2021年、ベルリンのリヒテンベルク地区に「DARK MATTER」がオープンした。“パラレルコスモス”とも呼ばれるここは、現実世界とデジタル世界との境界が歪む大規模な光のインスタレーションで、1,000㎡もの展示スペースを誇る。仕掛け人は、インタラクションデザイナー兼メディアアーティストのクリストファー・ボーダーと彼のデザインスタジオ「WHITE void」。これまで、クラフトワークでの「DEEP WEB」「SKALAR」、2014年には、ベルリンの壁崩壊25周年を記念したプロジェクトとして、8,000個の発光する風船がボンホルマー通りを灯す「LICHTGRENZE」など、数多くのインスタレーションを手掛けてきた。
Kyoka
ドイツの実験音楽レーベル《Raster-Noton》に所属した最初のソロ女性アーティスト。主宰のアルヴァ・ノト(カールステン・ニコライをはじめ、Byetone、Frank Bretschneider、坂本龍一、William Basinski、池田亮二などといったトップアーティストが名を連ねる。エレクトロニックプロデューサー、DJ、インスタレーションアーティスト、フィールドレコーダーと幅広いフィールドで活動する。他にも、iPhoneのグローバル広告に採用された「ホバリング」はシンコペーションされた電子機器とリズムを壊すドラムマシンを駆使して制作された代表曲となっている。これまでに、マンチェスターにおけるAphex Twin Curates, The Warehouse Projct、Mutek(モントリオール、日本、韓国、スペイン)、ポンピドゥーセンター(パリ)、CTM(ベルリン)、ソナー(東京)、ボルトフェスティバル(スウェーデン)、プリスケンフェスティバル(ギリシャ)等、世界各地のフェスティバルに出演している。
https://www.instagram.com/kyoka.sound/
Yone-ko
日本のテクノ・ハウスシーンのエッセンスを貪欲に吸収し、高度な技術と新旧を織り交ぜた選曲で独自の音楽性を表現するDJ。1999年頃から静岡でDJ活動を開始。2002年に東京へ移住して以降、日本各地のアンダーグラウンドパーティーでプレイを重ね、主流から外れてもなお普遍的であり得るハウスやテクノのグルーヴを追求してきた。2011年より拠点をベルリンへと移し、ヨーロッパを中心に世界各地でプレイしている。並行して、キエフのクラブCloserの創設者兼レジデントDJであるTimur Bashaと共に、自身のパーティー “Wordless “を運営。日本在住時のいくつかのリリースを経て、ベルリン移住後は制作プロセスを刷新した。Workshop、Dial records、Delsin、Aex、そして彼の拠点の一つであるCloserが運営するレーベルClommunityなどのレーベルから自身の作品をリリースしている。https://www.instagram.com/y.o.n.e.k.o/
https://on.soundcloud.com/8aCMG
ブラックで統一されたミニマルな建物の中に入ると、真っ暗な空間から突如光と音が動き出す。部屋を移るごとに3Dサウンドがついてくる不思議な感覚が心地良く、7つの異なる光のインスタレーションは美しさと奇妙さが混じり合い、バランス感覚が狂ったり、じっと見ていたくなる没入感に浸れたり、現実逃避を楽しんだりできる完成度の高いインタラクティブアートだ。
オープンエアー「SUMMERLIGHTS」のクロージングパーティに潜入
インスタレーションのハイライトには、高さ16mの光の彫刻「STALACTITE」がオープンエリアに鎮座し、圧巻の存在感を放つ。幻想的な光の下で開催されているのが「SUMMERLIGHTS」と題した夏季限定のガーデンパーティだ。マッシミリアーノ・パリアーラ、ニック・ホップナー、ロバッグ・ルーメなどをはじめとするトップアーティストたちが多数出演し、ベルリンの新たなスポットとして注目を集めている。
