聞いたりもしましたね。でも、それ以外は街を散策して、良さそうな場所を見つけて、滑ってみる。そうやって自分の目で見て街を探索することが、スケートボードで好きなところなんです。

音楽やアートを始めようと考えている人にとって最高のスタート地点

――日本で生活している人達に感じることはありますか?

フォーリー:ベルリンの人口の7倍もの人が住んでいて、物価も高い東京のような都市は生活するのが大変ですよね。ベルリンはロンドンやニューヨークと比べると物価も安定しています。バーで働いても家賃を払える程度に生活が保証されているので、住環境も大きく関係しているかもしれません。

――ベルリンはクリエイティヴの世界でチャレンジする人にとって魅力的な街だと思いますか?

フォーリー:環境は大事だと思います。ミュージシャンやDJ、スケートボーダー等、さまざまな分野のクリエイティヴに関わる人達がベルリンにやってくるのは、安く住める上に、カルチャーの土壌もしっかりしているからだと思います。著名なクラブもあり、海外からDJも頻繁に来る。時代によって多少の変化はありましたが、それでも、他の大都市に比べると素晴らしい環境です。ニューヨークからLAに引っ越した友達も同じようなことを言っていました。LAの方が落ち着いていて、ビル群もなくて早足で歩く人も少ない。このことも生活へのプレッシャーに関係があると思います。

――だからこそ、ベルリンが魅力的に感じられているということでしょうか?

フォーリー:韓国やアフリカ、南米等いろいろな国を旅してみて、改めてベルリンは良い都市だと思います。今朝泳ぎに行った湖でさえ、市街地から30分で行けます。フォトグラファーをやっていた若い頃は、トレンドのファッションや音楽の発信地であるロンドンやニューヨークへの憧れがありましたが、今はそう思うこともなくなりました。音楽やアートを始めようと考えている人達にとって最高のスタート地点です。ここから、ロンドンやニューヨークへと羽ばたいている人もいます。

――個人としてこれからどんなプランがありますか?

フォーリー:スケートボードには、まだまだクリエイティビティの可能性が秘められていると思っています。だから、今でも若い世代の子達がスケートボードを始めているのだと思いますし、未来にとっても素晴らしいこと。残りの人生もずっとスケートボードに関わり続けたいです。

アレックス・フォーリー
2009年にドイツ・ベルリンにオープンしたスケートボードのセレクトショップ。「CIVILIST」のオーナー。同店は、ミュージシャン、アーティスト、スケーター、BMXライダー等、あらゆるジャンルの人々が出会える場所をコンセプトに、ベルリンからコミュニティと文化を発信する。
civilistberlin.com/

Photography Hideaki Ota

author:

冨手公嘉

1988年生まれ。編集者、ライター。2015年からフリーランスで、企画・編集ディレクションや文筆業に従事。2020年2月よりドイツ・ベルリン在住。東京とベルリンの2拠点で活動する。WIRED JAPANでベルリンの連載「ベルリンへの誘惑」を担当。その他「Them」「i-D Japan」「Rolling Stone Japan」「Forbes Japan」などで執筆するほか、2020年末より文芸誌を標榜する『New Mondo』を創刊から携わる。 Instagram:@hiroyoshitomite HP:http://hiroyoshitomite.net/

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