9月4日にはクロージングパーティが開催され、KyokaとYone-koがゲストアーティストに招聘され、ラストパーティを飾った。ベルリンと東京を拠点に活動するKyokaはドイツを代表する実験音楽レーベル《Raster-Noton》に初めて所属した女性アーティストであり、ライヴアクトとしての活動だけでなく、インスタレーション、楽曲提供など幅広いフィールドで活躍している世界的アーティストだ。ベルリンを拠点にDJとして世界中でプレイしているYone-koは、キエフの有数クラブ「Closer」の創設者兼DJ、Timur Bashaとともにオーガナイズする “Wordless”はカルト的人気を誇り、近年はWorkshopや《Dial records》などヨーロッパのレーベルを中心にプロデューサーとしても活動の幅を広げている。
8時よりやや押して開場したものの、あっという間に人で埋まっていった。幻想的に色が変わる「STALACTITE」の下で寝そべってチルアウトする人、団らんする人、踊る人、それぞれの楽しみ方ができ、通常のクラブとはまた違ったユニークなスタイルは珍しい。
再びYone-koへとバトンが渡され、アブストラクトで予測不可能な完全にダンスフロアと化し、あっという間に終わりを迎えた。今回のパーティについて出演者のKyokaは 「今回は、通常のクラブのロケーションとは違い、夏だけオープンしているガーデンのクロージングパーティだったため、一緒に仕事をしたけれど普段クラブに来ないような大学教授、研究者、科学者の方々、シアターやコンテンポラリーダンスやアート関連の方々、音楽業界、ヒップホップ好きな方、歌もの好きな方、テクノロジー技術系、エンジニア、プロフェッショナルなクラブオーディエンス、昼型、夜型、純粋な飲んべーなど、非常にさまざまなタイプの人が一堂に会してくれて大同窓会みたいになっていたのが印象的でした。皆さんの交流を見ているのもとてもおもしろかったです。「DARK MATTER」は、パーティだけでなく、光のインスタレーションも一緒に楽しめる文化的な場でもあるので、BGM的にもなり得るサウンドを考えていましたが、いざ音を出し始めたらみんな踊る気満々でステージに集まってくれたので、そのままみんなの笑顔が高まる方向に突き進みました。結果的に、まったりどころか熱気溢れるパーティーとなったのが最高に楽しかったです! 私の前後をキレイにグルービーにまとめてくれたYone-koさんにリスペクト! クロージングという大事なタイミングに信頼してブッキングしてくれたオーガナイザーにもとても感謝しています」とコメント。
Yone-koは「クロージング、そしてオールナイトではないパーティということもあり、短時間でいかに特別な空気を作れるかを念頭に置いて準備しました。その甲斐もあってか楽しんでくれたオーディエンスが多く、とても嬉しかったです。今回はKyokaさんと共演させてもらいましたが、ライブが始まった瞬間、その場にいる多くのオーディエンスを惹きつけて、さらにそのままピークタイムに持っていくテクニックに大きな刺激を受けました」と語る。
知っている人も多いと思うが、ベルリンのローカルクラブはガーデンと呼ばれる野外エリアであってもパーティ中に写真を撮影することは絶対に禁止されている。そのため、ベルリンのローカルパーティの模様を日本人アーティストの活躍とともに伝えられることを非常に嬉しく思う。
ベルリンのハプニングスポットはこれまで以上にOSTで広がりを見せている。OSTとはドイツ語で東を意味するが、既存のローカルクラブが点在するエリアではなく、もっとディープでおもしろいカルチャーが生まれている。長年放置されていた退廃的な”元〇〇跡地”はヒップなイベントスペースとして再利用され、著名アーティストやクリエイターのスタジオが点在している。パンデミックにより、一時はゴーストタウンと化したことが嘘のようにエネルギッシュなパワーがみなぎっている。その姿は2000年初頭のブルックリンのようで、当時治安が悪いとされていたウィリアムズバーグに1人で訪れた際、マンハッタンのダウンタウンより心躍ったことを思い出させた。
Photography Musashi Shimamura